Facebook 2019年11月11日 <台風19号被害の背景と今後の対策案:その5>

<台風19号被害の背景と今後の対策案:その5><千曲川の堤防決壊原因は河床上昇と堤防の高さ不足? >11月4日視察を11月11日報告。

千曲川では、北陸新幹線の車両基地をはじめリンゴ農家が手塩にかけて育ててきた多量のリンゴが出荷直前で泥水につかってしまい大変な被害となってしまった。千曲川の河川構造や周辺環境の状況など、私自身は全く素人ですので、大きなことは言えませんが、今回は河川工学の3人の専門家が現場をみて意見を下さいました。そのエッセンスだけですが紹介させていただきます。

今回の視察は、千曲川の新潟県側から長野県にはいり、まず西大滝ダムを見せていただきました。ここは昭和14年、日中戦争がはじまり、首都圏での軍需産業用の電力開発のためのダムで、今は東京電力が経営。つまり千曲川からの電力が東京へ運ばれているのです。西大滝ダム地点は、狭さく部をさらに両側から埋めてダムをつくったということで、ここで水がたまり上流部では、水の停滞と河床の上昇が問題になっていました。

実は千曲川は「狭さく部と盆地」の繰り返しで技術的にも治水管理の難しい川と言われてきています。図を示します。新潟県側からはいり上流へあがると、まず戸狩狭さく部で川幅が220メートルほどしかなく、その上に飯山盆地がありここで川幅が950メートルほどになる。またその上流が立ケ花狭さく部となりまた川幅が210メートルと狭まり、その上に長野盆地があり、幅は1050メートルになる。今回大きく決壊をした赤沼地点は下流の県境から58キロ地点の左岸になる。狭窄部では土砂が流され、平野部でたまる。その繰り返しが長い間、続けられてきました。

今回、堤防が決壊した現場を視察した3人の専門家はいずれも、立ケ花の狭さく部からの堰上げで堤防に負担がかかったといわれる。決壊区間は70メートルということだが、新潟大学の大熊孝さんは、破堤地点の周囲の堤防を見てまわり、越水跡が1キロくらい続いているという。となると破堤地点の堤防が低かったか弱かったということになるが、ここは堤防の沈下が起きていたのではないか、と言われる。

京大名誉教授の今本博健さんの計算によると今回の破堤地点の流量は8500トンあまりと推測され、河川整備計画で流すことができる9000トンを下回っており、これで破堤がおきたということは「計画規模」の水量も流しきれなかったことになる。元土木研究所次長の石崎勝義さんはかねてから「堤防強化の必要性」を強調してきたが、今回の現場をみられて、堤防沈下が起きていたのでは、と言われました。堤防はどうしても粘土質部分で「圧密沈下」が起きがちで、その手当ができていなかったのでは、ということです。

三人とも、立ケ花狭窄部の上流ではせきあげが起きるのは想定され、それで越流しても壊れない堤防強化が何よりも必要ということを改めて強調しておられました。国土交通省北陸地方整備局が出している「信濃川河川整備計画(平成26年1月)(令和元年8月変更)」によると、今回破堤した58キロ地点のところでは、河道の土砂浚渫も拡幅も計画されておりません。今後水害被害を減少させるためには「越水してもこわれない堤防」を全域で強化する必要性をお三方とも協調しておられました。今後の国会でこの点を質問などしていけたらと思います。

今こそ、私たち日本人の多くが洪水氾濫原に居住し、経済生活を営んでいるという、逃げようのない「不都合な真実」に真面目に向き合う行政と政治の覚悟が必要です。

そのためにも、まずは大河川だけでなく、中小河川や下水道、農業用水路などもふくめて、すべての水源を想定した、滋賀県でつくってきた「地先の安全度」のような、縦割りの行政現場に横串をさす、精度の高いハザードマップの作製が必要です。自治体としては数千万円のコストがかかることも想定されますので、ここは国としての予算措置と技術的支援が必要でしょう。

精度の高いハザードマップをつくり、それを事業者や市民に周知徹底して広める必要があります。その手段として、「宅地建物取引時の重要事項説明」にいれる必要があります。ここは国会で、国の法令にいれるよう働きかけていきます。また民間の損保会社などでも、水害保険をかける時にこれらの情報の周知が可能です。滋賀県では、住宅かさ上げなどに民間銀行が住宅ローンの利率を下げる支援をしています。

また何よりも事業者にはリスク情報に基づいた「事業継続計画(Business Continuity Plan)」(BCP)が必要です。今回のJR東日本の被害も、車両を避難させていたら避けられたものでした。中長期的には土地利用の適正化、建物建設規制など、氾濫原の管理をめざした「流域治水計画」をつくり、行政側からの「規制」に加えて、当事者が予防措置をとれるような「動機(インセンティブ)」形成が必要です。滋賀県の「流域治水推進条例」は全国でも最も進んだものとも言われています。次回、そこについて紹介させていただきます

 

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