Facebook 2014年9月15日

スイス便り(10)、スイスとの国交150年周年を記念する、スイス東部のサンクトガレンで開催中の、アール・ブリュット“日本・スイス展”訪問。

スイス便り(8)に記したように、今年はスイスと日本の国交が樹立されて150周年です。この両国の長い交流を記念して、スイス各地でさまざまな経済、社会、文化交流が開催されていますが、滋賀県にとって大きな意味があるのが、東部の歴史都市、サンクトガレンのラガーハウス美術館で開催されている、アール・ブリュット「日本・スイス展」です。

8月27日、サンクトガレンに列車で移動。ラガーハウス美術館のモニカ・ヤークフェルトゥ館長が、日本の滋賀県近江八幡市にある「NO-MA」や、東京の「愛成会」と協力して企画した「日本・スイス展」を見せていただきました。

これまでスイス・ローザンヌやフランス・パリ、オランダなど海外でのアール・ブリュット展をみせていただきましたが、今回の展示はふたつの意味で新しい局面をひらいたと思います。

ひとつは、これまでの日本の定評ある澤田真一さん、魲万里絵さんなど42名の作家の作品を主体にいくつかの作品については、モチーフや表現で共通性のあるスイスの作家と比較して展示をすることで、スイス、日本の文化を超えた共通性が表現されていることです。

たとえば、魲万里絵さんの作品を、スイスのアロイ―ズと比較することで、女性の性への恐れや戸惑いというモチーフが共通であり、その表現を通して、自己の精神の安寧を保つという治療的意味も語られています。

また街のイメージをち密な線で描き、まばゆいばかりの原色で仮想の街を描き続ける古久保憲満さんの作品を20世紀中頃のスイスの女性作家と比較することで、鳥瞰図的に描く街並みのモチーフの共通性を見ることができます。

ふたつ目の新しい局面は、館長のモニカさんの見識です。彼女はドイツのアール・ブリュットの原型でもある20世紀初頭からのプリンツホルン美術館に学生時代から通い、まさにこの分野の永年のプロです。それだけに今回の日本作品についても、「日本ならではの伝統的な焼き物・織物などからの継承」「現在日本文化としてのアニメや漫画との関連」などの中からいかに日本らしい「本来の美」をそれぞれの作家が引き出しているかを詳細に評論しておられます。

そして表紙には、滋賀県在住の河野咲子さんの、「人形」が採用されています。河野さんはすでに50年以上、滋賀県内の「もみじ・あざみ」寮に住まいしていますが、子どもの頃から母親から裁縫を教わり、その技能を大量の人形づくり、それも身近な人たちや架空の世界を創造した人形に表現されています。

モニカさんとは、「アール・ブリュット」というジャンルのドイツ、アメリカ、フランス、スイスなど国による定義のちがいや、その歴史文化的背景など、かなりつっこんだ議論ができました。そして、一人ずつの作家が独り立ちしていくにはどうしたらいいのか、かなりつっこんだ議論をしました。

この10月にはスイス、日本両方からの研究者やキュレータが参加をしてシンポジウムも開かれます。ここには滋賀県から北岡さん、田端さん、また東京から小林さんなど多くの方が参加されます。結果が楽しみです。

来年2月のアメニティフォーラムには日本におこし下さるかもしれません。再開を祈りながらお別れしました。

(写真 ①魲万里絵さんとアロイ―ズの作品を同時展示、②古久保憲満さんとスイスの作家の同時展示、 ③ 澤田作品はどこへ行っても存在感があります。④図録の表紙は河野咲子さんの人形、⑤澤田さんの初期の紙製バスにも注目、⑥ 入口でモニカ・ヤークフェルトゥ館長たちと記念写真、⑦街中にも展示会のポスター掲示、⑧世界遺産、サンクトガレン聖堂)

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