Facebook 2014年10月20日

10月19日「縄文人のくらしと水」という岩手県一戸町の御所野(ごしょの) 縄文遺跡シンポジウムのコーディネーターとして岩手県訪問。

「縄文ライフスタイルは決して過去ではない。未来へのヒントを埋め込んだ自然との共生を目指す生活文化の宝庫」と確信をしました。

5000年前のクリやトチノキなどの植物を活用した縄文時代のライフスタイルは、「里山生活文化」とも言え、今に伝承されている様子など教えていただき、世界遺産としての価値づけを確認するシンポとなりました。

琵琶湖博物館時代にいっしょに仕事をしたことがある総合地球環境学研究所の村上由美子さんたちからのお誘いを受けて、水と人のかかわりを研究してきた立場から、「世界遺産としての価値発見」を目指したシンポを進行させてもらいました。

若手の女性考古学者から4つの発表をいただきました。圧倒的な男性優位の考古学の世界に女だけのシンポ、という珍しい構成となりました。

地元御所野遺跡の管野紀子さんからは、「縄文ムラでの水の利用」として、一見水と関係なさそうな木材樹皮の衣服も、「水さらし」というプロセスは必須で、ここには「隠れた水の役割」があることを強調してくださいました。また台地上にある御所野遺跡の水場は台地の下に滲みだす湧水や井戸で、今もこれらの水が地元で使われていることも紹介下さいました。

株式会社「パレオ・ラボ」の佐々木由香さんは、「植物と水の利用ー多面的な植物利用に学ぶ縄文人の知恵」として、日本全国の遺跡から出土したクリやウルシ、アサなどの植物利用の現場での水の役割の重要性とあわせて、土器の痕跡等を科学的に分析して、カゴ編みのような生活文化の裏にいかに合理的な植生の知識や利用技能が隠されているかを証明してくださいました。大量データを、量的かつ質的に分析をしながら、そこに生活者目線を埋め込む見事な研究です。

村上由美子さんは、「木と水の利用―適材適所の木材利用」として、木の道具のつくり方、使われ方を考古学や民俗学から研究してきた立場から、木器や建物に適した木材の選別眼や道具の作り方には、今に受け継がれている知識として、クリの堅さを活用した民家部材のようなものもあるが、「水中で乾燥する」というような技術は一部でしか継承されておらず、木材活用の知恵を今後も活用していく必要性を強調されました。

長野県黒曜石体験ミュージアムの大竹幸恵さんは、「石と水の利用―自然に向き合う生活の知恵」として、水と一見無関係にみえる石器をつくるのにいかに水が活用されたかを、「磨製石器」を例に説明くださいました。そして、縄文の時代には地理的に限定されていたと思われる人びとの交流も、黒曜石や塩など多様な物資を物々交換する中で日本全国にネットワークが形成されていたことも紹介くださいました。

今回の世界遺産登録の動きの背景には平成15年から、「縄文ポシェット」で有名となった青森県の三内丸山遺跡を中心として、秋田、岩手、北海道南部の「4道県」の世界遺産登録にむけての連携があるようです。

私自身の研究テーマとして、また知事として政策的に求めてきた理念として、「近い水」「近い食」「近いエネルギー」そして「近い人」という暮らしの仕組みこそが、3.11以降の日本社会の不安を安心にかえる哲学ではないか、と提案してきました。

また世界的には、極度の近代化とグローバル化の中で言い知れぬ不安に陥っている近代人への「もうひとつの社会」の提案でもあります。

御所野遺跡では、縄文の人たちのカゴ編みの技術そのものが今に生きている、そして地元の人たちがそれを次世代に継承したい、という強い思いをもって、体験学習などを実践していることが何よりの強みです。

本日みせていただき、また考古学の皆さんから教えていただいた縄文の知識、技能、そしてコミュニティの連携は、まさに今、そしてこれからの日本に求められる生活スタイルではないでしょうか。

大竹さんの「縄文の人の心はやさしい。平和的だ」という言葉が印象的でした。

「縄文ライフスタイルは決して過去ではない。未来へのヒントを埋め込んだ生活文化の宝庫」と確信をしました。

ここに、世界遺産推薦への基本的な価値があると思います。

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