Facebook 2016年1月25日

「滋賀の女性アスリートフォーラム2016」に参加。2024年の滋賀県国体二順目を意識して、女性アスリートの育成と社会参画を促そうというかなり長丁場の事業です。今回は、女性特有の健康問題や、結婚・子育てとの両立などの問題に社会的関心を高めようと滋賀県のスポーツ健康課が企画しました。中学生や高校生の男女選手層も参加の、まさに未来むけの会合で大きな刺激をもらいました。2月24日。(また長いです)。

最初に、日本女子サッカーチーム(いわゆるなでしこジャパン)の帯同医師でもあった、国立病院機構西別府病院の松田貴雄さんからの「ジュニア期から成年選手まで、各世代の女性アスリートにおける諸問題について」と題して講演いただきました。私自身、これまできちんと勉強できていない領域のかなり先駆的なお話で大変勉強になりました。特にスポーツ帯同ドクターは整形外科などの方が多いのですが、松田さんはもともとが産婦人科医師ということで、まさに女性特有の生理・健康、そして妊娠・結婚問題にまで踏み込んだ提言をいただきました。

まず、中学校から高校と成長段階に応じて、男女ではスポーツ障害に大きな違いがあるということ。女子高校生には男性と比べて圧倒的に「膝前十字帯損傷」が多く、その原因としては貧血によるヘモグロビン不足もあり、この元は月経による出血にある、という。個人差はあるが、そもそもそれぞれの個人別にどれほどの貧血問題があるのか、あまりデータをとっていない、という。(今後確実に各学校やグループ別にデータをとりましょう)

一般に「無月経」は女性アスリートが訴えるみっつの課題のひとつとなっているが、果たして「無月経」を問題とすべきか。むしろ、月経出血による鉄分不足を避けるために、あえて「無月経」を促す方式もありだろう、と。その証拠に海外での女性アスリートはかなり意図的に「避妊用ピル」を連続利用することで、基礎エネルギーの担保をし、鉄分喪失を防ぎ、アスリートとしての力を発揮している、という。

日本女子サッカー代表の澤穂希選手も(避妊用)ピルを活用しており、このことを公表してもよい、と本人から承諾をもらっているということ。なでしこの中では7-8名が継続的にピルを活用しているという。副作用については、個人差はあるが少し体重増などあるが大きな問題にはなっていないという。

ちなみに、テニスの錦織選手(本日全豪でトップ8に進出、今TVで放映中!)がアメリカでマクドのハンバーガーを食べて体力を維持しているというが、アメリカのパンと日本のパンの大きな違いは、アメリカでは小麦の精米段階で鉄分が含まれているという。世界的にみると、アメリカ、カナダ、イギリス、スウェーデンなどは国家として、小麦に鉄を添加しており、貧血対策がなされているという。

「月経がなくて将来子どもが産めないという心配があるとしたら逆」という。月経で毎月貴重な命の源である卵を排卵するのはある意味もったいない。無月経で卵を体に保存しておいて、出産したいと思った時に避妊用ピルをやめて、妊娠状態にもっていくのが女性アスリートしての合理的な判断という。無月経でもその後不妊率が高まったというデータはない、という。

その証拠に現在欧米では、1985年にはピル使用率は12%だったのが、2008年には83%まであがっている、という。この背景には、ピルそのものの副作用の制御とピルの薬剤としての効能もあがっているから、ともいう。ちなみに日本では、今、初経後3ケ月をすぎたら、産婦人科医院で、保険適応で月1000円ほどでピルを入手できる、という。

後半は、びわこ成蹊スポーツ大学教授の佃文子さんがモデレータとなって、「滋賀の女性アスリートが、滋賀で活躍するために」として、大津市比叡平スポーツ少年団の小野由美子さん、日本精工(株)ソフトボール監督の遠藤麻美さん、近江高校教諭で棒高跳びオリンピアンの近藤高代さん、によるディスカッションがありました。

佃さんの見事なリーダーシップで、会場の中学生や高校生を巻き込みながらのかなり踏み込んだ議論となりました。まずは、松田先生の講演に関連して、やはり、近藤さんや遠藤さん、トップアスリートとして活躍してこられたお二人とも、月経や女性特有の婦人科問題に悩んでこられた、ということ。近藤さんは、選手活動時に子宮筋腫になり手術をしながらの選手生活をすすめたこと、遠藤さんは、すでにピルを活用しながらスポーツ力を維持してきた、ということです。

また女性が結婚や子育てとアスリートや指導者としての活躍を両立するにはどうしたらいいのか。小野さんは、何よりも配偶者や家族の協力が欠かせないということ。また小野さんは比叡平小学校で育てたバレー選手が中学校でも活躍できるよう思い切って大津市長に交渉をして、結果的には比叡平小学校から皇子山中学校という選手生活の継続が地元でできて、全国的にも好成績が残せているということです。

特定の種目で「強化拠点校」を行政としても作っていくのか、いろいろ課題はあると思いますが、大事なのは、滋賀県で育った中学生、高校生を地元で受けついで育てられる仕組みをつくることです。2024年の二順目滋賀国体にむけては、何よりも地元からの選手育成が求められています。

私の方からは、小学校、中学校とつないできた選手を高校としても県立高校や私立高校もふくめて、受け継いでいただき、そして大学としても地元で継続できるような仕組みと実践をしたい、とびわスポ大学の学長としての責任と決意をお伝えしました。

今、滋賀県では体育教員は200名ほどいて、40-50名が女性教員ということですが、まだまだ女性の指導者は少ないということ。アスリートしてのキャリアにくわえて、婚活・結婚・子育てなど、一連の人生キャリアを考えると、男性以上に苦難が多い女性アスリートです。

ただ今日の会場、男性選手や指導者もたくさんおられました。実は、女性問題は男性問題。女性が活躍するためには、男性が子産み、子育てに深くかかわれる、まさに「男女共同参画」が必要であり、すでに動き始めている、という実感を得ました。

実は今回の県のフォーラム企画の素は、私自身、知事時代に「二順目国体を誘致するなら、女性と若者・子ども参画を」という方針をださせていただきました。2011年から12年にかけてでした。その背景には、体育やスポーツの領域で、女性選手は多いのに、指導者や協会役員などが圧倒的に男性世界であることに風穴をあけたいと思った問題意識があります。

ひとつの大きなきっかけは、滋賀県が日本スポーツマスターズを誘致して、そのびわこ大会を開催した時にお会いした木原 光知子(きはら みちこさん)でした。木原さんの名刺に「日本体育協会理事見習い」とありました。理事見習いなどの役職、見たことがありません。2007年9月13日、大津プリンスホテルでの名刺交換の時でした。私はびっくりして尋ねました。「木原さんほどの選手としての実績に加えて、社会活動の実績がある人がなぜ“見習い”なのですか?」と。私たち同世代の女性にとって、木原さんはオリンピック選手から社会活動へ、と常にとっても光っておられるアスリートのモデルでした。

木原さんは「女性理事の前例がないので見習いからと言われた」ということ。その晩、かなりふたりで日本の体育界、スポーツ界の男性原理について、大津プリンスホテルの32階のバーで、琵琶湖の夜景を眺めながら話しこみました。

その1カ月後の10月18日に木原さんは、くも膜下出血で倒れて、帰らぬ人となってしまいました。私は一度しか木原さんと直接にお話できなかったのですが、私自身、びわこ成蹊スポーツ大学の学長のお話をいただいた時に、木原さんたち、このスポーツ世界の女性先駆者の思いを少しでもこれからの未来につなげたい、と思いました。

大変長くなりましたが、女性アスリート問題は、個人としての意欲や努力にくわえて、生理的に女性として避けがたい条件、そして社会的な男女差別意識や、社会文化的違いなど、大変奥が深い問題です。

これからも皆さんのご意見を聴かせてください。

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