「未来政治塾2018」第5回で完了しました。最後の会のテーマは「日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか~家族制度と女性の政治参画」(12月8日)です。議場に子どもをつれていった経験をもつ熊本市議の緒方ゆうかさん、社会学者の立命館大学教授・筒井淳也さんのお二人をお迎えしての最終講義でした。結論は「家族主義が家族をほろぼす!」。また長いです(2900文字、すみせん)。
今の日本の最大の社会問題は「少子高齢化」と言っても過言ではないでしょう。日本ではすでに1970年代に少子化がはじまりながら、政府として有効な手が打てず、子どもが産まれにくく、育ちにくい社会になってしまった。結婚や子産み、子育てなど、あたりまえの幸せを求めてもなかなか実現できない。背景には政治が家族・子育て問題をながく放置してきたから、と私自身一貫して訴えてきました。さらにその背景には政治場面での女性・若者参画が遅れていることが指摘できます。それゆえ「未来政治塾」を2011年に始めました。
女性にとっての最大問題は「仕事か家族か二者択一を迫られ」、いざ「子どもを産んだら子育てが“孤育て”で大きな困難に」。男性にとっては「非正規雇用がひろがり、結婚できる安定的な職と収入が確保しにくい」、一方「正規雇用で安定収入が得られても企業戦士で“24時間働け”」と家族生活が阻害される。この二大問題に滋賀県としてもできるかぎり手を打ってきました。
「子育て三方よし」という社会全体での子育て支援、若者の安定就業支援、子育て中の女性の就業・起業支援の充実。人口あたり出生率は沖縄についで二位(2017年)まで回復しました。もちろん、政治や行政の結果がどう影響しているか、因果関係の証明は難しいですが、「子産み・子育てを滋賀県でしたい」という方がたが増えてきたという傾向は指摘できると思います。
上のような問題意識の元、まずは緒方ゆうかさんに、熊本市議会議員として直面した子育てと議員活動の両立の困難さなどを語っていただきました。そもそも緒方さんはアメリカの大学で「紛争解決学」を学び世界各地で仕事をしてきた。特に北欧型の家族は皆が幸せになれると知り、日本に帰って自分も子どもを授かったが、回りの母親たちは、孤立する子育てに苦しんでいた。その母親たちの声を市政に届けたいと市議に立候補して2015年に初当選した。
たとえば市役所ロビーにベビーベットを置く、という簡単なことでも実現できない。議会の会議場に親子傍聴席を求めても実現できない。また二人目をみごもった時にも「おめでた」と議会に報告できない。議会には育児休暇制度もない。少子化を社会問題と言い市長の政策項目にははいっていても、いざとなると子どもを産み育てる当事者の声が議会や市政に届かない。そもそも議論をした形跡もない。子産み世代の女性が議員になることが想定されていない。
そういう中で、2017年12月議会の初日、15分の開会式だけだったので、下の子を抱いたまま議場にはいった。すると突然事務局から「今すぐ赤ちゃんをつれて退出して下さい」と強く言われた。ただしあの場面がTVに映ったのは、ほかの熊本市議の取材のためで、緒方さんの行動をねらったわけではなかった。結果的にはあのTV場面が全国にながれ、賛否両論の渦にまきこまれた。自分としてはただ「子育て真っ最中の母親当事者の声を届けたい」と思い行動をした。批判の中に女性の声がかなり多く、これはショックだった。もっと女性同士が連帯する必要がある、と今も思っているという。
緒方さんが提供くださった、議会での託児室、託児サービスの資料や海外での国会議員の産休・育休制度の比較データも貴重です。大津市議会には産前産後の欠席が許可され、全国的にも珍しいと。アメリカの国会では上院・下院、両方で議場への子ども同伴は可能、それぞれに託児所、授乳室がある。ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーでは手厚い制度が準備されている。いずれの国も国会議員の中での女性比率は高い。
ではなぜ、緒方さんが直面している政治分野での女性参画が遅れ、そして企業社会での女性参画が遅れているのか、その社会構造的背景を筒井淳也さんが解説下さいました。筒井さんは、戦後73年の間に家族や仕事の仕方が大きく変わったのに、教科書ではフォローされず、大きな誤解に満ちているという。
筒井さんは戦後の時代を三つにわける。①終戦~1950年代前半=戦後復興期、自営業が多く職住近接、子どもは地域社会で育つ、②1950年代後半~1980年代=高度経済成長期、職住分離が進み、男性中心の会社雇用増大、性別分業による専業主婦出現、③1990年代以降=バブル崩壊、低成長・雇用の不安定化、大企業では雇用の内部調整として「長時間労働」「転勤・配置転換」で男性のみの企業社会となり、1985年に雇用機会均等法ができても、高度経済成長期の専業主婦優先の家族観と社会制度が強く残り、女性が子育てと仕事を両立できず今につながっているという。
欧米では1980年代には失業問題が頻発し、男性稼ぎ手の収入が増えず、おのずと妻も稼ぎ手となる共稼ぎが増え、そのために男性の子育て参加も進み、「子育ての社会化」が進んだ。この時期を日本は男性稼ぎ手の収入や地位は安定的だった。そして1979年の自民党の「日本型福祉社会構想」には専業主婦固定化がうたわれ、それが今も日本の家族意識、税制などを規定している。日本の政治世界に女性が極めて少ないことも、日本の政治が変わりにくい理由とも言う。
総合討論では、私から国際的な仕事と家庭の動向を紹介しました。欧米では女性の有業率が高いところは出生率も高く、国家財政も安定的。ここは男女平等的な意識が強く、いわゆる「共稼ぎ社会」です。逆に日本や韓国など、「片稼ぎ社会」では、男性中心の意識が強く、女性の有業率が低く、出生率も低く、納税者も少なく、国家財政も不安定というグラフを示しました。
滋賀県の子育て支援・女性支援政策の内容とその成果を紹介させてもらいました。女性の両立支援をサポートするために2011年に「マザーズジョブステーション」をつくり、託児付き、カウンセリング付きで、ハローワーク情報を活用できる支援が広がり、2012年の30代前半の女性有業率63%と比べ5年後の2017年には12%増え75%に上昇。全国平均よりはるかに多くの伸び率で、女性が子育てと仕事の両立を少しはしやすくなったことがわかります。ただ課題はまだまだです。
筒井さんと緒方さんの講演と最後の討論での問題提起で重要なのは、「女性が働きやすい職場の創出」のためには政府・行政の役割は大きく、「家族を復活させたいなら家族の負担を和らげる制度が必要」という方針の大切さです。結局「家族主義が家族をほろぼす」ということになる。子どもという最大弱者をケアする母親や父親、そして家族をサポートする、「ケアする人をケアする社会」が必要ということになります。介護の問題でも同様と思いますが、長くなりますのでここで終わります。
今年の未来政治塾、特別講演会もふくめて6回となった塾の運営に協力いただきました講師、運営委員、サポータの皆さん、ありがとうございました。また誰よりも熱心に参加いただいた塾生の皆さんの学ぶ意欲に感謝です。