愛媛県肱川ものがたり(その3・最後です)「肱川沿い 防災・減災のノウハウと住民の結束力で命を守った大洲市三善地区」。12月2日に三善地区を訪問、概要を報告します。12月11日、今回も長いです、ごめんなさい(2300文字)。
三善地区は、肱川沿いに古くから開けた農村地帯で、集落裏には山やまが迫っている。氾濫が多い肱川と急傾斜崩壊危険区域の指定地に挟まれている。まず集落南部で畑仕事をしていたKさんに声をかける。7月7日の午前中、倉庫の屋根近くまで水が来たが自宅は石積みでかさ上げをしてあり、浸水はのがれたという。K家は10世代以上ここに住まいしているということで、いわば「本家」のKさんの自宅では浸水被害は受けなかったようです。
そのあと三善公民館に伺う。幸い自治会長さんたちが火災訓練をしており、7月7日のお話を伺う。当日午前7時頃、大洲市から避難勧告が発令され、有線放送で知らせを受けた約60人の住民が「避難カード」持参で一時避難所の公民館に集まった。上流の鹿野川ダムが放流を続けていると知った自治会長は「このままでは公民館も漬かる」と感じ、車が通れるうちにと、公民館より高い位置にある四国電力変電所内に全員移動した。変電所とは前々からいざという時の避難ができるよう約束ができていたのでスムーズに動けたという。
7日午後には大洲市がつくっていた「浸水マップ」に記されていた通りの浸水がおき、一面が湖のようになってしまったという。幸い浸水前に避難が完了して人的被害は受けずにすんだという。その時の写真を提供していただきました。この地域でもやはり新興住宅地の方が水についたようです。いわゆる「分家」の水害です。自治会長さんからは、「三善地区防災計画」により、これまで数年かけて地域ぐるみで学んでいたノウハウについて説明いただいた。(一部資料はその時にコピーができず、後から有友さんから送っていただきました)
『三善地区防災計画 平成27年8月作成 三善自治会 三善地区自主防災組織』の目的は「この計画は、三善地区における防災活動に必要な事項を定め、地震その他の災害による人的、物的被害の発生及び拡大を防止すること」とある。基本方針として「大洲市地域防災計画にある“減災”の考え方を踏まえて、地区住民一人ひとりの自覚と努力により、できるだけ被害を最小限に留め、人命が失われないことを最重視した対策を講じる」とある。
自治会長さんは二種類のカードを示してくれた。ひとつはA3の大きさで『大洲市 三善地区災害・避難カード 「私の避難活動」』である。真ん中に地区全体の地図があり、「避難場所」「持ち出すもの」「気にかける人」「自分の避難からの合図」が記入できるようになっている。裏側には「災害時に気を付けるべき情報の入手先」等が丁寧に記されている。もう一つのカードは手のひら大で、『「災害・避難カード」-わたしの情報』とあり、表には「名前」「性別」「血液型」「青年月日」「住所」「電話番号」「留意事項(持病など)、裏には「家族(頼りになる人)の緊急連絡先」があり、災害用伝言ダイアルの使い方も記されている。これは避難時の首かけカードとして個別に配布されている。
三善地区では、このカードを使って、ワークショップを何度も開き、またワークショップ毎の報告もミニレポートとして、全戸に配布をしてきた。この地区の活動は、国の内閣府の「災害・避難カードモデル事業地」として指定されており、もともと肱川に近い地区住民には水に対する危機意識があり、それが内閣府のモデル事業で顕在化し、実際の避難行動につながったようです。
滋賀県でも「流域治水条例」に基づき、「浸水警戒区域」に指定する予定地区、県内50ケ所を対象に、三善地区での避難カードなどと同種のカードづくりを行い、最悪の浸水時にも「一人も命を失わないよう」な「そなえる」対策をすすめつつあります。特に小学校区などを中心に、子どもたちに、自らが身を守る知恵を伝えることには力をいれています。
今回の7月の西日本豪雨では、観察史上前例のない集中豪雨が起きてしまい、ダムや河川改修などで「想定した規模」を超えて、豪雨被害がでてしまいました。今後の温暖化の進行により、ますます猛威をふるう恐れがある水害。首都圏や関西圏など、人口の多い大都市圏でも今回のような豪雨に見舞われないとは限らない。
荒川・利根川、淀川等があふれて堤防が決壊したらどうなるか。行政も、学校や企業、各地域レベルでも各世帯でも、個々人のレベルでも、最悪の事態を想定した「浸水マップ」(地先の安全度マップ)に従い、避難のための備えをしておく必要があります。三善地区の実践成果を、国や自治体、企業、個々人でもぜひ参考にしてもらいたいと思います。
内閣府での「みんなでつくる地区防災計画」のモデル事業では平成26年から28年まで全国で合計44地区が三善地区のような活動をしてきました。(みんなでつくる地区防災計画:内閣府ホームページ)。三善地区はそのうちにひとつです。今回の西日本豪雨では、土砂災害での被災も多く、日本全国には、公立小学校だけで、2万校を超える小学校区があります。せめて小学校区毎に、三善地区のような防災ノウハウを蓄積する必要があります。
そのためにも、国の縦割り行政、ダムや河川の施設整備は河川局、水防は消防庁、避難計画は内閣府をという縦割りをこえて、「横串をさす」責任担当部局が必要です。滋賀県では、「防災危機管理局」を知事の直轄でつくりましたが、国も「防災省」のような、災害予防から、発災時の緊急対応、災害後の復興を担う、省庁が必要と思います。