琵琶湖博物館リニューアル紹介(その1)。1996年にオープンして、20年経ってのリニューアル!若い学芸員と住民の皆さんの共同研究と対話の結晶、新たに7月14日にお目見えです。この夏休み、お子さま、お孫さん連れで是非とも足を運んで下さい。一足さきの内覧会を見せていただきました。環境展示概要、紹介します。7月12日。(長いです:微笑)。
今から35年前の1981年に「湖と人間のかかわりの仕組みの解明」を目的に琵琶湖研究所に入所をして環境社会学的研究をはじめてわかったことは、地域に暮らす住民目線の琵琶湖研究がそれまでの研究で欠けているということでした。
「水質悪化には下水道建設を!」という行政の近代技術主義的対応。一方で、「琵琶湖の自然、ヨシ帯を守れ」という自然環境保全主義。両方とも必要な要素ですが、縄文・弥生の時代から、何万年も連綿と湖とともに暮らし湖にかかわる生活文化や環境価値を育んできた住民目線の生活観、環境観が欠けていることを発見。
そこで、「琵琶湖と人びとの関わりの歴史的変遷」をひとつの柱にして、その背景にいかなる歴史的事実や科学的・文化的真実が隠されているのか、そのベールを、研究者と住民が共に解明していこう、というねらいを提案し、10年近くの年月をかけて準備し、1996年にオープンしたのが琵琶湖博物館でした。
20年間で900万人の方が訪問下さいました。来館者の数以上に意味があるのは、目の前にある、「見える」と思っていた琵琶湖が、実はその歴史的深まりや地理的ひろがりなど、「見えない部分」がたくさんあり、それらを「見える化」したことにあるでしょう。それも研究者だけでなく、住民の人とともに、歩んできたことが琵琶湖博物館の強みです。
その後20年間に、多様な専門分野を背負う若い学芸員が、地域の住民の皆さんとともに、暮らしと自然がいかに繋がっているか、新たな学問的な挑戦をし、発見をしてきた、その結果を、今回のリニューアル展示では表現してくれました。
まず、琵琶湖の中の水族展示では、生き物としての琵琶湖の魚の生態や個性を表現しながら、「琵琶湖の魚は食べたらうまい」というコンセプトの元、「川魚屋・魚滋」の魚屋展示が出現。金尾学芸員たちが中心になりました。
20年前の琵琶湖博物館展示議論のなかでは、「魚の命をいただく」という魚食文化は、水族展示の中では認められませんでした。固有種の存在さえ危ぶまれている魚の命を「食べる」ということはタブーでもありました。このタブーを認めながら、それでも、「固有種は食べたらうまい」という典型が固有種ニゴロブナを発酵させた「フナズシ」です。
今回のリニューアルでは、この展示を堂々と、水族展示の中に表現できたのは、琵琶湖博物館の学芸員と住民の皆さんの、20年間の活動の大きな到達点でもあります。
湖から陸にあがると、ヨシ帯の展示。魚の産卵場としても、湖辺の生物多様性の宝庫としても重要なヨシ帯ですが、そこから生まれるヨシは、ヨシズやヨシ屋根、そして地域の祭りの主役でもある「ヨシ松明」として文化的意味をもっていました。今やヨシうどんやヨシクッキーにまで化けています!生態と文化のつながりをわかりやすく展示してくれた芦谷学芸員。
もっと上流にいくと水田が広がります。「ウオジマ言うてな、昔は梅雨になると、フナ、ナマズがシマのように大量に田んぼにあがってきたもんや」という「水田は魚の産卵場」だったことを回想しながら、その時代の湖と水田の繋がりを回復し、魚のゆりかごを田んぼに求めようという、琵琶湖固有のゆりかご水田再生プロジェクトを表現してくれたのは大塚学芸員。「田んぼは米をつくるところ、魚は邪魔」といわれていた産業重視の農業政策に、「田んぼには生き物がいっぱい」というまぎれもない事実を住民の人たちと発見・表現してきた大塚学芸員。
川から上流の森林をたどる上でこれまで見落とされていたのが、土砂の役割です。山間部にダムや土砂止めの砂防ダムができて、人間にとっては都合のよくなった河川も、土砂が減ることで、魚や水生昆虫が暮らしにくい環境となり、湖辺の浜欠けも深刻です。山と湖をつなぐわかりやすい展示をつくったのは林学芸員。
直接に人間とのかかわりがわかりにくい、プランクトンなどの微小生物については、楠岡元学芸員が中心となり、「Micro Bar」を、まさにバーのカウンターのようにつくり、生きたプランクトンがそのまま見える、対話型のプランクトン学びの場を準備。形としてのプランクトンの美しさは、成安造形大学の学生さんがデザイン下さいました。
またかつての「世界の湖」展示では、中国の洞庭湖やスイスのレマン湖など、湖の成り立ちなどは無視をして、世界の各種の湖の生き物と暮らしぶりを展示したのですが、今回は「古代湖の世界」として、地球上に残る10万年以上の古い湖である、バイカル湖やアフリカのマラウイ湖などの展示に集約しました。
バイカル湖では、「バイカルアザラシ」がお目見え。バイカル湖やマラウイ湖の古代湖については次の紹介とします。(つづく)