2025年5月8日【法務委員会】確定稿

○嘉田由紀子君

ありがとうございます。
三人の皆様、専門の立場からの御意見ありがとうございました。
日本維新の会、嘉田由紀子でございます。
私は、四月二十三日の本会議でもまず大きな前提として申し上げたんですけれども、新しい情報技術の誕生、そしてその活用というのは人間の社会的な活動の構造を大きく変えてくるだろうということで、特にその情報技術にアクセスできる人たちとできない人たちの間の構造の問題、これを立法府としては、何よりも国民の皆さんの人権と、それから刑事訴訟法の場合には冤罪を防ぐということが大事だと思っております。もちろん犯罪は処罰されなければいけないんですけど、私自身は、知事をしていたときから、本当に残念ながら、自分の地域である意味で自白、根拠のない自白で冤罪が生まれてしまったりしておりますから、このデジタル化の中でより冤罪を広めてしまう、そんなことになってはいけないだろうということを本会議で問題提起させていただきました。
それで、お三方に同じ質問させていただくんですけれども、まず、順番として渕野参考人からお願いできますか。
渕野参考人は、令状主義の根本が、今まで裁判所に行って案件を具体的にリアルに令状を取っていたのを、かなり簡単にオンラインで令状が取れると。渕野参考人が、アマゾンやウーバーの注文と大して変わらないような、そんな令状の注文ができるということは令状の自動発行機化が加速されるというところに懸念を示しておられるんですが、私は同じことを本会議で鈴木法務大臣に質問させていただいたら、そんなことはないと、やはり令状一つずつを厳密に人格問題も含めて丁寧に扱うんだと言っていらしたんですけど、この令状がオンライン化されることへの渕野参考人の懸念、そしてどうやったら阻止できるかということを御意見お願いできますか。

○参考人(渕野貴生君)

御質問ありがとうございます。
いわゆる電子令状を、令状請求についてIT化をするということによって、捜査機関が令状請求するに当たって、疎明資料を用意し、裁判所に持っていって対面で審査をしてもらうというコストが減るわけです。コストが減ること自体は元々IT化の目的なので一見良さそうに見えるんですけれども、コストが減るということは、捜査機関が今までよりもより簡単に令状請求をすることが可能になってきます。そうしますと、単純に考えて、例えばこれまで百件しか令状請求できなかったところが五百件令状請求できるようになるというような事態が発生しかねないわけです。このときに、裁判官、令状審査をする裁判官の人数が増えないとなりますと、裁判官一人当たりが処理すべき令状請求の数というのが増えてきますので、結局、令状を遅滞なく出そうとすると、一件当たりの審査の時間を短縮するしかなくなってしまうわけです。そのことによって、事実上、その令状審査が弛緩をするのではないか、甘くなるのではないかということを危惧しております。
ですので、このような私の懸念を抜本的に解決をしていただくためには令状裁判官の数を抜本的に増加させていくということが必要ではないかというふうに考えます。

○嘉田由紀子君

ありがとうございます。
あわせて、私も本会議のときに、今、日本中で、容疑者になった、被疑者になったときって弁護士さんが頼りですね。その弁護士さんとのやり取りがオンライン接見ができるかどうかということで、今回は権利として認められていないんですよね。
ちょうど今日の新聞ですけど、大変な、地方で弁護士、なり手がいなくなっていると。例えば、秋田県ですと一人の弁護士が対象とする人口が一万二千七十八人、東京は六百三十五人、二十倍差があるんですね、弁護士の数が。
こういうところで、やはり地方やあるいは島嶼部というようなところはオンライン接見ができるようにということが被疑者やあるいは容疑者の人権を守るために大事だと思うんですけれども、そこのところはどうでしょうか、渕野参考人。

○参考人(渕野貴生君)

委員が御指摘いただきましたとおり、私も、オンライン接見というのは、被疑者の弁護人を依頼する権利、この弁護人を依頼する権利は憲法三十四条で保障されておりますけれども、その内実は弁護人の有効な援助を受ける権利ですので、これが地方等で物理的に接見に行くことが難しいということによって有効な援助を受ける権利が保障されていないとすれば、それはオンラインでそこを補充するというか補うことによって初めて権利保障が実現したというふうに言えるというふうに考えますので、オンライン接見についても本来であればきちんと権利として保障すべきであるというふうに考えます。

○嘉田由紀子君

ありがとうございます。
これも鈴木大臣は、権利として認めるには全て条件を整えなきゃいけないと、それができないからということで全部をできないようにしているんですけど、やはりモデル的に地域条件などを付けて先駆的にやるべきだろうと私どもも思っております。
同じ質問を河津参考人様、お願いしたいんですが、このオンラインで令状が取れるようになるときの令状主義が徹底できないんじゃないのかという懸念についてはどうでしょうか。

○参考人(河津博史君)

まず前提として、現在の令状審査がどの程度厳格に行われているのかということについての評価は先ほどの成瀬参考人の意見と私の認識では食い違いがございます。これは、先ほど御紹介した統計数字だけからはどちらが正しいのかということを一概に申し上げることはできないのかもしれませんが、私は、やはり捜査機関の反対当事者として、非常に抽象的な差し押さえるべき物で令状が発付されてしまっている、それに基づいて相当包括的な差押えが行われてしまっているという実情を目にすることがございます。
例えば、ある一件の金融機関からの融資を受けたことが詐欺に当たるのではないかということで、詐欺被疑事件での捜索差押えで、会社にあった全ての電磁的記録媒体を含む段ボール箱三百箱もの物品が押収されたという事案がございました。
そのほか、私は弁護人として証拠開示を受ける中で差し押さえられた物というものを目にすることがあるわけですけれども、例えば、それもある会社から差押えが行われた物品を見に行ったときに、一つ一つの物が管理すらされていなくて、段ボール箱単位で目録が作られているんですけれども、段ボール箱の中には、明らかに事件と関係のない、従業員の例えばCDであるとかヘアスプレーのようなものまで押収されているということがございました。
そのような実情を目にしておりますので、これまでの令状審査、さらにはその令状の執行がどれだけ厳格に行われているのかということについては、厳しい目を向けざるを得ません。
それを前提にすると、この令状の請求が容易になることによって令状請求の数が増え、発付が増えることによって権利侵害の数が増えてしまうのではないかという懸念はございます。これを防止するためには、まさに、先ほど意見陳述で申し上げましたが、国民のプライバシーを守る裁判所、裁判官の役割が再認識される必要があるだろうと思います。裁判所がきちんと国民の期待に応えているのかどうか、客観的な検証も行われるべきではないでしょうか。

○嘉田由紀子君

ありがとうございます。今回の袴田事件についても、やはり静岡の裁判所が判断していただいたという、大変大きな役割を果たしていただきました。御指摘のとおりだと思います。
それから、後半のオンライン接見ですけど、これを権利としてより広めるためにはどうしたらいいでしょうか。

○参考人(河津博史君)

私、やはりこのオンライン接見、さらには電子的な書類の授受についても権利として認められるべきであると考えます。これは、刑事手続全体をデジタル化するという中で、最も権利が保護されるべき被疑者、被告人を取り残すべきではないからです。
これについては様々な支障が当局からは指摘されておりますが、結局のところ、それは予算の振り向けの問題であるというふうに思われます。このオンライン接見にしても電子データの授受にしても、相応の設備の整備が必要となることは理解できます。しかしながら、これを実現する上で、先ほども申し上げましたが、施行日を相当先に設定をして、そこに向けて段階的に整備を進めていくということは十分に可能なはずです。
私からは、少なくともこの権利として実現していく具体的な道筋を是非示していただきたいと希望いたします。

○嘉田由紀子君

ありがとうございます。それもまた、附帯決議のところできちんと参議院としても入れていく必要があると思います。 同じ質問を成瀬参考人にお願いをしたいんですが、この令状がより安易に出されてしまうんじゃないのかという懸念についてはどうでしょうか。

○参考人(成瀬剛君)

今回の法案におきましては、疎明資料として出す書類を紙媒体でなく電子データにすることができ、また、令状請求する際に裁判所までその紙媒体の資料を持っていく必要はなくて、オンラインで裁判所に疎明資料を提供することができるようになると。その限りにおいては捜査機関が令状請求をしやすくなるわけですけれども、先ほど来申し上げておりますとおり、裁判官に令状を発付していただくためには、特定の事件に関する被疑事実というか、疑いがあるということを前提に、かつ、それに関連するデータであるということまでを疎明しなければなりませんので、その疎明資料自体を準備する作業というのはこれまでと大きくは変わらないのだろうと思います。ですので、本法案が成立した直後に直ちに令状請求が増大するとまでは容易には予想し難いところでございます。
さらに、裁判官の令状審査の内容というのはこれまでと全く変わらず、要件も全く同じでございますので、これまでどおり厳格な審査、先ほど来強調しております被疑事実と関連するデータであるかの部分については、とりわけ慎重に判断がなされるものと考えております。
さらには、令状発付後も不服申立ての機会が設けられておりまして、別の裁判官による審査も行われ得るということを考えますと、今回の法案が成立しても、この令状主義の仕組みというものは有効に機能し得るというふうに考えております。

○嘉田由紀子君

ありがとうございます。
これからの問題ですので、是非、当事者の皆さんに留意をしていただきたいと思います。
後半の質問で、オンライン接見ですけど、地方で多分先生をやっていらしたら、卒業生がなかなか、まあ言うたら田舎に行ってくれないと、東京と大阪に集まってしまうという実態を見ておられると思うんですけれども、オンライン接見を権利化するにはどうしたらよろしいでしょうか。

○参考人(成瀬剛君)

御質問ありがとうございます。
今委員が御指摘になられたように、なかなか地方で弁護士をやってくれないというところは一教育者としても悩んでいるところでして、是非、私の大学を卒業した学生たちにも地方で活躍する弁護士さんになってほしいというふうに日々願っているところでございます。
その上で、オンライン接見について申し上げますと、その重要性自体は全く否定するものではございません。とりわけ、先生が御指摘になられた地方におきましては、その重要性というのはもう切実なものがあるというふうに認識をしております。
今回の法案におきましてはオンライン接見を権利として認めるという形にはなりませんでしたけれども、それは全国に一律にそのような権利を保障することが困難であるという苦渋の決断だったわけでございまして、必要性が高い部分から運用において迅速に設備が整えられ、オンライン接見が順次実現していくということが望ましいと思っておりますし、そのような運用が続いていく中で、いつかの段階ではオンライン接見というものも刑事訴訟法上の権利として定められる時期が来るものと願っております。

○嘉田由紀子君

ありがとうございます。
行政の立場からしたら、それこそ何千億もお金掛かるわけではないので、それこそ地域別にモデル的に試行していただいて、そして少しでも遠隔地の皆さんの人権、人格が守られるような、そんな方向を私たちも是非願っております。
以上、質問を終わります。ありがとうございました。

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