Facebook 2025年9月21日 9月18日に琵琶湖博物館第33回企画展示、「川を描く、川をつくるー古地図で昔の堤(つつみ)を探るー」

9月18日に琵琶湖博物館第33回企画展示、「川を描く、川をつくるー古地図で昔の堤(つつみ)を探るー」を、琵琶湖博物館準備室時代からいっしょに博物館づくりに汗を流した田口宇一郎さん(元滋賀県副知事)を誘ってじっくり見せていただきました。歴史地理学の学芸員、島本多敬(かずゆき)さんの精魂こめた力作の企画展示です。亀田佳代子館長と、松本直樹副館長もいっしょにご案内くださいました。大変内容の濃い展示案内、皆さん、ありがとうございました。9月21日。(2000文字、長いです、スミマセン)
歴史地理学で、近世の歴史学も担当する島本学芸員が、どのような視点で「川」を取り上げ、どう展示として表現してくれるのか、「水と人間のかかわり」を「水と人の環境史」として生活者目線から研究し、流域治水政策を政治的課題とし「水害で人が死なない行政」を進めてきた私自身の立場からも大変興味がありました。全体は6章に分けられています。
まず「l プロローグ」では、川がつくった土地に私たちが住んでいることを川の流れにそって生み出された平野の成り立ちから解説。地理学らしい入門部です。自然の力による洪水が起きるごとに流れがかわるが、その都度、地元の人たちが営々と「堤防(つつみ)」をつくり続け、居住地や農地を守ってきた歴史的背景を解説。
「ll 地図に描かれた川」では、江戸時代以降、日本では多くの地図が描かれるようになったが、地図を描き、川を管理し水田を確保して年貢を求める領主のねらいと共に、共同体側も絵図をもとに、水害の様子を描き、その地図を元に年貢の減免を領主に求めるなど、書付とともに地図が領主と共同体の意思疎通に重要な役割を果たしていたことがわかります。今から見ても大変緻密で美しい色付きの水損図などが描かれ、住民、共同体側にも絵を描くことができる技能をもった人たちがいたことがわかります。琵琶湖の出口から大阪湾までの江戸初期の地図も迫力があります。淀川の出口は広大なヨシ場が広がっています。
「lll 水と土砂を防ぐ」が今回の展示の胆でしょう。どうやって川の流れを制御して堤防をつくったのか、砂を繰り返しくりかえし積み上げて生まれた草津川の天井川の様子や、竹を組み合わせて中に石をいれて堤防補強をした「蛇篭」なども地図に描かれています。実際にマダケを使って蛇篭をつくり、迫力ある展示がされています。川辺林の役割も詳しく解説され、最近注目されはじめたEco-DRR(生態系を活かした防災・減災)も解説されています。
「lV 土砂とつきあう地域」では、はげ山で多量の土砂により苦労した大津市南部の大戸川沿いの田上地区や比良山地が取り上げられています。特に比良山地については、地球研究所の総合調査が行われ、島本さんもメンバーとして参加していました。比良山麓は急斜面が多く、山裾に「シシ垣」をつくり獣害を防ぐとともに、江戸末期の大洪水のあと、「百間堤」という巨大な堤防が山裾に建設された模様も紹介されています。「百間堤」は土砂を防ぐだけでなく、湧水を集めて南比良など集落の人たちの農業用水や飲み水も供給してきました。私が今暮らす北比良も石垣による土砂崩れ防止の恩恵を受けています。
「V 古い時代の地図を研究する」では、日本最古の荘園絵図といわれる水沼村の現物を初めてみせてもらいました。ここでは19世紀の地図に描かれた愛知川沿いの「猿尾」と地元で呼ばれてきた石積みのミニ堤防の共同研究の成果が紹介されています。地図に描かれていた猿尾の周辺を、ドローンをつかってレーザー測量し、それを元に地元住民から聴き取りをして、今も川辺の森の中に残された数かずの猿尾を発見!微地形に隠された先人の地域毎の水害対応の知恵と工夫、いわゆる「伝統知」が発見された大変貴重な結果です。
「Vl エピローグ:川をつくってきた地域の歴史を伝えるために」として史料や資料を残す意味と意義、また地域に刻まれた景観の記録を残す重要性が強調されています。あわせて今、私たちが暮らしている地域の土地の高低や川や水路が「なぜそうなっているのか?」という問いかけをし、その背景を知ること、また過去を知る人の話をきいてその記録を残すことの重要性を説いてくれています。
滋賀県の流域政策局では、過去20年ほどかけて「水害に関する伝承・言い伝え」を調べて公開しています。流域治水政策局が出している浸水想定図の活用も呼びかけています。
上のような河川と人びととのかかわりは滋賀県だけでなく全国で並行して進んできた日本の歴史の一コマです。皆さんの地域でも同様の調査が可能でしょう。お時間があれば琵琶湖博物館の展示をみてください。そして皆さんそれぞれの地域の川や堤防の歴史に関心をもっていただけるとありがたいです。明日、長崎県石木ダム問題で長崎県に出かけますが、この地域も伝統知が満載であること、具体的に紹介します。
連日のように各地から大雨のニュースが届いています。水との付き合い方、改めて歴史をみつめ、命を守る仕組みをつくってきた先人に感謝をしたいです。
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