4月13日(日)、大阪関西万博が始まりました。新聞やマスコミ各紙は期待や称賛とともに批判も目立ちます。直接に関心をもたれる方は少ないかもしれませんが、前日の12日(土)に開催された開会式に参加をして、今この時代の独裁指導者による地球規模での平和や経済の分断・破壊をみて、あらためて日本ができる多文化共生という国際貢献について考えさせられました。5点でまとめます。(1)開会式での映像と音楽による、和の文化も含む圧倒的「ジャポニズム表現」の実力、(2)「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマの実現性、(3)日本館テーマである「循環」表現、(4)「1970年大阪万博」からの「自然の価値」の継承、(5)今の時代の万博の意味と意義、の5点について私なりの個人的感想を述べさせていただきます。また長いです。(2000文字)。皆さんの万博への感想も寄せてください。


(1)1時間半におよぶ開会式の動画は、NHKや民間TVで同時配信されていたようで、見られた方は多いのではないでしょうか。行政として必要な挨拶は型通りでしたが、吉村知事の挨拶で、最初の感謝が「暑い夏の日、寒い冬の日に働いてくれた工事関係者の皆さん、ありがとう!」は感動的でした。何よりも圧倒的だったのは、ダンス、映像、舞台表現の複合パーフォーマンスです。「生命のリレー」「鼓動」「祭り」と、古代から連綿と受け継がれてきた歌舞伎や能などの日本の和の文化に初音ミクなど、バーチャルな映像表現まで、まさに「最新のジャポニズム」にあふれた迫力あるパーフォーマンスでした。
コブクロさんの「この地球(ほし)の続きを♪♪」「こんにちは 桜咲く こんにちは 幕が開く こんにちは 海を越え この命は 響き合う♪♪」は、1970年大阪万博で大流行した三波春夫さんの「世界の国からこんにちは」へのリスペクトが込められたナンバーということですが、私のような世代には、三波春夫さんばかりが耳についてしまっています。今後、くりかえし、聴き続けないとちょっと耳に残りにくいですね。
(2)「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマ性がどこまで実現できているのか、については、各国のパビリヨンや、シグネチャーパビリヨンと呼ばれる個性を活かした研究者や芸術家表現のところをすべてみてからの反応が必要と思いますが、「いのち」への本源的な問いがあまり見えない感じがします。命とは「細胞」「遺伝子」レベルから「個体」「個体群」そして「生態系」という多重の繋がりが基本にあるはずなのですが、機械的な仕組みやデザイン性という芸術表現を重視して、学術としての命の繋がりを基本とする表現が見えにくい気がします。博物館を企画してきた私の認識の限界かもしれません。
(3)日本館のテーマである「循環」は、「いのちといのちのあいだに」という表現で、円環状の構造体によって、いのちのリレーを体現するとあります。テーマは、 微生物の力によりゴミから水やメタンガスを生み出す循環型社会を、機械の連鎖の上に映像を照らして流れを表現する、などデザイン性が強調されています。また循環のメカニズムが、日本の和服にこめられた徹底的な再利用や、風呂敷の工夫、伊勢神宮の遷宮の仕組みなどが取り上げられています。私自身が企画にかかわっていたら、「もったいない」哲学で、世界に誇る日本の循環の代表はし尿を尿と糞に分けて徹底利用してきた鎌倉時代以来の「し尿親和文化」が日本人の食と農を支え、江戸時代の農書に具体的に描かれているところなどいれたいなと思いました。




(4)「970年大阪万博」からのつなぎは、人間洗濯機の再現などよりも重視できるのは、今回の計画の中での「静けさの森」でしょう。「静けさの森」は、1970年大阪万博が開かれた千里万博記念公園などで伐採予定の約1000本を移植し、残りの500本は全国から移植しています。大阪の万博公園の森は、梅棹忠夫民博館長の「森創りは夢の苗床」という意見から、元々すべて伐採する予定の森が残されたものです。万博公園の森林の企画は吉村元男さんで、55年の間に成長した森を、写真家の畑祥雄さんが数年かけて撮影し、「奇跡の森EXPO‘70」として写真集を出版しておられます。
(5)今の時代の万博の意味と意義、大屋根リングと輪島塗の大型地球儀
今の地球をひとつにというメッセージ性がこめられたのが「大屋根リング」でしょう。4月12日にはその一部しか見られなかったが、周囲2キロのリングからの映像を見ると、設計者の藤本壮介さんの「分断された世界をひとつに」というメッセージは十分に伝わっているのではないだろうか。日本伝統の木造建築を活かし、世界最大の木造建築という。またあまり目立っていないが、私は輪島塗の大型地球儀を是非見たいと思う。熟練した37人の職人が5年がかりで3年前に完成させた直径1メートル重さ215キロの「夜の地球」を漆塗料で表現したという。2024年元旦の地震、9月の水害に遭遇しながら守られてきた輪島塗の地球儀。「困難を乗り越えて丸い地球のようにみんな一つで平和になってほしい」という願いが込められているという。拝ませてほしいです。
