11月1日午後、韓国の民間TV局、KNNから、「水と共に生きる」という特集番組をつくるための取材を受けました。KNNは大韓民国の釜山市と慶尚南道を放送エリアとする民間放送局で、特に韓国では最長の河川、洛東江(らくとうこう)の水質汚濁や上下流の水争い問題に興味をもっているようで、先進地域として琵琶湖淀川水系での水管理や住民の水意識などを学びたいということです。洛東江は、私も知事になる前に河川国際会議で訪問したことがありますが、韓国政府統治下最長の河川で全長525km、流域面積23,384km2。朝鮮半島東部を南北に走る太白山脈に端を発し、大邱市、釜山市などの主要都市を貫流して朝鮮海峡に注ぎます。日本で最大の利根川が322 km、流域面積が16,840km2と比べると洛東江がいかに大きな河川であるかがわかります。放映は12月中旬ということ。どんな番組になるのか楽しみです。11月2日。(2000文字、また長いです。スミマセン)。
雨の降る中でしたが、「水と生きる」というテーマでは、私自身が今、琵琶湖辺で、橋板をつかって、朝一杯の琵琶湖水をいただき、琵琶湖水で顔を洗い、水神さんの薬師如来にお祈りする場面を見てほしいと比良浜まで来ていただきました。その前には、高島市針江の「カバタ集落」の取材にも行ってもらっていたので、話はしやすかったです。楊さんと嘉田とが二人で執筆した針江・太湖の日中比較の書籍「水と生きる地域の力」も差し上げました。質問は下記のようなものでしたがどこまで趣旨が通じたか、仕上がりが楽しみです。
(1) 琵琶湖は県民にとってどんな湖か?
(2) 日本の水質管理はどのように行われているか
(3) 上水管理及び供給の方式は
(4) 1977年琵琶湖に赤潮が発生、当時の状況と原因は?環境基準をつくった背景は?
(5) 赤潮問題を解決するための努力は?
(6) 自治体の間での上水原水供給問題に意見衝突があった場合、どう解決するか?
(7) 同じような問題をかかえている韓国の自治体にアドバイスをお願いします。
全体の流れの中では、1977年に赤潮という琵琶湖からの悲鳴が発せられ、滋賀県民は、自分たちが暮らしから流す生活排水や農業系の水田排水や、産業系の工場排水が琵琶湖汚染の原因であることに気づいた。特に赤潮に大きな栄養を及ぼすのはリンやチッソという栄養分であり、その栄養分流出を減らすために「富栄養化防止条例」を制定、1980年7月1日に施行。この条例は、もともと人間の暮らしや生命活動に必要なチッソやリンなどの栄養分の水質基準を決めて制限をするという大変困難な条例で世界でも初めてのものだった。これが実現できたのは、特に家庭の主婦など住民参加の運動がきっかけとなった。
琵琶湖汚染から始まった水質問題は、水が流れだす「河川」「水田」「森林」など、集水域に広がってきた。ここにも農業者や住民、企業がかかわり、琵琶湖問題への関心は、周辺の河川流域や地域社会、そして森林部までひろがり、面的な関心がひろまってきた。たとえば生物への関心では、琵琶湖周辺の水田で魚が産卵することに気づき、「魚のゆりかご水田」などがひろがり、今や世界農業遺産に指定されるまでに成長した。その背景には、琵琶湖環境科学研究センターや琵琶湖博物館などの専門的研究と住民と行政をつなぐ活動が滋賀県らしい特色といえる。
その中で、私自身は水道がはいる前の生活用水調査をして、そこで針江のカバタに出会った。1980年代だ。当時、水道が入り始めて、カバタのような昔ながらの湧水は、「不潔」「古臭い」「不衛生」「水道行政を赤字にする」と言われ、止めるように行政指導があった。それを元々の伝統的な水源の重要性を強調して、住民の皆さんに、カバタを止めないで、とお願いしてまわった。針江はその後、写真家の今森光彦さんがカバタや湖辺の水と近い暮らしぶりを映像化して世界に発信をして、カバタの存続が決まってきた。その中心は地域住民の人たちの「近い水」を維持したいという心意気だ。
広範囲の行政レベルでも、単に線としての河川ではなく、そこに注ぎこむ河川の支川や水田、上流部の森林地帯まで、すべての関係者が、水とつながる暮らしや産業を意識して、その流れや関係性を「見える化」して、行政だけでなく、住民や企業家、すべての流域者が関心を持つことが大事だ。元々河川の上流と下流、右岸と左岸は対立しやすい構造となっている。ライバルという言葉はリバーが語源だ。それだけに流域全体の水量、水質、そこでの生きもの生態系や歴史、文化などの全体の関係性を「見える化」し、その時のポイントは、「上流は下流を思い、下流は上流に感謝する」という基本的哲学を、行政的にも埋め込むことだ。琵琶湖淀川水系では関西広域連合という組織がその母体となっている。
また住民の側からみると、蛇口の向こうに水や生き物の存在が感じられるように、子どもが遊べるか、そこで生物がとれて、食べられるか、という「遊びと食」がポイントだ。古代からの人間にそなわっている自然への関心こそ、水と人間を近づける舞台でもある。それだけに流域全体の水量、水質、そこでの生き物の生態系や歴史、文化などの全体の関係性を「見える化」して、それを「自分事化」することが大切だ。そのためには基本的な教育とともに、専門家による科学的研究にプラスして、住民参加での調査研究やその発信の場づくりが必要だ。琵琶湖博物館はそのためのひとつの場所でもある。
韓国の洛東江(らくとうこう)のような広域流域での上下流連携のためには、自治体毎に博物館のような流域問題を「見える化」して、住民や企業が「自分事化」できる場づくりが何よりも重要だと思う。是非ともそのような場面に社会的関心を深め、財源とエネルギーを注いてほしいとお願いしました。