「高島市民大学・たかしまアカデミー」が「滋賀県立大学地域共生センター」と協力しながら開催したオープン講座。マルクス主義の現代的解説書ともいえる『人新世の資本論』50万部を売り上げた気鋭の経済思想家、東大准教授の斎藤幸平さんをお招きし<コモンの自治をとりもどすー滋賀の里山・高島のくらしから考える>というテーマで講演会。後半は高島の山・里・湖にかかわる研究者、実践者の皆さんが参加をしての報告。全体の概要を報告させていただきます。講演会前の昼食は、安曇川道の駅で、岩田康子さんの「ソラノネ」の発酵食昼食と十割そばをいただきました。その食文化の実践も報告させていただきます。4月7日。(またまたとっても長いです、2000文字)
資本主義が進行する中で、地球規模ですすむ経済格差と環境危機という複合的危機に対して、滋賀・高島での伝統的な村落共同体の生活と生業(なりわい)からの学びが未来への希望になるのでは、という元気をいただくセミナーでした。準備いただいた滋賀県立大学の上田洋平さん、遠路講演におこしいただいた斎藤幸平せん、研究・実践報告をいただいた、琵琶湖博物館の楊平専門学芸員さん、琵琶湖環境科学研究センターの木村道徳専門研究員さん、針江のんきいふぁーむ創業者の石津文雄さん、ありがとうございました。
まず会場にはいって驚いたのは、かなり地味なテーマであるのに、補助椅子まで動員して、会場一杯の参加者で150名をこえているようでした。斎藤さんの1時間20分の講演でしたが、これほど地球規模のまた人類史的にも根深いダイナミックな難しいテーマをよくぞわかりやすく解説するなぁ、と感心しました。パワポのテーマを列挙させていただきます。それぞれはかなり長いのですが、省略させていただき、琵琶湖、滋賀県にかかわるところだけ具体的に記述させていただきます。
・人新世の複合危機
・物質代謝の亀裂とパンデミック
・{SDGsは大衆のアヘンである!}
・人新世の資本主義
・資本主義がもたらす貧しい社会
・カール・マルクスと物質循環の亀裂
・「進歩の時代」の限界
・日本の「進歩の時代」の限界
・「レジリエンスの時代」へ
・①「バイオリージョン統治」 水のコモンズ→琵琶湖コモンズの流域治水
・②生命愛(バイオフィリア) 生活環境主義と生活知 みずすまし水田プロジェクト、 「世界農業遺産」に、滋賀県の「森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム
・③分散型ピアクラシ― グローバル資本主義から地域の特性に合わせた政治へ
・フランスの給食 学校だけでなく市役所から監獄まで公的施設での有機食給食
・所有からアクセスへ
・コミュニズムの再生 コモンとコニュニティを重視する社会
・斎藤さんがよびかけた東京郊外の森林コモン 高尾山での実践
・滋賀県、高島市のコモン
・反再開発 コモンの「自治」論
・脱成長時代のインフラ
・「共事者」として 小松理虔 当事者ではなく共事者として活動をひろげる
・ウイリアム・モリス 意味のある労働と無意味な労苦 人口の3.5%の先駆者
地元からの最初の発表は、楊平琵琶湖博物館専門学芸員の「コモンの再生と共に豊かな自治のあり方」として、高島市針江集落での地域共同体による、日常生活や生業、遊びの中で水や水辺の資源が利用されながら管理されてきた実態をわかりやすく解説してくれました。特に共有資源の「守り(もり)」には生活の必要性に応じて変化に対応するその柔軟性にあると報告してくれました。
琵琶湖環境科学研究センターの木村道徳専門研究員は、「地域資源と地域コミュニティ」として滋賀県の森林・林業が、面積が大きい割に具体的に利用度が低いこと、特に木質バイオマスとしての薪利用は、別荘地の新住民中心で旧住民は関心をもっていないことなどを調査結果から指摘。しかし旧住民は、地域コミュニティの活動には関心をもっており、内発的発展をめざしたローカルコモンズの形成が必要と問題提起をしてくれました。
三人目の発表者は石津文雄さんです。40年近く前の平成初期から「はりえげんき米」という有機米づくりをはじめた時の地域での異端視の中で、大阪南部の生協の皆さんが、消費者としての安全な米というより、生産者にとっての安全性を強調していただき、それが大きな勇気になって有機の田んぼづくりを進めてきたこと。結果として「魚のゆりかご水田」から「世界農業遺産」認定につながったことを、上田洋平さんとの対話の中で語ってくださいました。
時間切れで質疑応答時間はありませんでしたが、会場いっぱいの参加者の皆さんのアンケート結果は是非とも知りたいです。企画、準備いただきました上田洋平さん、高島市教育長の川島 浩之さん、スタッフの皆さん、お世話になりました。
斎藤幸平さんと、斎藤さんの昔からの友人の大阪経済大学教授の西脇邦雄さんを安曇川道の駅のソラノネのレストランにご案内しました。運よく経営者の岩田康子さんがソラノネの精神を語って下さいました。人間と霊長類の違いは火を使うことだということから、かまどで炊飯するご飯の大切さを伝えたいので、かまどご飯レストラン「ソラノネ」を開いたこと、堀場製作所の社長が学生時代の友達で、社員教育としてかまどご飯を家族ぐるみで楽しんでもらっていること、昼食は発酵食品中心で、十割そばもその場でひいていることなど、語っていただき、斎藤さん、西脇さんに高島の心のこもった逸品を召し上がってもらえてよかったです。