Facebook 2023年12月31日 今年も魅力的な書籍をたくさんお送りいただきました。

大晦日となってしまいました。今年も魅力的な書籍をたくさんお送りいただきました。ギリギリすべりこみで2冊、紹介させていただきます。一冊は中川大介著『水辺の小さな自然再生―人と自然の環(わ)を取り戻す』(農文協、2023年)と、真田純子著『風景をつくるごはんー都市と農村の真に幸せな関係とは』(農文協、2023年)です。いずれも編集者の田口均さんがまとめられた、編集者によってこんなに新しい世界がひらかれるのだ、と改めて編集仕事の面白さと意義と意味を教えていただいた書物です。12月31日。(1200文字です)。
中川大介さんは、ご出身地が釜石市の津波被害地であり、高い防潮堤問題をお父さまとともに我が事として直面しておられた。海が見えない、水が見えない、高い防潮堤防、安全を求めそれを強く望む住民と、海を見続けたいと拒否する人。その水との距離感を自らの問題としながら、北海道での小さな自然再生の現場に出逢う。釧路や美幌町で、高度経済成長期に失ってしまった川や水とのかかわりを再生しようとする人たちの営み。そこには水そのものというより人間との濃密なかかわりである桑子俊雄さんが言われる「空間の履歴」をとりもどしたいという思いが込められていた。そこに人の環と自然の環のつながりの再生を託す。私自身、「近い水」の発見をライフワークとしていますが、中川さんの思いに深く通じます。
二冊目の真田純子さんの本は、そのタイトルが意外です。「風景をつくるごはんー都市と農村の真に幸せな関係」。もともと石垣づくりを専門とし「石積み学校」を主宰する真田さん。その真田さんがイタリアを訪問し、その魅力的な食が、美しいと自らが感じる農村風景の中に隠れていることに気づく。そして日本にかえって、過疎に直面する中山間地域の棚田や手づくりの野菜畑などが、都市側の食のあり方とつながっていることを発見。社会システムとして硬い表現になりがちですが、そこに「風景をつくるごはん」と暮らし言葉に昇華させた。
このタイトルにできたのは、編集者と著者との合作と思われます。著者の人生とライフワークとをつなげ、既存の概念にはまりにくいテーマ性を発見。親身になって本気で新しい世界を編み出すエネルギーを持っておられる編集者と著者の出逢いの妙と思われます。まさにトランスディスプリナリー(超学際的)な出会いがかくされ、前例のない作品になっている。
思いおこせば田口均さんが編集してくださった篠原修『河川工学者三代は川とどう見てきたのかー安芸安藝皎一、高橋裕、大熊孝と近代河川行政一五〇年』と、嘉田由紀子編『流域治水がひらく川と人の関係―2020年球磨川水害の経験に学ぶ』も、編集者と著者たちとの合作の妙でした。感謝いたします。
両著とも最新刊です。人と自然のかかわり、過去をみつめ、未来の地域環境と地球環境に興味をもたれる皆さまにおすすめです。お正月にお手にとっていただけたら幸いです。
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