Facebook 2023年12月28日 「斎藤幸平さん琵琶湖・滋賀県案内(その3)・滋賀県立琵琶湖博物館訪問」

「斎藤幸平さん琵琶湖・滋賀県案内(その3)・滋賀県立琵琶湖博物館訪問」。12月23日午前中は滋賀県立大学の上田洋平さんと同志社大学の大和田順子さんが知内地区で合流。午後には、高島市内から琵琶湖岸を南へくだって、上田さん、大和田さんごいっしょに、草津市の琵琶湖博物館をご案内。琵琶湖博物館では、C(環境)展示の冨江家を中心に、伝統的な村落暮らしの中での物質循環の再現展示場面を案内。また高橋啓一館長が自ら質問コーナーで来館者対応している場面や、杲(ひので)一哉副館長の部屋で、黒川琉伊(るい)くんの『はじめてのびわこの魚』(能美舎、2023年)の書籍などを見ていただきました。これで三回シリーズの斎藤幸平さん琵琶湖・滋賀県案内はひとまず閉じます。長文におつきあいいただき感謝です。12月28日。2000文字(また長いです、すみません)。
琵琶湖博物館はA:自然史、B:文化史、C:環境史(生きた淡水水族含む)と大変幅広い分野をカバーしていますが、今回はCの冨江家展示を中心に案内させていただきました。平成8年(1996年)に開館する前に彦根市から移築し、1964年(昭和39年)5月10日午前10時の瞬間を再現展示。し尿や風呂水などの排水を「栄養分」や「養い水」として、米づくりや野菜づくりに活用し、農地の地力を維持して作物を育てる循環型の暮らしを実現するだけでなく、排水を下流に流さず、結果として、河川や琵琶湖水が直接飲めるほどきれいだったこともお伝えしました。まさに自浄作用を内包した「近い水」の展示です。
斎藤幸平さんの『大洪水の前に―マルクスと惑星の物質代謝』では、「晩期マルクスの物質代謝論」の部で、「ロンドンでは450万人の肥料があるのに、資本主義的経済は巨額の費用をかけてテムズ河を汚染するのに使うよりましなことはできない」(文庫版330頁)、さらに「生命、すなわち栄養と排泄とによって行われる物質代謝は、その担い手である蛋白に内属する、それに固有な、自立的に営まれる過程であって、この過程をともなわない生命はありえない」(文庫版336頁)と指摘しています。
日本では中国文化の影響から、鎌倉時代から個別の農家、農村内部だけでなく、都市と農村の間でのし尿の収集・運搬・肥料利用の伝統が維持されてきました。冨江家展示では、小便は風呂の落とし水といっしょにして実物、ナリモノに、また大便は屋敷の南東側に設置された大便所で、数ケ月間嫌気性発酵されて、大腸菌を無菌化して米や麦畑に散布していました。この仕組みを江戸時代から農業者は知っていたことも伝えました。
江戸の日本の農書をマルクスが読んだらさぞかし驚かれたことでしょう。マルクスに大蔵永常の『農家肥培論』や宮崎安貞の『農業全書』に出逢ってほしかったです!私は江戸時代の資源循環の要であった人糞尿の肥料利用が明治期から昭和時代まで維持されてきたことが、日本の近代化過程での経済発展の隠れた秘密の一つではなかった、とかねてから考え、発表してきました。琵琶湖博物館展示はその一端でもあります。
斎藤さんは22日に針江でみてきたカバタが琵琶湖博物館に再現されていることに関心をもっていただいたようで、冨江家の五右衛門風呂やカバタの展示、またぽっとん便所で、実際に排尿・排便をした人がいることを紹介すると、えらくおもしろがり、人間行動の習慣性ではないか、とある脳科学者が言っておられたことと似通った感想をのべておられました。マルクスが晩年に意識していた「物質循環」の仕組みは日本の伝統的な農村内で、また都市と農村の関係性の中に隠されていました。
最後に斎藤幸平さんに、「国会での活動で嘉田に何を期待しますか?」と尋ねました。「温暖化問題について発信してください」とご意見をいただきました。地域環境問題をミクロに扱ってきた立場からは、国会に行ってからは、経産省などのGXプランなど大言壮語の科学技術の進展で地球環境問題は解決できる、というような政策セットに嫌気がさしていて、なかなか思考が深まりませんでした。来年度の2024年の通常国会からは、資本主義と環境問題など、哲学的な分野での問題提起もすすめていきたいです。
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