「斎藤幸平さん琵琶湖・滋賀県案内(その1)・高島市カバタの里針江にて」 。「若きマルクス主義研究者・経済学者・哲学者」として、最近テレビ出演やSNSでの発信も多い東大准教授の斎藤幸平さん。1987年生まれの36歳!11月19日にはTV番組「情熱大陸」でヨーロッパでの地球環境保全の活動が紹介されました。「牛肉食べない、煮干しが好物」は有名になりました!ご多忙のところ、2023年12月22日・23日と一泊二日の日程で、琵琶湖辺の高島市新旭町のカバタで有名な針江集落と、河川のヤナ漁業や魚のゆりかご水田で地域資源の共同体管理をしているマキノ町知内集落と、重要文化的景観を維持している海津をご案内、23日午後には琵琶湖博物館をご案内。斎藤さんからは「琵琶湖やそれを取り巻く歴史や文化に触れることで、バイオリージョンなコモンのあり方が少しわかった気がしました。東京での活動にも活かしていきたいと思います」というありがたい感想をいただきました。12月26日。(2000文字、長いです、スミマセン)
2020年に出版された『人新世の「資本論」』とその前の『大洪水の前にーマルクスと惑星の物質代謝』の二冊は私には衝撃の書でした。「気候変動、コロナ渦、文明崩壊の危機、唯一の解決策は脱成長経済」そして「マルクスに帰れ!」。論旨は明快。気候変動は地球に確実に危機をもたらす。気候変動の原因である資本主義を温存したままでは、どのような弥縫策も気候変動危機を止めることはできない。資本主義の本質を見抜いていたマルクスもそのことを指摘していた。私も深く共感します。そして何よりも、マルクスが晩年に気にしていた、資本主義の徹底で破壊される環境問題への歯止めの社会制度として、村落共同体の共有資源利用システムの中に希望を見出していた、という指摘に私自身はとびつきました。そして実践的に、エネルギーや生産手段など生活に不可欠な〈共有資源=コモン〉を自分たちで共同管理する「脱成長コミュニズム」に進まなければならないという。
1980年代初頭から琵琶湖辺の村落社会の水•土地•漁業資源の共同体管理の仕組みを「生活環境主義」として、仲間と共同研究して理論化し、『水と人の環境史―琵琶湖報告書』(1984年、鳥越晧之と共編)を出版。そして水汚染に下水道、洪水対策にはダム建設、などという近代科学主義に対抗して「当該社会に実際に生活する居住者の立場」に根ざした「生活環境主義」を環境社会学の一分野としてつくりあげてきました。しかし一部からは「過去を美化するアナクロニズム」「住民組織にも亀裂は多い」「地域共同体は今、すでに解体が進んでいて無力だ」などいろいろ批判を受けてきました。
そういう中で、琵琶湖博物館学芸員の楊平さんが、針江集落に徹底して通って、共同体としての水利用、水田や漁業資源の共有利用について、大変緻密なモノグラフの原稿をかかれました。同時に、中国太湖周辺の水域利用にみられる共同体の力についても詳述してくれました。私自身も針江集落のカバタ保全には深くかかわってきましたし、中国太湖での40年前からの聴き取り調査がありました。しかし、琵琶湖辺の村と太湖辺の村の共同体の資源管理をまとめる論理がつくれないまま悶々としていました。斎藤幸平さんの『人新世の資本論』を読んで、楊さんと共著の出版を決意し、2022年に『水と生きる地域の力―琵琶湖・太湖の比較から』(楊平・嘉田由紀子、サンライズ出版)を出版しました。
今回、その針江で、有機農業の先駆者として40年以上頑張ってこられた石津文雄さんと、文雄お父さんの農的哲学を受け継ぎながら、有機米の生産や、地域のカバタ、村落の仕組みの維持継承に魂を燃やす「針江のんきいふぁーむ」の石津大輔さんにも出会ってもらいました。昼食は大輔さん推薦の地元野菜中心のランチを「古良慕」でいただき、若い皆さんは斎藤さんの本をすでに読んでいて、サインをいただき大変喜んでくれました。石津さんの「いきもの田んぼ」で、私たちが50年間追いかけてきたある昆虫がこの夏に蘇ったということを聞き、涙があふれました。そう!!人が耕す水田にかつての生き物を取り戻すこと、それが地球環境問題へのひとつの答えになるはずです。
また「針江生水の郷委員会」の海東英和会長や前田啓子さんから、生水の郷20年の活動経過や、今地域の子どもたちにカバタや集落の環境の重要性を伝える活動について、紹介をしてもらいました。今森光彦さんの「映像詩里山 命をめぐる水辺」の撮影がなされた「中島」の夕焼けの情景は美しかったです。
「脱成長」「脱炭素」のうねりを大きくしていくために、斎藤さんのような理論派、国際派の若い人たちとつながっていくこと、とっても心強いです。斎藤さんの今回の琵琶湖訪問をアレンジくださいました大阪経済大学の西脇邦雄教授、武直樹大阪市議会議員に感謝いたします。(その2)はマキノ町、知内での報告をいたします。