Facebook 2023年10月5日 愛知県豊川の霞堤地域に水害被害調査に伺いました。

10月2日に、愛知県豊川の霞堤地域に水害被害調査に伺いました。この7月31日には、国土交通省担当者に霞堤の仕組みや現場を案内いただきました。滋賀県立大学の瀧健太郎教授や学生さんといっしょでしたが、実際の被災者の意見を伺う時間がありませんでした。今回は上流部の「金沢霞」と言われる霞提の中で野菜作など農業経営をしている小野田泰博さんと、イチゴ農家の城所輝明さん、バラ農家の牧野文夫さんの三名に被災状況を伺ってまいりました。報告させていただき、今後の国会の予算委員会や国土交通委員会での「流域治水」に関する問題提起の参考にさせていただきます。10月4日。(長いです、2400文字、スミマセン)。
愛知県豊川流域では「6月2日―3日の台風2号と前線大雨」で霞堤地区(連続する堤防ではなく、あらかじめ切れ目をいれた不連続の堤防)で480ヘクタール以上の浸水被害がありました。「流域治水」を考える時に、霞提の役割は重要な流域治水施設と位置づけられています。堤防に切れ目がはいっていて、その切れ目から農地や住宅地などに洪水が流れ出す分、下流への洪水負担が減ります。江戸時代からの伝統的な治水システムとしても評価されています。しかし、未だにこの霞堤部分の「遊水池機能」の位置づけが法的にできていないので、浸水による被害を補償する仕組みが河川法の中にできていません。
また霞堤の役割として意外と知られていないのが二点あります。ひとつは浸水した後、洪水が引く時の排水機能もあるということ、つまり内水排除が速やかに可能となることです。二点目は生物多様性維持の機能です。本流が濁流の中で、アユなどの魚類が逃げ込むことができる水域が広がり生物の生息場所を確保できるということです。ただ、このふたつの役割は、現場で意識する住民の方は少ないです。研究者の中でも河川工学と生態学の谷間の問題で意識する人は少ないです。滋賀県立大学の瀧健太郎さんとその仲間はこの部分に注目している数少ない研究者です。
さて、昨年2022年8月の滋賀県高時川の長浜市馬上(まけ)の横田農場の水田が11haも浸水し、米や野菜などの収穫減少や追加的な労働投下の必要性、農業機械の修理費用で概算ですが600万円をこえる被害がでています。長浜市からもこの被害軽減について、滋賀県に要望が出されています。私も「滋賀県流域治水推進条例」をつくった当時の知事としても、霞堤の法的位置づけや被害補償について、滋賀県当局や国の河川担当部局と協議を進めてきましたが、まだ出口がみえません。
今回、豊川の金沢霞堤地域の、野菜作の小野田泰博さんに出逢えたことは私にとっても大変大きな学びがありました。というのも、小野田さんは霞提の存在を評価しながら、自分たちの被害をまっすぐ受け止めながら、浸水による農業経営被害の大きさは補償してもらわないとこの地で農業経営を続けられない、どうしたらこの地域で農業経営を続け、霞提の存在と共存しながら、地域生活を続けられるかを本気で、当事者として考え抜いておられるからです。今回、小野田さんから、6月2日の浸水状態の写真、泥まみれの野菜写真など提供いただきました。10月2日の訪問時の作業場の浸水点も示していただきました。
同時に、小野田さんは、今の河川法と水防法の限界を緻密に提起しています。14頁に及ぶ「霞提地域の住民意見」と「河川行政からの答弁」の記録をみると、まさにこのような具体的で実践的な議論こそ、国の流域治水方針の中で、リアルに議論するべき問題と理解しました。河川法や水防法という大きな国の法律が、都道府県や市町村の具体的な行動指針になるのです。最前線の霞堤被災者の小野田さんのような方からの切実な意見を、県の条例や国の法案が受け止めることこそ、今後の流域治水政策の本旨です。この問題は国会でも提起していきます。
豊川下流部には昭和30年代まで9つの霞堤がありました。最初の地図をみていただくと、9つの霞堤が上流から下流にあります。右岸に赤色が5つで、左岸に黄色が4つです。霞堤で浸水する地域も都市化し、ふさいでほしいという要望が高まり、昭和40年に豊川放水路が完成した時に、右岸の5つの霞堤は開口部(差し口)を締め切りました。しかし左岸にある4つ、上流から金沢霞、賀茂霞、下条(げじょう)霞、牛川霞は開口部をその後も残していました。小野田さんの居住、農地はその金沢霞です。
今後の方向としては、豊川放水路建設で締め切った右岸の5つの地域と、今も霞提が残る左岸の4つの地域の、治水に対する住民意識の調査が必要と思います。実は愛知大学の地理学の大御所である藤田佳久さんが『霞提の研究―豊川流域に生きている伝統的治水システム』(2022年、あるむ社)を最近刊行しました。その書籍の中に、1990年代に霞堤を締め切った右岸の住民41戸と、開放のままの左岸の住民43戸の、水害対応の比較する意識調査結果が紹介されています。
締め切った地域の住民が締め切りを100%歓迎していない意見もあります。浸水後に内水浸水が残る問題を提起する人もいます。また締め切った後、土地利用が変わり新興住宅が増えることで、水害に無防備になった地域への懸念もあります。また「伝統的な治水文化である霞堤をのこすべき」という歴史文化を尊重すべし、という意見さえあります。
締め切り後50年を経た今、霞堤を閉め切った地域、まだ霞堤防が残っている地域の水害環境意識の比較調査は重要と思います。環境社会学者としての私自身への今後の宿題をいただきました。地道な調査に基づいて、国会での流域治水法案の実践性の向上に貢献していきたいです。長い文章におつきあいいただき感謝申し上げます。
なお、フリージャーナリストの関口威人さんは、この地域の霞堤問題だけでなく広い災害・環境問題に精力的に取材•発信をなさっておられます。関口威人さんの記事なども参考になさってください。
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