「山形県最上小国川ダム、穴あきダム訪問調査報告」(その4)「赤倉温泉の治水問題―超過洪水がダム津波となる恐れ!!」9月21日。1700文字、(また長いです)。(小国川ダムシリーズはこれで終わりです。おつきあいいただき感謝です)
最上小国川の沿川一帯は、昭和30~40年代にかけて甚大な洪水被害が発生しており、これらの災害を契機に、多くの箇所で河道改修が行われています。しかし、最上流部の赤倉地区では、温泉旅館が川沿いに立ち並び、温泉源への影響が懸念されると言われ、河道拡幅や掘削ができていません。ただ河道改修をしても温泉源への影響はない、と証言する地質学者もいますが、山形県は一貫して河道改修を拒否して、3キロ上流に小国川穴あきダムが建設されました。東北で初の穴あきダムは「環境に優しい」と言われていますが、これまでこのFBで3度にわたり解説してきたように、「環境に優しい」というにはまだまだデータ不足と言わざるをえないでしょう。
新庄市から車で40分。平安時代、慈覚大師により貞観5年に開湯したという歴史的にも著名な赤倉温泉。源泉かけ流しの天然岩風呂が有名で、清流のアユ釣りとセットで重要な観光温泉と思って訪問しましたが、今回驚いたのは、観光地としての景観や風情が欠けていることです。建物がそれぞれに川にせり出し、護岸の材質、デザインもバラバラで、その上、河床に何ケ所も堰があり、河床をせりあげています。そして「川が浅い!」。湯澤屋さんという昭和風の旅館に泊まりましたが、その居間からも手が届くほど川底が高いです。大型旅館も休業中です。
河川整備計画では、赤倉温泉内の小国川は、50年確率の降雨に耐えられるよう、毎秒340トンの流下能力が必要と規定されています。しかし実際は120トンしかないので、小国川ダムで250トンカットをするので、水害対策は万全ということです。豪雨が想定内でおさまる間は、ダムは頼りになります。ただ、想定を超える「超過洪水」時には、ダムは「防災の要から脅威に豹変」します。度重なる想定外の豪雨が地球温暖化によるものとすれば、ダムが流域の脅威となるケースは今後、さらに増えるでしょう。
2018年7月、西日本豪雨の愛媛県肱川上流部の野村町で、野村ダムの緊急放流で「ダム津波」がおき、毎秒1800トンをこえる水量が、1000トンしか耐えられない河川に流れ込み、町中が水につかり5名が溺死してしまいました。現場で被害者の話を伺いましたが、「ダムがあるから安心」と避難しない人びとを無理やり消防自動車に乗せて高台に避難させ、100名以上の命を救ったということです。
そもそもこれまでの赤倉温泉の洪水は、「内水氾濫」のケースが多く、周辺の山間部や小河川からの流水や、河川への排水口からの逆流も多いという。内水氾濫は本線の水位を下げるだけでは防ぎきれません。事実、湯澤屋旅館の奥さんは「これまでの洪水はまず建物の背後の方から来た」と言います。またあい向かいの「初音食堂」の92歳のおばぁちゃんも、数年前の洪水では床上まで水があがり仏壇の下部が水についたということ。昔から何度も水につくので、二階に部屋を継ぎたしタンス部屋として、同時にお風呂も二階に移したということ、家中を案内下さいました。
「最上町赤倉地区洪水避難地図」によると、50年確率の浸水想定図で、小国川沿いは2メートル以上の浸水地域となっています。小国川ダム建設の目的は50年確率の浸水をふせぐというはずですが、この最上町の避難地図との整合性がとれていません。ここは今後、問い合わせていくことにします。いずれにしろ、小国川ダムが完成した今も、50年確率の洪水での水害被害はおきるという事を地元最上町も認めているということでしょう。
山形県には、「最上小国川清流未来振興機構」という新しい組織ができ流域振興を考えていくということです。ダム建設は既成事実として、自然資本を活かすために、ダム影響を最小化する河川環境保全と温泉地の新興計画を本気でつくらないと、ますます人口減少と地域衰退がすすんでしまうでしょう。心配です。山形県の本気度が問われているのではないでしょうか。