あのモンベル会長の辰野勇さんが、今週末、3月4日(日)に長浜市に講演に来てくださいます。場所は長浜市北部「木之本スティックホール」。講演は無料ですが整理券が必要です。辰野会長の経験豊かな講演を柱に「山を活かすー湖北の森に魅せられた人たちー」の討論会を通じて、今後の山村・森林と人間の共生社会の実現を考えていける場としたいという主催者の思いのようです。2月26日。(危険注意!また長いです)
主催は「ながはま森林マッチングセンター」。「次世代の働く場と定住できる環境づくり」をめざして、2016年10月から、滋賀県等の支援を受けながら、長浜市内の森林組合や地元活動団体が連携をして動き出した新しい組織です。山村において豊かな森林資源や多様な地域資源と都市側のニーズをつないで、新たな交流や移住定住、就業機会の促進や産業の創造を支援します。
山村地域では、高度経済成長期以降の「向都離村」により人口が減少し高齢化が進んでいます。一方で、山村は豊富な自然や森林資源に恵まれ、長い歴史の中で育まれた多様な暮らしぶりや仕事があります。こうした中で、山村で働きたい、暮らしたい、起業したいと思う人たちが少しずつですが増えつつあり、そのような人たちの思いと、地元で活用可能な資源とをマッチングさせ、地域の担い手や産業の育成を図ることが「ながはま森林マッチングセンター」の使命です。
では今回なぜアウトドア用品の製造販売会社モンベルの辰野勇会長兼C.E.Oの講演なのでしょうか。モンベルが企業活動として、農山漁村、特に過疎や人口流出に悩む地域を、仲間として本気で応援しているからです。
辰野会長は、1969年、当時世界屈指の難ルートであるヨーロッパアルプスの「アイガー北壁」の登攀(とうはん)を、世界最年少で成功させた冒険家です。その後、ある冬の登攀中のビバークで粗悪品の手袋をしていたことで凍傷になり、より高機能で安全性の高い装備の必要性を痛感。自ら開発することを決意し、1975年にモンベルを創業し、一世代の間に、年商 800億円、2500名の従業員をかかえる大企業に成長させました。
会社の基本は「(野外活動家である)自分たちの欲しいものを作る」こと。「あったらいいな」という製品を、サンプルデザインから、縫製、材料評価試験、実際のフィールドでのテストを行いながら登山・野外活動用品を製作。日本国内だけでなく海外もふくめて100店舗を超える直営店をかかえ、最近は登山・野外用品に加えて、林業や農業など、第一次産業用の「かっこいいウェア」も開発しています。
最近社長を息子さんの岳史(たけし)さんにゆずりました。先月の1月23日に大阪のモンベル本社を訪問し、そこで新社長の辰野岳史さんにお会いしてお話を伺いました。「おとんが楽しそうに仕事をしているので、社長業をひきつぐことにした!」というとってもわかりやすい動機を語ってくださいました。共感がもてます。社長業を息子さんにゆずりながらも、創業者としての勇さんの社会的活躍は、特に地域振興などの領域に一層ひろがっています。
モンベルは、日本各地の自治体と「フレンドシップ協定」を結び、地域振興を支援してくれています。長浜市とは、つい最近2018年2月に包括協定を結びました。モンベルと長浜市は、長浜市の豊かな自然を活かしたスポーツツーリズムの構築と地域の活性化に向けた活動を連携して進めるということです。今回の辰野会長の長浜市での講演は、その包括協定の内実を高める一歩となってくれることと期待します。
滋賀県内では、米原市や東近江市がすでにフレンドシップ協定を結んでいます。モンベルが一貫して求めてきた経営方針は7つあります。それを見ると、まさに現在、地域自治体が悩んでいる政策課題そのものへの出口を示してくれています。それゆえ、特に日本各地の農山漁村、特に人口流出や地域振興に悩む地域が、モンベルさんとの連携を強くのぞんでいるわけです。
モンベル 7つのミッションとは以下です。辰野さんの言葉で紹介しましょう。
① 「自然環境保全への啓蒙」 アウトドアに身を置くことで自然の大切さや恵みを実感できます。
② 「野外体験を通じて生きる力をはぐくむ」 僕がそうであったように、アウトドア活動を通じて集中力、持続力、決断力といった生きる力を身につけることができます。
③ 「健康寿命の増進」 登山などのアウトドア活動は健康寿命を長くするための役割を大きく果たしています。
④ 「災害への対応力」 阪神・淡路大震災の時のようにアウトドア用品やアウトドア活動は災害時への対応に役立ち、被災者を支援することができます。
⑤ 「エコツーリズムによる地域経済の活性化」 少子高齢化が進む地域経済を活性化する手段の一つとしてエコツーリズムが挙げられます。
⑥ 「農林水産業、第一次産業への支援」 提携を結ぶ地域の食材をモンベルクラブの会員に提供するサービスをしています。加えて、農業や林業といった1次産業のウェアを開発することで若者の農業定着の一助にしたいと考えています。
⑦ 「バリアフリー」 自然環境は実は一番のバリアフリーです。カヌーは2016年のリオ・パラリンピックで正式種目となりましたが、モンベルでは今から25年ほど前の91年に「障がい者カヌー教室」を開き、大会も実施しました。
私自身が辰野さんに出会ったのは2014年、びわこ成蹊スポーツ大学の学長に就任した時でした。びわスポ大には日本でも屈指の野外教育のコースがあり、そこで客員教授をしていただいていた辰野さんに出会い、意気投合。というのも辰野さんが、1969年に貧乏旅行でヨーロッパに出かけアイガー北壁に挑戦した、その頃、私も貧乏旅行でアフリカ探検にでかけた。そのルートが横浜、ナホトカからシベリア鉄道という同じルートで挑戦した、ということを発見。モンベルさんの会員情報誌「OUTWARD」(67 号:2015年)で取材いただきました。それ以来、大学以外でのおつきあいもいただいております。
昨年の2017年6月11日には、長浜市のトチノキの巨木の森をご案内させていただきました。三日月滋賀県知事、藤井長浜市長、山田金井原森林組合長もご一緒でした。山登りには、「野点」のお点前セットと「しのぶえ」をリュックにしのばせ、まさに大自然の中での文化の楽しみ方を生み出し、育て、共有しながら発信しておられる、見事な経営者です。写真を数枚、添付させていただきます。また辰野会長ご自身が、「OUTWARD」(76 号:2017年)に載せられた長浜トチノキ巨木に関する短文も紹介させていただきます。
「ながはま森林マッチングセンター」の活動が精力的に始まっています。現在の旧西浅井町の山門湿原や余呉町での山林利用に加えて、木之本地域でのトチノキ巨木保全などに展開していくことを期待しています。