令和五年三月九日(木曜日)
それでは、引き続き公述人の方々から御意見を伺います。
【略】
社会保障・少子化対策・教育について、公述人恵泉女学園大学学長大日向雅美さん及び東京大学大学院教育学研究科教授本田由紀さんから順次御意見を伺います。
まず、大日向公述人にお願いいたします。大日向公述人。
○公述人(大日向雅美君) 恵泉女学園大学の大日向と申します。本日は意見陳述の機会をいただきまして、感謝申し上げます。
目下、現金給付とか財源確保などについて鋭意議論が交わされておりますが、それが本当の少子化対策となるために、まず、子育てを社会全体で支えるとはどういうことなのか、徹底した議論とコンセンサスが必要と考えます。
子育て支援は少子高齢化で閉塞感に陥っている社会を活性化する鍵となる、そのためには三つが重要と考えます。第一に子育て観の見直し、第二に女性活躍に新しい道筋を付けること、第三に子育てを支える地域の人材養成、この三点につきまして、女子教育と子育て支援の両方の現場に立つ者として意見を述べさせていただきます。
まず、子育て観の見直しと新しい女性活躍についてです。
日本社会の女性たちの現状は、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数でも先進国の中で最低水準です。しかし、女性たちの現状は、この指数が示す以上に厳しいです。若い世代は、これからの生き方、社会に不安と葛藤の気持ちを非常に強めています。結婚、出産どころではないのです。
また、四十代前半から三十代前半の第二次均等法世代、女性活躍推進法世代が理想とするライフコースには変化が見られております。これまでの専業主婦や再就職コースではなく、両立、就業継続を希望する傾向が顕著です。でも、仕事も子供も両方求めるとなると、まるで罰ゲームを受けるみたいなんです。これが現実です。
子育て支援は大事だと言うけれど、旧来の子育て観はさほど変わっていない、子供を産んだら女性が子育ての大半を担って当然という子育て観が依然として払拭されていないと思います。
皆様は、「母親になって後悔してる」という本、御存じでしょうか。オルナ・ドーナトさんというイスラエルの社会学者が二〇一六年に著した本で、昨年の春、日本にも紹介されました。日本の女性たちからは共感の声が寄せられました。
一方、日本社会からは非常に厳しい批判の声が出ました。そんなこと言うなら産まなければよかったじゃないか、母親失格だ、人格異常者だと。確かにタイトルは衝撃的ではありますが、しかし、女性たちは子育ての大切さも子供を愛することも決して否定していません。ただ、自分の人生も大切にしたいのだ、子育てで自分の人生全てを失いたくないと言っているのです。
子育て支援を語るのであれば、私たちはこうした女性たちの心の叫びにどう応えようとしているのかを私は問いたいと思います。
私からの提案は二つです。一つは、女性の活躍について、具体的には働き方改革、そして新しい女性活躍像の提案です。そしてもう一つは、若い世代を支える地域の人材養成です。
まず、働き方についてでございますが、三十代から四十代の女性たちが理想とするライフコースは、仕事と家庭、子育ての両立、就業継続だと申しました。両立、就業継続は、仕事と家庭のバランスを無理なく取れる環境あってのことです。仕事も家庭も一〇〇%完璧にというのは所詮無理です。ライフステージに応じて仕事と子育て、家庭に注ぐ力のバランスが取れるように、それは女性だけでなくパートナーである男性にも試みていただきたいことです。
職場でも、働く人の状況に応じて助け合う仕組みとマインドが必要です。子育て、そして昨今は介護も重いです。こうした経験を評価して再雇用に生かす企業の取組も是非進めていただきたい。家族的責任を担いながら就業継続できる仕組み、そしてマインドの醸成もまた子育てを社会で支えることだと考えます。
そして、新しい女性活躍像です。
これまでの日本社会は強いリーダーを求めてきました。高度経済成長を築き、厳しい国際競争を乗り越えることができたのも、人口増社会を牽引してきた競争的強いリーダーあってのことだと思います。でも、今、人口減少社会です。そして、コロナ禍に苦しみ、理不尽な戦争を目の当たりにして痛感することは、誰一人として取り残さない、取り残されない平和な共生社会の構築にほかなりません。
他者を押しのけ、他者に打ち勝つことに価値を置いてきた競争的リーダーに代わって、共生社会を支える分かち合いのリーダーの提示こそ、これからの女性たちが安心して活躍できるんだ、これからの人生に確かな夢を持てることにつながると私は考えております。
この分かち合いのリーダーとは、何があっても生涯にわたって自分らしく生きる目標を忘れず、自分を大切にする、そして、自分の大切さを知った人であるからこそ同じように他の方の存在を尊重し、他者との共生の心を持って地域、社会に尽くすことに喜びを見出して生きていく力です。
私は、この力を、勤務する女子大学、恵泉女学園大学で三十五年掛けて実践し、生涯就業力として確立したところでございます。これからの時代を生きる女性たちにこの力を磨いてほしい、そしてそれを社会挙げて応援していけたらと願っております。
二つ目の提案は、子育て世代を支える地域の人材養成です。
こちらは二十年前からNPO活動として取り組んでおります。原点は、一九七〇年代初めに起きたコインロッカーベビー事件でした。当時の子育ては孤軍奮闘の一言に尽きました。子育て支援という言葉も発想もほとんどない時代でした。母親たちは、三百六十五日、二十四時間、年中無休のコンビニを一人で切り盛りしているみたい、こうつぶやくばかりでした。
女性一人にだけ育児を課す弊害を訴え、そこから女性たちを解放することが私の研究者としてのライフワークであり、その実践の場がNPO法人あい・ぽーとステーションです。子育てひろば事業と理由を問わない一時保育事業を主な柱として、都内三か所を拠点として展開しております。
子育てひろばは、親子が自由に集い、子供の育ち、子育ての喜びを分かち合う場です。理由を問わない一時保育では、子供を預ける理由を一切問わず、ゼロ歳から就学前までのお子さんをほとんど年中無休でお預かりしております。育児不安、育児ストレスの苦しさを軽減するには、いっときでも安心して子供を託せる人と場所が必要です。
働く親に、安心して預けられる良質な保育の保障はもちろんでございますが、専業主婦の方、育児休業中の親にも同じように保障されるべきです。かつては、母親が子供から離れるには仕事や通院、冠婚葬祭というしかるべき理由が求められていましたが、喫茶店でコーヒー一杯飲む時間、本や雑誌に目を通したり、新しい資格を取るための勉強など、母親が自分自身のために使える時間がどれほど必要か。それは決して子育てを放棄することではありません。自分を大切にできてこそ、子供にも子育てにもゆとりを持って当たれます。
問題は、こうした子育てひろば、一時保育を支えてくれる人の確保でした。
私の法人では、二〇〇五年から始めた子育て・家族支援者養成、幾つかの自治体で展開し、十年の間に二千名近くの認定者が誕生し、二〇一五年から厚生労働省の認定資格、子育て支援員にしていただきました。認定者の多くは子育てや仕事が一段落した女性たちです。子育てのつらさを次の世代に味わわせたくない、誰かの役に立てることがうれしいと講座に集まってくれています。最近は、自分の子育てのときにお世話になったから今度は恩返ししたいと受講する方々も増えて、まさに地域で支え、支えられて、お互いさまの循環が生まれております。
そして、二〇一二年からは、企業の助成をいただき、シニア世代男性たちの地域活動支援にも取り組んでおります。定年を迎えた団塊世代の男性たちに、長年職場、組織で培った知識、技術、経験を今度はどうか地域の子供たち、親たちのために生かしてほしい、現役時代の名刺で勝負してと呼びかけて、十一年の実践を重ねております。シニア世代の男性の多くは、高度経済成長を支え、九〇年代以降の厳しい国際競争を生きてきた方々です。地域の親子と触れ合う中で、現役時代には経験しなかった喜びと癒やしを得て、まさに共生社会を体感されています。
こうしたミドル、シニア世代の方々は、子育てひろばで親子が快適に過ごせるように、理由を問わない一時保育では、保育者として、あるいは、どんな親子の相談にも耳を傾け、必要に応じて地域の専門機関につなげる利用者支援の相談員として、さらには地域の児童相談所や子ども家庭支援センターと連携して地域の要支援家庭のお手伝いにも活躍しています。このコロナ禍で家庭に閉じ込められている親子にいち早くオンラインでの支援に動くなど、地域での人材養成の大切さを改めて痛感しております。
今、全国各地で様々な団体がそれぞれの地域のニーズに即して活動を展開して、親子の支えになっています。一九九〇年の一・五七ショックから子ども・子育て支援新制度に至る四半世紀余りの時間を掛けて、社会を挙げて、何より議員の先生方が超党派でつくり上げてきてくださった施策の中で都度示されてきたことから芽生えたことの一つです。今あたかも地域の地下からマグマのように噴き出して動き始めている地域の人々のパワーにどうか目を留め、応援していただきたいと思います。
この四月からこども家庭庁がスタートして、新しい取組も次々と打ち出されております。期待をしております。
ただ、どんな施策も、どんな施設をつくっても、親子が利用してこそだと思います。コロナ禍で、子育て世代の格差も家族問題も非常に深刻化しております。子育て支援を親子の元に届けたい。誰がどのようにそれを担うのかに私は一番関心を抱いております。
十二月に出された全世代型社会保障構築会議の報告書に、多様な主体による地域づくりの推進の必要性が明記されております。子育てもまた、行政始め、地域、企業、教育機関等連携で社会挙げて支えることが必要であることを申し上げまして、私からの意見陳述とさせていただきます。
ありがとうございました。
○委員長(末松信介君) ありがとうございました。
次に、本田公述人にお願いいたします。本田公述人、どうぞ。
○公述人(本田由紀君) 東京大学の本田由紀と申します。本日は意見を述べる機会を与えていただき、ありがとうございます。
今日は、私が専門とする教育社会学の立場から、主に日本の教育の問題点とその是正の方策についてお話ししたいと思います。お手元の資料で、四ページまでが意見となっておりまして、五ページ以降に図表や参考資料をまとめておりますので、適宜御参照ください。
今日、私が主張したいことは、最初の枠のところにまとめてあります三点です。第一に正規教員の増員と少人数学級化によるきめ細かい公教育の実現、第二に高校、大学の入学者選考等の変革による学校歴社会から学習歴社会への転換、第三に子育てと子供の教育に関する保護者の経済的、精神的な負担や責任の軽減という、この三点が是非必要であると私は考えております。
これらの三つの主張は、教育をめぐって子供や若者、保護者が置かれている慢性的、構造的な問題状況の是正が今こそ必要であるという考えの下から申し上げたものです。そして、この一から三に取り組むことが結果的に少子化対策になると考えております。そしてまた、この中で一と三については、教育に対する国家支出の思い切った増大を必要とする事柄です。言い換えれば、これまで教育に対する国家支出を抑制したことが、教育の問題状況や少子化、ひいては経済社会全体の停滞の原因となっていると私は考えております。
これが主な主張になりますけれども、以下では、これらの主張がどういう現象として現れているのかというところを第一節で述べ、第二節でそれがどういうダメージを社会全体に生んでいるかについて述べ、第三節にはなぜこのような問題状況が生じているのかということについて、順番に述べてまいりたいと思います。
まず、第一節、日本の教育の問題状況ですけれども、四点挙げております、AからDまで。
まず、Aとしましては、日本の児童生徒は、非常に学習意欲が低く、また選抜や試験に対する不安が強く、そしてまた学習の意義、学んでいる内容そのものへの意義や面白さ、楽しさといったようなことについての認識が国際比較で見ても極めて低いということは、これは繰り返し検証されております。
また、第二点目のBにつきましては、これも現在様々に報道されておりますけれども、不登校や子供の自殺が急増するような状態にあります。つまり、学校教育に対する子供たちの悲鳴のような不適応というものが、こうした不登校や自殺という形ではっきりと現れるようになっていると。
三点目のCは、これも御存じと思いますけれども、日本の教員の長時間労働、過重労働は世界最悪です。今やその結果、なり手の不足にさえ直面しているということです。
第四点目のDについては、日本における教育費の高さということですけれども、高等教育の学費が高いことはもちろんなんですけれども、もう一つ重要なのは、学校外教育に掛ける各家庭のお金が毎年増えてきている、それが非常に圧迫となっているということが重要です。そしてまた、子供の教育にどれほどのお金を支出することができるのかということに関しては、当然ですけれども、家庭の経済状況に応じて大きな差があります。それが子供の学力に反映し、ひいては教育歴に反映しといったような、格差が教育を通じて再生産されていくような構造が日本の中にははっきりと認められます。これらは現象形態としての問題状況です。
次の第二節は、こうした問題状況が、単に教育問題ということに限られず、社会や経済全体に及ぶ甚大なダメージを生んでいるということについて述べております。
まず、第二節の小文字のaにつきましては、こうした、学ぶんだけれども、それが児童生徒の中に学習することへの嫌気、拒否感のようなものを形成してしまっているということが、これは成人して、学校教育を離れて成人して仕事に就いたりしてからの人材育成であったり、あるいは学び直しが日本では非常に機能不全状態にあるということにつながっています。
これもデータで確認されておりますけれども、国際比較で見ると、日本の社会人の方々は学んでいないという状況が世界で物すごく、著しく低いわけですね、ということが確認されております。現在のように技術の進展が著しい社会においては、こういうスキルや知識をアップデートしていくということが機能していないということは、これが極めて経済的なダメージにつながっているということです。
ただ、学び直しにつきましては、例えば企業の雇用形態の在り方が、長時間労働であったりとか何ら結果を評価しないといったようなこともつながってきている問題ですけれども、その前段階として、人生の初期に経験する学校段階のことも重要であるというふうに考えております。
そして、弊害の二番目としての、小文字のbのところですけれども、こちらも繰り返し、繰り返し確認されておりますけれども、日本の子供、若者は、社会に対して、社会の中で積極的に振る舞っていこうとする意識が非常に低いということが確認されております。社会は変えていけるとか積極的な社会の担い手の一員として役割を果たしたいというような発想が非常に低いと。これは、私は子供や若者をバッシングしたくて言っているのではなく、社会やあるいは学校教育がこういう若者や子供の状況に追い込んでしまっているという、その本のところを是正しなければならないということを申し上げたくてこの小文字のbのところを指摘しております。
で、cですが、言うまでもありませんけれども、著しく進んでいる日本の少子化、そしてその原因として保護者の経済的な負担やあるいは子育てに関する不安というものが著しいわけです。言うまでもなく、少子化が進めばこの社会を維持していくだけの人口がこれから保っていけるのかということにも非常に不安が大きい状況になっております。
次に、では、なぜこのような状況になっているのかということについて、その原因について、三節のところで①、②、③とかが書いてあります。
まず、第一点目に指摘しておきたいのは、これは、これも繰り返し指摘されたことですけれども、日本においては、教員一人が担当する児童生徒数、言い換えれば一学級当たりのその児童生徒数ですね、学級規模とも言われますけれども、が極めて多いと。一学級に児童生徒がひしめくような状態というものがこれまでずっと続けられてきたということです。それは、言い換えれば教員数が少ないということの現れでもあります。こうした、一学級当たりに多くの生徒が詰め込まれ、一斉授業であったりとか教師が牽引するような授業の形態になってしまっており、児童生徒一人一人の個性や思考や感性に合ったきめ細かい教育ができていないということ、これもデータで確認されております。
このように、学校教育がある意味粗雑なものになっているからこそ、保護者たちは多額のお金を掛けて学校外教育で我が子だけは何とか補いたいという、そういう行為に駆り立てられるようになっているわけです。
そしてまた、日本の子供たちが学ぶことそのものの意味、意義ということを感じることができず、かつ試験や選抜の不安にさいなまれていることの背景には、日本の義務教育よりも上の段階、具体的には高校やあるいは大学における入学者選抜の脅威というものがあります。
図表の十六や十七にありますように、子供たちは、自分の学力がその試験をくぐり抜けることができるのかという、そういう不安の中で、選択というよりも選抜されるのかどうかという、そういう中で学業に取り組まなければならなくなっていると。
こうした事柄に関しては、大学に関しては高大接続などの形で検討されてきましたけれども、私は、より大きな問題は、高校入試の問題ということについて非常に検討が少な過ぎるというふうに考えております。
次に、第三点目なんですけれども、日本においては、子育てや子供の教育に関して、従来から歴史的に長く保護者に対して多大な責任が課せられてきましたけれども、それが今世紀に入って、様々な法令や条例などにおける文言として、もっと一層保護者が責任を果たせ、第一義的責任を担うのは保護者であるといったような文言が次々に含まれるようになってきています。
このような圧迫、子供に何かあったらそれは全て保護者の責任であると、教育上失敗しても何か社会的な不適応になってもそれは全て保護者の責任であるといったような、ある意味強迫的な状況の下に置かれているということが日本の保護者の取り巻かれている状況ですけれども、このような中で子供を産むことなど怖くてできないといったような状況がもたらされているという、これは非常に重大な問題であるというふうに考えております。
第四節では、これまで述べてきた事柄が非常に複雑な連関構造を取っているということを示しております。お互いに流れ込み合って、最終的には人材育成の機能不全や若者の消極性や少子化というものを生み出しているのだということを図示してあります。
そして、こうした日本における教育を中心とする、少子化も含めた大きな問題状況を打破といいますか、是正していくためには何が必要かということを第五節にまとめてあります。
もちろん、先ほど申し上げた、問題の根源が何かということは三節で申し上げたわけですけれども、この三点を何とかするというのがこうした負の連関構造の大本を絶つ上で必要になってきます。
まず、原因①、つまり教員当たり児童生徒数の多さに関しては、これは言うまでもなく、教員を増やし、少人数学級を実現するということが是非必要と考えております。
二〇二〇年に小学校だけが三十五人ということになって、学年進行で今実施されておりますけれども、中学校に関しては二〇二一年の骨太の方針で言及されておりますけれども、その後しいんとしておりまして、一切その改善ということが議論に上っていない。三十人というのは特に世界的に見て少人数学級ではないのですけれども、取りあえずは三十人を目標としてその実現に向かって進む必要があると。こうした充実によってこそ、学校外教育に多額なお金を掛けたり、あるいは不安にさいなまれたりしなくても、保護者が出産したり子育てをしたりできるということになります。
そしてまた、それは当然ながら教員の過重労働ということの是正にもつながります。
今、教員の過重労働の是正に関していわゆる給特法の改善ということが議論されておりますけれども、給特法というのは賃金に関わる法律ですが、その賃金の是正ということも必要なんですが、そもそもその教員の過重な業務ということを軽減するということが最大にして最も重要な要因であり、そこに着手する必要があるということです。
そのためには、教員を増員するためにはどのような方策が必要かということですけれども、今現在、学校現場では非正規教員が非常に増加しておりまして、非正規のなり手も減ってきているような状態にありますけれども、まずはこの非正規の方々を正規の教員になっていただくということがありますし、あるいは、過去の採用倍率が高かった時期に教職に就けなかった教員免許取得者の方々を、ここには氷河期の方々も含まれておりますけれども、そういう方々を積極的に採用していくこと、あるいは、教員免許を取って教育若しくは研究に対して従事する者も含みたいと思いますけれども、奨学金返還特別免除制度というのは廃止されてしまいましたけれども、これを復活されることなど、あらゆる手段を取って教員の増員ということを推進していく必要があると思っております。
教員の質の保証のためには、採用時だけではなくて、教員になった後の研修、研さんということも当然必要になりますけれども、今、日本の教員は多忙の余りに、これも国際比較で見て、こういった研修や研さんが十分にできていない状況にあります。であればこそ増員が必要であるというふうに考えております。同様のことは保育士や学童保育についても言えます。
米印のところはちょっと補足的な詳細の説明ですので、時間がありませんので、読んでいただければと思います。
次に、原因②についてですけれども、つまり高校入試あるいは大学入試の脅威ということなんですが、これに関しましては、一点刻みの相対競争の中で上から定員に満ちた人だけを入学させていくといったような現在の在り方に関するドラスチックな見直しが必要であると私は考えております。
ここ、これを実現するのはかなり遠い道のりが必要かと思いますけれども、目標としてはこの原因②についてというところに書いてあるようなことを構想しております。それは、義務教育修了程度、高校修了程度の習得水準をまず確認すると、確認した者には全て次の段階に関する進学を保証すると。個々の教育機関においては、定員未満の場合は入学者選考は実施せず、アドミッションポリシーと志望、経験の適合性により選抜するということで十分であるというふうに考えております。
また、高校以上の学校段階に関しては、複数の教育機関にわたる単位取得を緩和し、どこの学校に所属しているといったような、いわゆる学校歴社会においてはそこに執着するような状況がありますけれども、そうではなく、何を学んだかが重視される学習歴社会への転換が必要であるというふうに考えております。
続いて、原因の③につきましてですけれども、これも、保護者責任を強調する諸法令、条例を改正し、どのような家庭に生まれた子供も社会が確実な成長を保証するという理念を明確に打ち出すことが必要であるというふうに考えております。
日本では、自助が必要だとか家族責任が重要だという、いわゆる家族主義ということが非常に強調されがちですけれども、これが非常に弊害が多く、少子化につながっているという指摘は数々あります。そこから脱却するのだという方針をまずは明確に示していただきたい。それに加えて、具体的な施策として教育の無償化、これもなかなか大きな課題ではありますけれども、それに向けて一歩ずつ歩を進めていただきたいと、確実にですね、ということを考えております。
次に、第六のところでは、これまで申し上げ切れなかった事柄、多々、多々あるわけなんですけれども、日本の社会には問題が今山積みの状態にありまして、具体的に改善していかなければならない事柄は本当にたくさんあるんですけれども、その中で今日申し上げておきたいことを箇条書にまとめてあります。
ちょっともう時間が足りない状況になっておりますので、後のもし質疑などの際に言及していただければお答えいたしたいと思います。
以上です。
【略】
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。国民民主党・新緑風会の嘉田由紀子と申します。
大日向様には、ちょうど十年前、二〇一三年に、私が知事の現職のときに滋賀県の方に講演に来ていただきました。十年ぶりでございます。ありがとうございます。
それから、本田様には、私はずっとファンだったんです。もう若者と教育社会学の本はたくさん読ませていただきました。
ということで、本当に今日、お二人に中身のある大変重要な御提案いただきまして、大変うれしく思います。時間が十一分しかありませんので、前半を大日向様。私、先生って言われるのが苦手でして、さん呼びでいいですか。大日向さんでいいですか、本田さんも。自分が先生と言われるのが苦手なので、さん呼びにさせていただきますけれども。
大日向さんの、まさに日本の少子化の理念、哲学、大いに共感をいたします。それで、私は知事時代に、子育て、例えば保育は、保育に欠ける措置ではなく、福祉ではなく、誰もが必要な子育て支援ということで、知事時代に専業主婦でも使える保育クーポンを全部県費一〇〇%で、全国でも初めてだったと思います、進めました。そうしたら大変な抵抗がありまして、二つの抵抗が。一つは首長さんたちから、そんな予算出せない。それからもう一つは現場も抵抗があったんですけど。ただ、結果的には、地域の子育て力、まさに専業主婦の方が困っていたんです。虐待の加害、かなり多くが家にいるお母さんだったというようなところから、進めてまいりました。
それと併せて、女性の活躍で生涯就業力、これも大事ですね。それを分かち合いのリーダーと言っていただいている。実は私は、ちょっと古典的ですが、タルコット・パーソンズが手段的リーダー、強いリーダーですね、それに対して情緒的リーダーということで言ってきたんですけど、この分かち合いのリーダーっていいなと思いまして、これから使わせていただきたいと思います。
それで、二つ質問というか、教えていただきたいんですけど、実は私は、知事終わって、大学の、スポーツ大学の学長をさせていただきました。そのときに、大学のその将来計画、子供たち、生徒さんの将来計画が、就職どうするかばっかりで、就職の先、あなたの人生どうするのって、結婚は、子育てはということで、ほとんどこの部分が大学教育の中にないんですね。それで、大日向さんがやっていらっしゃるまさに生涯就業力を女子学生に付けるというのは大変重要だなと思います。
でも、実は学長・理事長会議に数百人いるんですけど、そこでライフプランを大学でやりましょうと言ったんですけど、何というんでしょうか、会場はしいんとして誰も共感してくれなかったんですね。そして、文部科学省にも提案したんですけど。私は、学長、教授として、男性も聞いてくださいと、男子、女子全員に、あなた、一生、結婚、子育てどうしますかと考えていただいて、それを戻すというのをやっていたんですけど、今後、文部科学省さんなどにその辺りの提案、男性も含めてライフプラン作れるような教育が大学で必要ではないかと思うんですけど、それを一点、お願いします。
それからもう一点は、一人母親、あるいは、どちらかというと、離婚の後、日本は単独親権ですから、子供さんとお母さんが孤立するんですね。それを私は現場で見てきたので、やはり単独親権を、まあ海外ほとんど共同親権ですけど、共同養育計画を作り、共同親権にしましょうとずっと法務委員会で提案しているんですけど、なかなかこれが進まないんですね。DVから逃げられない、あるいは虐待から逃げられない、単独親権を維持してほしいというのが一人親の女性から多いんです、声が。
この辺りのところで、この三組に一組が離婚するような今の時代、どうやったら孤立する母親、あるいは貧困や虐待に苦しむ子供たち救えるのかということで、共同親権というのは現場で取り入れると大きな問題があるかどうか、その辺り、済みません、二点御質問させていただきたいんですけど、よろしくお願いします。
○公述人(大日向雅美君) 十年の時を経てお目にかからせていただきまして、ありがとうございます。
まず、一点目でございますけれども、保育に欠けるという言葉、当時欠如の欠けるだったと思いますが、嘉田さんがなさったことはまさに保育に意気込みを掛けることと、そういうふうに私も応援させていただいてまいりました。
そういうことを社会全体でコンセンサスとして得るために教育はどうあるべきか、とりわけ大学教育はどうあるべきかという御質問だったと思いますが、そこは私は一般教育の在り方を見直すことが必要だと思います。私の時代は一般教育というのはありましたが、最近はなくなってきた。一般教育に代わるものとして、共生社会を生きるということはどういうことかと、社会保障とはどういうことかと、男女共同参画とはどういうことかということを男女問わずしっかりと若いときに学問としても学ぶ、そういう機会を私は必要だと思いますし、そういう方向に向けて動き出すことも考えているところでございます。
もう一点は、親権の問題でございます。
これ、本当に難しゅうございますね、単独親権がいいのか、共同親権がいいのかと。私も、それほど多くはありませんが、離婚に至ったときの親権問題、相談にあずかったことがございます。実に多様です。DVから逃げるためには単独親権が必要な御家庭もあります。一方で、今までの母性優先の原理だけでは、本当はお父さんだって親権欲しいという、そういうときに共同親権が必要な場合もあるかなと経験いたしました。
問題は、それぞれの事情に応じて丹念に自治体あるいは地域が耳を傾けることです。私も、一回、二回のヒアリングでは到底どちらがいいかという結論が出せない事例が多うございました。そういうことに関して、回を重ねてきちっと当事者の話を聞き、子供をいかに守るか、そういう仕組みです。そして、児童相談所、家庭、子ども家庭支援センターと連携して、私たち市民が何ができるか、そういう方々を一人として取り残さない、それは子供を守るためでございます。そのための地域挙げての仕組みとマインドづくりについて今日お話をさせていただいたところでございますが、それに関連した御質問をいただきましてありがとうございました。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。丁寧な、また現場からのお声聞かせていただきました。この後また法務委員会などで議論重ねさせていただきたいと思います。
本田さんの方には二件お願いしたいんですが、一件はまさに予算ですね。
私も、四十人学級に直面をして、実は知事選挙に出るときに、公共事業はもちろん必要ですけど、公共事業を節約してでも子育て、教育にお金を入れましょうということで、かなり批判もいただきながら、ダムを止めたり駅を止めたりしながら、その予算を少人数学級の方に回したんです。それで、二〇〇六年のときには四十人を三十五人に、そして三十人にということでやり始めたんですが、結局、二期八年掛かって三十五人までしかできませんでした。予算不足です。
三分の二が自治体です、今、御存じのように。三分の一が国です。これも、二〇〇五年の知事会以降、自治体が半分になってしまったんですけど、自治体が三分の二になったんですけど、それまでは国が半分持っていたんですね。
そうすると、毎年ですから、教員の、一般財源をきちんと充てないといけないので、一回限りで例えば今年は四十人を三十五人に一学年ずつ、一学年変えるのに、滋賀県は大体一万二千人の教員がいるんですけれども、二十億くらい掛かる。そうするとといって、本当に予算がないんですね。
このことを考えると、まさに京大の柴田先生が、二・一兆円あったら高等教育どうにかなるんだということで、予算の確保についてですね。あるいは今、今日、本田さん出されたのは三千六百億円で三十五人学級実現ですよね、それから三十人ということで。ここは何としても与野党協力して、先生の数が増やせるように、これが一番原点だろうと思います。
それからもう一点は、私、七三年、アメリカへ留学したときに、教室がスタディータイプじゃないんですよね。空間が既に小グループでディベート方式、七三年です。これでは、日本はいつまでたっても教えてもらうスタディー方式。この空間の配置だけでも、学校、基本的には小グループで、スタディー方式やめましょうというようなことの提案ができないかなと、二点目はそれでございます。
予算の問題と空間配置の問題、教えていただけますか。
○公述人(本田由紀君) 重要な御質問ありがとうございます。
予算については、これは決断して割いていただくということしかないと思っています。
御指摘いただいたとおり、義務教育費国庫負担金が三分の一ということに減らされてしまったということも日本の教育に対しては大きなダメージになりました。そういうことをずんずんやってきてしまったわけです。それを元に戻していただくものは元に戻し、きちんと保障していただきたいということです。
資料にも書きましたけれども、防衛予算などに関しては物すごい額が今年増やされております。ということは、予算の余裕はあるということです。これは決断の問題です。ですから、今、日本の国民全体に対して、この苦しみの根源になっているような教育の在り方に回していただくという選択をしていただければ済むことと思っております。
教室空間の話なんですけれども、そういったようなグループを含むような学習を可能にするためにもやはり少人数は必要だと思います。ただし、今のひしめくような学級の中でも班別の活動みたいなことはそれなりに行われてはいますので、グループ活動のために少人数化が必要というよりも、もう少し丹念な指導のために必要というふうに主張したいと思います。
以上です。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。大変勉強になりました。
この後また、私ども立法府の責任として、子育てしやすい、また何よりも日本の子供が自己肯定感を持って国際的にも活躍できる場にしていけたらと思います。
ありがとうございました。