連休初日の29日は滋賀県内のメーデーに参加をし、翌日4月30日から5月1日、一泊二日で、長崎県の川棚町に計画されている石木ダム建設予定地の「こうばる(川原)地区」を訪問してきました。というのも「こうばる」に住まいするイラストレータの「こうばるほずみ」さんから、「わが家の田んぼの水路が破壊され、今年の米づくりができない」というニュースがはいってきたからです。ほずみさんの田んぼのお米を私は食しています。現場で何がおきているのか知りたくて、また地元で1500日以上も座り込みを続けている地元の皆さんへの応援をこめて「こうばる」に伺いました。その報告をさせていただきます。大変長いです(2600文字)。5月2日。
そもそもこの石木ダムの日本全国でのダム建設政策上の位置づけですが、4月6日に参議院の国土交通委員会で国土交通省に確認しました。50年以上前に計画されながら、具体的にダムの盛り立て工事(本体工事)にはいっていないダムはいくつあるか尋ねました。水資源・国土保全局の答弁では、熊本県、球磨川水系の川辺川ダムだけということです。この石木ダムも今から51年前の1972年に計画されたが、2021年には本体工事に着手しているという説明になっているようです。また人が現に居住している家屋などを強制収用して建設したダムは、これまで日本には例がないという答弁も4月6日の参議院の国土交通委員会でいただきました。憲法で保障されている「基本的人権」を無視してまでもつくる必要性が高いダムなのでしょうか。ふるさとから追われようとしている「こうばる地区」に住み続けている住民の皆さんの最大の疑問です。
現場は、ダム本体工事にはいっているとは見えません。確かに水没予定住宅の65世帯のうち52世帯は移転していますが、まだ13世帯50名は、先祖伝来の住宅に住み続け、田畑を耕し続け、ホタルや生物が豊かな里山「ほたるの里」を守りながら、日々の暮らしを営んでいます。5月1日の「こうばる」の情景をお届けします。こいのぼりがさわやかに風になびき、水路が維持されている一部の水田では水がはいりはじめています。石木川の流れは爽やかで、江戸時代末期シーボルトがオランダに持ち帰った貴重な淡水魚が今も、石木川にはたくさん生息しています。ほずみちゃんのイラストも紹介します。
石木ダムは今から51年前の1972年に「利水・治水の多目的ダム」として予備調査が始まりました。川棚町の隣の佐世保市の水道用水が不足するという理由で利水が計画され、地元の川棚川の治水目的も追加され、多目的ダムになりました。しかし高度経済成長の流れの中で計画されていた工場誘致もされず、人口も減少し、佐世保市の水道需要は当時、日14万トンと言われていたのが今は実質日7万トンまで減っています。今、佐世保市は人口も急減し、また節水機器なども普及し、今後水需要が増える見通しはないと普通には考えられますが、佐世保市は、架空のような水需要増大予測を出して、石木ダムの必要性を主張しています。
治水については、川棚川が暴れ川で、平成2年には川棚町が浸水し、また昭和23年には11名もの死者が出たので、100年に一度の豪雨に対応できる治水事業が必要と長崎県は言っています。しかし、ここ数年、川棚川とその上流の波佐見川を歩き、昔の水害被害の聞き取り調査経験からいえば、平成2年の浸水では確かに床上浸水はありましたが死者はでていません。また浸水原因は、川棚川本流からというより流れ込む支流や下水が流れきらない「内水氾濫」の影響が大きいです。また昭和23年の11名の死者は土砂崩れと、石木川が川棚川に合流するより上流の戦中戦後に応急につくられた居住地でした。また2021年8月に100年確率に相当するという豪雨がありましたが、川棚川は氾濫しませんでした。「川棚川は暴れ川ではありません。先人が江戸時代からまさに流域治水を実践してきた、比較的おとなしい川です」と、河川環境の専門家として、このことを波戸勇則新町長にも5月1日に訪問をしてお伝えしました。
長崎県が、石木ダムは利水・治水上必要ということで、2013年には事業認定がなされ、しかもそこに居住する住民の住宅建物や宅地、農地を強制収用して、2019年には、すべて国の所有となり、すべての事業用地の明け渡しをするようにと通告され、それに従わない場合には長崎県知事により強制的な「行政代執行」もできる状態になっています。今回の水田水路の破壊は、強制収用中の土地で、ダム工事をすすめるため、と問答無用で、水路を破壊して、道路がつくられはじめています。石木川沿いの江戸時代からあるというお墓も土砂で埋められかけています。
また2023年4月24日、衆議院の決算委員会で、長崎県選出の山田勝彦議員が、次の二点を国土交通大臣に問いただしました。一点目は、私有地を強制収用して、公共用と言いダム建設をすすめている石木ダム地域での行政代執行についての向き合い方です。斎藤国土交通大臣は「慎重に」と言っていましたが、水田への突然の土砂持ち込みはとうてい「慎重」とはいえません。二点目は予算の問題です。治水予算の総額が285憶円とされ、令和4年ですでに7割以上の203憶円が支出されていると山田議員は指摘しました。
現場では付け替え道路が一部はじまっているだけであと残り3割の予算でとうていダムは完成しないでしょう。改めて国から専門家を派遣して今後どれほどの予算が必要になるのか、議論をするべきと申し入れましたが、斎藤大臣からの回答は得られませんでした。治水の半分は長崎県民、半分は国民の税金です。追加予算の見通しもないまま、工事を強行することは長崎県民だけでなく、国民にも説明するべきでしょう。「小さく産んで大きく育てる」という納税者をだましうちする予算措置は、「財政民主主義」の原則からみても納得できません。今後も国会で私たちは議論を続けていきますが、長崎県議会でも議論をすすめていただきたいです。5月1日から長崎県も新県議会議員が誕生しました。大村市選出の牧山大和さんは4月30日に、「こうばる」にも足をはこんで挨拶にきてくれました。頼もしい若手議員さんです。