Facebook 2018年3月26日

琵琶湖源流の「巨木と水源の郷をまもる会」の発表会が高島市朽木「丸八百貨店」で開催。今年で7回目。今回は「針江生水の郷委員会」の役員で、有機農業実践家で「針江のんきふぁーむ」創設者の石津文雄さんの、人生をかけた、熱と心のこもった講演を聞かせていただきました。3月25日。(また長いです)。

2010年の夏、私の知事二期目が始まった直後でした。高島朽木村の樹齢300年~400年というトチノキ巨木が40本以上も伐採され、跡地が放置され大変だ、と当時の滋賀県自然環境保全課の職員(今城克啓)から報告がありました。理由は、香港などのマンション建設の内装材としてトチノキが注目され、その需要を見越して「銘木業者」が地元木材所有者からトチノキを買い取り伐採をしている、という。ただ、この伐採行為に歯止めをかける法令はありませんでした。

そこで、滋賀県としては、民有林であるので、樹木の所有者自らが、巨木を維持・保全する意思があるかどうか、確認をしてもらいました。2010年10月には、朽木村の伴さんなど地元の所有者、青木さんなど地元の保全研究者、また京都大学の河野さんなど全国の研究者が、トチノキ巨木の価値とその保全要望書を知事室にもってこられました。トチノキ巨木の価値は「水源保全」「山林崩壊回避」「植生保全」「トチモチなどの森林文化の維持」「エコツーリズムの拠点」など多面的なものです。

ちょうど次年度の予算準備をしていたので、2011年の当初予算に、「巨樹・巨木の森整備事業」を創設し、「巨木の計測・保全看板の設置・歩道整備・巨木巡視・保全活動」などを盛り込んだ活動とし、高島市を通して、地元の活動団体に呼び掛けて、それ以来、今日まで「巨木と水源の郷をまもる会」が、具体的な保全活動を進めてくれています。現在、高島市だけでなく、長浜市の高時川源流部や杉野川源流部にもこの活動は継続・展開しています。

今日はその7回目の活動報告会です。今回は、上流の森林保全ゆえ守られている安曇川下流の湧水の村で有名となった「針江生水の郷」で有機農業をしている石津文雄さんのお話を伺いました。石津さんたちが上流を意識したのは湖岸にはえているオニグルミの木という。種子が上流から流れてきて湖岸に根付いたのだ。目に見える安曇川上流からのオニグルムが目に見えにくい湧水の水源を気付かせてくれたという。

その時に、上流の朽木では鹿の食害で、トチノキの幼木がなかなか育たないということを耳にして、石津さんは自分の水田でトチノキを育てて上流に返してやろう、ということで、上下流連携のトチノキの幼木育てに動きます。5年ほど前です。下流の針江と、上流の朽木の上下流連携が始まりました。

今日の石津さんの話は圧巻でした。そもそもなぜ石津さんが有機農業を始めたのか。昭和23年生まれの石津さん。ちょうど10代後半の青年団の時に、団活動の資金稼ぎのため当時ひろがっていた農薬空中散布の薬品準備作業をし、同時に若気の至りでお酒を飲んでしまったという。そこで大変な農薬中毒になり、3日3晩うなされ、命拾いをした。それ以来、どうにか農薬を減らす農業をしたいと思い続けてきた、という。

石津さんが水田に生き物を取り戻すために、水田に魚道をつくったり、冬にも田んぼに水をためて水生の生き物の生息が確保できる活動をしたり、多くの写真とともに紹介してくれました。今では貴重種となった「ナゴヤダルマガエル」「スジシマドジョウ」などが石津さんの無農薬水田で元気に育っていることを写真とともに紹介くださいました。

まるで博物館の学芸員のごとく、生き物の生態に詳しい石津さんのお話に、一同大変な感動をいただきました。生き物がまさに農業生産の現場と結び付き、それが結果として、食の安全につながっていく、という道筋が説得的でした。今、石津さんたちは大阪の生協に有機米を提供しているのですが、生協の方が、「農薬をたくさんあびるのは生産者だ」ということで、消費者以上に生産者の苦悩を受け止めてくれたことに感動をして、「針江のんきふぁーむ」を始めた、という。

今日は40名近くの参加者から大事な質問をいただきました。フナズシの素材であるニゴロブナの生態や、有機農業で農業経営をなりたたせる苦労、荒れてしまった水源地域を再生させていく方策などです。戦後の農薬依存、近代農業技術依存の農業の反省はようやく始まったところです。石津さんのような点としての活動が、巨木の森の活動に線としてつながり、それが面的に広がっていくにはどうしたらいいのか、問題を共有する場でもありました。

今日は朽木のトチノキの実拾い、水晒しによるあく抜きなど大変なご苦労をしていただき、まさに「お手間いり」のトチノキタルトを事務局の小松さん、河村さんたちのご努力でご馳走していただきました。独特のトチノミのニガミをシナモンアップルでくるんで、見事な味にしたてて下さいました。ごちそうさまでした。

 

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