20230215資源エネルギー・持続可能社会に関する調査会【確定稿】

○会長(宮沢洋一君) 原子力等エネルギー・資源、持続可能社会に関する調査を議題といたします。
本日は、「資源エネルギーの安定供給確保と持続可能社会の調和」のうち、「資源エネルギーと持続可能社会をめぐる情勢」に関し、「資源エネルギーの新たな局面と日本への影響」について三名の参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。
御出席いただいております参考人は、東京大学公共政策大学院教授・同大学副学長大橋弘君、一般財団法人日本エネルギー経済研究所常務理事山下ゆかり君及び龍谷大学政策学部教授大島堅一君でございます。
この際、参考人の皆様に一言御挨拶を申し上げます。
本日は、御多忙のところ御出席いただき、誠にありがとうございます。
皆様から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。

【略】

○参考人(大橋弘君) 先生方、こんにちは。東京大学公共政策大学院に所属しています大橋弘と申します。経済学を専門としております。
本日は、このような貴重な場をいただきましたので、資源エネルギーの新たな局面と我が国への影響について申し述べたいと思います。
我が国を取り巻く資源エネルギーにおいて、三つの相互に絡み合う環境変化があるものと思います。
一つは、地政学的なリスクの高まりです。
具体的には、二〇二一年秋頃から始まり、ロシアのウクライナ侵攻によって深刻化した輸入資源価格の高騰があります。
二つ目は、脱炭素化の加速化です。
我が国は、二〇五〇年に向けてカーボンニュートラル、すなわち温室効果ガスの人為的な発生による排出をネットでゼロに均衡させることを目的にしています。同時に、二〇三〇年には二〇一三年度比で四六%を超えるCO2削減を目指しており、この目標も相当にハードルが高いと受け止められているものと思います。
三つ目は、電力、ガスというエネルギーのシステム改革であります。
電力のシステム改革は、二〇二〇年に一旦の終了を見ております。この電力システム改革が終了して二年がたった今、システム改革の影響がさきの地政学的なリスクと脱炭素化の流れと相まって、我が国の国民経済に対して深く影響を及ぼし始めています。
本日は、資源エネルギーの調達に大きなインパクトを与えているエネルギーの自由化、特に、電力のシステム改革を起点として、国民に不可欠なエネルギーを取り巻く環境変化についてお話ができればと思います。
電力は三つのEのバランスによって成り立っていると言われます。三つのEとは、安定供給、経済性、そして環境適合性です。環境適合性は脱炭素とも呼ばれていると思います。電力政策では、この三つのEを頂点とする正三角形が望ましいとされています。
システム改革では、この三つのEの中でも経済性に強く比重を置いた自由化を目指してきました。結果として、正三角形の三つのEというよりは、経済性が主軸で、脱炭素と安定供給は中心からやや遠くにあったという点で、二等辺三角形に近い形になっていたというふうに思われます。
経済性の観点では、電力システム改革は何を目指していたかというと、端的には、卸電力取引市場、これはスポット市場とも呼ばれ、電力の実需給が行われる前日に取引が確定する短期市場ですけれども、この市場における流動性を高めるということを目的にしていたと言えます。それまでは、東京や関西といった各供給エリアの中で電力の実需給が完結していました。
そうした姿から、連系線での電力のやり取りを通じて全国大で効率的に発電設備を稼働させることで短期市場での価格を低廉化させることを目指してきました。短期市場での価格を基軸に据える政策を選択したと言えます。この点では、今も電力政策の根幹として堅持され続けているというふうに思います。
システム改革の取組後、二〇二〇年冬までは電力価格は高まることがありませんでした。東日本大震災という国民の記憶から決して消え去ることのない惨事の後、電力の供給力が必ずしも十分にない中でも短期市場の価格は低位に推移していました。
二〇一八年夏の北海道胆振東部地震の際には、エリア全域での停電があるなど、自然災害時での希頻度過酷事象に対する供給力確保に課題が指摘されました。しかし、年に二回行われている電力の需給検証では深刻な供給力不足が指摘されることはなく、安定供給は確保されてきたものと思います。つまり、電力システム改革は成功だったと二〇二〇年冬の時点までは評価されていたというふうに思います。
こうした中で、二〇二〇年度冬の断続的な寒波とLNGの不足によって数か月にわたる需給逼迫が生じ、市場価格が過去に例を見ない水準まで高騰しました。二〇二一年三月には、季節外れの寒波の到来と福島県沖地震による設備故障などの影響により、東日本全域での需給逼迫を回避できない状況となり、史上初の需給逼迫警報を発することになりました。そして現在、私たちは電力価格の大幅な高騰の真っただ中にいます。
成功したはずの電力システム改革がなぜ今、エネルギー危機に対応できていないのか、あるいは対応できていないように見えるのか、この点を理解するには、電力システム改革の成功がどのようにもたらされたのか、その原因に立ち返る必要があります。
二〇一六年、小売全面自由化によって七百社超の小売事業者が新たに参入しました。この新電力の数は、海外と比較しても、人口比で見て桁が二つぐらい多いほどの数字ではないかと思います。電力という現在の技術では貯蔵できず制御の難しい商品市場にこれだけの企業が新たに参入できた訳は、スポット市場における電力価格が安価だったことにあります。
市場価格が安価であった背景には、電力システム改革において大手電力に対して課した非対称規制の存在があります。その一つとして、電力市場への限界費用玉出しという自主的と称される取組があります。大手電力、すなわち旧一般電気事業者に対して、発電電力を燃料費相当、つまり限界的な発電費用で電力市場に供出することとし、価格に固定費用を乗せないこととして監視の対象としたということです。
また、二〇一七年からは一般送配電事業者に再生可能エネルギーの買取り義務が課せられ、太陽光パネルから発電された電気がほぼゼロ円で電力市場に投入され始めました。
こうした規制強化を通じて、卸電力取引市場では発電電力の三割以上が取引されるまでに流動性が高まりました。これまでのように相対契約を結ぶことで、供給力を事前に確保しなくとも短期市場で安価に電気が手に入るようになったのです。この結果、スポット市場で電気を調達して小売市場に転売する新電力の参入が七百社を超えるまで伸長したというふうに思われます。
自ら供給力を事前に確保せず、短期市場での調達に依存するビジネスモデルが広がることは、電力システムの観点で二つの問題をはらんでいました。
一つは固定費の問題です。スポット市場における限界費用の玉出しでは、発電時の燃料費を回収できても、固定費を回収することはできません。もっとも、こうした懸念に対応すべく、二〇二四年からは固定費を回収するための容量市場が開始されることになっています。
しかし、容量市場で落札できないと商業的に電力供給をすることができなくなってしまうことから、まずは電力供給ができる権利を獲得するためにゼロ円で入札する事業者が相当数いることが既に開催された容量市場の入札結果から分かっています。つまり、容量市場は必ずしも固定費回収が完全に行われる場にはなっていないものと推察されます。
また、脱炭素化の流れから、休止や廃止を決断する火力発電が後を絶たない状況となっています。さきの国会で休廃止火力の事前届出制が導入されましたが、供給力の状況を把握することにとどまり、休廃止を止めるまでには至っていません。
これが、スポット市場での取引が拡大することに伴う第一の問題です。
第二の問題は、燃料調達に対する影響です。
自由化前においては、我が国の燃料調達は資源国との長期相対契約が主でした。大手電力は、自らの供給エリアで必要とする燃料を安定的な価格で、五年や十年といった長い期間にわたって資源国から調達をしていました。
小売全面自由化が始まり、多くの新電力が燃料費相当で電力を市場調達し、しかし、大手電力は固定費を乗せた形で新電力と競争を行う中で、新電力は大手電力から多くの市場シェアを獲得するようになりました。事前に電力を相対契約で発電事業者と契約する相対契約の価格は、安定的ながらも市場価格よりも高い価格でしたので、たくさんの新電力は相対契約を嫌って市場調達に走ることになりました。
この傾向が決定的になったのは、二〇二〇年四月の石油先物価格がマイナスになるという史上かつてない事象がきっかけになりました。この事象はコロナ禍における特有のものだったと考えられますが、長期相対契約の販売量が見込めない中、我が国は資源国との長期相対契約を更新せず、順次終了することになったのです。
同時に、脱炭素化と再エネの後押しから石油や石炭火力に対する風当たりが強まり、代わって資源調達においてLNGへの傾斜が強まることになりました。石油や石炭といった備蓄ができる燃料を使う電源が休廃止するようになり、備蓄できないLNGに対して、しかし長期契約が細る中で、スポットでの高値での調達圧力が強まってしまったところに、我が国における燃料調達の脆弱性が露呈した形になったと思われます。
電力システム改革において、我が国は欧米、特に欧州から多くの経験を学んで制度設計をしてきました。しかし、安定供給の観点から我が国と欧米が大きく異なる点があり、その点についての認識を改めて確認する必要があります。
特に大きな違いは燃料調達にあります。欧米では天然ガスはパイプラインでの供給が一般的であるのに対して、我が国はLNGの形で調達せざるを得ないということです。パイプラインの調達であれば、短期市場での価格変化に対応して瞬時にガスを発電所に送ることができますが、LNGでは調達に二か月以上掛かることになります。我が国では、市場価格に対して燃料調達を機敏に反応させることが困難なのです。
つまり、電力システム改革以降、政策の基軸としてきたスポットという短期市場の価格では、安定供給を確保することが困難であることが明らかになってきているということだと思います。
全国大でのシステムの効率化という短期的な目標と燃料調達を踏まえた安定供給の達成という中長期的な目標は同じ政策ツールで達成できるものではなく、異なる目標に応じて異なるツールを使い分ける必要があるということだと思われます。
同様のことは脱炭素の取組についても言えます。脱炭素は、二〇二〇年で貫徹した電力システム改革では議論されておらず、買取り制度という電力システムの外側での制度化によって普及が促進されました。
固定価格買取り制度は、市場価格とは関係なく適正利潤の観点で買取り価格を決めるもので、一種の総括原価方式に近い方法です。短期の市場価格とは異なるこうした政策を取ったからこそ、当初の予想を覆すスピードで再エネ普及が進んだのだと思います。
もっとも、再エネの普及は、調整力という採算性が必ずしも高くない電源を必要とする事態を引き起こしており、電力システムに追加的な負担を生んでいます。再エネが主力電源化する中で、再エネを市場に統合する動きがありますが、再エネの予測誤差からくる電力システムへのコスト負担をどのように適正化するか、方策を考える必要があります。
脱炭素化の観点では、電力においては高度化法に基づく規制があり、また省エネ法がありと、それぞれの業法上の規制が我が国ではあります。しかし、それぞれの業法は各行政担当課の政策目的のために制定されたところがありますが、こうした縦割りの制度では、脱炭素化に向けた電源構成の大改革を進めることは困難であると思われます。
脱炭素化に向けて大きな方向性を見据えながらも、そこに至るまでの移行期、トランジッションをしっかり議論する必要があります。トランジッションをしっかり議論しないと民間投資は付いてこず、思わぬ形で国民負担が発生することになります。
例えば、我が国では、災害時における石油の重要性を認識しつつも、トランジッションにおける石油火力の位置付けを明確にしてこなかったのではないかと思っています。それがゆえに、脱炭素の議論の中で瞬く間に内航船を含めたサプライチェーンに融資が付かなくなり、石油を備蓄しているにもかかわらず、使える石油火力発電所が大きく減少する状況になっているのではないかと思います。
繰り返しになりますが、移行期の政策的な立ち位置をしっかりと国がコミットしないとトランジッションに必要な民間投資が進まず、よって社会的に求められる設備の維持ができません。安定供給上のリスクや資源価格の高騰に対して国民生活を守るための万全の備えをするためにも、トランジッションの議論を避けるべきではないと思います。
もっとも、再エネの導入を急いで進めることで、地政学的なリスクもなくなり、脱炭素化が進むという議論もあると思います。しかし、完全な再エネへの置き換えは現状すぐに達成できるものではありません。
今月に公表された広域系統マスタープランの検討結果によっても、必要投資額は現状分かる範囲で六兆から七兆円、直流送電線の建設も時間的な幅を見る必要があるとのことです。今後も様々な試算が出ると思いますが、完全な再エネの置き換えは相当な不確実性があると見て間違いないと思います。であれば、やはり需要家負担となる価格の高騰などといった万一の事態に対処するためにも、トランジッションにおける安定供給を考えるべきだろうと思います。
これまでの全国大でのシステムコスト最小化という短期的な視点は依然として重要です。しかしながら、我が国の燃料調達における現況や再エネ導入を含む脱炭素へのトランジッションを考えてみたときに、中長期的な観点での政策の判断軸を短期的な市場の仕組みに加えて入れていく必要があり、それが次なる改革に求められる点だと思います。
その点で、長期脱炭素オークションは期待ができます。しかし、この仕組みの問題は、電源間の競争を促すことによって本当に最適な電源配置ができるのか、誰も責任が取れない仕組みになっている点にあると思います。この仕組みの問題は固定価格買取り制度においても共通しており、我が国では、結果として小規模の太陽光に偏重する形での再エネ導入が進んだと指摘できると思います。
単純な市場原理だけで再エネがベストミックスで入るわけではなく、それと同様に、単純な市場原理だけで安定供給が保てるわけではありません。この点で、これまでの経済性に重きを置いた二等辺三角形の電力システムを正三角形に持っていくための中長期的な観点での政策判断が必要だというふうに思います。
新たに中長期的な政策判断を政府で行うに当たって、幾つか留意すべき事項があると思います。政策議論を進める過程でのガバナンスの問題です。
東日本大震災後、電力システム改革では、経済産業省の外局になる資源エネルギー庁で議論が行われ、経済性の観点から大きな絵が描かれました。そこで出された結論である価格シグナルに基づいて電力システムを形成するという大きな方向性の下に、行政内の様々な場で制度設計が進むことになりました。今では、資源エネルギー庁、電力・ガス監視等委員会、電力広域的運営推進機関などにおいて複層的に審議会や研究会が開催され、それぞれの制度設計の議論が複雑に重なり合っています。
様々な会議体が乱立するメリットは多数で多様な意見を吸い上げることにあると思いますが、しかし、互いに分権的に議論された結果がどのように我が国の電力システムに統合されるのか、誰も制度設計に責任を持てなくなっているのが実情ではないかと思います。市場メカニズムをうまく使うためにも、電力システムにおける政策立案のガバナンスが求められると思います。現在、複数の機関や部局に散らばっている、散らばって議論されている場を統廃合し、互いの整合性を確認する場が必要です。これは、事業を行う、あるいは行おうとしている民間事業者が痛切に感じていることだと思います。
今回、脱炭素の観点では、GX実行会議という場が設けられ、司令塔の役割を果たしました。これまで資源エネルギー庁内の三つの部局に分散し、また、経済産業省だけでなく環境省や農林水産省など各省に散らばっていた脱炭素に係る取組を包括的にまとめることができたものであり、今後、温暖化対策や関税交渉など国際的な交渉を行う上でも大いに評価ができる取組の端緒を築いたものではないかと思います。
次は、このGXでの取組を安定供給の観点から行うべきときが来たと思います。安定供給とはいえ、ここには脱炭素における移行、トランジッションの議論が入ってくることになりますので、必ずしも安定供給が脱炭素と切り離されて議論されるわけではありません。また、これまでシステム改革が取り組んできた短期市場価格による経済性の達成という視点も引き続き重要ではあります。
しかし、短期の市場価格に政策の基軸を据えたこれまでのシステム改革の議論が制度設計における責任主体の曖昧さを生んでいること、さらに、我が国における燃料調達の特殊性に照らしたときに、トランジッションにおける安定供給の観点から、設備産業としての安定的な事業運営が困難になる事態が生じていること、こうした点はしっかり踏まえるべきだと思います。
必要なのは、短期市場価格から切り離した中長期的な観点で政策判断を行う場であり、多数に分散し過ぎた制度設計の議論を統括する司令塔だと思います。脱炭素に向けて、移行期における安定供給をしっかり守るために、そしてその恩恵が価格の安定という形で消費者に行き渡るようにするために、今まさに取り組むべき課題だと考えます。
以上で意見陳述の方を終了させていただきます。御清聴、誠にありがとうございました。
○会長(宮沢洋一君) ありがとうございました。
次に、山下参考人にお願いいたします。山下参考人。
○参考人(山下ゆかり君) 御指名ありがとうございます。日本エネルギー経済研究所の山下ゆかりと申します。(資料映写)
私の方からは、より俯瞰的な視点から三つのE、先ほど大橋参考人からも御紹介がありました三つのEの細かいところを御説明しながら、今後の日本のエネルギー政策を考えていただく視座を提供したいと思っております。よろしくお願いいたします。
本日は、国内外のエネルギー・環境分野の情勢の変化を踏まえた上で三つのEについてお話を進めさせていただきますが、まず最初に申し上げておきたいのが、二〇二一年末ぐらいまでの、パリ協定以来、パリCOP会議以後ですね、欧州を中心に、実は環境問題に非常に集中した考え方、あるいは議論の進め方、あるいは企業の事業の進め方といったものが認められました。その中には、御記憶にあるかと思いますが、COP26で行われましたグラスゴー会議では、実際にCCS設備のない石炭火力の廃止の連盟をつくるといったような具体的な動きもありました。
では、実際に世界の国々がCOPに向けて提出した各国の約束というのはどの程度だったかというのを示したのがこちらのIPCCの図になります。左側に示してありますが、二〇三〇年までの薄い水色の矢印というのは傾きがやや少ない、小さいです。ここまでがNDCと言われます各国から提出された二〇三〇年に向けたGHG排出削減の約束を積み上げたものなんですが、この量は非常に僅かでありまして、下、緑色の幅で示しました二度目標に向けて必要な削減、あるいは水色で示してあります一・五度目標に向けて必要な削減に比べますと、まだまだ上の方にあります。
したがいまして、仮に二〇五〇年近辺でカーボンニュートラリティーを達成するという大きな目標、あるいは二度目標、一・五度目標を達成するためには、右側の上に書いてあります青い矢印のように、急激に、加速度的に削減を進めなければいけないといった程度の約束が今各国からなされているわけです。
IPCCから出されました第六次報告書によりますと、今後、いろいろな機会を捉えて技術革新を進めて目標の達成に向かう、これはビジネスチャンスでもあり機会であるという前向きな論調で記述されておりますが、一方で、意思決定をするに当たって優れた政策デザインがあれば制御が可能であると言いつつも、まだまだ整合性のある統合的な政策群として各国の政策がデザインされていることはまれであって、ばらばらに策定されている政策をどうやってまとめ上げていくことが必要かという疑問を呈しています。これは、今、大橋参考人がおっしゃられた、日本の政策においても整合性、統一性が必要であるということにつながるかと思います。
既に大橋参考人からもお話がございましたが、新しい新電力の皆様は電源を持っていたとしても再エネ電源が多うございます。左側が全ての電気発電事業者、発電実績のある事業者の持つ電源の推移ですけれども、火力の伸びが緩やかであるのに対して、再エネ電源は非常に勢いよく入ってきております。
一方で、旧来から火力発電所を維持してきた元一般電気事業者を中心に、火力発電所のリタイアが続いております。
そのため、先ほども言及がございました電力需給の逼迫という事態が日本においても観測されておりまして、これは今年の冬の予備率をどのように高めてきたかということを六月推計、九月推計、それから容量の公募、キロワット公募をした上でどうなったかという推移を示したものでございます。日本においてだけでなく、実は世界各国で電力の逼迫というのがあったんですが、それは後ほど御説明させていただきます。
これからこの図をメインに御説明いたしますので、少しお付き合いをいただいて、色分けについて御理解いただければと思います。
大橋参考人からも御紹介ありましたように、日本のエネルギー政策はSプラス3Eを考えの基本としています。経済性、環境適合性、それからエネルギー安全保障、この三つのEのうち、先ほど申しましたように、ここ数年は環境に優先度を与えていたのがパリCOP会議以降の世界の潮流かと思います。
そこで、エネルギーミックス、すなわち代表的な発電技術に絞って、環境を含む三つのE、これについて簡単な評価を試みました。なお、ガスと石炭の火力発電に全てCCSを付けておりますけれども、二〇五〇年頃までに全ての設備に入っているというよりは、一部の設備に入っているイメージでございます。
図を遠目から見ますと、上から、上半分は評価が比較的良いグリーンの色目、下半分は評価が比較的悪い赤や茶色の色目が増えていることが分かります。
様々な技術がありますが、代表的な発電方法として、上から、再生可能エネルギーと水素や揚水発電を含むエネルギー貯蔵技術、既存及び新増設の原子力技術で、この二つの技術では全ての要素でグリーンの評価であることが見て取れます。さらに、下の方にガス火力、それから石炭火力が続きますが、この部分で赤や茶色が上半分より多くなっているということが見られるかと思います。
次に、左から右に三つのEについて個別に見てまいります。
左端の経済性につきましては、上半分の再生可能エネルギーや、あるいは真ん中の原子力で、プラス面としてはいわゆるグリーン雇用の創出あるいは企業の裾野産業の広さに期待がされます。他方、マイナス面としましては、蓄電池等としてあるバッテリーや水素につきましてはクリティカルミネラルや水素の輸入によるコストの増加、新増設の原子力についてはコスト面の負担の大きさが想像されます。下半分の火力発電は、全てが輸入されまして、輸入コストが掛かるために経済性の評価が赤と低くなっております。
真ん中の二列は環境性になります。
上半分の再生可能エネルギーは、左のCO2排出の少なさで高い評価ですけれども、右側の地域の環境問題では、いわゆるNIMBY問題、太陽光あるいは風力における騒音や地元の反対問題、漁業問題などがあります。また、原子力には放射能の受容レベルへの認識が広く共有されていないなど課題があるため、一部濃いグリーンの低めの評価になっています。下半分の火力発電は、技術によって色に違いがあります。ガス火力も石炭火力も、先端技術ではCO2排出量が減少して評価が高まります。硫黄酸化物ですとか窒素酸化物などの大気汚染物質については対応が進んだため、おおむねグリーンの評価です。
右二列が、今回もきっかけになっておりますエネルギー安全保障の評価です。
左側の安定供給については、国産エネルギーの再生可能エネルギーはグリーン、ガスと石炭は、石油ほどの資源の偏在性がないため、供給源の多様性に応じたグリーンの濃淡になっています。右端の国産エネルギーについては、再生可能エネルギーや特にエネルギー貯蔵ではクリティカルミネラルの課題、あるいは揚水ではポテンシャル制約があるため一部評価が低くなりますが、下半分の火力については全て輸入のため赤色になります。
まず、ここで取り上げている発電技術、これについて、それぞれの特性によって一旦どんなようなものがあるかというのを示したいと思います。
下から、固定電源、それから風力発電、バイオマス発電、そして変動性のある太陽光発電との親和性のある火力発電ということで、これらの技術を表にまとめてあります。
カーボンニュートラルを達成するために、世界の多くの国はどの国もここに示したイメージにあるような段取りで取組を考えています。まず第一に、必要なエネルギー量を可能な限り抑える、省エネルギーの最大限の活用、次に、最大限の電化で多くの経済社会活動を電力で賄うようにシフト、さらに、発電技術の脱炭素化、クリーン化、そして最後に、残る化石燃料の利用について、CCSやCCUSによる可能な限りの脱炭素化、それでも大気中に排出されてしまうCO2についてはDACCSやBECCSなどの除去技術でカーボンニュートラルを目指すということです。
次に、経済性について、もう一度図で示したいと思います。
経済性については、先ほども申しました、いわゆるグリーンジョブと称される雇用創出効果が期待されます。これは、再生可能エネルギーあるいは原子力でも産業の裾野が広いために新増設による雇用創出の効果が期待されます。他方、昨今のようなガス価格の国際的な高騰は、輸入エネルギーに依存する日本ではコスト上昇要因になりますので、下半分に示してあるような国富の流出という問題が気になります。
真ん中の環境については、CO2などの気候変動問題とSOx、NOxなどの大気汚染関連に分けてあります。右上の図は北九州市の一九六〇年代の図だそうでございますが、その当時は大気汚染や公害問題への対応が大きな課題でした。現代では、課題の中心はCO2排出量の抑制であり、火力発電で脱炭素化をすることは急務です。そのために必要なCCSは、現時点ではまだ技術開発あるいは法制度の設定途中であり、このため、ここではCCSは一部の設備に導入されている想定をしています。CCSの付いていない火力発電からのCO2発生量は右下の図のとおりです。
エネルギー安全保障につきましては、日常生活や経済産業活動に必要なエネルギー供給を適正価格で確保するという定義がございます。日本では、エネルギーのほとんどを輸入に依存しているため、二度の石油危機以降は、LNGや原子力の利用を拡大したほか、輸入石炭の活用も進めて、利用するエネルギーと輸入元の国の両方の多様化を図りました。原油についても輸入元の多様化を図っていますが、中東への依存度は時代とともにまた戻りつつありまして、二〇二一年度の統計では九二%になっています。
今回、問題になりましたウクライナ侵攻、ロシアのウクライナ侵攻で問題になりましたのは、欧州のロシアへのエネルギーの依存度の高さです。この表の右、ごめんなさい、右下二つ、ドイツとイタリアでは特に多くのエネルギー源で、天然ガスに限らず多くのエネルギー源で依存度が高かったことが影響をしています。
もう一つ、実はウクライナ侵攻の前に、先ほど大橋参考人からも言及がありました、電力の需給逼迫が非常に様々な国々で起きておりました。
先ほど言及がありました日本では二一年の一月に寒波、それから欧州では、七月から九月にかけて、英国、スペイン、ドイツで風力が足りないという現象からスポット市場で天然ガスを調達する動きがあり、そこで欧州の天然ガス価格が上がり、さらにアジアにもそれが及んでしまったという、ウクライナ侵攻前の天然ガスの事情があります。
もう一つ、右の方で、テキサス州、こちらは風力も主力電源として活用している州でありますけれども、ここでは非常に強い寒波が来たために、風力がない中、天然ガスのパイプラインが凍ってしまうといったことがあって、大規模な停電の、輪番停電ですね、輪番停電が起きました。
で、今申し上げたようなことが影響しましたのがこちらの図、十四枚目の資料で点線で囲みました青いところですけれども、アジア市場でのスポットガス価格の高騰、それから欧州市場での夏と冬、二回にかけて起きていたスポット価格の高騰です。これに加えて、ウクライナ侵攻が起きまして右端のような高騰が起き、世界中に天然ガスの不足感も加わって、エネルギーの安全保障への警戒感が高まったわけです。
再エネルギーにつきまして、実はここの右側に示してありますのが平地面積当たりの太陽光設備の容量でございます。日本はドイツとほぼ同じ国土面積を持っていますが、平地面積はドイツの半分しかありません。しかし、それにもかかわらず、太陽光の設備容量はドイツよりも二五%ほど多い設備容量を設置しており、発電量でも四割増しでございます。過去十年間の導入速度、太陽光につきましては世界一ということで、最近では建設用地の限界に近づいております。
もう一つ、風力につきましては、右下にありますように気候的にも限界があり、欧州のようなすばらしい風がなかなか吹かないというのがアジアの状況でございます。
次に、電化を進める場合あるいは再エネ電力を導入する場合に昨今問題になっておりますのが、十六枚目に示してあるようなクリティカルマテリアルの偏在性と需給の逼迫になります。
蓄電池で必要なコバルト、それから風力でよく使われますネオジム、ジスプロシウム、そしてさらに蓄電池で使われるバナジウムにつきましては、二〇二〇年半ば、二〇三〇年半ばに供給が不足、需要に足りないというような推計結果も私どもの試算で出しております。また、究極的に、全て今確認されている埋蔵量とリサイクルで供給できる、追加的に供給できる量を含めましても、コバルトにつきましては足りないのではないかという危機感がございます。
一方、そういったクリティカルミネラルにつきましても、中国は着々とその処理能力、精製能力をこれまで蓄積をしておりましたので、右側の図にありますように、世界全体でのクリティカルミネラルの処理能力では非常に多くの鉱物において中国が相当量占めているということが確認できるかと思います。
原子力につきましては、御案内のとおり、利用期間の延長、既に、今朝の報道も、昨日の報道もございましたが、あるいは新増設が必要ということでGX会議から示されております。これは、六十年運転を仮に想定したとしても、二〇五〇年を越えた時期でのクリーンな電源として期待される原子力の容量が極端に減ってしまう、この右側の図からも想像ができることですけれども、再生可能エネルギーのパートナーとして原子力を使うという選択があるのではないかと思います。
カーボンニュートラルと原子力の利用動向ということで、世界では実際にこれまで原子力からの脱却を述べていた韓国が利用に向くなど、多くの国で原子力の利用を再考する動きがあります。フランスでは、マクロン大統領が六基の新設、さらに様子を見て八基の新設といった発表もされております。
二十枚目、ここから先は、ここまで述べてきた3Eの議論の中で、特に赤い色が多かった化石燃料をどうやって脱炭素化するか、あるいは、ここまで電力部門について述べてまいりましたが、今後課題が残る非電力部門の脱炭素化をどうやって進めるかといったときに、水素、ブルー水素、グリーン水素とこの二つがありますが、日本にとっては輸入されてくればどちらもクリーンな水素、カーボンフリーな水素になりますので、この水素への期待について少し述べて終わりにしたいと思います。
右側、こちらは私どもで毎年作っておりますエネルギー長期見通しの結果からの引用でございますが、右側にありますように、実は、最大限の技術の導入あるいは最大限の政策投入をした場合も、発電部門の脱炭素化は非常に有効に機能するものの、非発電部門の更なる脱炭素化というのが非常に難しい状況の中、水素を利用することで、あるいは水素から作るアンモニアを利用することで非発電部門のCO2削減が進むこと、その利用の下には、CCS、CCUSを使った化石燃料からの水素、いわゆるブルー水素を活用することで、再生可能エネルギーからのグリーン水素だけでなくて、より大きな水素市場へ、水素需要への供給が賄えるということを分析結果として示しました。
さらに、最後に、全ての技術を動員して脱炭素化を進めたとしても、それでも大気中に排出されてしまうCO2を除去する技術、いわゆるCDRという技術が今後必須になるということはIPCCの報告書にも言及されております。御参考までにどのような技術があるかというものをお示ししておきました。
以上述べてきたように、二〇五〇年についても、五〇年頃につきましても、技術がより早く導入されれば、この下の化石燃料による火力発電の部分も実はグリーンになる可能性がございます。さらには、クリティカルミネラルにつきましても、代替技術ですとか、あるいは節約をする、リサイクルを進める、別の資源を開発するといったことから右上の部分の赤も消えてくる可能性がございます。
最後の結論を申し上げたいと思います。
現実はより厳しいわけでございますけれども、実際には、多様性を確保すること、それから、原子力や化石燃料の脱炭素化も含めて、単一のエネルギーではなく多様なエネルギー源を使った各国によって様々な道を進むことでポートフォリオを組んでいくということが大事かと思います。その際に、エネルギーの利用でも必要になる土地、それは実際には食料ですとか水ですとかの供給との関連性が出てまいりますので、その辺りもよく検討した上でサステナブルなエネルギーポートフォリオを組んでいくということが必要になります。
何度も申しましたけれども、化石燃料を脱炭素化して水素にして、アンモニアにして活用するためには、CCS、CCUS技術が欠かせません。これらの技術の更なる進展、あるいは更なるコスト削減が今後重要になります。その際に、我々の視野に入ってまいりますのは、近隣にあります新興国のアジアを中心に、あるいはアフリカ、さらにはラテンアメリカの国々でも、今後クリーンなエネルギー利用、さらには、今トランジションに短期的に必要な天然ガスの利用を進めることが必要になります。そのために、化石燃料の上流投資を禁止するような動きというのを、実はそれは間違っているといったようなことをアジアから周囲に主張していくことも重要だと考えております。
最後に、エネルギーのシステムの部門だけでなく、需要側とも協調をした、今後、大規模な連携をしていくことが必要なことになっていくかと思います。我々消費者も、エネルギーを大切に使いつつ、脱炭素化を目指すことに関与していくことになるかと思います。
以上、長くなってしまいましたが、私からの陳述を終えさせていただきます。ありがとうございました。

○会長(宮沢洋一君) ありがとうございました。
次に、大島参考人にお願いいたします。大島参考人。
○参考人(大島堅一君) 龍谷大学の大島と申します。(資料映写)
私、環境経済学を専門にしておりまして、この三十年間、エネルギー利用をめぐる環境経済学、環境政策論的な課題について研究してまいりました。気候変動問題につきましても、第一回の締約国会議、COP1から参加しております。
本日は、今日、このような貴重な機会をいただきましたこと、誠にありがとうございます。本日は、資源エネルギー問題、政策に関する御意見を申し上げたいと思います。
二枚目を御覧ください。
本日、二点申し上げたいと思います。まず第一点は、重要な施策として提起されているGX基本方針の内容に関する見解です。第二点は、原子力発電のコスト問題について申し述べたいと思います。
三ページに参ります。
GX基本方針決定に至るまでの経緯についても述べさせていただきます。
先日、GX基本方針が政府により閣議決定されました。これに至る経緯はお示ししているとおりです。
まず、二〇二二年七月二十七日に岸田総理決裁で第一回GX実行会議が開催され、エネルギー政策の変更が開始されました。これはエネルギー政策形成プロセスの中で極めて異例なことであります。通例であれば、エネルギー政策基本法に基づきエネルギー基本計画が策定されることになっております。第二回の会合は二〇二二年八月二十四日に開催されました。このとき、原発再稼働の推進、これは従来どおりですけれども、新しいこととしては、運転期間の延長、新型革新炉の建設の検討が首相より指示されました。
首相の指示は、事前の検討なく、結論ありきだったと考えております。なぜなら、翌日開催されました原子力小委員会で、GX実行会議での提案内容と原子力小委員会でのこれまでの議論についての関連性について質問を受けた事務局サイドが、原子力小委員会の議論を受けてのものではないとの趣旨の説明をしているからです。
その後、首相の指示を受けて原子力小委員会が開催されたのは九月二十二日で、十二月八日には取りまとめがされてしまっております。つまり、実質的に検討期間は二か月半、最大でも四か月程度であったということになります。
四ページ目に参ります。
以上を見ますと、GX実行会議の決定プロセスは異例尽くしということが言えます。
お手元資料で四点書かせていただきました。一つは、内閣総理大臣決裁で始まり、非公開の短期間の会議で進められたこと、短い審議期間であったこと、あと、国民世論を反映しない委員構成であったこと、意見公募期間も年末年始を挟んで一か月しかなかったことです。
また、一月十九日から国民に対する意見交換会を実施するようになりましたが、これは意見公募期間終了の数日前でした。意見交換会の開催通知も開催一週間前にウェブページで告知したのみでした。急ごしらえの感が否めません。さらに、意見交換会は、基本的に録音、録画禁止、また議事録作成の有無も不明です。
また、次に、五ページ目に参ります。
今後、ここでは今後と書いておりますが、既に基本方針は閣議決定されておりますので、その点について述べます。
既に申し上げたとおりですけれども、残念ながらパブリックコメントの結果が十分に反映されるだけの期間がなかったというふうに言わざるを得ません。また、一人の原子力規制委員会の委員の反対を押し切って運転期間の定めについての変更をする方針が伴っております。
GXは、本来、国民的取組が不可欠です。それに比して、政策決定プロセスは非常に雑で拙速だったと考えます。GX基本方針に示された政策内容も大ざっぱだと思います。効果も十分に検証されたものではないと考えます。
六ページに参ります。
GX実行会議で定められた内容で、差し当たっての問題はここで示したとおりです。
さきに申し上げましたとおり、原子力については、原発再稼働の推進、次世代革新炉の開発、建設、運転期間の延長の定めの変更、火力については、水素、アンモニアの導入拡大、CCS、CCUS事業開始のための事業環境整備をうたっております。
現実を申し上げますと、七ページに移ります。これ、二〇三〇年度の原発比率二〇から二二%を目標にしておりますけれども、これの実現はほぼ不可能だと言えます。
図について御説明します。
原発依存度二〇から二二%を達成するために必要な設備容量、およそ三千万キロワットということになります。ところが、①を御覧いただきますと、再稼働原発は一千万キロワット程度にすぎません。今後、運転期間が延ばされたとしても、②、③にありますように、いずれ廃止する原発の容量はどんどん増えてまいります。これは老朽化によるものです。そうなると、④、⑤の黒い点線にありますように、原発の設備容量は減る一方です。こういうのを衰退といいます。中長期的に見れば、原発はこれからこういった衰退の過程にあります。また、⑥にありますように、再稼働に向けた新規制基準適合性審査に未申請の原発が多数ありますので、実際の原発がどんなに再稼働しても三千万キロワットを大きく下回ります。二〇三〇年までに三千万キロワットを達成するのは計画策定当初から不可能です。
九ページ目に参ります。
次に、次世代革新炉について述べます。
これは、第五回GX実行会議で示された資料を抜粋し、加筆したものです。これを見ますと、革新軽水炉、小型炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉が次世代革新炉ということになっております。
ところが、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉はいずれも実証炉、原型炉にすぎません。商用炉ではありませんので、二〇五〇年のカーボンニュートラルには役に立ちません。また、核融合炉に至っては、原型炉を二〇三〇年代に製作、建設と書いてあります。これは絶対に不可能です。なぜなら、実験炉ですら世界にはありません。ですので、元々不可能な計画があたかも実現可能なように書かれているということになります。
一番上の革新軽水炉については、二〇三〇年代に数年で製作、建設するかのように書かれております。しかし、これも他国の例からすれば非常に達成が難しいものです。イギリスで計画されているサイズウェル原発Cというものがありますが、これは計画段階で九年から十二年の建設期間が掛かり、建設費用は総額四・二兆円です。百万キロワット当たりにすれば、大体一兆から一兆三千億円ぐらいになります。これは、日本が今後持つことは不可能です。今後、このような原発を次々に建てていくことも現実性がありません。
次に水素についてですが、ごく簡単に述べますと、日本は先進国の中でも水素、アンモニア利用の推進に熱心な国ですが、水素、アンモニア利用で決定的に重要なのはその起源になります。ここで示しましたように、水素にはグリーン、それからブルー、ブラック、ブラウン、グレー、ピンク、イエロー、ターコイズというものがあります。この中で欧州各国を含む先進国が強調するのはグリーン水素です。グレー水素やブラック、ブラウン水素は絶対に許されません。しかし、日本は水素の起源を問わないことになっております。気候変動対策として水素利用を進めることが、かえって二酸化炭素排出を増大させることにつながりかねない状況にあります。
十ページに参ります。
GX基本方針、GX関連法案の重要な要は、GX経済移行債、カーボンプライシング、またGX経済移行推進機構の創設と考えます。GX経済移行債を二十兆円発行し、その償還財源として炭素賦課金が創設されます。詳細は未確定の部分があり、ここでは詳しくは述べられません。カーボンプライシングや政府財政支出は日本社会に大きな影響を与えるため、その基本設計が極めて重要です。
十一ページに参ります。
特に注目されるカーボンプライシングについてですが、何より賦課金、排出量取引の導入が遅過ぎます。EUの二十年遅れです。また、賦課金は財源調達型となっており排出削減を目的としておりませんので、削減効果は期待できません。排出量取引については、目標となる排出総量を定め、これを毎年減少させていかなければ効果がありません。導入されるとされる排出量取引は自主的で緩いものになる可能性が高く、そうなればカーボンニュートラルの達成は難しくなってしまいます。また、環境保全が目的であるにもかかわらず、環境省が主管になっていないところも違和感を覚えます。
十二ページに参ります。
GX経済推進機構、GX経済移行債自体の問題です。
GX経済移行債は、グリーンボンドの一種として位置付けられる可能性があります。本来、グリーンボンドは特定のプロジェクトとの間で高い透明性が求められますが、GX経済移行債がそのようなものになるかは不透明です。また、支援対象がグレー水素やアンモニア混焼、CCS、CCUSとなれば、脱炭素に貢献はしません。
次に、ガバナンスの問題です。十二月のGX基本方針案に添付されていた資料によりますと、極めて総花的であり、ばらまきになる可能性が高いと考えます。特に原子力、水素、アンモニア、CCSは大変問題です。また、将来の国費がGX経済推進機構の進める事業の財源であるにもかかわらず、国会が直接関与できない仕組みとなっているのは大変問題だと考えます。
十三ページに行きます。
GX実行会議に示された参考資料ですが、いずれも目的、用途、金額の根拠が極めて曖昧で、金額のみが大ざっぱに決まってしまっております。
十四ページに参ります。
原子力発電と再エネ、CO2排出削減の関係について補足いたします。
これについては、国際科学雑誌にイギリス・サセックス大学のソバクール氏らが書いた論文が出されています。これによれば、世界百二十三か国、二十五か年の分析により、再エネ、原子力、CO2排出削減の関係が明らかになっております。分析結果はここで示したとおりです。
まず、原子力発電の導入量にCO2排出に負の影響がないということです。つまり、原子力発電が増えてもCO2排出が減らなかったということになります。これに対して、再エネが増えればCO2排出削減に対し負の影響が与えられる、つまり、再エネが増えるとCO2が減るということが分かっております。
では、原子力と再エネにどのような関係があるのかという点も重要です。この点も興味深い内容となっており、原子力発電に熱心な国は再エネの導入量が少なくなる傾向があり、また、再エネに熱心な国は原子力発電が少なくなるという傾向があるというふうに指摘しております。つまり、ごく簡単に申し上げれば、原子力発電が増えると再エネが抑制されてしまい、結果的にCO2が減らないということが示唆されております。
更に興味深いこととして、再エネは、導入量が増えるとコストが下がるというポジティブラーニングという特徴があります。これに対して、原子力は、次世代技術が導入されるとかえってコストが上昇するというネガティブラーニング効果があるというのです。
これから得られることは、経済的効率性の面でも、温暖化対策という面でも、何より求められるのは再エネの拡大であり、原子力ではないということです。
次に、十五ページに参ります。
原発のコストについて述べさせていただきます。
政府においても、発電コスト検証ワーキンググループにおいて、原子力発電を新しく建設した場合のコストが再エネを上回ることになってきたことが示されました。ここでは、新設ではなく既に建設された既設の原発についてどうなっているのかということについて述べます。これについては、発電期間を通して平準化したときのコストと福島原発事故以降に発生した費用のみを見た場合のコストについて、すなわち二つについてお話しします。
十五ページの表は、福島原発事故後に生じた追加的安全対策費や原発事故の費用などを加えて、さらに発電量を実績値に合わせ、二〇二三年四月から全基再稼働した場合の発電コストを計算しております。すると、一九七〇年代に建設された原発を除いて軒並み発電コストが非常に高くなっていることが分かるかと思います。特に東京電力柏崎刈羽原発六、七号機、東北電力女川二号機、中国電力島根二号機といった、再稼働すると政府自身が示している原発は特に高くなっています。これらの原発は、建設費を上回る投資を行ってしまっているためです。経済性を無視してしゃにむに再稼働のための投資を行ったことは、経済的に見て誤りであったことが分かります。
次に、福島原発事故後に生じた原子力発電関連の費用のみで考えて、原発の発電コストを日本の全体で見た場合の試算結果をお示しいたします。考慮した費用は、電力各社の原子力発電費、国費投入額、事故対策費用です。これを合わせると、原子力発電費は、福島原発事故後十年で十七兆円、二〇二二年度までの十二年間で二十兆円になります。国費は、同じ時期に四・三兆円と五・三兆円となります。事故費用は、政府により廃炉費用に八兆円とされております。つまり、これらを合計すると、これまでに生じた、あるいは生じると分かっている費用は合計で三十三兆円です。これは一人当たり二十七万円となり、一世帯当たり六十五万円程度になります。これから考えると、原子力発電は日本経済にとって電気料金の底上げをしてきたというふうに言えます。原子力発電を廃止しておけば、電気料金の負担はその分下がっていた可能性が高いと考えます。
十七ページは、今申し上げた国費の投入額でございます。割愛させていただきます。説明は割愛させていただきます。
十八ページは、電力各社の原子力関連費用です。
これらを足した総額二十一・三兆円を、合計十七兆円プラス国費投入額、二十一・三兆円を原子力発電量三千二百六十七億キロワットアワーで割ると、福島原発事故後に生じた費用だけで見た発電コストで五十二円となっております。キロワットアワー当たり五十二円となっております。もはや、既設原発も非常に高い電源になっていることが分かります。
将来、原発のコストは増え続けます。例えば、福島原発事故費用には放射性廃棄物処分費用は含まれておりません。
次のページに行きます。
この費用は政府によっても計算されていませんが、これまでの処分費用単価を掛け合わせて合計してみると、およそ八・五兆円となります。この費用は最低限の費用と考えるのが妥当です。
二十ページ、最後に結論を申し上げます。
まず、GX基本方針は、政策決定プロセスが異例で拙速であり、国民の理解が得られておりません。投資先とみなされている案件には数々の問題があります。さらに、GX経済移行債、GX経済推進機構といった経済的メカニズムは、将来世代を縛るものになりかねません。また、ガバナンス上の問題も非常に大きいと思います。
原発のコストについて見れば、既にある既設のコストについても非常に上がっていることが分かりました。原発事故後、再稼働を選択してしまった結果、原発は電気料金の底上げ要因となりました。全体として見れば、原子力発電は日本経済にポジティブな貢献をしていません。むしろ、そうではなく、国民が原子力のコストの負担を強いられていると言えます。
以上、私なりの御意見を申し上げました。
このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。心より感謝申し上げます。

【略】

○嘉田由紀子君 国民民主党・新緑風会の嘉田由紀子でございます。
大橋先生、また山下先生、それから大島先生、ありがとうございました。
私は、この資源エネルギー・持続可能社会の調査会に入らせていただいている理由は、立法府の国会議員としてどういう役割を果たすべきか、そしてその背景には国民の皆さんから一票一票選んでいただいたという説明責任がございます。立法府の役割、説明責任ということで、できるだけお三方にお伺いしたいんですが、時間の限りもあるかもしれません。
まず、大島委員にお伺いさせていただきます。

ここ半年、例えば去年の七月に参議院選挙がございました。そのときに各政党がエネルギー政策出しておりましたけれども、この原子力発電所のリプレースということは、自民党政府は、まあ公明党さんも表向き出していなかった。
それに対して、十二月の臨時国会、まあ途中、そしてその後ということで大島様も指摘しておりますけれども、GX実行会議、もちろん縦割りになっているところに横串を刺して実行会議というのは大切なんですけれども、ここのところの、国会の関与もなしに、ある意味で行政府だけが専行し、そしてリプレースを決め、そして今や、今週ですか、四十年と言っていたのが六十年、あるいはその六十年の枠も外すというようなことで、国民に対して大変大きな方向を示しているわけですね。
このことに対して、今日、大島委員が言ってくださったのは大変大事な、私たちは、一方で、原子力発電所は安全で安くて、そしてCO2を出さないということで国民として納得をしてきて、しかし、福島の事故があり、あのことによって安全ではないんだと、事故を起こすんだと。しかも、今日の大島委員の御説明の中に、結局事故の費用を入れたりすると原発は安くないんだと。ですから、高くて安全ではなく、しかも、先ほど来山下委員が言っておられますように、3Eですね、エコノミー、安くない、そして安全性も危険がある、しかもセキュリティーなり、あるいは継続的ということを見ると、この間に原発が稼働しないがゆえに随分と不安定になってきたわけですね。
そうすると、原発の利点というのはどこにあるんだろうかということを今日も改めて教えてもらったわけですけれども、その上に、CO2削減という意味では、今日、大島委員が言ってくださっているように、最新の研究ではここもマイナスであると。その辺り、私たち国会議員に、あるいは国民に分かりやすく改めて御説明いただけますか。大島委員お願いいたします。
○参考人(大島堅一君) 御質問いただきましてありがとうございました。
原子力発電はかつて、安全で安く、国産資源で経済的にも良いというふうに言われておりました。当時はそのような認識があって当然であったというふうに思います。
ですが、先ほども御紹介しましたとおり、年を経てまいりますと、日本はもう明らかに原発事故を引き起こしてしまった国でありますので、今後大変な、今までも大変な負担をしておりますけれども、今後も想像だにできないような費用の負担と手間が掛かります。そういうことでは、これをもってもう経済性も安全性もないというのは、私にとっては明白だというふうに思っています。
それを考えないでおけばというふうに言うこと自体が現実を見ないことであって、やはり、政策の立案や立法をする際にそこを踏まえた議論をする必要があるというふうに思います。国民の、国民的な議論はやっぱり大事だというふうに思います。
二〇二一年に策定された第六次エネルギー基本計画、これは閣議決定されて国の政策になっております。そこでは、原子力発電所の新設は含まれておりません。運転期間の延長も含まれておりません。これは法定のエネルギー基本計画で、政府が正式に決定したことでした。
ですが、今回は、やはり先ほど御説明いたしましたが、国民に対する説明や理解、国民が理解しているかどうかということはまだ判断されていないというふうに思います。
原子力発電の在り方やグリーントランスフォーメーションといった経済社会の転換においては、やはり国民の参加や理解が不可欠です。やはり、非常に長い時期、国民の取組が必要であり、かつ次世代にも大きな影響を及ぼす以上、国民的な参加を含めた議論がやはり必要だというふうに思っています。
それは是非国会におかれましても、もうこの機会が一つの、国民的な議論の一つだというふうに理解しておりますけれども、是非国民が直接参加できるような機会を増やしていただきたいというふうに非常に強く願っております。残念ながら、例えば関東で国民に向けた説明会は埼玉県でやっただけです。数十人の参加でのものが一回だけやられただけです。これでは非常に不十分だと言わざるを得ませんので、やはり新しい政策を打ち出す以上、少なくとも丁寧な国民的な議論の機会を設定すべきであろうというふうに思っています。
以上です。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
私たちは、例えば今朝ももう、衆議院の予算委員会で六十年超えを岸田総理が方向を示したときに、利用側からこれが必要なんだと、そして安全なんだと。安全というときに、私たちやっぱり技術の問題、本当に橋でもあるいは道路でも五十年、六十年でコンクリート老朽化するのに、あれだけ言わば放射性物質を高温で燃やしている炉が六十年、七十年もつのかという技術的な不安を持っているわけです。
今日は、大島委員が配っていただいた「原発ゼロ社会への道」、ここの百七十ページ以降でも、この技術的な安全性、何年までもつのかという議論をしていただいておりますけれども、国民に向けての説明で、この辺り少し詳しく御説明いただけますか。つまり、四十年、六十年、あるいは、場合によっては八十年、いつまでもつのかという議論を、この原子力市民委員会ではどういうことをしていらしたか、教えていただけたら幸いです。
○参考人(大島堅一君) 御質問いただきましてありがとうございます。
運転延長に関しましては、やはり、私、座長もしておりますけど、原子力市民委員会の方で検討いたしました。運転期間がなぜ四十年になっているのかということの背景には、原発が設計され建設される際に想定寿命、設計寿命というのがございます。それが三十年ないし四十年というふうに考えられて造られております。
どんなものでも、どんな建造物であっても、もちろん部品は交換できますけれども、交換できない、不可能な部品もございます。それを考えれば、三十年ないし四十年で一旦安全性を確保する上で使えなくするというふうに決めたのは、二〇一二年の原子炉等規制法の改正では非常に適切であったと考えます。
それが、今回、運転期間の延長が利用側からされたということは大変深刻な問題です。これ、利用側の方がまずあって、その下で原子力規制があるという在り方に転換するものではないかと考えています。
国会が事故調査会というのを設置され、その後、国会事故調査会報告書が提出されました。そのときに言われたことは、原発事故の原因は、本質的な原因は規制のとりこ、すなわち利用される側、利用の側から規制されているということにあったわけです。
今回のケースが、その利用側が、利用が先にあって規制が後に来ると。運転延長の問題は、今まで運転期間の定めは原子力規制委員会の管轄だったわけです。それが経済産業省側に移るということになりますので、これは大きな転換であり、新たな規制のとりこができるのではないかというふうに私は評価しております。その意味では大変懸念しているところです。
そのようなことが「原発ゼロ社会への道」にも詳しく書かれてありますので、是非お読みいただければと思っております。よろしくお願いします。
○会長(宮沢洋一君) 嘉田由紀子君。もう申合せの時間が来ております。
○嘉田由紀子君 はい。
一言だけでいいんですけれども、今の大島参考人のお話を伺って、山下参考人、Sプラス3Eが、これから原発を岸田政権がやるように言っていいのか……

○会長(宮沢洋一君) 嘉田由紀子君、もう時間が来ておりますので、おやめください。
○嘉田由紀子君 はい。
そこのところ、一言だけお願いします。
○会長(宮沢洋一君) いや、もう時間が来ております。

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