参議院国土交通委員会11月8日の質疑について、まだ確定稿ではありませんのでご留意ください。前半はこの8月の滋賀県高塒川の出水で浸水した霞堤での農業被害について、農業共済での収入特例でのサポートを受ける可能性があるという答弁でした。後半は、熊本県の球磨川上流部に計画されている川辺川ダム建設にともなう建設の「費用便益分析」についてです。費用に対して全体の便益は0.4だが、今後の残事業の便益が1.9なので事業を継続するという国土交通大臣からの答弁です。残事業の数値で今後の財政投入を行うという答弁、皆さんどう思われますか。11月11日。(4800文字、極度に長いです)。
嘉田:霞堤の氾濫で、水害による被害を被っても収入が減少した農家に対しての支援、やはり必要性があると思います。農業共済には、実質的に自然災害年の収入減少が影響しないようになる仕組みがあるということですが、この準備はどこまで進んでいるでしょうか。滋賀県の霞堤が機能を果たした、そこの農家ではかなりの被害を被っておりますので、ここへの適用は可能かどうか、政府参考人の方にお願いいたします。
農水省(松尾浩則君): 収入保険の補填の基準となる収入につきましては、過去五年間の平均収入を基本として設定することで、毎年の収入の変動をならして農業者ごとの経営の実態に即した補償を行うようにしております。その上で、収入上昇特例ということで、過去五年間の単位面積当たりの収入が上昇傾向にある場合の特例として、例えば一時的に収入が大幅に減少し、その翌年の収入が平年並みに回復した場合などは基準収入の補正をすることも可能となっております。本年八月の滋賀県高時川の霞堤における被害を受けた加入者におきましても、このような要件に合致する場合には特例を活用していただくことは可能となっております。
嘉田:高時川の例もこの要件に適用できる条件があったら可能という答弁をいただきました。今被害の積み上げをしておりますので、また相談させていただくことになると思います。農業共済でカバーしていただいても、やはり最後の1割は個人の負担ということになります。私も流域治水を現場で進めてきた立場から、地域のために犠牲になったのに、この1割の負担でもつらいという声が聞こえております。熊本県が緑の流域治水で、自己負担分を県が負担をするという制度をつくられました。「田んぼダム協力支援事業」です。九割を農業共済でカバーして、残り1割のところも県としてカバーするという仕組みです。これは答弁をお求めするものでもなく、こういう事例があるということを全国で是非広げていただけたらと思います。
嘉田:公共事業の費用便益分析についてお伺いをします。税金で賄われる公共事業については計画段階で費用便益分析を行うことになっておりますが、この制度の法的根拠はどこにあるでしょうか。
国土交通省(佐藤寿延君): 国土交通省が行う個別公共事業評価につきましては、行政機関が行う政策評価に関する法律に基づき策定する国土交通省政策評価基本計画に位置付け実施しております。当該基本計画に位置付ける個別公共事業の新規事業採択評価においては、費用便益分析も含め総合的に実施しております。
嘉田:国交省での実施要綱では、公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るという目的ですね。具体的にお伺いしたいんですが、熊本県の球磨川水系ですが、ここでは2020年の7月4日に大変な水害がございました。溺死者だけでも50人、2人がまだ行方不明です。そういう被害を受けて、川辺川ダム建設事業が、今年の8月に制定された河川整備計画に位置付けられました。ダムの高さ107メートル、総貯水容量1億3000万トン、大変巨大なダムです。それも、流水型という、川の水を流しながらという治水専用ダムです。令和4年度第一回事業評価監視委員会での費用便益効果、つまりBバイCを策定しておりますけれども、どう位置付けておられるでしょうか。
国土交通省(岡村次郎君):川辺川ダム建設事業につきましては、昭和44年に建設事業として採択され、現在、事業再評価を実施しています。直近では、令和4年6月に学識経験者等から構成される球磨川水系学識者懇談会において継続との審議結果を得ており、8月に事業継続として個別公共事業評価書を公表しています。費用便益分析につきましては、公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針においては、事業全体の投資効率性が基準値未満であっても残事業の投資効率性が基準値以上であれば、基本的に事業継続とされています。具体的に、川辺川ダム建設事業につきましては、昭和44年に事業着手してからのこれまでの費用も含めた事業全体に対するBバイCは0.4でございますけれども、これから先の費用、残事業に関するBバイCは1.9でございます。この費用便益分析を含めた総合的な評価を行い、事業継続となったものでございます。
嘉田;今までの投資効率は0.4、残事業が1.9。全体として事業を捉えるのが国民感覚だと思います。具体的には、昭和41年から計画されて、私も平成初期から川辺川へ何度も通っております。道路ができて、五木村の約500世帯が移転をして、その事業に2200憶円かかっているわけです。この後、ダムの本体工事に2700憶円、全体で4900億円掛かる。その全体のB/Cが0.4であるということは変わりはないのに、なぜ残事業で1.9だからこれは必要性があるというのか。税金の使い方という意味では予算委員会マターだと思っております。予算委員会で、財務大臣なり総理大臣、内閣としてお返事いただきたいと思っております。
嘉田:流水型ダムで川辺川については、蒲島知事が命と環境を守るということで、水をためないから環境が守られるんだという。日本一の清流川辺川を守り、そしてアユなどの魚類を守る、それがこの流水型ダムの目的ということなんです。国土交通大臣、この流水型ダムで、アユを含めて河川生態系を守ることができるんでしょうか。もちろん、これからの事業ですけれども、見通しを聞かせていただきたいと思います。
国土交通大臣(斉藤鉄夫君):球磨川の治水対策につきましては、令和2年の豪雨災害を踏まえ、熊本県や流域市町村からの命と環境を両立する流水型ダムの要望を受けました。一般的に、流水型ダムは、通常時はダムに水をためず通常の川が流れている状態となることから、水質や魚類等の遡上や土砂の流下などの河川の連続性があり、貯留型ダムと比べて環境負荷が少ない特徴がございます。川辺川の流水型ダムについては、環境影響評価法に基づくものと同等の環境影響評価を実施しており、その手続の中で有識者に助言を受けながら環境への影響をできる限り軽減する環境保全措置について決定していきたいと思っております。
嘉田;実は、私もちょくちょく川辺川にまた球磨川に行っておりますが、今年の9月18日の台風14号で上流の砂防ダムから大変な土砂が継続して出ております。2005年にも土砂流出がずっと止まらず、地元のアユの漁師さんは本当に困っております。そういうこともまたよく知っていただきたいと思います。最後の質問なんですが、実はダムを造ったら命が守れるということをよく言われるんですが、それはダムの雨量条件なりあるいは気象条件や地形によって全然違うんです。川辺川から球磨川というのは、渓流河川と言って、本流が一番下を流れているわけです。しかも、人吉市から下流が山岳地帯になっておりますので、言うまでもなく最上流の川辺川にダムを造っても、まずは下流の山の渓谷部分の災害はなかなか防げません。それから、中流の人吉のところも、やはり本流は町の一番下を流れております。それで、私どもは地元の皆さんと2020年の7月4日直後から200人に聞き取りをしました。そして、50名の溺死者の方が何時何分頃どういう状態で亡くなったのか。二階家だったのか一階家だったのか、独り住まいだったのか、お年はどうだったのか、それを全部調べさせていただいて、そして、当時、今もそうですけれども、川辺川ダムができていたときの浸水が減少する地図を出していただいておりますけれども、それには6割浸水面積が減るとあるんです。それで、浸水面積が減る時間と50人の溺死した一人ずつを調べさせていただき、本一冊にまとめております。2000枚の資料を検討させていただきました。
今のところの推定ですが、50人の溺死者のうち本流の直ぐ横で亡くなった方は2人です。残り48人は山の崩壊あるいは支流の影響で亡くなっている。人吉市では、浸水が浅いところ、それこそ50センチの浸水地域でも水路に流されて亡くなった方がおられます。内水氾濫で亡くなる方が結構多いんです。ということで、川辺川ダムがもしできていたとしても、2020年7月4日の降雨パターンでは、直接水位低下効果のダムによる効果が出て亡くなられたと推測できる方は2名だろうと、残り48名はダムができていても命は救えなかっただろうというデータを出して、本にも出しました。それで、国土交通省さんにも熊本県さんにも出しました。
ここは是非、国土交通大臣にお願いします。ダムを造っても命を救う効果が少ない場合に、例えばBバイC0.4のダムを造ることの説明が必要です。納税者、国民の皆さん、本当に額に汗して苦労して税金納めているんです。その納税者、国民にどう説明をしていただけるんでしょうか。これを通告させていただいておりますので、国土交通大臣、お願いいたします。
国土交通大臣(斉藤鉄夫君):令和2年7月の豪雨、これは、先ほどおっしゃいましたように、内水氾濫というものが非常に大きな要因になっております。ダムがあった場合は、今回の内水氾濫は、本川の水位が上がりますからバックウオーターを防止するために門を閉める、そういう、また本川の水位が上がっているからいわゆる内水氾濫が起こるということでございました。今回、もしダムがあれば、本川の水位が下がりますのでバックウオーターそのものがないということで、非常に定性的に申し上げますと、死者は減るものと我々は考えております。この災害を受けて、令和2年7月に国と熊本県が合同で被害状況や治水対策の効果の検証を行い、仮に川辺川ダムが整備されていた場合、浸水面積が約6割減少し、さらに浸水の深さが家屋の二階の高さに相当する3.0メートルを超えることとなる浸水面積は約9割程度減少するなどの大きな効果があったと推計しております。その後、今年8月に公表した球磨川水系河川整備計画の策定に当たって、想定死者数の軽減効果を一定の条件で算定したところ、120人から1人に減少することに加え、残事業の費用便益効果が1.9となったことから、事業再評価において事業継続とされたところでございます。この費用便益効果、この便益の中には人命は入っておりません、お金に換算できるものだけでございますが、お金に換算できるものでも1.9ということになったところでございます。国土交通省としては、引き続き、令和2年7月豪雨災害からの復旧と創造的復興に向けて、流水型ダムを含めた流域治水の取組を熊本県とともに全力で進めてまいりたいと思っております。
嘉田:川辺川ダムができていたとしたら120人の命のうち1人だけはどうしても失ってしまうけれども、じゃ119人が助かったということを公表なさっていられるんですか。そこをまた後からでもお知らせ下さい。この議論、もう時間がありませんので、また次に続けさせていただき、もちろんダムは一定程度必要ですが、この時代、まだこれ以上、BバイCが0.4でも巨大なダムを造る必要があるのか、ほかに方法を探すこと、それが流域治水の本来の目的ではなかったかと思っております。グリーンインフラ、あるいは地球温暖化の問題もございます。総合的に判断できるように、この後も議論を続けさせていただきたいと思います。ありがとうございました。