東日本大震災からまる11年が経ちました。3月11日の「参議院・災害対策特別委員会」では、ちょうど委員会最中の午後2時46分に黙祷をさせていただきました。また私自身は福島第一原発事故関連での「福島の子どもたちの甲状腺がん多発」に関する質問をさせていただきました。まだ正式な議事録は出ておりませんので、私自身がインターネット中継の文字起こしをした「未定稿」を紹介します。中継アドレスも添付します。嘉田の発言は最後ですので、2時45分以降です。3月11日(3000文字をこえて長いです、スミマセン)。
ポイントは、福島県内で過去11年間に300名近く発症している子どもの甲状腺がんの被害は原発事故とは無関係だ、と主張する環境省や岸田総理など国や福島県の内堀知事の公式見解に対して、因果関係の究明を「司法の場」で進めるべきだという意見を述べさせていただきました。甲状腺がんに苦しむ福島の子どもたちの中から決意を固めた6名がようやくこの1月27日に国と東電の責任を追及すべく、東京地裁に提訴しました。
以下のやり取りをみて、皆さんのご意見を伺いたいです。特に最後のところ、二之湯智防災担当大臣自身が国の公式見解とは異なり、「福島原発と甲状腺がん、因果関係、私にはよくわかりません。できるだけはやく因果関係、原因究明をしていただきたい」と言われた事には驚きました。甲状腺がんの多発は原発事故とは無関係、検査をたくさんしすぎたからだ、という岸田総理や環境省と異なる見解です。「閣内不一致」です。
――――以下、委員会のビデオ映像からです―――
嘉田:さきほど立憲民主党の塩村あやかさんがウクライナ危機に関連して原子力防災についての質問をしていました。更田(ふけだ)原子力規制委員長は、「そもそも日本がミサイル攻撃をうけ、原発がミサイル攻撃を受けた場合、放射性物質がまき散らされる」と何度も言っておられました。日本中がおちおちしておられません。日本中の45基の原発が核戦争の武器になってしまいます。
関連して子どもの甲状腺がんの被害について伺います。本年1月27日、欧州委員会議長に5人の元日本の首相が書簡をだしました。「EUタクソノミーから原発の除外を」という趣旨ですが、その1行目に「多くの福島の子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」と書いていましたがその一行に対して、環境省長官からまた福島県知事から抗議をうけました。
そこで質問させてください。そもそも平常時には、年間100万人に一人か二人の発病しかなかった小児甲状腺がんですが、福島で事故から10年で、事故当時福島県内で18歳以下だった38万人の中で「悪政ないし悪政の疑い」があるという子ども266名の発症が判明しています(11年目を含むと300名近くになります)。その内222名が甲状腺摘出手術を受けています。確率でみますと、100万人に一人でも70倍、100万人に二人でも35倍、この比率は常識的にも良識的にも高い確率ではないか。
しかも、手術後症状が悪化し、再手術を受けた人、他の部位に転移した人、苛酷な放射線治療を受けた人たちなど、子どもだった方が20代の青年になっています。そのような方たちがたくさんいます。まさに彼らは苦しんでいます。それにもかかわらず、政府として、「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」という事実を否定するのでしょうか。環境省のお答えとその理由をお聞かせ下さい。
務台環境副大臣:「福島第一原発事故による福島での甲状腺がんで苦しむ」と記述されているが、山口環境大臣は「、この記載は差別や偏見につながる」と言っています。福島県の県民健康検査では、希望者すべてに検査した。2021年6月に「悪性、あるいは悪性の疑いが266名」といわれている。この数値の評価では、昨年3月、アンスクエアの報告書では、「被爆した子どもたちの間での数値が多いのは、放射線被ばくではなく、非常に感度の高い、精度のよいスクリーニング技法がもたらした結果である」と報告されている。その結果により、誤解をうむことのないようにと、環境大臣が所感をだした。放射線の健康被爆による差別をうまないよう環境省はすすめている。引き続き、福島県の子どもたちの気持ちに寄り添いながらすすめていきたい。
嘉田:環境省の公式見解はくりかえされております。福島原発の影響ではない、というアンスクエ委員会の意見を繰り返しています。そもそも、アンスクエという国連科学委員会、そのものの中立性を疑うという、研究者の意見もあります。研究者の見解が中立性を欠くのではないか。私も研究者くずれです。研究者の間ではさまざまな見解は、必ずしも客観的にいえるものとは限らないというのはごく普通にあります。アンスクエの中立性そのものが疑われるという研究者もおられます。元に戻ります。ではなぜ高率の被害者が出ているのか、福島原発事故による放射線被ばくではない別の原因を主張・立証しなければなりません。政府も東電も福島県もそのような主張立証を全くしていません。「現時点では因果関係が考えにくい」というばかりです。
務台:100万人にひとり、とは100万人検査をして、人口に対して何人か?ということ。福島県では、多くの人を検査したから(それだけの人数が)でてしまった。おそらく比率でいうと、そんなにかわらないということになるのではないか。
嘉田:おもわず笑ってしまいました。検査しすぎたからがんがたくさん発見された。検査もれだったら検査しなかったら放置するでしょうか。近代的な福祉国家、国民国家として許されないと思います。このような説明はありうるのですか?これからの裁判のゆくえを見届けていきたい。266名の方のうち6人が勇気をだして提訴しました。
私、福島の地元に聞き取りにいかせていただき、驚きました。地元の方は「東電さま」といわれる。びっくりしました。自分たちの雇用と地域社会をさえている東電さま。これだけの大きな存在の東電に反旗をひるがえすのは、大変なことだった、勇気がいることだったと思います。
26歳のA子さんは、17歳で甲状腺がんを告知された。大学にはいったが、肺への転移がわかり、大学も退学して、今、治療に専念しているという。今後、結婚や出産など先もことが考えられないという。三ヶ月に一回、通院しているが、待合室に幼い子供がいると胸が痛むと。原発事故が関係ないなら、なぜこれほど多くの子どもが甲状腺がんになっているのか。単にオーバースクリーニング、検査しすぎたから発見されたのだ、という説明には当事者は納得しません。
同じく26歳で、東京都内で事務の仕事をするB子さんは、「甲状腺がんになったといえば差別されるのでは」と家族全員で10年間、誰にもいえなかった。中には風評被害、を広げる「風評加害者」とさえ言われる。逆に差別をされる。日々苦しみながら、それでも被害をなきものにしようとする国や東電など、大きな力への抵抗である。
当事者として納得できますか。私は自分の子どもや孫がそのような立場になったら、国や東電を訴えましょう、と決断すると思います。
過去40年間、私自身、環境社会学者として、環境問題の被害者の方のお話をきいてきました。今回の甲状腺がんの被害者の気持ちと社会状況が、私には、水俣病の被害者の姿と重なります。今でこそ、水俣病の原因物質は、窒素水俣工場からの廃水に含まれていた有機水銀が、水俣湾の魚に取り込まれ、それを食した漁師やその家族に神経性の病が広がったと公的に理解されています。昭和31年の5月に最初に発見された。しかし、その原因究明には10年以上かかった。熊本大学が有機水銀と主張しましたが、東京大学や国がその説を否定してきた。そして最初は、患者は、伝染病などと言われ、地元でも差別を受け続けていました。
知り合いの患者、杉本栄子さんは、もう亡くなっておられますが、元々網元でしたが、最初に神経性の病にやられました。子どもさんが4人おられる。子どもの運動会におにぎりを握って上げられなかった自分のからだをうとましく思った。近所からはし尿を投げつけられるほど差別された。でもだんだん病気がひろがり近所の人も同じ病気にかかった。
チッソ城下町である水俣市内で、社会的力も弱かった漁業者たち。東電城下町であった福島浜通りと同じです。水俣市内では社会的弱者である、自分たちを苦しめる病からの救済を求めて国と熊本県、チッソを加害者として裁判にたちあがったのは1951年の公式発見から18年後の1969年でした。その間に何百人もの方が理由もわからず、なくなりました。18年もの年月が必要でした。
社会的立場の弱い災害被害者、公害被害者の声を封じ込める国家の力、大企業の力、それは許されるのでしょうか。死者をださないという、国民の苦しみに寄り添える災害対策こそが、最も求められる、ハートのこもった政策ではないでしょうか?二之湯大臣、通告しておりませんが、水俣病を思いおこさせる、今回の福島甲状腺がんの皆さんにお声をかけていただけないでしょうか。
二之湯:突然の指名で戸惑っております。福島原発と甲状腺がん、因果関係、私にはよくわかりません。病気になった方の気持ち、水俣病でも同じようだと思います。本当にお気の毒で、やるせないと思います。できるだけはやく因果関係、原因究明をしていただき、一日もはやく回復することを願っております。
嘉田:社会的支援、医療的支援、今後必要と思います。裁判の行方を見守らせていただきたいと思います。見届けていきたいと思います。時間ですので、これでおわります。ありがとうございました。