3月7日、中部圏の長良川河口堰の見学にうかがいました。1990年代の長良川河口堰反対運動に関心をもっていた立場から、1995年に完成後、一度は訪問したいと思っていたので、今回は現場訪問をしてしっかり勉強させていただきました。実は愛知県が大村知事のリーダーシップのもと、「愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会」(以下「委員会」とします)という組織をつくっており、3月末にそこで「流域治水」の講演をしてほしい、ということなので、その事前準備に伺いました。3月7日。
そもそも長良川河口堰の事業認可がおりて、計画が始まったのが1973年、高度経済成長末期です。人口増加や工業生産の伸びなど、右肩上がりの水需要増大が予想されていました。関西では琵琶湖総合開発が動き出し時です。本体工事が着手されたのは1988年。アユやシジミなど、河口域の漁業資源が破壊され、清流長良川の環境破壊も進む、と多くの市民、研究者、芸能人までふくめて反対運動が盛り上がったのは、1990年代初頭でした。それでも、建設は断行され、1995年に完成。総工費1493億円のうち水道や工業用水の利水費用は63%の935億円、洪水対策の治水は残り37%の558億円です。利水負担は水道使用量で、治水負担は税金でまかなわれます。
完成から27年経って、計画された利水のうち使っているのはたった16%。工業用水はゼロ、水道用水が30%。水道用水は知多半島と三重県の水道用水です。知多半島も三重県も、河口堰の水はなくても、渇水にはならないと委員会の報告書にはあります。日本中で利水需要が高く設定され、ダム水は余っているのですが、長良川河口堰も予想通りでした。一人あたりの水道使用量が増える、人口も増えるという予想による過大需要の利水計画は、日本中でおきています。2月の長崎県知事選挙で石木ダムの利水需要も過大と言ったのと同じです。
河口域は、塩水と淡水がまじっているので、水道用水として使うには、塩水をカットして淡水だけを取水する必要があります。そこで巨大な堰で海水を止める必要があります。治水の効果も最初に計画された話と異なります。まずなぜ河の出口に水をためて、洪水が防げるのか、ここは三つの段階があります。①水害を防ぐために、川の断面積を増やす。②川幅を広げるには周辺の住宅移転や橋の付け替えが必要なので、川を深く掘り下げる。③川を掘り下げると、塩水が川中に差し込んでくるので、それを遮断するために河口堰をつくる。
しかし建設時点ですでに計画していた流すべき流量は確保されていたのでそもそも治水上の必要姓はなかったという。そして今、気候危機で予想以上の高潮や、東南海地震での津波などが来ると、この河口堰の建物自体が遮蔽物となり、周囲に洪水をひろげて、危険となる恐れがあると、委員会報告書では言っています。さらに報告書では、川の中に洪水を閉じ込める旧来の治水ではなく、洪水があふれても大規模破壊にならないような堤防強化や、上流の森林や水田での保水機能の強化、そして危ないところは住宅など建てない、建てるなら洪水折り込み済みの建物配慮など、今後は「流域治水が有効」と提案しています。
それで「流域治水なら嘉田さん」ということで、私に講演をしてほしい、という呼びかけになったようです。ただ、これだけの巨大構造物の有効性など、私が判断できるはずもありません。水資源機構の担当者や河口堰事務所の所長さんなどが丁寧にご案内くださいましたが、果たしてこの施設を今後どうするべきか担当レベルでは何とも言えないようです。
ただ今後のことを考えると毎年維持管理費だけで8-12億円が必要とされ、ゲートなどの施設更新時期は29年。つまり2024年には建て替える必要があるようです。2014年から次の30年にむけて、維持管理をして立て直す必要があるのか、今こそ議論の時でしょう。
なお、建設前から懸念されていたように、河口域のシジミはほぼ全滅ということです。またアサリやイカナゴの漁獲高も激減したという。アユも4分の1という。ただ、アユは日本中で減っているので、河口堰の影響とだけ言っていいのか、今後の精査が必要なようです。
今、改めて1972年の『成長の限界』を読み、その50年後の今年の報告書も読んでいます。石油とコンクリート文明が、CO2増大、生態系破壊、生物多様性喪失、そして気候危機と,50年前の予想通りの地球規模の環境破壊を招いています。そして議員立法でつくった「水循環基本法」の精神にも反した施設です。長良川河口堰の検証は、まさに地球規模の環境問題ともつながり、未来への大きな意思決定を迫られています。