Facebook 2022年1月30日 「琵琶湖源流写真展」他 滋賀県立美術館「滋賀をみんなの美術館に」

滋賀県立美術館での吉田一郎さんの「琵琶湖源流写真展示」は本日限りです。昨日、仲間の皆さんとようやく訪問できました。「長浜フォト」さん、長浜市尾上の琵琶湖漁師さんの写真展示も素敵なコーナになっています。いずれも「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクトの採択事業です。特定の芸術家だけでなく、滋賀県の歴史·文化·自然·暮らしの中にひそむ「美の滋賀」を住民参加で発掘・発信しようという発想から10年あまり、、、だいぶ育ってきています。ひろげてきてくれた仲間の皆さんと喜びたいと思います。うれしいですね。1月30日。
(すみません、また長いです)
県立美術館の作品展、あと二点ご紹介させてください。ひとつは昨年就任なさった保坂健二朗館長自らが挑戦して、「人間の才能―生きることが生みだす」です。障がい者芸術として狭くとらえられがちなアール·ブリュット概念の展開、楽しく見せていただきました。人間の核となる「心的な表現」を、造形として分析して深堀りしようという方向です。「作りたいから作る」「生きることと生みだすことが同時につながる人間の才能」。見事なわかりやすい表現です。
それにしても、今や定番となった澤田真一さんのトゲトゲアートの落ち着きと、古久保憲満さんの徹底的に細密画風に進化する壁画に、鵜飼結一朗さんの怪獣絵巻のような15メートルもの色鮮やかな作品。井村ももかさんのボタンまんじゅうがホットさせてくれます。いずれの人たちも滋賀県在住、創作場面に私自身訪問させていただきました。
まさに全集中して粘土をこね、鉛筆をうごかし、そしてペンで点々を落とし、針でボタンを縫い付けていく。その人となりと展示場の作品のつながりをもっともっと多くの人に体験していただけたらと思います。福祉の作業所や家族の暮らしの場から生まれてきた作品を、保坂館長のメッセージとともに楽しんでいただけたらと思います。
もうひとつは、「昔の滋賀のくらし」展です。以前からお知り合いだった平田健生専門学芸員の卒業展示のような、滋賀ゆかりの作家の作品の中には、滋賀らしい暮らしと情景が埋め込まれています。ふたつ紹介させてください。ひとつは、沢宏靭さんの「牟始風呂(むしぶろ)」です。「牟始風呂」は、私が、1990年代初頭、琵琶湖博物館に、同種の桶風呂のある彦根市本庄の冨江家を移築するきっかけとなった絵画です。
幼な子を抱えて湯気の中で温まる母親の姿は、昼間の過酷な労働を終えての至福の瞬間ではなかったか、と勝手に想像して沢宏靱さんのファンになりました。戦後、沢宏靱さんは、現代作家として、作風が全く変わり、この作品は沢さんの大津市比叡平の自宅に「封印」されていたのを、近代美術館準備中の石丸正運学芸員(のちに館長)が発掘したという経緯を沢宏靱さんの奥さまから伺ったことがあります。長浜という地域が生み出した偉大な画家であり、思想表現家と思います。
もうひとりは、野口健蔵さんの蒲生野の生活絵画。冬の蒲生野でのワラを燃やす白い煙と、赤カブらしいものを洗っている女性の姿。蒲生野考現倶楽部で「みぞっこ探検歩き」をしていた時、西堀明枝さんが「嘉田さん、このおばぁちゃん、タライに座って洗っているやろ。タライの中には座布団しいて膝がぬれないように工夫していたんやでぇ」。野口健蔵はタライも描いています。
また昭和19年、絶筆となった「喜雨来」も久方ぶりに現物に出会えて、嬉しかったです。昭和19年の夏は、滋賀県は渇水で、それこそ子どもたちが「どびん水」と言って、どびんで稲の一株ひとかぶに水をかけて歩くほどの水不足だった。そこに雨が降ってきて農民が喜ぶ情景を、死の床でえがいた、、、なんとも壮絶な、そして蒲生の故郷を愛した画家らしい絶筆です。足元にはカエルやカメらしい生物も描かれています。野口健蔵は、蒲生野の山、水田、水路、暮らしと人びと、そして生物、すべての存在を受け入れ、力強い油絵に遺してくれました。
近代美術館が、こうして新たな展開をしていること、楽しんだ半日でした。皆さん、それぞれの企画、まだまだ続いています。また入口付近のショップには、市田恭子さんたちが精魂こめてオリジナルグッズと、和紅茶や和菓子などもいただけます。「アートにどぼん」の子ども向け企画ボランティアの辻村耕司さんにもお会いできました。ご家族連れ、友人とまたお一人でもゆったり楽しめる美術館がそだっています。皆さんで楽しんでいってください。
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