「琵琶湖源流の美と暮らし」(地図から消えた7つの集落)写真展示会のご案内。1970年(昭和45年)から2005年(平成7年)まで35年間にわたり、丹生ダムに水没が予定されていた高時川源流集落を含む7集落の自然と暮らしを撮り続けた元長浜城歴史博物館長吉田一郎さんの写真展です。この企画は滋賀県が募集した「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクトに採択された事業です。来月10月16日から24日まで、会場は長浜市余呉町菅並の「妙理の里」「洞寿院」です。まだ1ケ月ほど先ですが、秋の一日、琵琶湖源流の高時川までおでかけください。9月9日。
チラシの表紙写真は「ワイヤーで高時川を渡って田んぼ仕事に出る女性」です。
このように生活に密着した場面を写すことができたのも、吉田さんが地元の皆さんに受け入れられていた証(あかし)でしょう。離村7集落のうち、昭和40年代に離村した3集落は、石油やガスの普及で木炭の売り上げが激減して生業がなりたたなくなった地域です。平成にはいって離村した4集落は、近畿圏の大阪・兵庫などの利水(渇水対策)を主目的とした丹生ダム建設計画による集団離村です。丹生ダムは利水需要の減少から2016年に正式に中止となり結局、ダムは建設されず、離村後の跡地は今も水底に沈まずに高時川沿いに残っています。
撮影者の吉田一郎さんは長浜市役所職員として広報の仕事をはじめ、改めて湖北に残る自然や民俗などに心を動かされ、週末ごとに丹生谷だけではなく湖北全体の暮らしぶりを遺しています。吉田さんが写した30万枚の写真の中から厳選した作品の第一弾が今回の写真展です。「高時川沿いの野神祭り」「村入りの儀」「トチとはちみつ」「最後の晩餐(離村式)」「遷座祭(神さまの移動)」など、今は失われてしまった暮らしと祈りの日々が映像に残されています。なお吉田写真の全貌を「湖北アーカイブ研究所」がデジタル化して映像データベースづくりも並行して進めてられています。
特に今回の展示会は「祈りの暮らし」に重点を置き、高時川源流の信仰と密接に関わってきた人びとの暮らしのあり様から、私たちが見失ってきた日本の自然の中にある美と、滋賀で暮らすことで育まれる心を見つめてもらいたいと吉田さんは語っています。また過去の記憶が明日を生きるエネルギーになるという信念の元、地図から消えた丹生谷の山や川や生物や神仏と近い暮らしぶりは、気候危機の時代ならではの未来への祈りと願いを託しています。
10月の展示会を最も楽しみにしていただいているのが、後ろ髪をひかれる思いで父祖の地からの離村を余儀なくされた元住民の皆さんではないでしょうか。展示会では、写真を通しての思い出話などを存分に語ってもらいながら、その思いもこめて、来年春には、写真集を出版する予定ということです。出版はクラウドファンディングでの皆さんのご協力をお願いするということです。また滋賀県立美術館での展示も計画しているということです。