「滋賀県立美術館」が6月27日にリニューアルオープン。前日26日の内覧会にうかがいました。建物構造はかつてのままですが、概念として「近代美術」という分野から「美の滋賀」という、滋賀がもっている自然の美や暮らしの美までふくめて、県民が主体的に活動できる企画もとりこみ、ひろい概念に展開。建物も、信楽焼の照明など、地元の造形を活用して、子どもたちにもフレンドリーに改装。是非ご家族づれで気軽にお出かけください。6月30日。 (また長いです、スミマセンj
館長の保坂健二郎さんは全国でも最年少の公立美術館館長。ご本人は、ディレクターと名乗っています。コルミオの市田恭子さんたちが工夫をしたショップの品ぞろえも魅力です。いろいろ紆余曲折があり関係者の方がたにはご苦労いただきましたが、無事再開したこと、感謝申し上げます。
前身の「滋賀県立近代美術館」は今から42年前の昭和54年に、武村正義知事の発案ではじまりました。というのもその時、滋賀県ご出身の女性日本画家小倉遊亀さんの作品がまとまって滋賀県に寄贈されることがきまったからです。そこで5年ほどかけて、小倉遊亀さんの作品を中心に郷土ゆかりの作家作品にくわえて、当時、近隣他府県とくらべて個性がだせる「近代美術館」として昭和59年(1984年)に一般公開。
郷土ゆかりの作家としては、草木染つづれ織りで人間国宝でもあられる近江八幡出身の志村ふくみさん、また滋賀の美を大地に即して力強く油絵に描く東近江市(旧蒲生町)の野口謙蔵さん、戦前の日本画から戦後の創造芸術に挑戦した長浜市出身の沢宏鞆さんなど、改めて滋賀県育ちの作家の作品を収集。多くの方が琵琶湖を中心に風景や生活場面を描いています。また近代美術としては「戦後アメリカと日本を中心とした現代美術」でも次第に存在感を発揮してきました。
しかし2000年代に入り来館者も減り、滋賀らしい新たな時代の文化芸術の振興が必要ではないかと言われていました。2006年に私自身、知事に就任してすぐに「滋賀らしい文化振興のあり方」検討委員会を木村至宏さんに委員長になっていただき諮問をして、2007年にはその報告書ができました。ポイントはいくつもありましたが、何よりも芸術を狭い専門的な洗練された分野だけに閉じ込めず、自然の風景や生活文化なども対照にしようという、文化人類学的発想がとりこまれました。滋賀の魅力発掘・発信の基地として独創的発想に根ざした琵琶湖博物館づくりの経験をいかしたいともおもいました。
丁度その頃、昭和36年に開館した琵琶湖文化館も老朽化しバリアフリー化ができず、その場での展示公開が困難になり、収蔵していた仏教美術の国宝級文化財も保存や展示が課題になってきました。実は滋賀県の仏教美術は、比叡山や三井寺などの権門社寺に加えて、ごく小さな集落が、国宝級の文化財を収蔵保存してきました。長浜市高月町の国宝十一面観音像は40戸の集落が1000年以上に亘り保存管理しています。つまりそれだけ生活の場に近い仏様や神様が多いということです。
一方で滋賀県では、近江学園を創設した糸賀一雄さん等の先導により、昭和20年代から障害を持った人たちが信楽の粘土を活用して造形表現に魂を注ぎ、大変ユニークな作品が生まれ続けていました。2004年には近江八幡に先進的な美術館「NOーMA」が開館していました。2008年頃から全国的に、美術教育を受けていない人たちが生み出す「アール・ブリュット」(生(き)の芸術)が注目され始めてきました。
特に日本中の作品を集め、パリの市立博物館で2010年に開催された「ジャポネ展」は、この分野の関係者に大きな自信を与えてくれました。私もパリに行き、市民の皆さんが食い入るように鑑賞するその姿から勇気をいただきました。その時、パリ近郊のルールに、公立美術館としてはフランスで初めて近代美術とアール・ブリュットをつなげたという美術館も見学し、滋賀県でもできる、と見通しを立てました。ピカソの隣にアール・ブリュット作品は違和感なく配置されていました。
そこで2011年から「美の滋賀」懇話会がはじまりました。1000年の美である「神と仏の美」、100年の美である「近代美術」、今生まれる美である「アール・ブリュット」という、滋賀の風土から生まれなじんできた三つの時代の美を「一つの花束」にして、「新生美術館」の構想が生まれてきました。この構想を思想的に牽引してくださったのは哲学者の鷲田清一さんでした。
地元のアーティストたちもたくさん参加をして、子どもたちを巻き込んだ「アートにどぼん!」などの地域活動、「美の滋賀ポスター」などもまとめていただきました。2020年の東京オリパラまでに、美術館の建物に増改築を施し、「新生美術館」として動き出しました。ただオリンピックが近づくにつれて、建築費が高騰し、予算が不足するとして最初の新生美術館構想は断念して、建物の改築だけで「滋賀県立美術館」がリニューアルオープンしたわけです。
この1月から滋賀県に来ていただいた保坂健二郎ディレクターは、2006年頃から滋賀県のアール・ブリュットに深く関心を寄せてくださった専門家です。2010年のパリでのジャポネ展も応援いただきました。保坂さんは実は2011年からの「美の滋賀」の懇話会にアール・ブリュット部門の委員長として、また他の委員会では委員として深くかかわっていただきました。ひとりこっそり湖北の観音さまに逢いに来たりと「1000年の美」にも興味をお持ちでした。
保坂ディレクターは、これからの美術館では、滋賀の特性を活かした「かかわる美術館」といういわば地域住民主体型の美術館であることと、もうひとつは美術の多様性をを深め、広めることを強調しておられます。評価がまだ定まっていない分野でも前向きにとりいれる、そのひとつは「アール・ブリュット分野」ということです。
県全体にひろがる「美の滋賀」のハブとしての役割、美術館から県内各地にひろがる、国宝級の仏像が集中している「湖南三山」などにも車で30ほどでいける。関東では経験できない環境が気にいっておられます。美術館というこれまでの施設中心の概念をこえて、滋賀にある美や、自分たちがみて優れていると感じたものを伝える場所、発信する場所にしたい、という。
滋賀県立美術館では、開館に合わせて、リニューアルオープン記念展「Soft Territory かかわりのあわい」とリニューアルオープン記念コレクション展 と、「ひらけ!温故知新─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」として重要文化財《桑実寺縁起絵巻》(二巻)を元に、現代の風景と比較したり、多様な企画が開催されています。
なによりも保坂ディレクターは、「子どもたちが大声を出していたら、子どもを制するのではなく、周囲の大人に、子どもの声をこらえてください」と言える、そんな美術館にしたい、と抱負を語っておられます。いいですね!!のびのびと、美の探求を楽しむ子どもたちが、美術館をハブとして育ってくれること、おおいに期待したいです!長文にお付き合い、ありがとうございました。