熊本県蒲島郁夫知事に、2020年7月4日球磨川水害溺死者の詳細調査結果を報告させていただきました。昨年以来何度か調査結果を蒲島知事にお手紙で報告させていただき、ようやく直接に面会が叶いました。蒲島知事は、「地震、水害、コロナと三重苦の熊本から、“緑の流域治水”で、川辺川ダム計画をふくめ、命と清流を守りたい」と決意を述べられました。5月11日。
私たちは昨年7月4日の水害以来、7月、10月、12月、1月、4月、5月と6回ほど球磨川流域で溺死されてしまったその被害者の住居地を訪問し、地元被災者の会の皆さんといっしょに、溺死者の親族や関係者に聴き取りをさせていただいた結果を報告させていただきました。人吉市では、7月4日の豪雨の早朝、人吉市内の球磨川支流の山田川や万江川、御溝川などからどのように濁流が流れてきたのか、という150名を超える人たちの聴き取り結果もまとめさせてもらいました。
まず人吉市ですが、わかったことは二点です。ひとつは本流の球磨川が9時過ぎに溢れる前に、山田川や万江川、御溝川などから、6時半頃からあふれだし、街中を激流が襲ったということです。人吉市内中心部の紺屋町などでは7時から8時までの間に平屋の住宅やお店で溺死が起きています。二点目は、通勤中や避難中など、家から道路に出た人が、1メートル未満の水深のところでも小水路に流されて溺死しています。コンクリートの道路は、普段は何ともない光景ですが、道路端の溝川が凶器となって、避難中の人を流し、溺死させています。
つまり、球磨川本流の最上流部に川辺川ダムができていても、人吉市内20名の溺死者のほとんどを救えなかったのでは、という調査結果をお伝えしました。球磨村、渡地区の高齢者施設、千寿園の14名の死者は、支流の小川の影響が大きいのではとお伝えしました。特に小川の上流部の森林のスギ、ヒノキの皆伐地域が裸地となっていて、球磨川本流が溢れる前に、千寿園横の支流、小川の氾濫影響が大きいのでは、という報告をさせていただきました。
ただ、この私たちの報告に対して、球磨川流域政策局長は、球磨川本流からの「バックウオーターで、山田川や小川などの支流が溢れたので、やはり球磨川本流の上流部に川辺川ダムができていたら、50名すべてとはいわないがかなりの人の命が救えたはずだ」と主張なさいました。そこで「では、熊本県として、溺死者一人ずつの溺死時間、要因調査をしてください」とお願いしました。
ここは、地元被災者の会の溺死者調査結果に、熊本県として反論を示すなら、1人ひとりの溺死者調査をすすめていただく必要があります。抽象的に「命を守る」というのではなく、具体的に一人づつの命が失われた現場に即して検証する必要があります。被災者の会の調査と、県の調査と両方をつきあわせて、はたして「バックウオーター」がいつ、どこで、どこまで効果があり、球磨川本流の影響と、上流部の川辺川ダムの効果をわかりやすく説明してもらう必要があるでしょう。
私たちは川辺川ダムについて、反対のための反対を言っているのではありません。清流にダムをつくればアユや水生昆虫に必ず影響がでます。その影響を超えるほどの効果がダムにあるのか、流域住民の皆さんは、本気でアセスをしてほしいと願っているのです。
そのデータを示すのは国土交通省、熊本県の責任でしょう。今回の豪雨量の1.3倍の雨がふったら川辺川ダムは「緊急放流を余儀なくされた」というシミュレーション結果を、ようやく国は示したようです。いったん「廃棄」したデータが公表されました。
自然科学と、社会科学、両方の視点から、水害被害を最小化して、本来の住民主体の流域治水を球磨川流域から示していただきたい、と熊本県庁を去る時に歩きながら考えました。