令和二年十一月十九日(木曜日)
法務委員会
○嘉田由紀子君 碧水会の嘉田由紀子でございます。
参考人のお二人の皆様、長沖暁子さん、柘植あづみさん、ありがとうございます。それから、何よりも五人の発議者の皆さん、大変な御努力だったと思います。感謝を申し上げます。
そもそも、この生殖補助医療の問題、二〇〇三年の厚生科学審議会の部会で報告をいただき、過去十七年にもわたり、衆議院、参議院での多くの議員が取り上げ、そして専門家の意見も様々、マスコミの御意見もございました。そういう中で、先ほど来、例えば伊藤議員からも御質問ございましたけど、なぜこんなに長く、ある意味でつるされて放置されて、そして進まなかったのかと。古川議員もおっしゃっておられましたけれども、それぞれの問題の奥深さということがあると思いますが、私はいろいろ行政の現場を見てきて、また、ずっと子供や家族の問題を見てきて、日本に、子供、家族を、本格的に、どんな困難なことがあっても子供や家族の利害を中心に据えて困難を乗り越えるんだという省庁なり当局がないこと、これが今までここまで放置されてきてしまった制度的背景ではないかと思っております。
そういう中で、今回、附帯決議がたくさんあり、そして中途半端だという意見もございますけれども、ここはまずは第一歩、当事者がいるわけです、困っている国民がいるんですから、その皆さんに対して立法府として、また行政府として責任を取っていただくという意味で皆さんの挑戦に感謝を申し上げ、基本的には法案に賛成の立場で質問をさせていただきます。
まず、第一点目ですが、生まれた子供の出自を知る権利、ずうっと今までございました。子どもの権利条約第七条、八条の件もございました。九四年に日本は批准をしているわけですから、そこで子供自身の知る権利ということを保障しなければいけない。
そのためにどうするかということで、二〇〇三年の厚生科学審議会では、出自を知る権利を認め、提供された精子、卵子、胚による生殖補助医療により生まれた子が十五歳以上であれば、三つのこと、一つは、公的管理機関をつくり、その中に同意書及び個人情報を八十年間保存する、それから、出自を知る権利に対して提供者の個人情報の開示業務を行う、そしてさらに、医療実績の報告の徴収及び統計の作成を行うということで、精子、卵子、胚のコーディネーション業務及びマッチング業務などを公的に管理するということが既に二〇〇三年の報告書でも提案されております。先ほど古川発議者さんも詳しく言っていられました。
そういう中で、長沖さんがまとめられた「AIDで生まれるということ」のこの書物の中、先ほど来議論ございますけれども、精子提供で生まれた子供たちの声、たくさん寄せられております。親にだまされていた、自分は何者なのか、自分の半分はどこから来たのか、切実な声がたくさん寄せられております。
昨日も当事者のFさんにお会いしました。三十二歳のときに告知され、大人になって告知を受けたことで自分のアイデンティティーの根っこが崩れてしまった、どういう人生だったんだろうということで大変苦しんだ、せめて子供時代に自分がアイデンティティー形成をしていく前だったら、このことを組み込んで自分を成長させられたと語っておられました。
一方で、匿名の方、山田さんですが、すまいる親の会という方の事例では、家族として幸せになるため、AIDで生まれた子供の幸せについてということで、幼いときに、六歳のときに、お母さん、お父さん、お父さんの卵が足らなかったから、だから卵をいただいたのよ、それであなたが生まれて、卵をくださった方には大変感謝をしていますよと、かなり日常的にそのことを伝え、そして、子供さん自身も、そう特別視せずに自分はその上でアイデンティティー形成してきたというような事例もあると伺っております。
そこで、上川法務大臣に質問です。
実はこれ、厚労と法務、両方分かれているところが既に大変今まで長く掛かってしまった理由だろうと思いますので、先ほど来、厚労政務官が管理をする組織をつくりますと言っていただきましたけれども、私の方は上川法務大臣に質問をさせていただきます。
これまでに生まれてしまった子供さん、当事者のデータ、今から取り戻すことは困難かもしれませんが、今回のこの法案の成立を契機に、今後生まれる子供の自らの出自を知りたいという思いに応えられるように、戸籍情報を保管したり、あるいは手術前からの生殖医療情報を登録し、例えば八十年間という長期間保管できるような制度、組織づくりを法務省が中心となって、厚労省さんと相談しながら、政府として検討することが必要と思います。議員立法は、どうしてもそのままたなざらしにされる傾向もございますので、政府としてここを必要だと思うんですけれども、上川法務大臣の御認識、聞かせていただけますか。
○国務大臣(上川陽子君) ただいま委員から御指摘いただきました厚生科学審議会生殖補助医療部会、これは平成十五年の四月、報告書を取りまとめたところでございますが、生殖補助医療を受けるに当たっての同意書や、また個人情報を八十年間保存することが示されたということを承知しているところでございます。
委員御指摘のように、自ら出自を知りたいという気持ちにどのように応えるかという課題につきましては、どのような生殖補助医療をどのような体制や手続の下で行うべきかという行為規制の問題であると認識しておりますが、これは生殖補助医療の問題を検討する上で非常に重要であるというふうに考えております。
本法律案の附則の第三条第一項におきまして、おおむね二年をめどに情報の保存及び管理、開示等に関する制度の在り方についても検討がなされることが予定されておりまして、その検討が開始された場合には、法務省といたしましても、検討内容をしっかりと注視しながら適切に対応してまいりたいというふうに考えております。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。是非とも政府として、公的にというところで進めていただけたらと思います。
二点目の質問ですが、これはかなり議論はありますが、例えば、この生殖補助医療は少子化にプラスになるとかマイナスになるとかそういうこととは無関係だということを強く主張されるマスコミの御意見もございますが、ただ、日本は今、この少子化の問題というのは国難でございます。そういうところで、本法案が成立することによって安心して生殖医療によって子供をもうけられるようになる、そのことが、親子関係安定化することで少子化対策に資すると私自身は期待をしたいんですけれども、上川法務大臣の御認識、いかがでしょうか。
○国務大臣(上川陽子君) 本法案につきましては、この生殖補助医療により出生した子の母子関係、これは九条でございますが、そして精子の提供による生殖補助医療により出生した子の父子関係、十条でございますが、その規律を定めるものでございます。これまで判例や解釈に委ねられてきた点の規律が明確化されるということによりまして、親子関係の安定に資するものというふうに認識しております。
本法案によりまして、生殖補助医療により出生した子の親子関係が安定するということは、委員が今個人の意見ということでお述べになりましたけれども、御指摘のように、少子化対策にもつながり得るものと考えられるのではないかと考えております。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
このことによって子供を産むことを外側から圧迫するとか、そういうふうな問題ではないということ、それはきちんと切り離して、子供を産むか産まないかは個人の、また御夫婦の自主的な判断ですから、社会的にプレッシャーを与えるというものではないと私自身ももちろん理解をしております。
そういう中で、毎回お伺いをするんですけれども、この生殖補助医療は二〇〇三年から二十年近く方向が見えなかった。同じことが、この離婚後の子供の親権の問題、これももう二十年近く前から議論されながら、なかなか出口が見えない。その間に片親ロスになる子供、毎年二十万人ほど、十年で二百万人もということで、ここも放置できないと、私自身は毎回家族の問題として取り上げさせていただいておりますけれども。
離婚後の単独親権制度の違憲性を争う訴訟が今三つ提案されております。今日、新聞資料を出させていただいておりますけれども、一つは、二〇一九年十一月二十二日、八都道府県、男女十二人による東京地裁の訴訟です。二つ目は、二〇二〇年十月二十一日、男女六人による、これもやはり東京地裁。そして三点目が、つい最近です、二〇二〇年十一月十一日の、離婚後の面会交流制度が不十分だとして国家賠償を求める訴訟です。
最初の二つは原告が父や母、祖父母など大人ですが、三番目の十一月十一日に提訴された裁判には三人の子供さんが原告として含まれております。そのうちの二人の声について紹介をしたいと思います。というのは、本当に日本の場合には子供の声を代弁する母体あるいは政治家も大変少ないので、ここはきちんと子供さんの声、ちょっと長くなりますが、御紹介させていただきたいと思います。
まず、原告のN君です。今、十三歳です。
僕のお母さんとお父さんは離婚して、僕はお母さんと一緒に暮らしています。お父さんとは前は月に一回会っていましたが、僕のお父さんは普通のお父さんです。僕はお父さんのことが大好きです。お父さんと会っているときは楽しいです。お父さんとはゲームの話をしたり、一緒に映画を見たり、お母さんとはしない遊びをして過ごすからです。
ここが実は大変重要なんですね。外遊びとか、私は自然教育を専門にかなりしてまいりましたけれども、やはり父親がいないと、どうしても自然教育がおろそかになるということもございます。補足ですけれども。
僕が小学校五年生のときから、お父さんとは会えないことが増えました。お父さんに電話やメールで次に会える日を尋ねても、返事が一か月くらいもらえないこともよくあります。お父さんに会いたい、もっと会いたいと言って無理だと言われたり、会う回数が減ったら嫌だなと思って、お父さんに直接言ったことはありません。次はいつお父さんに会えるのか、とても気になります。それだけではなく、本当は僕はもっとお父さんに会える回数を増やしたいのです。お母さんがお父さんに会えるように裁判所に手続をしてくれました。僕は裁判所の調査官に会いました。調査官から、お父さんとこれからどうしたいと五回くらい聞かれました。会いたいですと答えました。お父さんと会えるようにしたいのに、どうして何回も聞くのだろうと思いました。調査官の報告書には、お父さんが面会交流に消極的だから、現状を変える必要はないと書かれていました。
ここに、この僕の、当人の失望があるわけですね。実は、調査官の聞き取りとか、現場では大変ないろいろ問題を聞かされておりますけれども、この十三歳の子供さんでももうそのことを気が付いている。
僕はお父さんに会えるようにするために裁判所に行って調査官に話をしたのに、最低限の月一回お父さんに会えるかどうかも分からない状況、変えてもらうこともできないのだと分かりました。できるなら、毎週末、土日にお父さんと会いたいです。お父さんと会えるなら、ほかの予定より優先します。もっとたくさん会いたいけれど、せめて必ず月一回は会える約束を守ってもらえれば、もう少し安心してお父さんに会えるのに、今は不安がいっぱいです。
なぜ離婚、親の離婚がこんなに子供さん、父子を分断してしまうのか。父子の、まさに今、生物学的な親子の話ありますけれども、父子の生物学的な、あるいは情愛、変わらないわけです。ですから、この生殖医療の話とある意味で近い問題、本当に本来の親子を何で法律のたった一行で、民法八百十九条でこういうふうに子供さんと離してしまうのか。お互いに不幸になる。
私は、今の単独親権は子育て三方悪しだと言っております。子に悪し、親に悪し、そして世間に悪し。もちろん、DVや虐待で共同養育、共同親権を阻止しなければならないケースはあります。でも、そのケースがあるからといって、残り全てを共同養育、共同親権を否定するというのは、国民の願い、まさに今のN君のような子供さんの願いを踏みにじっていることになるのではないでしょうか。
次に、原告Pさんです。十一月十一日に訴状を出した原告Pさんです。既に二十歳になっていますが、過去十年のことを思い起こしながら声を上げています。
今でも私は、過去十年、北海道の母と千葉県の父の間を行ったり来たりしていたことが、PTSDによるフラッシュバックなど悩まされています。それほど強烈な影響を受けました。子供がいる家庭で離婚を検討中の方々がいましたら、いま一度考えていただきたいと思います。ほとんどのケースでは、離婚という選択肢は子供に悪影響しか及ぼしません。影響は大小様々ですが、ゼロ歳でも子供は人間です。夫婦げんかなどがあれば怖いと思いますし、兄弟がいれば離れ離れになると寂しい思いを常に抱えることになります。考えられる悪影響はたくさんありますが、それは一生続く不治の心の傷として残る可能性も十分あります。
なので、離婚する前によく考え直してください。そして、仮に離婚するとしても、母、父にはいつでも会えるようにしておくこと、兄弟姉妹がいるのなら決して離れ離れにしないこと。子供は基本的に生まれ育った家族と一緒に過ごしたいと思うものです。母、父問わず甘えたい、頼りたい、相談したい、感謝の気持ちを伝えたい瞬間というのはいつ訪れてもおかしくありません。誰も争いたくありません、平和が一番なのです。このために、私は一番最初にお話ししました。いまだに時々離婚していなかったらと想像して、父と母がいる幸せな日々が欲せられ、そして願ってしまうということが今でもあります。
最後にこの場を借りて、一生懸命面倒を見てくれた父に感謝しています、ありがとうございます。私の話は以上です。
ということで、子供さんの例を二つお話しさせていただきましたけれども、上川大臣にお聞きします。
今、国が被告となっている訴状、裁判ですので、コメントは困難かと思われますけれども、このような子供さんの声を聞かれてどう思われるでしょうか。可能な限りで結構です、御感想いただけたら幸いです。
○国務大臣(上川陽子君) ただいま委員から、個別の訴訟に関してという形で二人のお子さんのということで御紹介をいただきました。
大臣という立場上、個別の訴訟に関して意見を述べるということについては差し控えさせていただきたいというふうに思います。
その上でということで、感想をというお尋ねでございますので少し申し上げたいと存じますが、離婚後に子供と会うことができないことによりまして大変つらい思いを抱かれていらっしゃる親御さんがいらっしゃるということ、また、親御さんに会えないということによって悲しい思いをしていらっしゃるお子さんがいらっしゃるということ、大変傷ついている心の部分を今お話の中で触れることになりまして、私も人の親として大変心が痛む、こうした心情をお伺いしたところでございます。
特に子供さんの思いにつきましては、この離婚後の子の養育の問題といたしまして、チルドレンファーストという観点から重く受け止めなければならない問題であるというふうに考えております。父母の離婚後の子の養育の在り方を検討するに当たりましても、こうした方々のお声にもしっかりと耳を傾けるということが重要でありまして、家族法研究会におきましても、当事者の方々、支援団体からのヒアリングを実施するなどをしてきたものというふうに承知をしておりますが、今後とも様々なお声にも十分に耳を傾けた上で、子供の最善の利益、これを図る観点から、引き続きしっかりと検討をしてまいりたいというふうに考えております。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。大変お立場が難しいところ、お心を聞かせていただき、感謝申し上げます。
今回のこの生殖医療の問題も、あるいは共同親権の問題など、これまで法は家族に入らずということで、ある意味で時代の変化に合わせてきちんと民法も、そして制度ができていなかった。
最初に申し上げました、それこそ海外で何で共同養育、共同親権、困難なところも子供のためにといって過去三十年、四十年、皆やってきたのか。日本だけができていない。今回のこの生殖医療もそうですね。オーストラリアの例など、海外ではもう二十年前、三十年前に法整備ができている。日本が出遅れている。
この日本が出遅れていることが結果的に子供の不幸やあるいは家族の幸せがつくれなくなっているということで、是非、今回の発議者の皆さんとともに、子供、家族のための立法の責任、行政の責任果たせていけたらと思っております。
皆さん、どうもありがとうございました。