大熊孝さん、出版社の農文協プロダクションの皆さん、おめでとうございます!大熊孝著『洪水と水害をとらえなおすー自然観の転換と川との共生―」(農文協)が、2020毎日出版文化賞を受賞しました。この分野では、1952年の第6回で、安藝皎一さんが『日本の資源問題』で受賞されて以来ということです。ご本人いわく「胆管ガン、大腸ガンをくぐり抜け、命を長らえられて幸せです」というお声。つい先日、大腸ガンの手術を無事終えて、ご帰宅なさったところの朗報です。大熊孝さん、また皆でコロナ禍をふきとばすようなお祝い会しましょう!!11月3日。
これまでの大熊イズムは数々の著作に綴られています。『利根川治水の変遷と水害」(東京大学出版会、1981)』、『洪水と治水の河川史―水害の制圧から受容へ―」(平凡社、1988 /平凡社ライブラリー、2007)』、『川がつくった川、人がつくった川 』(ポプラ社、1995)』、『技術にも自治がある-治水技術の伝統と近代-」(農文協、2004)』などです。私も大学教員時代、ゼミ指導などで使わせていただきました。
その中でも今回の著作は、なぜ大熊孝という学者が生まれたのか、辿ることができる、いわば「研究者の自分史」です。なぜ日本人の伝統的自然観に共鳴し、河川工学者としての知識だけでは飽き足らず、「庶民の自然観」を前面に押し出してきたのか。そこには台湾で生まれ育ち、引き揚げてきた高松市やその後の東京湾岸の千葉市での、落ち葉や木々を拾い集め燃料とした、海辺で採集する貝類をおかずにした、まさに縄文の狩猟採集的な「育ちの原風景」がかきこまれ、説得的です。
また篠原修さんの『河川工学者三代は川をどう見てきたのかー安藝皎一、高橋裕、大熊孝と近代河川行政一五〇年』(農文協、2018)とおわせ読むと、日本の河川政策の思想を近代化150年の中でたどった背景が見えてきます。この7月22日、参議院会館で、「流域治水政策の最前線」のシンポジウムで、大熊孝さんと篠原修さんの対談を企画させていただいたのも、実は私たちが流域治水政策を、追及してきた思想的背景と切り結ぶからです。
日本には、かつて地域共同体の中に、川や堤防で閉じ込めきれない洪水を、水害にしない、伝統的に生み出された土木的知恵と社会的工夫が埋め込まれ、意外と死者がすくない、という「洪水をやり過ごす作法」がうめ込まれていました。それを私は環境社会学的に「近い水」と表現してきましたが、まさに「庶民の自然観」です。明治以降、国家的、工学的自然観が広がり、ダムや堤防だけで水害を防げるという工学への過信が生まれ、「遠い水」が洪水に脆弱な社会をつくってしまいました。
温暖化が進む中で、計画規模を超える洪水が毎年広がる中で、川の中に閉じ込めきれない洪水を水害にしない知恵と工夫に改めて学ぶ必要があります。土木学会も、国の河川政策当局も、このことを認め、流域治水を表にだす時代となりました。
大熊孝さんたちが、命がけで主張、発信してきた思想がようやく社会に受け入れられつつあります。大熊孝さんは「今回の受賞は冥土の土産」と半分冗談で言っておられるようですが、今関心が高まりつつある「川辺川ダムは冥土に持っていきたくない」と!!球磨川流域で未曾有の大水害の被害を受けた地元当事者の皆さんの声を深くふかく受け止め、地元として決めて行ってほしいですね。
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