菅さん、石破さん、岸田さんの3名による自民党総裁選挙がニュースをにぎわせています。いくつも論点がありますが、今日は「行政の縦割りを打破」という政策実現の一環として、菅さんが打ち出した「ダムの事前放流」について、コメントさせてください。また長いです(1600文字)。
9月6日の私のFB投稿の「ダムの緊急放流や堤防破壊で多数の死者を出してしまっている」という表現をめぐって、Tomoyuki Nakamuraさんと栗谷至さん、白石八朗さんがダムの功罪について議論を展開していただいています。とっても大事な議論を展開いただき、ありがとうございます。実はこの問題は日本の治水・水害政策を考える上での本質的議論でもあります。
9月2日の菅官房長官の自民党総裁選挙に出馬の記者会見で、ご自身の政策実績として、「縦割り行政の弊害をぶち破った」とダム運用改善を紹介なさいました。ダムはそれぞれ建設目的があり、水害をふせぐ治水ダムに加えて、農業用水や水道用水確保、発電のための利水ダムがあります。治水用にはできるだけ空っぽがいい。利水用には水を溜める必要があります。
これまで省庁縦割りの弊害で、相互利用がなかなか進まなかったわけです。そこで、菅官房長官が主導をして各省庁の事務次官をあつめて、利水ダムを事前に放流して治水容量を確保するような仕組みをつくれと方針をだしました。台風19号の直後、昨年の秋です。この5月には、国が管理する全国の一級河川の新たな治水容量を44憶トン増やしたと公表がありました。私自身びっくりして、6月3日の参議院の関連委員会で、「ダム管理のコペルニクス的転換で大きく評価」と指摘しました。
というのも、滋賀県知事時代の2008年11月、滋賀県議会が流会になるほど議論が白熱したのが大戸川ダムの建設問題でした。その時、ほぼ同じ容量の関西電力の喜撰山ダムを豪雨時に活用したら大戸川ダムの必要性は低いと、当時の橋下大阪府知事と山田京都府知事といっしょに主張しました。というのも河川法52条には防災用にダムを活用する権限条項がはいっていたからです。しかし国の対応は「関西電力のダムだから活用できない」と門前払いでした。
今日、9月9日、愛媛県肱川沿いの野村ダム直下の西与市旧野村町の遺族ら13人が、国を被告として提訴というニュースが流れました。2年前の西日本豪雨のダム緊急放流で野村町では5名の死者がでてしまいました。「大規模洪水が予想されるにも関わらず十分な事前放流をせず、ダムの緊急放流につながった」などとして、国と西予市に対し約2億6000万円の損害賠償を求めています。 原告のひとり入江須美さんは「なぜ人が逃げられなくなるような、津波のような放流をしなければいけなかったのか。私たち住民はこれらのことを知りたい」と話しています。
入江須美さんには2018年7月の水害以降、野村町の現地に伺い何度かお話をうかがってきました。旦那さまがダム津波のような緊急放流水に流され死亡したと・・・胸がいたみます。野村ダム緊急放流後の時間の流れを図にしました。7月7日の未明にダム管理所が西与市(野村町が含まれる)にダム緊急放流の見込みを連絡。西与市は、午前5時10分に防災無線を通じて避難指示を出すと同時に、消防団が各家をまわり、避難を呼びかける。
6時20分にはダムの緊急放流がはじまり、2キロ下の野村町では、7時前にダム津波のような濁流が押し寄せ、入江さんのご主人など5名が亡くなられてしまいました。その時の河川水量は、300トンから1900トンへと一気に6倍以上になったということです。野村町の肱川は最大でも1000トンしか流れないのに一気に水量があがり、570戸が短時間で床上浸水になってしまいました。
5時10分から7時まで何があったのか、消防団の皆さんに話をききました。ダム管理所からの放流報告をうけ、消防団員は手分けをして各家をまわって、避難をよびかけました。でも「ダム事務所にきのう電話したら緊急放流はないと言っていた」「ダムは水害をふせぐものや、避難なんかせん」と口々に抵抗があるなかを、無理やり消防車につれこんで何百人も高台に避難させた、ということです。
もし消防団員の働きがなければ、もっともっと多くの犠牲者が出てしまったかもしれません。想像するだけで、りつ然とします。ダムの水位低下効果は大切ですが、人びとの避難意識も低下させてしまう。人は社会的存在です。そして洪水は自然現象ですが、水害は社会現象です。私たち、社会としてどう水害の被害を最小化するか、社会的対応が必要です。
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