「倉敷市真備水害被害調査(その1)」。8月7日、毎年恒例の楽しみであった琵琶湖花火をあきらめて、岡山県倉敷市の真備地区の水害被害調査に行ってきました。かいつまんで第1報を報告させていただきます。今日から海外調査なので、第2報以下はお盆あけ、帰国後にさせていただきます。また長いです。すみません。8月8日。
発災から1ケ月、51名もの皆さんの命が失われ、それも多くの高齢の方が自宅にいながらにして、逃げ遅れ、溺死をしてしまいました。浸水被害も4600棟、浸水面積は1200ヘクタールと推測されています。現場では、大変苦しいまた悔しい、やりきれない思いをもちました。1ケ月たってもまだまだ先がみえない、災害ゴミはたくさん残り、水つきの住宅の姿は大変いたいたしく、厳しい被災の現場でした。
今回の訪問は、総勢10名をこえる皆さんが集まってくださいました。河川工学が専門で、京大名誉教授の今本博健さん、新潟大学名誉教授の大熊孝さん、地元岡山県選出の柚木道義衆議院議員、高井崇志衆議院議員、神奈川県からエネルギー調査会事務局の山崎誠衆議院議員、京都市議の宇佐美賢一さん、山形県鶴岡市議の草島進一さん、近畿圏で水害調査をしてきた「子ども流域文化研究所」事務局長の小坂育子さん、元淀川水系流域委員会の細川ゆう子さん、また九州から新幹線でかけつけて下さったのは、熊本県球磨川保全のつる詳子さん、長崎県石木ダムの炭谷猛さん、熊本県立野ダム地域の緒方さん父子など、結果的には西から東から川や水害に深い関心をもつ方たちが集まりました。
国土交通省の岡山河川事務所の副所長の今岡俊和さん、岡山県河川課の担当者の皆さんが、現地での説明をしてくださいました。今回の視察の最大の目的は、今本さん、大熊さんがご専門の「なぜこんなにたくさんの箇所で堤防が破壊されたのか」「破堤の原因を探ること」でした。小田川を中心にそこに流れこむ高馬川、末政川など、8ケ所で堤防が破堤をしました。急速に本流の小田川の氾濫水が住宅地に流れ込み、逃げ遅れがたくさん出てしまったようです。
今回最大の破堤ケ所は、小田川に高馬川という川が流れ込む交差場面です。最初の写真に2018年2月現在のふだんのグーグルマップとストリートビューを紹介します。なぜここが破堤したのか、これまでマスコミでは高梁川本流からの「バックウオーター」という説明がなされていましたが、大熊さんと今本さんはこれには納得なされず、堤防そのものの補強がなされておらず堤防が弱かったのでは、と言っておられました。
また地元の皆さんは川の中の樹木が伐採されず、放置され、まるで森林公園のようになっていて、この樹木が水の流れを阻害したのではないか、と強く言っていました。8月7日の視察時には、小田川堤防も、高馬川堤防も緊急補修され、車は通れるように復旧されていました。また川の中の樹木は見事に伐採されていました。
NHKのクローズアップ現代で示されていた死者の地域別状況をみると、高馬川から東側に多くの死者がおられます。また末政川というもうひとつの小田川に流れ込む川も3か所が破堤していますが、ここの現場近くの住民の方は、水は末政川の上流ではなく、西の町の方向から川に直角に大量に流れてきて、堤防を横切って新たな川ができていた、ということです。映像も見せてくれました。この点については県や国は「未確認」と言っています。
いずれにしろ、溺死者が出るほどの緊急に大量の水を供給したのは小田川本流の水、それも高馬川と小田川の交差部分の流出だろうと思われます。7月6日の晩から7日の早朝にかけて、急速に水位があがり、逃げ遅れがたくさん発生してしまったようです。今、国のほうでも「堤防委員会」をつくっているようですが、私たちなりの意見をもちたい、ということでの視察でした。
また今回の地元のテレビ局から取材をうけ、その記者会見でも申し上げましたが、これまで「たとえ河川が氾濫しても命を失わないような水害対策」が重要である、ということを申し上げました。まずは、河川が氾濫しないような対策、それには水位をさげるダムは一定程度有効ですが、ダムが想定する水量を越えた時には、堤防を越えてしまいます。そのためには、水がこえても崩れない、「ねばり強い堤防」づくりが重要です。また今回の浸水場所は、すでにハザードマップで予告的に示されていた領域とほぼ重なります。つまりハザードマップに従い避難していたら人命被害はかなり防げたはずです。
鬼怒川で2015年9月10日、200メートル破堤した時のことを大熊さんも今本さんも、上流部に数千億円かけてダムを4つ造ったけれど、堤防補強は全くしていなかった、と言っておられました。「たとえ河川が氾濫しても命を失うような壊滅的被害をうけない対策として堤防強化が重要」ということです。
豪雨が増えている今の日本で必要な治水対策は、「いかなる大雨でも命を失わない治水政策」であり、ダムだけに頼らない、堤防強化や流域での避難体制、土地利用、建物配慮など、「ながす」「ためる」「とどめる」「そなえる」の多重防護の流域治水政策が今後必要な追加的政策と思います。研究者としてまた行政責任者として力をいれてきた、その関係のものが集まった視察でした。今日は、まずその入口の報告です。
今回視察に同行してくだった国会議員の皆さまも、この点について国会でも議論をもりあげたいと言っておられました。日常生活の中での生活者視点を踏まえた災害予防から、発災後の被災者支援から復興までを視野にいれた、「ダムだけに頼らない堤防強化」「住民が住む流域での避難体制」「土地利用や建物づくりへの配慮」をふくむ流域治水政策、横串をさすことができる「防災省」の提案をして下さると思います。
これまで、国土交通省や各自治体の水害対策の努力がかなり被害を減少させる効果を出しているとは思いますが、これまでのように「想定」外の大きな洪水にはこたえきれず、「想定外」として、無視しつづけることはできません。今こそ、明治以降150年来の河川政策を大きく転換していく時期とおもいます。
そうしなければ、今回、自宅で居ながらにして命を落としてしまった真備の皆さまの犠牲が無になってしまいます。(その2)はその点について詳しく報告させていただきます。長い文章におつきあいいただき恐縮です。
(写真提供:草島進一、小坂育子さん)
今晩から海外調査にでます。短期間ですが、「放送大学」の「レジリエンスの科学」という番組づくりのため、モンゴルでの災害対策関連調査をさせていただきます。