Facebook 2018年8月31日

今日8月31日、日本全国で秋雨前線による大雨と雷が猛威をふるいました。皆さまのところでは被害はなかったでしょうか。「水害多発時代の治水政策はいかにあるべきか?」チームしが県議団主催の緊急勉強会を8月27日に開催。そのエッセンスをまとめさせてもらいます。8月31日。(また長いです、ごめんなさい)。

「山川草木悉皆(しっかい) 成仏」というアニミズム的な神仏集合の「1000年の日本人の自然観」に根差した河川政策を語る大熊孝さん、治水の想定水量を定量化する近代「100年の治水政策」の限界を語り続ける今本博健さん、人が暮らす地域政策の権限求めて流域治水のための「新たな法的仕組み」が必要と「今からの変革」を訴える瀧健太郎さん、70代の大御所のおふたりの理念を40代の若手実践学者が、法的かつ実装的な出口を提示する大変実のある会合でした。討論には中学二年生の関純くんが発言。まさに三世代の勉強会でした。

「基調講演」は、新潟大学名誉教授の大熊孝さんの「日本人の伝統的自然観と温暖化時代の治水のあり方」、「講演①」は京都大学名誉教授の今本博健さんの「なぜ今“非定量治水”への転換政策が必要なのか?」「講演②」は元滋賀県職員で、今滋賀県立大学准教授の瀧健太郎さんの「滋賀県の流域治水が求めた減災型治水システムの社会実装とその課題」でした。「全体討論・質疑応答」では「逃げ遅れゼロ、被害の最小化を実現するため、県民・行政は何をするべきか?」 柴田智恵美チーム県議団会長と嘉田由紀子が進行しました。

大熊孝さんは、もともと日本人は縄文時代から江戸時代まで「自然と共生する思想」をもっていたのが、明治時代以降、近代的科学技術を武器に、自然を支配し、その恵みを収奪し、克服する社会となった。現代はその近代思想が全国民にほぼ浸透し、自然からかい離することを居心地がいいと感じる人が多くなった。もう一度、人間はこの地球で活かされている“うしろめたい”存在であることの自覚が必要ではないか、と訴えました。

具体的には、川とは、山と海とを双方向につなぐ地球における物質循環の担い手であり、ダムは川の物質循環を遮断する川にとっての「敵対物」でしかない。技術には私的段階の小技術から、共同体的な中技術、公共的段階の大技術があり、小中技術は維持管理で長期間対応できるが、ダムのような大技術は維持管理フリーを前提としており、100年を超えるのは難しい。ダムは未来に負債を残す。大技術ばかりに依存した結果、2004年7月の新潟水害のように上流のダムが溢れて下流の堤防を決壊させ、真昼間に家の中で高齢者が溺死するような被害者を出してしまう。

これからの技術は、特に最近急速に進歩した堤防強化の技術と多量の工学機械を駆使して、越流しても破壊しない堤防強化法を採用するべき。治水の王道は堤防にあり!西日本大水害で51名の死者を出した倉敷市真備地区の小田川視察の結果、100メートルもの長さで一挙に決壊した堤防が強化されていたら、あんなに多数の死者は出なかったのではないか、と悔やんでいました。

今本さんは、河川の中で閉じ込めるべき水量を決めて、ダムなどの施設をつくる「定量治水」は、決めた水量以上の雨が降るととたん守れなくなること、それに比べて「非定量治水」は堤防を強化して堤防天端までながし、どんな大雨にでも対応できるしぶとさをもつ。あわせて、定量治水によるダム建設は長期間をかけてダムが完成しないと1センチたりとも水位を下げる効果がないが、非定量治水は財政規模などと相談しながら、段階的に安全度を高めることができる。また大雨時のダムは今回の西日本豪雨の愛媛県内のダムのように、満水になると「異常洪水時防災操作」にはいり、急激な放流などで危険を増すことさえある。

瀧さんは、近代の治水計画は今、洪水多発時代をむかえて大きな転換点を迎えており河道だけに閉じ込める河川計画ではいざ氾濫した時の被害を避けることができないので、氾濫を前提とする洪水政策が必要であることを主張。しかし河川法では氾濫原管理は義務化されていないので、滋賀県がすすめてきたような「流域管理計画」をつくり、川の中の対策に加えて、川の外での対策が必要となる。川の外では「都市計画法」による土地利用規制や、建築基準法による建物のかさ上げ推進など、「ながす」対策にくわえて、「ためる」「とどめる」「そなえる」という多重防護の仕組みがつくれる。それが流域治水条例だ。

実は多重防護の仕組みは滋賀県ではこれまでもすすめてきた、という。たとえば伊勢湾台風直後の昭和35年の天野川の河川工事の例でも、彦根藩時代の霞堤防(部分的に低い堤防を残しあえて水田などにあふれさせて住宅地等を守る)を残したという新聞記事の証拠を提示。(実は、ここでは紹介されなかったが、天野川では新幹線建設が計画されていたやはり昭和35年頃、地元住民の要望で川を横切る新幹線の盛土工法から橋げた工法に変更を強く求め、当時の国鉄を説得した。というのも線路が盛土だと、万一川が氾濫した時に、線路上流部の集落に水が溜まってしまうからだ。)

瀧さんが、今回の岡山の真備の例も頭におきながら、「氾濫時に浸水深が大きくなる地形」としてまとめている図はわかりやすい。危険かどうかは地形できまる。だからこそ、道路や線路などを造る時にも、水の流れを意識しよう、という。これは河川、土地利用、道路など縦割りの行政ではできない。横串がさせる自治体ならではの特技です。

最後の討論では「逃げ遅れゼロ、被害の最小化を実現するため、県民・行政は何をするべきか?」のテーマで、最初に嘉田から倉敷市真備町での溺死者が多かった要因のひとつとして、水害常襲地に新興住宅をつくりながら水防が脆弱化してしまった社会的背景等を解説。

いくつかの質疑の後、最後には大津市内の中学校2年生の関純君が、つい最近の豪雨の時に「避難勧告情報」が何度かだされたが、くりかえし出されると避難を促す効果が弱くなるのではないか、という大変大事な質問をしてくれました。これには瀧さん、今本さん、大熊さん、それぞれに、自分自身で危険性を認識して、自己判断できるような学びと力をつけよう、と呼びかけてくれました。

 

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