令和元年十一月二十八日(木曜日)法務委員会(参考人質疑)
○委員長(竹谷とし子君) 参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
会社法の一部を改正する法律案及び会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の審査のため、本日の委員会に東京大学大学院法学政治学研究科教授藤田友敬君、日本大学法学部教授大久保拓也君及び脱原発・東電株主運動世話人木村結君を参考人として出席を求め、その意見を聴取することに御異議ございませんか。
【略】
○参考人(藤田友敬君) 東京大学の藤田でございます。
本日は、この委員会にお招きいただき、意見を述べさせていただく機会を与えられたことにつき感謝いたします。
今回の会社法の一部を改正する法律案、以下改正法案と呼ばせていただきますが、これは、法制審議会において本年一月十六日に採択された会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱に基づき作成されたものと理解しております。私は、この要綱の作成のために設けられた会社法制(企業統治等関係)部会において、委員として議論に参加させていただきました。もちろん、個々の論点につき、個人的な意見がないわけではございませんけれども、なかったわけではございませんが、最終的には要綱全体について採択に賛成しており、したがって、この改正法案による会社法改正が成立することを期待しているものであります。
平成十七年に制定されました会社法は、他の法律の改正等に基づく技術的な修正を除きますと、平成二十六年に一度改正され、今回は二回目の大きな改正ということになります。前回の改正では、取締役会改革やグループ企業のガバナンスといった重要なテーマを取り扱っておりましたが、今回の改正法案も、株主総会の規律、取締役の報酬や責任に関する規制等、我が国の企業や投資家、さらには資本市場の在り方にとって大きな意義を持つ内容を含んでおります。
今回の改正法案の提案理由は、「会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図るため、」と述べてありますが、会社法制は、企業社会が健全に発展するための重要な制度的インフラの一つであり、時代と社会の要請に応じ、絶えず適切にメンテナンスしていくことが求められるわけで、今回の改正もまさにそのような試みの一つです。
ただ、ここで一点だけ注意していただきたいことがございます。会社法は、企業組織や資本市場を支える重要な制度インフラの一つではあるのですが、決して唯一のものではございません。例えば、上場会社の規律には金融商品取引法が重要な役割を果たしております。金商法は、内部者取引や相場操縦規制のように資本市場の秩序を維持する規律も行っていますが、同時に、最近では、議決権行使結果の開示ですとか役員報酬の開示に見られるようなコーポレートガバナンスをめぐる重要な規制ツールでもあります。
また、最近では、ソフトローと呼ばれる規制の意義も強調されています。ソフトローは、会社法や金商法のようなハードローとは異なり、国が作成し、国がエンフォースするような規範ではありませんが、近年、コーポレートガバナンス・コードですとかスチュワードシップ・コードといった重要なソフトローの存在感が増してきております。このように、企業組織あるいは資本市場の在り方を支える重要な制度的インフラとして会社法以外にも重要なルールは存在しており、会社法はそれらと合わさって適切な結果がもたらされることが期待されているものであります。
このように、ソフトローとハードローの間、あるいはハードローの中でも会社法と金商法の間のすみ分け、役割分担、こういったことは会社法制部会の議論でも常に意識されてきたところであります。改正法案の条文だけを見ると何か物足りないというふうに思われることがあっても、それは規制なく野放しにせよという趣旨ではなくて、ソフトロー等による規制を期待しているという場合もあるということに御留意いただければと思います。
以上は改正法案全体に係る意見でしたけれども、以下では、主要な改正事項についてごく簡単に述べさせていただければと思います。お時間の制約もございますことから、今回の改正の中でも中心的な内容となっております株主総会関係と取締役関係を中心にお話しさせていただければと思います。
まずは、株主総会関係です。
株主総会関係の第一の改正点は、株主総会関係資料の電子化であります。
現在の会社法の下では、株主総会の招集通知と一緒に、書面による議決権行使のための必要な参考書類等が併せて郵送されております。今回の改正法案は、これらの書類、条文では株主総会参考書類等というふうに呼んでおりますが、これについて電子提供すればよい、典型的には、ウエブサイトで株主総会参考書類等を掲載し、招集通知にはアクセス方法を記載すればよいという形にしております。もちろん、現在でも、ウエブサイトに株主総会参考書類等を掲載している会社はかなりの数あると思いますが、それをしても、別途書類は郵送しなければならないとなっていたところを、そうしなくてもよくなるわけであります。
同時に、会社法案は、電子化に対応できない株主についても配慮をしております。書面交付請求権というのを認め、株主が今後も書面で株主総会参考書類等を下さいと会社に請求すれば、書面での提供が保障されるということにしております。
改正の意義には、一つには費用の節約、会社にとっても社会にとっても無駄な紙を減らすということは望ましいことではありますが、それに加えて、電子化により印刷の時間が節約できると情報がアップされる時間が早められ、総会への準備がより充実することにもつながります。また、書面の郵送にこだわると、送ることのできる情報に質的、量的な制約が生じるところ、電子提供を認めれば、より充実した情報開示につながる可能性もあります。
なお、念のために付言しておきますと、今回の改正法案が提案しておりますのは株主総会関係資料の電子化でありまして、株主総会それ自体を電子的に行い、物理的な意味での会合は存在しない、いわゆるバーチャル総会ですとか、あるいは株主が電子的に総会にアクセスし、質問したり議決権を行使したりするという話は取り扱われておりません。こういった問題、重要じゃないというわけでは決してないと思うのですが、ただ、こういった問題についてハードローである会社法で規制するのはいまだ時期尚早と考えられ、まずは書類の電子化という手堅いところから法制化しようとするものと考えられます。
株主総会関係では株主提案権についても取り扱われており、具体的には、提案数の上限規制が設けられるように提案されております。株主提案という制度は諸外国にもあるのですが、その場合、提案株主は、自分の費用でその提案を他の投資家に知らせ、委任状を取り付けるという形で会社に対抗するのが通常であります。これに対して日本の株主提案は、提案株主は、一定の要件の下、会社の費用で議案の要領を他の株主に通知してもらうように求めることができることとなっており、その意味で手厚い保護が与えられていることになります。
しかし、総会直前に膨大な数の提案が、提案権が行使されますと、会社としては、要件を満たす提案がどれで、そうでないのはどれかといったことを区別する作業などが大きな負担になってきます。また、総会当日も、特定の株主の提案が株主総会の相当時間を占めてしまうという事態も生じ得ます。
実際、こういったことが、会社、さらには、より重要なことには、提案株主以外のその他の株主の共同の利益を害しているのではないかということが問題視されるような事件が現実にも起きてしまいました。この改正法案は、それに対する規制を導入しようとするものと理解しております。
次に、取締役関係です。
第一は、取締役の報酬等です。
役員報酬の規制は、世界的にもコーポレートガバナンスの中心課題として注目されております。日本の会社法は、定款で定めない限り株主総会決議を要求するという点では、例えばアメリカ等に比べると報酬規制が一見厳しそうにも見えるのですが、求められる決議内容は、例えば金銭報酬の場合は、取締役全員の報酬総額の合計の上限だけを決めればよく、また、総額を変更しない限りは、取締役が入れ替わっても決議し直す必要はないなど、やや形式的な規制になっている面はございます。
改正法は、取締役の個人別の報酬等の決定方針を取締役会で定めることを要求しております。背後にある問題意識は、適切なコーポレートガバナンスという観点からは、会社から出ていく金額の総額だけではなく、誰にどのような性格の報酬をどのような形で与えるのかということこそが重要なので、この点についての方針をきちんと決めさせようという、そういうことなのだと思います。
次に、取締役の責任との関係で、会社補償及び会社役員賠償責任保険という制度が提案されております。
会社補償というのは、会社の業務執行に当たって役員等が第三者に対して責任を負った場合、一定の要件の下、会社から補償を受けるというもので、改正法案はその旨の契約を締結することを認めております。諸外国では割とよく見られるものなのですが、日本の現在の会社法には会社補償制度は存在しません。ただ、民法六百五十条三項に基づいて、会社に対して一定の場合請求する可能性があるにとどまります。
そこで、今回の改正法案は、会社補償制度を新設し、一定の内容の補償契約の締結を可能にし、かつ、そのための手続を整備すると同時に事後的な開示を要求し、透明性を確保しようとしております。
注意していただきたいのは、役員等の対会社責任の免除、軽減についての厳格な規制が形骸化しないように改正法案は留意しているということであります。具体的には、問題の取締役等の行為が、第三者に対する責任に加えて会社に対する責任をも惹起し得るものである場合には補償契約の対象とはならない、補償の対象にはならないとしていることであります。
次に、会社役員賠償責任保険は、一般にはDアンドO保険などと呼ばれておりますが、これについて、会社が保険契約を締結する場合の手続や開示に関する規制の導入が提案されております。
時折誤解が見られるのですが、これは、今回の改正によって初めて可能になるというものでは決してございません。DアンドO保険は、既に我が国においてもかなり広く利用されております。しかし、現在の会社法にはこれについての規定が存在しておらず、締結のための手続も必ずしもはっきりしません。
改正法案の性格は、これまでできなかったDアンドO保険の利用を可能にするといったものではなくて、むしろ、既に存在するDアンドO保険について、その締結のための手続を明確化するための規律を置き、これに加えて、事後的に開示を要求することで透明性を高めるというものです。あえて乱暴な言い方をさせていただきますと、規制を強化するといった性格のものと理解すべきだと考えております。
最後に、社外取締役について二点ほど提案がなされております。
第一点は、社外取締役の設置強制であります。
平成二十六年改正の際には、議論の末、設置強制は見送られたのですけれども、今回設置強制を導入したのは、会社法というハードローで社外取締役の設置を確保することが、我が国の証券市場への信頼を高めるために望ましいという考えからだと理解されます。
また、社外取締役への業務執行の委託という条文も提案されております。
社外取締役は業務を執行してはならず、業務執行すると社外性を失うというのが現在の法制であります。しかし、社外取締役が行うにふさわしい業務もあるのではないかということが、近時、指摘されるに至っております。
例えば、いわゆるマネジメント・バイアウト、MBOの際に、一般株主を保護するために社外取締役を中心とした特別委員会を設置し、そしてその特別委員会によって条件の向上を図るといったことがなされることがしばしば見られるわけでありますが、その委員会の長である、特別委員会の長である社外取締役が買収者と価格交渉をして買収価格を上げるように努めるといった活動が典型であります。しかし、これは業務執行に当たる可能性がありますので、現行法の下では、社外取締役が行うことはできないのではないかという疑念があるわけですが、実質としては、まさにこれは社外取締役が果たすべき役割ではないかと思われます。そこで、改正法案では、こういったことを可能にするために、限定された範囲内ではありますが、社外取締役に対して業務執行を委託することを認めることとしております。
以上のコーポレートガバナンス関係の改正のほかに、改正法案では、社債に関する改正、あるいは株式交付と呼ばれる新しい名称の制度の新設も提案されております。これらが決して重要ではないというわけではありませんが、多分に技術的な性格が強い改正であるために、私の意見陳述では省略させていただければと思います。
以上、今回の改正法案における主要な改正事項、とりわけコーポレートガバナンスに関わる改正点について意見を述べさせていただきました。膨大な改正条文について短時間でお話しさせていただくためにどうしても話が大ざっぱになり、しかも相当早口になってしまい、申し訳ございませんでしたけれども、以上で私の意見陳述を終えさせていただきます。
どうもありがとうございました。
○委員長(竹谷とし子君) ありがとうございました。
次に、大久保参考人にお願いいたします。大久保参考人。
○参考人(大久保拓也君) ただいま御紹介いただきました日本大学法学部教授の大久保拓也です。
これまでに、取締役の報酬ですとか責任に関する規制を中心に研究をしてまいりました。この度は、会社法それから整備法の改正案について意見陳述を行う機会をいただきました。改正会社法に関して、気になる幾つかの点について意見を述べたいと思います。
お手元には、企業法実務研究会の意見書といったものと私のレジュメを配付させていただきました。この企業法実務研究会は、民商法の研究者や実務家が所属する研究会におきまして、改正会社法に関する意見書をまとめたものとなりまして、法務省に提出した後に雑誌に掲載をしていただいたものとなります。参考までに御覧をいただければと思います。今回の参考人としての意見につきましては、この研究会における意見を踏まえながら、若干の問題点を指摘をしていきたいと思います。
改正法案の評価となりますが、今回の改正法案は、社会経済情勢の変化に伴い、株主総会に関する手続の合理化、社外取締役の設置の義務付け等のコーポレートガバナンスの改善のための規律の見直し、社債の管理の在り方の見直しの要否を検討することなどが求められており、そこから審議が行われてきたとされておりますので、上場会社向けの規制というのが改正の中心に据えられていることかと思います。
そのうちの一つが株主総会資料の電子提供制度になりますが、この電子提供制度については、評価すべき改正ではないかとは思います。これは、株主総会の資料をウエブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面により通知することで株主総会の資料を株主に電子提供する制度を創設するものであります。
現行の会社法においては、株主総会の資料の提供は原則として書面によることとされ、インターネットによる提供をするには株主の個別の承諾を得るということが求められますので、株主数の多い上場会社にとって、資料の印刷や郵送のコストが掛かっていたという問題があります。
ただし、インターネットの提供ということになりますので、いわゆるデジタルデバイドの問題というものを考慮しなければならないということはあったかと思います。
これに対しまして、改正法案では、郵送等のコストを減らすとともに、株主には、現行と同じかより早い、二、三週間ほどですけれども、より早い情報提供を受けることができるというような仕組みを設けるということにしております。また、資料の提供を希望する株主には書面交付請求を認めています。これらの措置がとられるということに鑑みますと、この改正というのは妥当な改正ではないかと思います。
次に、取締役の報酬に関する規律の見直しというのが改正法案の一つの課題となっておりますけれども、これについても妥当な改正だと考えております。
現行法では、上場会社であっても、報酬の決定方法、機関法制によりまして決定方法に違いが見られるということになります。指名委員会等設置会社では、個人別の報酬の内容を報酬委員会で決定しますが、それ以外の会社では、個人別の報酬の内容まで決定することが求められてはおりません。これは、日本の会社法が中小会社から公開大会社まで会社法一本で規制をしており、報酬の詳細な開示を望まない中小会社にも配慮したといったことが影響しているのかとも思います。もっとも、外国人株主の増加もありまして、公開大会社、特にグローバル企業におきましては、報酬の開示や決定方針の明確化をすべきだという要求が求められてきております。
そこで、会社法の改正案では、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められていないときには、一定の監査役会設置会社と監査等委員会設置会社の取締役会は、取締役の個人別の報酬等の決定方針を定めなければならないものとし、これを開示することを求めています。こういった改正が行われれば、報酬の開示が現行に比べますとより充実することが見込まれます。
このように、改正法案には評価すべき点が多数見られます。ただ、理論的に幾つかの問題もあるのではないかというふうに思います。時間の制約もありますので、ここでは三点ほど問題点を指摘をさせていただければと思います。
一つ目が株式報酬についてとなります。
改正法案では、株式や新株予約権を取締役に対するストックオプションとして交付しようという場合の規制を整備しようとしております。現行法では、新株予約権について、その行使に際して必ず財産の出資をしなければならないため、実務上、行使価額を一円として、実質的に出資をせずに、出資を要せずに新株予約権を交付するといったことが行われてきています。
このように、ストックオプションに係る出資について金銭の払込みをしないか、払込金額を極めて低い金額とすることは、労務出資と同じような状況が生じているというふうにも思われます。労務出資は、合名会社、合資会社の無限責任社員には認められていますけれども、その他の合資会社、合同会社の有限責任社員は金銭等の出資しか認められていませんし、株式会社についても、金銭その他の財産の出資を前提としているということになりますので、ストックオプションを報酬等と位置付ける場合の規定がこの会社法の改正案には盛り込まれるということにはなりますけれども、理論的には、どう位置付けるか、法的に位置付けるかについての疑問は残っているのではないかと思われます。
二つ目に、株主提案権についてということになります。
改正法案では、株主提案権について、目的等の制限と議案数の制限を提案しておりました。目的等の制限につきましては、さきの衆議院の検討によって、この条項については削除されたということでございますが、議案数の制限の問題というのはまだ残っているのかと思われます。
この株主提案権のうち、議案要領の通知請求権については、取締役会設置会社の株主の提案が十を超える議案について議案要領通知請求権を認めないこととし、提案できる議案の数を十個に限定しようとしております。この改正案が示されたのが、一部の株主により膨大な数の議案が提案された場合や株式会社を困惑させる目的で議案が提案された等、近時の濫用的な行使事例に鑑みて改正するということが会社法の検討の中で示されていたところです。
もっとも、そこで取り上げられた事例がごく一部の特定の株主による行使事例でありまして、その対象会社は、行使者が創業者一族であったといったような特殊な事例であったということにすぎません。こういった一部の特殊な事例を根拠として株主の重要な権利である株主提案権の行使が制限されるというのは、立法の在り方としては妥当とは言えないようにも思われます。
もっとも、このような対策では不十分であり、濫用に対する懸念はあるということは理解することはできます。
同様の懸念で、かつて立法においては、平成五年の株主代表訴訟の改正においては、取締役の違法行為時の株主であったか否かという行為時株主原則といったものを検討されたことがありましたが、その導入は見送られたということがありますが、濫用の懸念から権利行使を行わせないといった仕組みの導入にはやはり慎重であるべきではないかというふうに思います。そういった点を考慮するには、制度の導入の趣旨に立ち返って検討するということが必要ではないかと思います。
元々、株主提案権は、昭和五十六年に株主総会活性化の一つの方法として導入されたものですが、株主提案権の濫用が懸念される、特に上場会社などにつきまして、取締役会の設置が求められる会社については、百分の一以上の議決権又は三百個以上の議決権を六か月前から引き続き有する少数株主に限定されるというふうにしています。
少数株主とされていますが、かつての株主運動、一株運動といったような株主などとは異なり、現在、この上場会社でこういった行使要件を満たす株主というのは、実際には大株主と見るべき数の株主ではないかとも思います。また、中小会社であった場合ですと、経営権を握っていない大株主が行使するといったことが考えられるかと思います。
こういった権限の濫用防止策として、議案が法令、定款に違反する場合、実質的に同一議案について一定の賛成を得られなかった日から三年を経過していないという濫用防止策も現行法でも定められているということもあります。
また、今回の改正では、招集通知の印刷等に関するコストの増加も予定されているところですが、改正法案では、株主総会資料の電子提供制度を採用する会社については、その電子提供をすることで対応することができるものもあると考えられます。
そういったところを考慮しますと、株主提案権が創設された趣旨というのを考慮しまして、現在ではこの株主との対話というものが求められる最近の社会情勢に鑑みて、議案数の制限を付ける必要性も乏しいのではないかとも思います。
三つ目は、株式交付の制度となります。
現行法において、対象会社を完全子会社にしたい場合の制度としては株式交換制度があります。もっとも、対象会社を買収しようとするものの、対象会社を完全子会社化と、子会社とすることまでは望んでいないという場合もあります。
改正法案では、株式交付という買収の手法を新たな組織再編行為として新設しようとしています。株式交付とは、買収会社が対象会社を子会社とするために、対象会社の株式を譲り受け、その株式の譲渡人に対して対価として買収会社の株式を交付するという、そういう制度となります。
この方法を現行法の下で行う場合、買収会社が対象会社の株式を現物出資財産として買収会社の株式を発行しなければならず、そういった場合には検査役の調査が必要となるといったために、手続的な時間が要するという問題点があるという指摘がされております。
そこで、言わば部分的に株式交換制度を導入するといった位置付けで、株式交換制度に倣い株式交付制度を導入している、こんなふうに考えられるのではないかと思います。
もっとも、株式交換制度は、持ち株会社の創設、つまりは結合企業を形成する手法として導入されたものですが、株式交付制度はそういった理念に基づくものというわけではないのではないかとも思います。対象会社の株式を現物出資財産とする規制を避けるために、株式交換制度になぞらえた制度としたものではないかとも考えられます。
現物出資規制は資本充実規制の一環として重要な役割を果たすものであり、出資財産の評価というところが問題となります。その厳格な規制を回避する手法として株式交付制度が導入されるということであるとすれば、妥当ではないのではないかとも思います。また、改正法案が実現された場合であったとしても、この現物出資規制の適用範囲といったところ、そういったところをやはり理論上明確にするということが求められるのではないかなというふうに考えているところです。
その他にも多数の改正事項というのがありますけれども、時間の関係がありますので、私の意見は以上となります。御清聴ありがとうございました。
○委員長(竹谷とし子君) ありがとうございました。
次に、木村参考人にお願いいたします。木村参考人。
○参考人(木村結君) 御紹介いただきました木村結と申します。本日は、参考人としてお招きいただき、ありがとうございます。
私が所属しております脱原発・東電株主運動について、少し御紹介をさせていただきます。
一九八六年にチェルノブイリ原発事故が起こり、八千キロも離れた日本でも、農作物が三百七十ベクレルという高い基準値を超えました。その三年後、昭和天皇が亡くなったニュースに隠れて報じられたのが、福島第二原発三号機の大事故でした。回転板が脱落して警報器が鳴り響いても運転員は原発を止めず、大惨事になる直前でした。
子育て中の私は、情報公開を東京電力に求めましたが、東電は全く応じてくれませんでした。そこで、友人たちに声を掛けて東電の株を買い、株主総会で情報公開を求めることを思い立ちました。当時、東電株は単位株で百株で五十九万円もしておりましたので、私は借金をして百株購入いたしました。一九九一年には、二百四十九人、三万七千三百株集まり、株主提案権も行使できるようになり、その後、二十九年間連続して提案しております。原発を有するほかの八つの電力会社でも同様の株主運動があり、活動し、交流を図っております。
二〇一一年の福島第一原発事故直後の東電株主総会には九千三百人もの株主が総会に参加、用意された六つの会場から人があふれました。口々に、国民の代表として参加した、株主として黙ってはいられないとの怒りの声が充満していました。
大企業、特に国民の生活、安全に大きな影響を与える医薬品や原発などを扱う企業は社会的責任も大きいと考えています。その企業経営を監視する株主としての役割も私たちは大きく担っているんだと思って活動しております。もちろん、全て自前の費用で活動しており、この活動に関してどこからも報酬をいただいておりません。私自身、一般企業で働きながらこの活動を続けてまいりました。
午前中も実は今日傍聴させていただきましたが、会社は社会の公器であるという言葉を何人もの委員の方々から御紹介がございました。その都度、私は、私たちも本当に同じように思って提案をしているのだということを今日もお話しできるというふうに思っております。詳しいことは後ほどお話しいたします。
先日、衆議院の法務委員会において、私たちの主張を尊重していただき修正案が出され、全会一致で可決していただきました。このことにはとても感謝をしております。しかし、この会社法の一部を改正する法律案にはまだまだ多くの問題点がございますので、指摘させていただきます。
まず一つ目は、三百五条の四項です。本条項は、株主が同一の株主総会で提案することができる議案の数を制限するものですが、このような改正の必要性を根拠付ける立法事実はないと思われます。過去三年間を、商事法務という雑誌で資料編で調べましたが、三千五百社ある株式会社の中で株主提案が行われたものは、二〇一七年五十二社、二〇一八年五十八社、二〇一九年で六十五社と、微増はしておりますがたった二%未満です。一人で十件を超えての提案は三年間でたった七件、七社のみです。株主提案の数を制限する理由は見当たりません。
会社全体で最も提案数が多い関西電力においての事例を述べてみたいと思います。
二〇一九年、脱原発へ!関電株主行動の会が八件、京都市が五件、大阪市が八件、うち京都市との共同提案が四件、他団体が四件、合計の二十一件でございました。この京都市も大阪市も御存じのように脱原発提案でございます。しかし、共同提案をするなど、大阪と京都はですね、共同提案をするなど配慮がなされており、ほかの団体も節度を持った提案数を維持しています。
いたずらに多くの提案をしたのは、株主提案権が成立してから三十九年間でたった一件、百件を超えたものは一件ですね、二〇一二年の野村ホールディングスしかありません。午前中には小出さんが、課長ですか、が二件ほど六十件を超えた事例を述べていらっしゃいましたが、その中でも、六十件を超えても、会社がそれを提案として受理するのはその中の十件とか数件にとどまっております。
更に付け加えると、関電においてもほかの電力会社でも、株主の発言は三分に制限されております。株主総会に要した時間は、最長の関電の三時間四十七分、これは二〇一九年のデータです。ほかでも、三時間を超えるものは、三年間で二〇一七年の東電の三時間四分のみでございます。いたずらに長引かせるとか、そういうことはほとんどの株主提案ではありませんし、議論を、会社の方が発言を非常に制限をして株主総会を早く終わらせようというふうにしております。それが事実でございます。
以上のとおり、そもそも立法事実がなく、会社側の恣意的な判断が予想される本条項は、削除をしていただくよう願います。
二点目、三百十一条ですね、書面による議決権の行使に移ります。
株式会社は、議決権行使書の閲覧請求を拒否することができる例として、調査以外の目的で請求を行ったとき、請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき、請求者が前項の電磁的記録に記載された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益をもって第三者に通報するため請求を行ったときとしていますが、上記に該当するようなことがこれまで起こったということを承知しておりませんし、具体的にどのような場面を想定されているのかも不明でございます。立法事実も存在しないのではないかと思われます。
私たち九団体は、株主提案をした後、各々の電力会社の本店にて議決権行使書の閲覧謄写請求をし、二日から数日掛けて手書きで書き写す作業をしています。時間が掛かるのはコピーが許されていないからです。そこには電力会社の社員が交代で見張り役に付きます。個人情報を開示しているのですから当然ですが、それが会社の業務の遂行を妨げていると判断されたら拒否できることになります。
さらに、ここにも株主の共同の利益という文言は残っており、少数株主が賛同者を募る行為が共同の利益を害すると判断されたら拒否できてしまいます。衆議院法務委員会での削除と平仄を合わせるべきだと思います。
知り得た事実を利益をもって第三者に通報とは、例えば、○○社は原発再稼働に賛成票を入れた会社だから不買運動しましょうと呼びかける行為は含まれてしまうのでしょうか。曖昧な表現がそこかしこにちりばめられており、会社が恣意的に解釈できる条文はふさわしくありませんし、具体的な事件を列記されないなら、立法事実がないと言わざるを得ません。
三つ目に、第二編第四章第一節の三款、三百二十五条の二から七まで、電子提供措置について申し上げます。
電子化は避けられない課題だとは思いますが、運用に当たっては、移行期間を五年間設けるなどの措置が必要と考えます。
条文では書面交付請求ができることになっており、はがきが送られ、そこにはメールアドレスが記載されているとの説明がありましたが、電力株で考えてみますと、昔から安定株で配当も良かったために資産として代々受け継がれている方が多く、所有者も御高齢の方が多いのが実情です。メールアドレスを打ち込み的確に返信できる方がどれほどおられるでしょうか。
十年前、株券の電子化に伴い証券保管振替機構、保振機構が設置され、株主提案権を行使するためには、それまでは提案株主になる合意書にサインと押印をすれば事足りましたが、十年前から証券会社に当該株を所有しているという証明をしてもらう必要があり、その手数料を一回につき三千二百四十円、今は三千三百円になりましたが、支払わなければならない証券会社もあり、今それは、手数料を取る会社は増加しています。
手続も煩雑で、国で決められた期間内、四週間で手続を終えなければいけませんが、その手続をスムーズにやってくれない証券会社も多々あります。そのため、二〇〇八年には四百九十六人、三十三万六千株の賛同があった東電株主運動の提案が、電子化に伴う手続を嫌って、二〇〇九年には二百八十三人、十七万四千八百株と半減しました。移行期間を設けていただくよう、切に望みます。
また、三百二十五条の五、一項では、電子提供事項について書面交付請求ができる旨の定めがあるものの、同三項では、株式会社は、電子提供措置事項のうち法務省令で定めるものの全部又は一部について、前項の規定により交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができるとしています。さらに、同四項では、書面交付請求をした株主の権利は一年で消滅し、書面交付を希望する株主は毎年その請求をしなければならないことになっております。これでは会社の事務負担の軽減ばかりが重視されており、インターネットの利用が困難な御高齢の株主等に対する配慮が十分になされているとは言えません。
現状をお話しすれば、株主提案とその説明は、一提案各四百字にまとめて株主招集通知に記載されます。株主の手元に届く書面でじっくり検討して、同封の議決権行使書に賛否を記入し投函するというこれまでの株主の権利が大きく阻害されることになりかねません。
四番目として、第四百三十の二及び四百三十の三です。補償契約及び役員等賠償責任保険契約について申し上げます。
役員等賠償責任保険契約については、国内外の優秀な取締役招聘のため、既に各社の取締役会で決定し、行われているとのことですが、そうであれば、会社法で改めて規定する必要がどこにあるのでしょうか。
企業の社会的責任を考えるとき、取締役には緊張感を持って執務に当たっていただきたいと思います。取締役が法令違反を理由に第三者から訴訟を提起された場合に、会社が取締役の裁判費用等を補償する契約を締結できるとされていますが、取締役に悪意があっても重過失があっても会社の資金でこのような裁判費用が補償されるというのは、優秀な人材を国内外から確保するためという目的から大きく逸脱しています。
悪意のある、重過失を犯すような人材に高給を支払い、その取締役が法令違反を犯した際に裁判費用等を補償することが会社の利益や発展につながるとはとても思えません。むしろ、悪意や重過失がある場合にまで補償を認めてしまうことは、違法行為に手を染めてでも目先の利益を上げようとする誘惑を誘うことになりかねません。取締役個人が自分で費用負担すべきものであります。
最後に。私が初めて東電の株主総会に出席した際は、東電の本店の二階で二百名ほどの会議室でした。総会屋とおぼしき人たちが居並び、ほかは下請や社員OBでした。質問の声はやじと怒号でかき消され、とても一流会社で行われていることとは思えませんでしたし、恐怖すら感じました。私たちが参加し、提案権を獲得してからは、日比谷公会堂で開催するようになりましたが、取締役が並ぶひな壇の前には警備会社の制服を着たガードマンが並び、株主から役員を守っていました。総会屋は幅を利かせていましたので、私たちもとても恐ろしく、株主提案席を特別に確保してもらい、身を守りました。
私たちが株主提案ができるようになったのは、一九八一年に商法が改正されたおかげでございます。その趣旨は、形骸化している株主総会を民主的に運営するため、株主が意見を発表し合い、ほかの株主や会社や取締役と相互に信頼関係を築くためでした。三千五百社で株主提案が行われているのはたった六十五社、二%に満たないのです。まだまだ改革の道半ばです。株主総会をもっと自由な議論で活性化することこそ政府がすべきことで、個人株主の権利を制限することではありません。
冒頭、株式会社は社会の公器であるという気持ちで提案していると申し上げましたが、今年の提案の一部は……
○委員長(竹谷とし子君) 木村参考人、お時間が過ぎておりますので、御意見をおまとめください。
○参考人(木村結君) はい、あともう少しで終わります。
今後の見どころ、聞きどころというチラシをお送りしてございますが、これは毎年株主総会で株主に配るものです。この中の第九号議案は女性登用の推進、十号議案は会議議事録の記録と管理及び開示……
○委員長(竹谷とし子君) 木村参考人。
○参考人(木村結君) そして、災害に強い地域分散型送配電システムの推進など、脱原発だけではなく、会社の社会的責任ということを訴えております。
長くなって失礼いたしました。以上でございます。
【略】
○嘉田由紀子君 お三方には、御参加いただきありがとうございます。もう二時間半、大変ブラックな委員会でございまして、私たちはそれこそ二十分の一とかで聞いたらいいんですけど、お三方は全員の皆さんに耳を傾けていただいて、これで終わりますので、私が最後でございます、碧水の嘉田由紀子と申します。
それぞれ五分ずつくらいで十五分を聞かせていただけたらと思います。
まず最初に、藤田先生に、先ほどの山添さんの問題意識と近いんですけれども、本当に今、日本の大企業、モラルハザードを起こしておりまして、しかもトップの方がそれが厳しい。例えば、関電のモラルハザード。あれも私は、仲間が関電で働いている、そして、それこそあの台風のときなんかもう家の横の電柱を雨の中直してくれて、現場で働いている人たちは本当に切ない。
そういう日本の社会が崩れているところで、私は、この社外取締役なり、あるいは社外監査役というのはモラルハザードに対して歯止めが利く、そういう組織かなとある程度以前から期待をしていたんですけど、ここで勉強させていただくと、どうもそうではなさそうだということが。
それで、是非、藤田先生に、企業価値に貢献できる社外取締役あるいは社外監査役、どういう人たちで、どんな組織だったら企業価値をプラスにできるのか。あるいは、企業価値をマイナスにする取締役もいるかもしれません。
一つ事例を申し上げますと、最近の例で関電ですけれども、私は、八木社長も岩根社長も、知事時代から原発問題で、とてもある意味で会合とかあるいは県に説明に来ていただいていろいろやり取りをしているときに、断言的なことを言われない方なんです。もう官僚以上に官僚でした。その岩根社長が、あの一連の発表のときに記者会見で、不適切だが違法ではないと言い切ったんですね。で、あれっと思ったんです。不適切だが違法ではない、何をもって。で、裏でいろいろ見て分かったんです。この関電さんの特に社外監査役、元大阪高検の検事長とか、あるいは検事総長とか、もうその辺りと全部打合せをして、そして報告書を作った委員長もまた大阪検察のかなりトップの方でした。
これは、逆に、その社外監査役なり取締役が企業価値を下げる方に貢献しているんじゃないのかというようなことを素人ながら感じたんですけれども。是非ここは、ただ、私の知る会社でも、本当に、特に環境問題をずっとやってきて、環境問題に予防的措置を入れてきた、例えば住友林業さんとか、あるいは富士フイルムとか、そういうところはやっぱり、何というんでしょうか、ちゃんと社会的貢献ができているんではないのか。
ですから、言うたら、企業価値を下げるようなケースと上げるようなケース、その辺りを実証研究していただけると、この社外取締役の義務化というところが国民的にも納得できるのかと思うんですが、いかがでしょうか、藤田先生。
○参考人(藤田友敬君) 社外取締役が企業価値を上げるケースもあれば下げるケースもある、全くそのとおりだと思います。
悪い場合、機能しない例、いろんな例がありますので、あくまで例ですけれども、幾らでも考えられます。そもそも外からの圧力が強まったものだから嫌々社外取締役を入れる、とにかくしゃべらない、黙って自分の言うことを黙認してくれる人を選ぶ。そういう選び方をすると、かえって取締役会の構成員の中に牽制の利かない人数が増えてしまうことで、経営者、業務執行者の暴走につながりかねないことすらあり得ます。さらに、その人の能力を個人的なその業務執行者の利益に役立つ形で利用させれば、それは望ましくないこと、結果がもたらされることは言うまでもありません。
他方、社外取締役がうまく機能するシナリオもいろいろあります。これも、一つではなくていろんなケースがあり得ます。例えば、容赦なく独立性の高い取締役会がつくられることによって経営者の規律が非常に強く働く。株主の利益、ひいては社会の利益に貢献するような強いインセンティブが与えられるような企業、緊張感が出ている取締役会もあるというふうには聞いております。また、アドバイザーのような形で入ってくる、いろいろな社会の声を酌み取るような形でアドバイスをする、優れたアドバイスをする能力のある方が入ってくれば、そういう機能も期待されるかもしれません。
いい社外取締役は入れる、しかし悪い社外取締役は入れるなという法律は作れません。そういったことを最終的に担保するのは、マーケットからの圧力と言わざるを得ないと思います。最近、幸い、機関投資家などが相当積極的に議決権を行使し、駄目な役員に対する選任議案についてはそれなりの判断を示していると思います。そういったものに期待し、いい社外取締役、それは、いいというのはいろんな視点があると思うんですけれども、いい社外取締役が選べ、そして機能しなかった社外取締役は容赦なく淘汰される、長期的にはそれが望ましい方向なんではないかというふうに思っております。
○嘉田由紀子君 ポジティブにプラス、あるいはニュートラル、そして足を引っ張る、その辺を理論化していただけると、それでそれを、結果を、別にA社、B社でいいんです、個別を出さなくても、社会の中で透明性を高めていただくと、社会的な言わば監視ができるかなと。そういうことがあってこそ、今回のこの法改正の意義があると思いますので、是非御研究を期待をさせていただきます。
大久保先生には、私、午前中の質問でも出させていただいたんですけれども、この役員等賠償責任なり、ここを会社側が出すというその仕組みですね、この辺を。
そもそも、企業の責任者というのはかなりリスクを背負う。で、私は行政との比較で申し上げたんですけれども、行政でも大きな政策転換するときにはリスクが伴います。例えば、環境保全のためにある事業を止めるとか、そして、あるいは止めたときに何らかの損益、プラスマイナスいろいろあります。そのマイナスを受けた人が損害賠償をしてきたりしたら、担当者なりあるいはトップは、そこでかなり賠償責任を負わされる。そういうときのために、行政の方では今保険を掛けているんですけれども、それは決して税金では払ってくれません。それこそ自分でやらなければいけないんですけど。
この会社では、ここまで会社で面倒見てくれる、個人的な負担がないというのは大変違和感を感じたんですが、ここの、ここまでちゃんとサポートするといい人材が集まる、インセンティブが高まるというようなことを午前中もお伺いしたんですけど、この辺りはどういうふうに私たち国民としたらチェックをしていったらいいんでしょうか。
○参考人(大久保拓也君) お答えします。
役員賠償保険のDアンドO保険に関する御質問かと思います。
この役員賠償保険については、特にこの条文の規定が置かれていなくても、もう既に実務では各会社でその賠償保険、DアンドO保険を導入しているところが多いかと思います。この今回の改正では役員賠償保険の規定が導入されましたけれども、これを行ったときには、取締役会設置会社では取締役会の決議を要すると、そういう取扱いになってきますので、従前ですと、役員それから会社の代表者が決定していたのを、もう少し広く、適切な機関で導入するかどうかを見た上で導入するという形になりますので、導入については少し慎重になるのではないかなというふうに思います。
また、この役員賠償保険制度などがなかった場合について、その人材の確保をどうするかという問題になりますけれども、先ほどの御質問がありました社外取締役や社外監査役、そういった社外の役員を導入するときに、特に社外の方ですと、会社の実態とか実情が十分に分からないという、そういうケースが出てきますので、一定のリスクを回避するという、人材を確保する、そういう意味でも、この保険の適用、保険を掛けておくということは必要になるんだろうというふうに思います。
そういったところであれば、その人材の確保などに資する形での役員賠償保険制度、これについて明文の規定を導入するということは必要な立法措置ではないかなと思います。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
ついつい行政と比較をしてしまうものですから、是非そういうところで、特にモラルハザードを経営者が起こさないようにという、ここが一番大事だろうと思いますので、ここのところは是非ともまたウオッチをし続けていただけたらと思います。
木村さん、改めまして、大変長い、もう私たちにとっては、何というんでしょうか、脱原発運動の旗手のような形で頑張っていただいております。しかも、安全神話があれだけ言わば日本中にあったときに、随分と逆に変わり者に見られてきたんじゃないでしょうか。そういうところで、まさに株主として社会的な発言をし続けていただいたこと、大変有り難く思います。
特に、この総会の見どころという、こういう分かりやすいものを皆さんに作っていただく、これ、ついついさっきの、男性社会で、そして本当に遠い遠い怖い社会だったところにこういう言わば対話のツールを作っていただくというのは大変有り難いんですけど、この中でやはり私が気になっておりますのは、災害に強い地域分散型送電システムとか女性登用とか、こういうところをきちんと社会的価値を埋め込もうとしていただいて、そして発言をしてきたと思うんですけれども、今まで、これは発言してちゃんとリアクションもらってよかったというような成功体験がありましたら是非、あるいはもう無視されるばっかりでというところで、どうだったでしょうか。
○参考人(木村結君) 先ほど申し上げました取締役の数を少なくしろというのはできましたので、私たちが先見の明があったと言ったら言い過ぎかもしれませんけれども、皆さんが後を追ってくださったというふうには理解しております。
それとあと、日立でしたっけね、原発の輸出に東京電力が絡むべきではないと、自分のところで始末まだできていない事故を起こしておきながらほかの国に輸出するというのは、それはおかしいのではないかということを去年提案しまして、もちろん否決はされたんですけれども、その後、やはり撤退ということで、それはやはり私たちの運動というか、実ったわけではないですけれども、そういうことを訴えられて、少しでも気持ちに、取締役なり株主の心に刺さった提案だったのではないかなというふうには思っています。
先ほど来発言がありました社外取締役、監査役に関しては、やはり取締役は二年に一回選任されますので、株主の議決権行使書に何番から何番というふうに番号振られて、選任するかどうかというふうに来るわけですけれども、その株主がどういうふうにリアクションするかというと、何番の取締役は駄目とか、何番の取締役以外は選任してもいいというふうに丸を付けたり数字を入れたりしてくるんですね。わざわざもう本当に細かく株主招集通知を読み込まれている方が多いんです。
私たちも、この何番というのはどういう出所の方だろうというふうにやっぱり思いますので調べますと、ほとんどが天下りでございます。やはり天下りに関しては、株主は非常に厳しい目を、世間はまだまだ厳しい目を持っているんだというのがよく分かる事項でございます。(発言する者あり)あっ、ごめんなさい、一言よろしいですか。関電のことについてですね。
やっぱり、不正、金品受領事件で取締役とか監査役が全く機能していないことが分かったと思うんですね。コーポレートガバナンスの強化に対して株主の果たす役割はますます重要になってきていると思っています。
その中で、株主の権利が制限される法律のように改正されるというのにはやはり反対でございます。よろしくお願いいたします。
ありがとうございました。
○嘉田由紀子君 どうもありがとうございました。