令和元年十一月二十六日(火曜日)法務委員会
【配付資料】20191126参議院法務委員会(テネシー州子育てプラン作成ガイド)
○嘉田由紀子君 碧水会の嘉田由紀子でございます。
一貫して共同親権の問題を続けさせていただきます。
十一月十五日に家族法の研究会が始まっているということで、先ほど来、森大臣から共同親権の、大変大事なテーマだということをおっしゃっていただいております。
つい最近のニュースですが、十一月二十二日、共同親権に関する集団訴訟が東京地方裁判所に提訴されました。東京や北海道、京都など八都道府県の男女十二人が計千二百万円の国家賠償を求める訴訟で、単独親権の違憲性をめぐる集団訴訟は初めてということです。訴えたのは子供と別居中の四十代から六十代の父母で、訴状によりますと、子育てに意思を持っていて、しかし、司法に救済を求めても僅かな面会交流しか認められないなどと主張し、法の下の平等や幸福追求権を保障する憲法の規定に反していると訴えております。そして、これは基本的人権の侵害に当たり、離婚後の共同親権制度を整備しない国の対応は、子育てをする権利が侵害されて、精神的苦痛を受け、違憲と訴えています。
共同親権をめぐる問題について、いよいよ社会的関心が高まっているあかしと思われますが、法務大臣の御見解はいかがでしょうか。
○国務大臣(森まさこ君) 嘉田委員にお答えを申し上げます。
御指摘の訴訟提起に関する報道があったことは承知をしておりますが、現時点では訴状も送達されておらず、コメントは差し控えさせていただきます。
その上で申し上げますと、父母が離婚した後であっても、子供にとっては父母のいずれもが親であることは変わりはございません。したがって、一般論としては、父母の離婚後も父母の双方が適切な形で子の養育に関わることは、子供の利益の観点から非常に重要であると考えております。
もっとも、子供との面会交流等については、現行制度の下での運用の在り方については、子供の利益の観点から、必ずしも十分なものとなっていないといった批判もあるものと承知しております。これまでも申し上げてまいりました、家族法研究会の第一回会議が本年十一月十五日に開催され、離婚後共同親権制度の導入の当否が今後の重要な検討課題の一つであることが確認されたものと承知をしております。
法務省としては、国民の間にある様々な声に耳を傾けつつ、引き続き、研究会における議論に積極的に参加してまいりたいと思います。
○嘉田由紀子君 前向きな御答弁ありがとうございます。
この後また、かなり具体的な例に入らせていただきますが、子の連れ去り等に関わって、最高裁判所に子の引渡しに関する審判と調停の実態についてお尋ねさせていただきます。
平成三十年の子の監護事件における審判と調停の新受件数は、司法統計によりますと、四万四千三百四十九件とあります。そのうち、子の引渡しに関する新受件数は二千百七十六件で、そのうち、認容審判が下された件数はたった二百四十四件、認容審判数二百四十四件のうち、いわゆる連れ戻し、つまり先に子を連れ去った親から子を連れ戻す行為をしようとした親に子を引き渡した件数は何件か、最高裁判所さん、答弁お願いいたします。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
御指摘のような類型での統計は取っておりませんで、件数は把握してございません。
○嘉田由紀子君 それでは、その二百四十四件のうち、父親に子供さんが引き渡された件数、これも統計はないでしょうか。もしありましたら、御示唆をお願いします。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
こちらにつきましても、御指摘のような類型での統計は取っておりませんで、件数は把握してございません。
○嘉田由紀子君 先ほど来、十一月十五日から家族法の研究会、第一回始まったということです。また、海外における離婚後の共同養育に関する外国法制、制度も外務省に依頼していると伺っております。
日本における実態、数値はもちろんですけど、数値の裏に隠れている事情をきめ細かく調査する、これを是非進めていただきたいと思うんですけれども、せめて、少し古いものでも結構ですけれども、ヒントになるような結果はないでしょうか。
○政府参考人(小出邦夫君) お答えいたします。
法務省においては、我が国における父母の離婚後の子供の養育に関しまして、親子の面会交流の現状、問題の所在等について、民法学者等に調査研究を委託したことございまして、その研究報告書は、平成二十三年の二月に取りまとめられております。
その調査研究では、例えば、親子の面会交流の支援団体あるいは法律実務家らからのヒアリングや、面会交流の支援団体を利用した方々を対象とするアンケート等を行いまして、その報告書におきましては、当事者に情報提供やアドバイスをしてくれる相談機関の充実整備の必要性や、当事者等の生の声をできる限り反映した法制度の整備と運用の改善等が提言されておりまして、面会交流の問題の所在が明らかにされたものと評価することができると考えております。
また、委員の御指摘のきめ細やかな実態調査等につきましては、これまでも申し上げております家族法研究会における議論の推移等を踏まえつつ、その必要性について検討してまいりたいと思っております。
○嘉田由紀子君 それでは、裁判官が子の引渡しを実施する際に、子供が心の傷を負わぬようにどのように配慮しているでしょうか。民事局さん、また最高裁判所さん、両者にお尋ねいたします。
○政府参考人(小出邦夫君) お答えいたします。
さきの民事執行法の一部改正法におきましては、運用上の工夫、すなわちこれまでの執行実務において行われてきた子の心身の負担を軽減するための様々な工夫等を一層促す趣旨で、子の心身の負担への配慮を求める規定が設けられております。
この改正法における配慮の具体的な内容でございますが、個別の事案に応じた運用に委ねられるところではございますが、例えば、執行を実施するための事前の打合せにおきまして児童心理の専門家を執行補助者として立ち会わせることの要否を検討することや、実際に児童心理の専門家を立ち会わせる場合には、執行官と専門家の役割分担等について詳細な打合せを行うことなどが考えられるところでございます。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
執行官が子の引渡しを実施する際に子の心身に対してすべき配慮の内容ですが、これは個別の事案に応じた運用に委ねられるところではございますが、その具体例につきましては、先ほど法務当局の御答弁のとおりというふうに理解をしております。
そして、執行官がこのような配慮ができるよう、子の引渡しの強制執行において必要とされる児童心理に対する理解につきましては、まず、執行官に対する研修を行いスキルアップを図っているところでございます。
また、個別の執行の場面におきましては、臨床心理士、臨床発達心理士のほか、面会交流支援等の家庭の問題に携わる専門家など、児童心理の専門家に執行補助者等として関与していただいているものと承知しております。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
いろいろ配慮していただいていても、実は裁判所での様々な経験者の皆さんの意見というのはかなり厳しくて、自分たちの面会交流、あるいは途中での意見を聞いてもらえないというようなことが親のグループが調べた調査結果などもございますので、そういうところもきめ細やかに対応していただけたらと思います。
そして、私、やはり気になるのは、これまでも何度か申し上げているんですが、子の引渡しに関するところで、先ほど、僅か一一%しか、つまり九割近くのケースで引渡しが実現できていない。これは、これまでも裁判所では継続性の原則というのはないと言っているんですけど、やはり一旦連れ去ったり、あるいは一旦実効支配を続けた親に親権を与えるという裁判実務を生み出し、そしてそれが、家族やあるいは家庭の領域を完全に、子供たちの意見も届かないような法の不存在の状態にしているのではないのかと現場からの大きな声があることも指摘をさせていただきたいと思います。そして、この継続性の原則こそが、逆にこれを主張するために、虚偽の配偶者暴力あるいは児童虐待を捏造してもう一方の親を有利にするというようなことも現場であると聞いております。
このような実態を防ぐためにも、やはり子供たちの養育計画を作り、そしてその中に、これまでも申し上げております面会交流という、単に言わばビジテーションではなくて、ペアレンティングという共同親権の、ヨーロッパ、アメリカで苦労してきたそのペアレンティングという内容を日本としてもきちんとフォローする必要があると思っております。そのためには、共同養育計画を作り、そして離婚の紛争当事者である親に対しても、教育効果というところで共同養育計画の作成を支援する必要があると考えております。
少し海外の事例ですけれども、アメリカのテネシー州の例を今日一ページでまとめて皆さんに提案させていただきましたが、これは子育てプラン作成のためのペアレンツ・ガイド、家族意識の維持に向けてというものでございます。一枚、文字になっておりますが、エッセンスを、少し時間をいただいて御紹介させていただきたいと思います。
パーマネント・ペアレンティング・プラン、つまり恒久的な子育てプランということで、テネシー州の子育てプランは、立法によって州の裁判制度を機能させ、離婚後の子供により安心できる水準、コンフォートレベルを与えるために必要なツールとスキルによって、親がその子育て能力を高められるようにデザインされたプログラムであるとあります。
この恒久的子育てプランは、子供の福祉には、親子関係が根本的に重要であることを認めるものです。多くの場合、子供は、双方の親から情緒的及び経済的な支援を受けたときに最善を尽くせるものであります。ペアレンティング・プランの全ての項目は、子の最善の利益に焦点を合わせるようにデザインされております。
以下六項目あるんですが、今、日本でも例えば明石市などでペアレンティング・プランというのを出しているんですけど、そこはかなり狭い、養育費と、それからいわゆる面会交流くらいしか触れていないんですね。
それではなくて、もっともっと本来のペアレンティング・プランについて御紹介させていただきたいと思いますけれども、まず一番目、恒久的プランの作成によって、親は子の将来の子育てのロードマップを完成させる機会を与えられる。二点目は、このプランは、興奮して感情的となったやり取りではなく、これはヒーテッド・エモーショナル・エクスチェンジと英語でありますけど、思慮深く、理性的な対話に基づいて準備された場合には、対立を和らげる有効な手段として役立つだろうと。
これまでも議論してきておりますけれども、日本でなぜ共同親権が駄目なのかというときの理由に、山下法務大臣も、夫と妻はなかなか話合いができないんだ、感情的になってしまうからというのを単独親権の理由にしているんですけれども、それはもう当然です。当然だけれども、やはり思慮深く、理性的な対話が必要だということがもう目的の中にきちんと書かれております。
それから三点目ですけど、このプランは、法律の専門用語を廃し、つまりリーガルジャーゴンではなくて、一般的な日常用語に置き換え、エブリデータームズ、暮らし言葉でしょうか、で家族の再統合を促す枠組みを用意する。つまり、ファミリー・リオーガナイゼーション、夫と妻が別れてもやはり再統合が重要なんだという理念を入れ込んでおります。そして、このプランは家族関係の維持に役立つだろうと。このプランは、双方の親が、子供のことを最優先とし、また、子供がそれぞれの親と緊密で継続的な関係を維持することが必要であることを理解するように奨励すると。そして最後、六点目ですけど、このプランは、双方の親が、教育、宗教、医療を含む重要な決定に関与し続けることを可能にすると。
そして、この恒久的子育てプランは、監護や訪問、ここではビジテーションとありますけど、そういう狭い概念からではなく、子育ての責任を強調するものでありますと。全体の目標とこのプランの目的は、敵対心を緩和し、親が子供の最善の利益のために協調して取り組むことを奨励する。両方の親が一緒に取り組み続ければ、あなたは、教育、宗教、医療を含む重要な決定を下すこととなるだろう。あなたが自分の子供を養育し続ければ、将来の課題をどのように解決するのかを決定することになるのだと。
これはアメリカのテネシー州の事例で、私ども、各州の事例を集めましたけれども、基本的な方向あるいはカバーするところは極めて似通っております。そして、このテネシー州のペアレンティング・プランはこの後八項目にわたって細部まで記されておりまして、全体で九ページ。それを全て埋めないと、埋めて親がサインをし、そして弁護士さんがサインをし、最後に裁判所のサインをもらわないと、実は離婚も成立しないんだというところまで入れ込んでおります。
これは海外だけのことで、日本では無理だろうという意見があるかとは思いますけれども、日本であっても両方の親が子供の利益を第一に考えるようになれば共同親権は可能だと思います。例えば、タレントで千秋さんとそれから元夫のココリコ遠藤さんが離婚後も協力をして子育てを行っていることはよく知られております。
そこで、法務大臣に御質問ですが、離婚後の親権者指定の基準の策定、これ今までも申し上げておりますけれども、片親親権、継続性の原則ばかりが裁判実務として現場で援用されておりまして、この親権者決定の基準はないに等しい。そういう中で、共同養育計画作成を支援する仕組みをつくり、そして、できるならば行く行くは法令的にも義務化することも含めて、政府の見解を法務大臣にお伺いしたいと思います。
○国務大臣(森まさこ君) 民法七百六十六条第一項では、父母が協議上の離婚をするときは、面会交流や養育費の分担など、子供の監護について必要な事項を協議で定めることとされております。このような父母の離婚の際に子供の養育について取決めがされることは、その後の子供の健全な成長のために重要でありますし、現行法でも必要とされているものでございますが、もっとも、現在、未成年の子供を持つ夫婦が離婚をする際に養育費や面会交流について取決めをしているかと申しますと、その割合は必ずしも高くないということも承知をしておるところでございます。
これまでも申し上げてきましたように、家族法研究会において、協議離婚の際にこのような取決めが確実にされるようにするために、例えば未成年者の父母については、協議離婚の要件を見直して、養育費や面会交流についてのガイダンスを受講し又は養育計画を策定しなければ離婚をすることができないとすることの当否などについても議論される予定であると承知しておりますので、法務省としては、引き続き、研究会における議論を注視し、また参加もしてまいりたいと思います。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
森法務大臣言及くださいましたように、七百六十六条、これは二〇一一年、当時の江田法務大臣が、しっかりと養育費と面会交流のことを法務大臣として責任を持って対応すると言っていただき、その後、この二項目については社会的認識は高まりつつあるんですが、ただ、まだまだ、これ私も最初の質問に申し上げたように、養育費の支払は、厚労省の調査によりますとたった二四%です。面会交流につきましても、今日の、十一月二十二日に共同親権に関する集団訴訟でも言われておりますけれども、本当に形式的な月一回の監護付きの面会交流などで到底親として満足できるものではないということで、確かに一歩進んでおりますが、まだまだ、離婚したら、そんな当然、夫と妻の争いの中に子供を巻き込むべきではないから、どっちか一方的にして、そしてすっきりと養育できる方が子供にとって幸せなんだという考え方、日本にまだまだ根深いのは分かりますけれども、ただ、そこで子供が声を上げられない。
私も、個人的なことですけれども、孫が六人おりますが、本当に子供たちと接触すると、例えば、右側を見てお母さんの方を見て、私、虫嫌い。同じ場所にいてお父さんの方を見て、私、虫好き、父親は虫の研究者なので。そういうようなところで、本当に子供たちはいろんな大人の顔を見ながら、そして大人に合わせてしまう。
そこで、本当に子供にとって、まさにこのテネシー州の永久的なパーマネントのペアレンティング、単なるビジテーション、面会交流ではありません、ペアレンティング、親として、親も成長し、そして子供の最善の利益、子供の永久の言わば生きるための力を、そして、そこで希望を持てる子供の人生をつくり上げていくというところが大変大事だと思います。
次回はまた、それでは、共同養育なり、どういう子育てについての利点があるのか、また課題はどこにあるのかということも含めて続けさせていただきたいと思います。この問題ばかりにこだわっておりますけれども、私の方の質問、今日はこれで終わらせていただきます。
ありがとうございました。