「レイチェル・カーソン」から学ぶミニ講演会「これからの環境政治―琵琶湖からのヴィジョンを語る」を同志社大学で開催。学生さんからの質問にこたえての政策論は私も勉強になりました。1月24日。中くらいに長いです(微笑)。
昨年同志社大学の新川さんや村上さんといっしょに編集・出版した『レイチェル・カーソンに学ぶ現代環境論』(法律文化社)を教科書としたアクティブ・ラーニングの最後の授業。教科書を勉強してから学生さんが出した質問は三点。①政策づくりの責任者として多様な意見の中からどのように政策を選ぶのか?②知事選挙での反対意見にどう対応したのか?③「科学的知識」が強力な中で「感性」を重視する政策がなぜ可能となったのか?
全体1時間の講義をくみたてましたが、エッセンスは以下です。①については、県民の皆さんの意見を、もともとの文化人類学者としての「フィールドワーク」の手法で徹底して聴きとり、まさに「耳になる」方法を取り入れる。いわゆる「草の根調査」です。すると、団体としてたとえば新駅の建設やダム建設などを要望してきたその人たちが「駅建設よりも子育て政策をすすめてほしい」など、ホンネが聴けた。
また政策は「現象後追い型政策」ではなく、「事前予防型政策」を目指した。たとえば人口減少という結果がでて「少子化対策」という政策がだされているが、この根本には「子どもを生みにくく、育てにくい」雇用政策・家族政策の不備がある。「女性が仕事か家庭か二者択一を迫られない家族政策」「男性には安定した雇用と所得」、そして社会全体で「子育てを支援してくれる気運づくり」。滋賀県では事前予防型政策を「子育て三方よし」として埋め込むことで人口あたり出生率が改善した。
「ダムだけに頼らない治水政策」も、水害被害の結果を見るだけでなく、なぜ水害被害が起きるのかという現象の根本原因を究明して、土地利用規制や建物配慮・避難計画など、予防型の「流域治水条例」をつくり、結果としてダム建設による河川環境の破壊を防ぐ政策を条例化してきた。そもそも多くの環境政策は「予防原則」、予防型政策が主体です。
また政策を選ぶ時には、「需要側・当事者目線」を重視する。「政策供給型目線」ではなく、たとえば治水政策では「水量計算」をしてダム建設などで河川内部に洪水をおしこめようとしてきたが、被害をうける住民側目線、「需要側・当事者目線」でみると、ダム建設など、施設の計画規模をこえる洪水も起きることを前提に「命を守り、壊滅的被害を防ぐ」という流域治水が有効と解説しました。
②選挙での反対意見の中で特に大きかった批判は「よそもの、女、学者」に知事は務まらないという政治家としての資質についての批判だった。ここには「よそものだから滋賀県と琵琶湖の価値が見える」「女だから子育ての経験・苦労から家族政策を提案できる」「学者だから学問知識を活かした理論的政策ができる」と伝えました。もちろん、すべてがうまくいったわけではありませんが、今、政治分野への女性参画が日本中で問題となっている時、政治家の多様性の意味について、解説させていただきました。
③科学主義が主体の政策にいかに「感性」を入れ込むのか?レイチェル・カーソン自身も「科学者」であると同時に「文学者」でした。科学的な議論の中に、感性としての「たのしい・うれしい・おいしい」など、環境と人間のかかわりに潜む「遊びや食」「心を癒す風景」など、生活者としての「ふれあい価値」を理論化していれこんだ。人と環境との「近い水」の関係性が、近代化の中で「遠い水」に変わってしまった、そのプロセスをたどりながら、現代社会においても「近い水」の重要性を構造的、理論的に示し、政策化してきた。この領域では、何としても幼い頃の教育、特に母親など身近な人たちの影響が大きいことも指摘しました。