Facebook 2019年5月23日

誕生日祝いメッセージを多くの皆さまに寄せていただきましてありがとうございました。誕生日を節目に、過去30年の環境社会学研究、2期8年の滋賀県知事、そして3年のスポーツ大学長の教育者人生をふりかえって、「命をつなぐ政治を求めて―人口減少・災害多発時代に対する<新しい答え>」を1年かけて脱稿しました。350頁近い分厚い本になってしまいました。6月上旬には名古屋市の風媒社から出版します。本をまとめた意図、またその内容をかいつまんで紹介させていただきます。長いです、スミマセン(1900文字)。5月22日。

 今、日本は大きな曲がり角にあります。特に子どもが産まれにくい、産まれても育てにくい人口減少問題。同時に世界一ともいえる超長寿社会。格差が広がり特に若い人たちの間に将来への不安が高まる。世界的にすすむ温暖化の影響ともいえる災害多発の時代、その中での原発・エネルギー問題。いずれも出口が見えにくい。

不安感ただよう時代だからこそ、多様な人たちの議論を積み上げ「新しい答え」を探そう!というのがこの書をまとめた一番の動機です。困難な問題には、「現象後追い型」ではなく、「事前対応型」の政策を、と滋賀県政で挑戦し、新しい答えを示してきました。出生率全国二位、男性寿命全国一位で同時に医療費は少ない方から4番目、雇用と経済の安定を図る企業誘致と、地域の自然と文化を活かす新事業づくり。ひとりあたり県民所得は全国五位。

親たちが経済的に安定しなければ子育てはできません。滋賀県では子育て中の女性で仕事に就きたい人に全国ではじめて「マザーズジョブステーション」をつくり5年間で推計4100名の女性の退職を防ぎました。若い人たちの正規雇用化を進め、4年間で400名を超える安定就業づくり。企業誘致は8年間で250社、グローバル企業に加えて、内需系、環境系、研究系事業を強化。地域の農林水産業の「感性価値」を付与して魅力まるごと産業化。

しかし自治体ではできない政策も多い。たとえば子どもの貧困には、3組に1組が離婚する時代、離婚後の片親世帯の支援が必要。離婚後の「単独親権」を「両親共同親権」にかえれば、今8割が払われていない「扶養手当」を義務化できる。また子どもと親の精神的満足度をたかめる「面会交流」も制度化され、離婚後の家族の幸せ度も高まる。それには民法改正が必要です。当然男女の賃金格差の是正も必須です。

人口減少問題には、子育てだけでなく、女性の社会参画や若者の安定雇用化、教育の無償化にくわえて、「子どもと家族の最善の利益」をど真ん中において家族法の改正などの主体となる「子ども・家族省」の組織が必要です。子どもの保育園は、保育に欠ける親への福祉ではなく、子どもは国の宝であり、家族法の改正も含め、すべての子どもとすべての親と高齢者もふくめて家族全体の支援が目的となります。

フランスや北欧三国ではすでに実現しています。そうすれば「育児介護休業法」は「育児介護参画法」と名前をかえ、男性の家族参加の精神的後だてができます。たとえば、家族にとって負担が重い、家族分離をもたらす父親だけの単身赴任の企業制度は、家族省の指導により是正され、場合によっては憲法に書きこむことさえできます。

災害に対しては、土地利用や建物配慮も含め「流域治水条例」を全国で初めてつくりました。ダムだけでは水害は防げません。たとえば2018年7月の岡山県真備町のように、河川堤防が破壊され、真っ昼間に自宅で高齢者が50名近くも溺死する、というような被害をどうしたら防げるのか。「流域治水条例」では、最悪の水没リスクを地図化し、命を失わないために、土地利用変更や建物内での縦方向避難を義務化しました。

原発に代わる地産地消の再生可能エネルギー社会を歩みはじめた滋賀県。原発銀座ともいわれる若狭湾岸に隣接する滋賀県、琵琶湖最上流部との距離はたった13キロ。万一の事故が起きれば、大気、水質、そして生態系が壊滅的な被害をうけます。琵琶湖を命の水源とする1450万人の関西の人達の命、暮らし、経済が根本的に破壊されかねません。琵琶湖に足はありません。エネルギーの代わりはあっても琵琶湖の代わりはありません。

「命をつなぐ政治」の意味は、「新しい命が産まれ、生まれた命を災害などで失うことなく、すべての人の人生が幸せに全うできるような政治」です。ただ、滋賀県は日本の100分の1の人口、国の法律や仕組みの足かせもあります。滋賀県の理想と経験を全国にひろげるにはどうしたらいいのか?全国ではそれぞれに必死の工夫がなされていると思います。皆さんとの議論をふかめて、日本全体で「命をつなぐ政治」が実現できたら、と願います。

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