Facebook 2018年12月1日

琵琶湖辺の「魚のゆりかご水田」に、世界的にも注目される新たな発見!サケが生まれた川に戻るように、ニゴロブナも産まれた田んぼに戻る「母田回帰」が確認されました。詳しくは、12月2日(日)午後1時30分より、総合地球環境学研究所が主催し、琵琶湖博物館が共催する講演会で公表されます。皆さん、万障お繰り合わせの上、琵琶湖博物館にお越し下さい!11月30日。スミマセン、また長いです(2000文字)

「魚のゆりかご水田」に科学の目を注いだ画期的な発見です。総合地球環境学研究所の奥田昇准教授がリーダーを務める「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会―生態システムの健全性」というプロジェクトの一環で、琵琶湖に注ぐ野洲川流域と、フィリピンのラグナ湖に注ぐ河川流域を比較しながら、地域課題を解決することと流域の生態系の健全性回復が両立するような流域ガバナンスづくりをめざしています。

出発点は、地域に暮らす住民の環境とのかかわりです。野洲川流域最上流の甲賀市の森林部から中流の水田部、下流の琵琶湖につながる水田部と、湖辺の内湖地域と、水の流れに沿って、人びとの暮らしと自然がいかにつながっているか、また自然再生による生物多様性の保全により、人びとの幸せ度がいかに上昇するか、具体的なデータをとりながら、検証しています。

魚類が産まれた水域に帰ってくる事をどう証明するのか?そこがポイントです。方法は、ニゴロブナの「耳石標識法」で、耳のところにできる年輪のような耳石に吸着する物質を分析すると、田んぼに上がってきたニゴロブナが琵琶湖辺の河川流域や水田のどこで産まれたのか分かるということです。

耳石中の微量元素濃度は成熟過程の生理的因子によって変化するので、耳石は個体の生活履歴や回遊履歴を書き込んだ魚の「履歴書」のようなものであるということです。過去数年かけて、奥田プロジェクトで解明してきた結果は、「魚のゆりかご水田」で産まれたフナだけではなく、内湖で産まれたフナも内湖に戻ってくることが証明されました。

魚が帰ってくると何がいいのか?言うまでもなく、親魚を放すことなく、ニゴロブナが大量に田んぼにあがってくることは、フナそのものを捕獲してフナズシ等への食用利用が増えるだけでなく、田んぼでの雑草を抑え、結果、農薬の投入もおさえ、より安全な米づくりにつながります。

その上、魚がはいってくることで、子どもたちも田んぼに近づき、遊びの場にもなります。魚のゆりかごの「生き物」「琵琶湖環境」「子ども」「農業」「地域への恵み」という「五方よし」が、科学的なデータを加えることで一層、説得的となります。

実は、総合地球環境学研究所の運営委員を務めている関係で年一回の「研究審査・報告会」に11月28日から30日まで、3日間続けて参加しました。そこで上のような話を奥田さんから教えていただきました。また30日晩の地球研の忘年会に参加をし、所の写真コンテストには琵琶湖流域の写真がたくさん採用になり、奥田プロジェクト仲間との記念写真となりました。

地球研は、地球環境問題を「人と自然の相互作用環」の視点から、「文理連携」の学際的研究にプラスして、政策実践等に貢献するための「超学際研究」に挑戦する国立の研究所です。2001年に滋賀県立大学初代学長の日高敏隆さんが初代所長として創設。それ以来17年がたちました。 日高さんの持論は「環境問題は人間の価値観の問題、だから文化と深く関係する」です。

日高イズムに基づき、地球研では、地球温暖化,生物多様性の喪失,水資源の枯渇という地球環境問題の解決に向けて,人文・社会科学から自然科学にわたる学問分野を総合化して人間と自然の間にある相互作用の実態を解き明かすことを目的としています。奥田プロジェクト以外にも琵琶湖を対照にした研究を地球研ではさまざま進めてくれています。

2007年4月から立本成文さんが二代目所長、 2013年4月からは 安成哲三さんが三代目所長。大学時代の探検部の先輩の安成さんから、琵琶湖研究や、琵琶湖博物館の企画・建設・運営、知事としての環境政策の経験からアドバイスがほしい、ということで3年ほど前から運営委員をさせていただいております。

3日間の研究、活動報告は迫力ありましたが、これまでに共同研究者だけでも2600名もの研究者が40を超えるプロジェクトに結集をし、ともすれば、個別の学問分野に狭められがちな環境研究について、分野に横串をさす「学際研究」にプラスして、研究成果を課題解決に活かす「超学際研究」に挑戦してきました。

ただ、研究の内実が充実している割に、一般社会ではあまり知られておらず、今後、研究成果をいっそうわかりやすく発信し、また地球研自体の存在感を高めるためにも、たとえば「地球研ミュージアム」のような発展形も考えられないかと提案させてもらいました。

環境問題の研究手法やその成果について、久方ぶりに学者に戻り、じっくり本源的に考え意見表明をする3日間でした。地球研の皆さま、ご苦労さまでした。

 

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