Facebook 2016年2月22日

滋賀県の子どもたちは、果たして県民のソウルフード(魂の食)「ふなずし」をどこまで食べ、楽しむことができるのか?2月21日(長いです)。

県内8小学校でのふなずしの漬け込みから、素材となるニゴロブナの水田への放流、さらに稲の田植え・収穫など、伝統を「食べる」環境教育に挑戦した小学校の発表会が琵琶湖博物館で開催され、コメンテーターとして参加しました。最後に各学校が漬けたふなずしの試食会までしていただきました。ふなずしに目のない私には楽しい・うれしい一日。「魂の教育」がふなずしから広がるよう、期待をもった一日でもありました。

草津市立渋川小学校の教員で今、滋賀大学教育学部の大学院修士課程で環境学習の手法について研究をしている中村大輔さんが中心となり県内8小学校に呼びかけ、各学校では小学校5年生全員がかかわれるプログラムをつくり実践しました。特にふなずしの材料となるニゴロブナを春先の水田に放流して「魚のゆりかご」水田に参加をし、夏には前の年に先輩が収穫した米を活用してふなずしの漬け込みを行います。この時には地元の漁師さんや農家の人たちにお世話になって、まさに地域ぐるみの活動が展開されます。今日は、それぞれの学校の協力者・支援者の方たちも参加くださいました。

その間に自分たちが田植えから稲刈りまで、米つくり作業も体験します。そしてお正月あけの1月から2月にかけて、ふなずしの「樽開け」をして、自分たちで食するだけでなく、同時に地域の人たちにふるまい、その感想を述べ合い、ふなずしの歴史なども学びます。素材育てから加工、そして最後の食する楽しみまでまさに総合的な学びです。

私自身は子どもたちの食する時の反応が最も気になりました。というのも知事時代に郷土食を給食で出してほしいとお願いをしてふなずしをとり入れてくれた学校があったのですが、「なかなか食べてくれない」「残す率が高い」とかなり困難があったからです。

今回の実践では、伝統的にふなずしを自宅でつけて地域の祭りなどで深くかかわってきた湖岸地域では抵抗なく食べる子どもの比率は高かった一方、新住民が多い地域では、抵抗感をもつ子どもも多かったということ。しかし全体的には自分たちが、材料のニゴロブナの水田放流などを行い、実際に漬けるという作業に参加した経験が、「ふなずしを食べてみよう!」という思いを強め、マイナスイメージを払しょくするのに大きく貢献したことがわかりました。

最後に各学校が挑戦をしたふなずしを「生活科学実習室」で試食、小学校8校以外に、「びわっこ大使」「アイキッズ」「GOKids」の地域学習の皆さんもふなずし漬けに参加下さいました。それゆえ今日は11種類のふなずしを試食。どれも見事なつかり方、優劣つけがたいほどうまく漬かっていました。頭と尻尾部分はいただいて自宅に持ち帰り、アツアツのお茶漬けで楽しみました。ニゴロブナのコラーゲン一杯、明日の朝のお肌加減が楽しみ!?ふなずし満喫の一日でした!

実は滋賀県での環境学習は、真ん中に琵琶湖をかかえ昭和40年代から50年代の赤潮などに苦しんだ経験から、全国に先駆けて昭和50年代から始まりました。共通教材づくりやモデル校の指定、水質や生き物・生態系の学びの深化を図ってきました。そして昭和58年からは小学校5年生の全員が一泊二日の湖上体験をする「フローティングスクール」用の「うみのこ」という環境学習船をつくり、これまでに50万人以上が琵琶湖宿泊体験をしてきております。

また平成にはいって1990年代には、環境学習や研究の拠点として、琵琶湖博物館の建設・運営を行い、環境教育というか「共育」の場として、子どもたちだけでなく大人も含めた双方向の学びの場をつくってきました。しかしどうしても「環境学習」というと、自分達の身体の外部にある水や大気や生き物などの学びが中心となってきていました。

実は人間身体こそが最も自然度の高い存在であり、いくら外部環境が文明化され、電気やガスや水道がはいり、生活の利便性が高まっても、私たちの身体の内部は日々水を飲み、食物を食べ、排せつをしないと生きていけません。その人間身体の自然性は縄文・弥生の時代から変わっていないはずです。

それゆえ、琵琶湖博物館建設の中で特に展示場面で重視したのも実は「食」と「遊び」でした。生態学の研究などの構造を伝えることは大切ですが、多くの人が環境の健全性や価値を実感するのは食や遊びだ、ということを地域調査の中で発見していたからです。しかも食は単にエネルギーを満たすだけでなく、心も豊かに、また先祖伝来の知恵や工夫を受け次の世代につなぐ歴史性・文化性も隠されています。地域毎に異なる気象・大地・歴史条件が表現されているのも食文化です。

しかし現在、世界中から多様な食素材が提供され、日々の食卓も無国籍になっています。これはこれで多様性を楽しむ機会ともいえますが、やはり地域の条件を活かした郷土料理こそ、未来の子どもたちに知ってほしい、受け継いでほしい食文化と思います。

今日の発表会で、たぶん、最も感激して喜びの心を率直に表現してくださったのは、守山漁協の戸田直弘さんではないかと思います。小学校がこうして、学校ぐるみでふなずしづくりを体験してくれたのは、琵琶湖漁師として心から感謝したい、とくりかえし言っておられました。いくら地域で琵琶湖の食文化をひろめようとしてもなかなか若い人、子どもたちがついてきてくれない、だからこそ学校での学びがありがたいと。

一方で、学校としても、先生方だけではふなずしの漬け込みなどまったくできません。地域の漁師さんやお年寄りの方がいてくれるからこそ、子どもたちに教え・伝えることができる、と地域の皆さんの協力に感謝をしておられました。まさに「学社連携」があればこその子どもたちの学びの機会の提供が可能となります。

そのような中で今日、私自身も大変感慨深いものがありました。実は20年以上前の琵琶湖博物館の準備室時代に魚のゆりかご水田機能を含む「水田総合研究」を始めたのも、また琵琶湖博物館の建物の中に「生活科学実習室」という料理が可能な実験室をつくっておいたのも、今日のような活動を想定してのものでした。

今日の最後のコメントでは、滋賀県内のすべての小学校、231校で、ふなずしづくりのような学びの場がつくれたらいいな、まさにフローティングスクールがすべての小学生5年生に貴重な体験の場を提供しているように、という夢をかたい、無茶ぶりしてしまいました。

いざとなると想像のつかない「出来ない理由」がそれぞれの現場から出てくると思いますが、それぞれを「どうしたらできるか」という前向き志向に変えて、まさに「魂の教育」の舞台をふなずしから始められたら、「滋賀県にはなーんもない」「京都の近く」と卑下して自尊感情が育ちにくい滋賀県からの脱出ができないでしょうか。次の世代への期待をこめて!

先頭に戻る