Facebook 2015年10月17日

脱工業都市をめざし、文化による町づくりに成功したフランス、ナント市の前市長、ジャン・マルク・エロー氏を囲む夕食懇談を楽しみました。10月16日大津にて。(長いです)。

2年後の2017年にフランス・ナント市で、滋賀県を含む実行委員会が計画している「日本のアール・ブリュット展」のプレ企画として、明後日10月18日には、近江八幡市の「ヴォーリズ平和礼拝堂」で記念講演会が開かれます。タイトルは「“アール・ブリュット”を軸とした創造的なまちづくりを学ぶ」です。まだ、参加可能です。関心のある方のご参加、お待ちしています。

さて今日はその記念講演会にお越しのエロー氏と奥様、それにGLOWの北岡理事長たちとじっくりと夕食懇談の場に参加させていただきました。エローさんも奥様も1950年生まれで私も同じ歳。日本では「五黄のトラ」と言われ、女性には大変な干支なのだ、と最初に説明。おもしろがっておられました。(アフリカ風のコスチュームはアフリカとの縁が深いフランスへの敬意です)。

フランス、オランド大統領下で首相も務められた偉大な政治家です。天ぷらに挑戦ということで、大津プリンスホテルの天ぷらコーナーで夕食。食事中もエローさんの姿を見つけたフランスからの旅人に記念写真を求められ、にこやかに応じておられました。

27歳で3万人の小さな町の市長になった、ということで「生涯政治家」と自認しておられます。39歳で、造船業などが撤退して疲弊した町を、文化により再生するという公約でナント市長になり、その後20年以上市長を続け、強力なリーダーシップでナントの町を、フランスだけでなく、国際的にも重要な文化都市につくりかえた政治家です。そのビジョンといい、実行力といい見事です。

とっても気さくで、こちらからいろいろ聞きたかったのですが、逆に質問されるばかりでした。私が学者から政治家になったのはなぜなのか? 滋賀県でアール・ブリュットが広がったのはなぜ? アール・ブリュットのパンフレットをみて、それぞれの作家の背景など矢継ぎ早の質問攻めです。それぞれに私の知識と思いをまぜて、話をさせてもらいました。

また「何であなたは知事時代にアール・ブリュットに関心をもったのか?」という質問には、「実は文化人類学調査をしていた時代に触れたアフリカでの住民アートと、アール・ブリュット作品の存在感、魂を動かす力は共通だ、と思って感動して、知事としてもこの人たちの作品の生まれる場、作品そのもの、その展示など動かす仕組みを応援しようとした」と伝えました。そこにはエローさんも奥様も納得してくださったようです。そして「政治は力がある」と言っておられました。

ただ、こちらから、「なぜ、ナントの町を文化で再生しようとしたのか」、など本質的なことを聴きそびれてしまいました。この点は、18日の講演会で披露してくださること、期待しています。

さて、このナント市です。3年前の知事の時代、フランスに出張した折、私もナント市を訪問しました。まず町中全体に低床のトラムルートが張り巡らされ、乳母車も車椅子の方も、どんどんトラムに乗って移動しています。若い人を中心に人口が増加をしていて、フランス国内でももっとも住みよい町とも言われているということ。

かつてビスケット工場だったという建物は文化センターに作り替えられ、演劇や美術館、ティーサロンなど、大勢の人たちの文化的たまり場になっています。かつての造船場あたりは、造船技術を活用して、巨大な機械じかけのゾウが子どもたちを背中に乗せて町中を歩きまわっています。

横の公園で遊んでいる家族をみると乳母車を押しているのは半分以上がお父さん、という姿を写真に写した記憶があります。父親の育児参加はフランス各地で頻繁にみられますが、ナント市では特に目立ちました。

また滋賀県でもすでに5回の実績をもち、春の連休時のびわ湖ホールあたりでにぎやかに開催される「ラ・フォル・ジュルネ」(熱狂の日)音楽祭の、「文化イベント」のプログラムをまとめて発信するという事業もナント市のルネ・マルタンさんが総合企画をしておられます。

エローさんからは、ナントの町の記憶を地理学者が「人とともにある町論」として展開した『ひとつの町のかたち』(ジュリアン・グラック作)をいただきました。琵琶湖辺で古川彰さんといっしょに私たちがこだわっていた「現象学的環境論」に通じる、「生きられた町」の物語でもあります。「環境イメージ論」でもあります。

私は琵琶湖の原風景を前野隆資さんの写真でまとめた『琵琶湖・水物語』の白黒写真集を、「Longing Future」(懐かしい未来)として、また滋賀県発行のアール・ブリュットのまとめパンフレットを贈らせてもらいました。

2017年のナント市での日本のアール・ブリュットの発信、それに続く2020年のオリパラ時の文化的プログラムの企画・充実、2019年には滋賀県の「新生美術館」も増改築を終えてオープンする予定です。琵琶湖博物館のリニューアルも3回にわたり継続し、これからの数年、滋賀県としての文化的発信はますます充実していきます。県内外の皆さんの関心の高まりを期待します。

 

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