Facebook 2015年12月30日

今年の琵琶湖の三大慶事、4月「琵琶湖が日本遺産指定」、9月「琵琶湖再生保全法」成立、11月ふなずし総本家「喜多品老舗」が再興!12月30日。(また長い!)

「日本遺産」と「琵琶湖再生保全法」については、すでに詳しくお知らせしました。みっつめのふなずし総本家「喜多品老舗」の再興は、個人的にふなずしにいれこんでいる私としては、また喜多品さんのご家族を昔から知る私としては、きわめて個人的に、今年の三大慶事です。

3年前に廃業に追い込まれたお店がこのたび再興されました。そのふなずしを今晩の晩酌でいただき、本体の卵部分はもちろん、実は私が一番好きな頭と尻尾まで熱湯をかけてお茶漬けにしていただき、ご満悦です。とろっとした、やわらかな舌ざわりのコラーゲンいっぱいのこのお茶漬けは癖になります!

喜多品さんは、江戸時代初期、1619(元和5)年、伊勢から大溝藩主として高島市勝野に入った分部光信公のまかない方、山形屋(北村)九右衛門が、ふなずしをつくり始めたのが起源とされていて、あと4年で創業400年という伝統あるお店です。

18代を受け継ぐ北村真里子さんと夫、篤史さんの二人三脚を、「叶匠壽庵(かのうしょうじゅあん)」(大津市大石龍門町)が物心両面で支えてくださいました。5年後の2019年「創業400年」に向け、新たな経営に期待が寄せられます。

ふなずしは春に子持ちのふなを塩漬けし、夏の土用の頃から飯(いい)漬けして発酵させ、冬に出来上がります。新生喜多品さんは、卵のない雄と古代赤米を使った廉価版「春雄鮒(はるおすぶな)」を、名神高速大津サービスエリアの叶匠壽庵の店と、京都・錦市場で「四○○年鮒寿し」と銘打って販売し始めました。子持ちのメスばかりが珍重されていたところに雄ブナ活用のアイディアも新鮮です。

喜多品の伝統は「百匁百貫千日」にあります。1尾百匁(もんめ)(約375グラム)のニゴロブナを百貫(約375キロ)入る桶で、塩漬け2年、飯漬け1年、さらに新しい飯に漬け替え、約千日かけてつくります。

実はこちらの先代17代の北村真一さんと奥様とは、私が琵琶湖研究所にはいった1980年代初頭からの大変長いおつきあいをいただきました。琵琶湖にまつわる文化的イベントに大きな関心をもたれ、各種のシンポジウムなどでも必ず顔をみせてくださり、高島の「紅葉鮒」の重要性をあつく語ってくださいました。裏では草津から嫁入りした奥様がお店を守り、支えておられました。

高島を訪問する度に「喜多品」さんご夫妻を訪問し、ふなずしや飴炊をいただくだけでなく、高島町の水文化についても詳しく教えていただきました。

実は江戸時代初期の分部時代にできた高島城下町は、「上水」「中水」「下水」の見事な古式水利システムが今に受け継がれています。日本全国でみても珍しい、日本伝来の水文化です。

上水は西側の山すその日吉神社などから湧き水を竹管と栗の枕でつないで町中にひいて、いわば「古式水道」を地下につくっています。各家には井戸のタツがありますが、そこには湧き水が竹管でひかれています。(江戸の玉川上水もこの方式でした)。

というのも、自分の家のすぐ下の地下水は琵琶湖辺特有のカナケで水質が悪いからです。このグループを「井戸組」(池仲間)といって行政とは独立して、自主管理してきました。今もこの組織が残っています。

下水は各家と家の背後から流れ出る「背割り排水」として町の下流部に集められ、内湖でいったん沈殿・浄化されて琵琶湖へ流れでます。

高島で特色があるのは「中水」で、道路の真ん中に洗い場があり、ここで衣服の洗濯などの洗いものをします。昭和初期の喜多品さんの店の前のふなずし漬け込みの時の水路の写真もあります。

石積みで大変風情のある水路ですが、この水路が昭和60年代に、「国のお金がついたから、近代的なタイル張りにする」という計画がもちあがりました。当時、琵琶湖研究所の水文化研究担当だった私は、なぜ石積みの風情ある水路をわざわざタイルにするのか、と疑問をもちました。

同じように北村真一さんも元の水路を残してほしいと、ふたりで当時の高島町役場にかけあいましたが、まったく相手にしてもらえませんでした。「国のお金がついて、近代化するのがなぜ悪い」と。

今は、風情のないタイル張りになっていますが、水路が道路の真ん中に残されただけでも良しとしなければいけないかもしれません。というのは、中水道をもつ日本各地の城下町が、車の通行を優先して、水路の暗渠化が進んでしまったからです。

今、高島市は、全国発酵食品サミットを開催したりしながら、高島の発酵食品文化を全国に発信されています。この発酵サミットに「喜多品」さんも参加しておられ、今後が期待されます。

実は高島の地域は、湿度も高く発酵食品をつくるのに適した環境があり、また材料のニゴロブナなどを育てる琵琶湖もあり、まさに「ふなずしづくり」には最適のところです。

日本のすしの元祖といわれるふなずしづくりの文化的伝統が、皆さんの協力で残されたこと、晩酌しながら、今年の慶事としてよろこんでいる本日の私でした(微笑)。

 

先頭に戻る