Facebook 2018年2月14日

マラウイ湖からの客人便り(1)。アフリカ中部にマラウイ湖という琵琶湖の45倍ほどの古代湖があり、1000種近い固有種が生息しています。今週、これまで20年以上のお付き合いをしてきた地元の若者グループのリーダーのジョン君(32歳)と、地元知事のムソサさん(60歳)が琵琶湖を訪問。琵琶湖博物館や沖島漁村、針江のカバタなどを案内し、あわせて国連ミレニアム計画(SDGs)に力をいれる三日月知事を訪問しました。その一部をご紹介します。2月14日。(また長いです)。

1995年以来、マラウイ湖と琵琶湖の間で、研究者と住民が共同をして、湖の魚類の生態系調査や湖辺の人びとの暮らしの保全を含めて、共同研究をすすめてきました。JICAや文部科学省・環境省など、多方面からのファンドをいただきながら、私はもっぱら湖辺の人たちの水利用や漁業など、「暮らしと湖のかかわり」について研究し、琵琶湖博物館の展示や、書籍での公表をしてきました。そこで私自身が最も重要視してきたのは、湖辺の住民の当事者目線です。

ただ、大人ですとどうしても既存の考え方や概念にとらわれがちなので、最初から子どもたちに近づき、子どもたちから、湖辺での水使いや魚つかみなど、また衛生問題など、湖辺での暮らしぶりをいろいろ教えてもらいながら、子どもたちとの共同研究をすすめてきました。今回、琵琶湖を訪問してくれたジョン君に最初に出会ったのは1995年の夏、今から22年前です。当時10歳だったジョン君は今や32歳!昨年結婚をして、落ち着いてきました。

1995年以来、2006年に私自身、知事職につくまでほぼ毎年マラウイ湖辺を訪問してきて、ジョン君たちの成長を見つめてきました。その中で最初に彼らが教えてくれたのは、トイレ問題です。マラウイ湖辺では伝統的にトイレがありません。湖辺や川べり、ヨシの後ろなどにまさに「野糞」が溜まっています。人間の屎尿で水源を汚してしまうので、水系伝染病がひろがり、子どもたちの死亡率も高いのです。なぜ?

屎尿を肥料として利用する文化がないので、屎尿は邪魔ものなのです。日本で鎌倉時代以降、トイレを普及させ、村も町も衛生的に美しく保ってきたのは屎尿の徹底的な肥料利用のおかげです。その上、アフリカの多くの伝統社会では、屎尿が、憎い人に呪術をかける媒体になりうるので、そもそも屎尿について語ること自体がタブーでした。

それで、2003年の琵琶湖辺での世界子ども水フォーラムの時にはジョン君はアフリカのトイレ問題をユネスコの人たちに訴えてくれました。その時、滋賀県高島市の針江で、大小便分離型のトイレを見物してもらいました。2005年のナイロビの世界湖沼会議でもジョン君はトイレ問題を発表してくれました。その後、ジョン君たちだけでなく、日本のNPOが力をいれてマラウイやケニアなど、エコサントイレがアフリカでひろがりつつあります。

一方、マラウイ湖の黄色や青色の魚は「ムブナ」と呼ばれ、観賞魚としても貴重で、1981年に世界遺産に指定され、生物多様性の宝庫として漁業が禁止されることになりました。琵琶湖博物館の水族展示にもムブナがいます。しかし地元で魚に依存する漁師の暮らしは逆に大変です。そこで、観賞魚の水中観察などで観光客を呼ぶエコツーリズムを広め、今ジョン君は若者ツアーガイドグループをつくり、地元漁業者と観光客の調整役をしているということです。「ムブナは食べるためではない、見るために」という言い分をつくり、子どもや若者が逆に大人たちを説得しているほどです。

また湖辺の美化、ゴミ集めにも貢献しています。具体的には湖岸にふえつつあるプラスチックごみやビンの蓋などをあつめて、それで工芸品をつくり、観光客に販売し、湖岸の美化と経済的収入の両方に貢献している、ということです。私自身、2001年から2005年まで、京都精華大学の学生をマラウイ湖につれていってゴミ研究をしました。その時、私自身は、「物としてゴミはない。ゴミは人が不要と思うからゴミなのだ、ゴミは資源になる」と、湖辺のプラスチックごみをあつめて、子どもたちが欲しがっていたサッカーボールをつくるコンテストをしました。できるだけ大きなボールをつくろう、というコンテストでした。コンテストの後、湖岸からプラスチックごみが消えました!

今回、ジョン君は、「かだママがあの時、ゴミで物をつくるコンテストをした、その思いから学んで今、ゴミ工芸品をつくって販売している」と言ってくれました。「もったいない」という基本思想から、環境社会学の実践を重ねてまいてきた小さな種子が、こうして22年の間に、遠いアフリカのマラウイ湖辺でも育ちつつあること、うれしく思います。それもこれもジョン君たち、子どもや若者が日本の「もったいない文化」を広めてくれたおかげです。ジョン君に「ママはもう仕事がなく、収入もないので、今度はジョンがママたちをマラウイに呼んでね!」と言って別れました(微笑)。

 

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