20220524法務委員会【確定稿】

 

○嘉田由紀子君 ありがとうございます。碧水会の嘉田由紀子です。

 私も、まず、今回の刑法等の一部を改正する法律案関係で、表現の自由と侮辱罪の重罰化についてお伺いしたいと思います。

実は、政治家、そして特に首長などしておりますと、どちらかというと、この侮辱なり、あるいはかなり批判を受ける側になります。それで、ちょっと個別の事例なんですけど、個別の事例で考えさせていただきます。
二〇〇六年に知事になって、二〇〇七年に新幹線の新駅の中止について二つ言わば誹謗中傷をいただきました。一つは、二〇〇七年の四月二十三日ですが、ちょうど長崎市の市長がピストルで殺された、長崎市のようになりたくなかったら新幹線の新駅造れと。これは電話で、まあ脅迫でしょうか。同じく七月、二〇〇七年の七月に、ああ、駅を止める、女の人は視野が狭いんだと、これはある有名な政党の元総理大臣でした。
それから、駅の街頭で私は公共事業の見直しでダムを止めると言っていたら、それは悪代官だと、命を守れないのかというような批判もいただきました。
今回は、ツイッターとかSNSの問題です。木村花さんの事例は心を大変打つ問題なんですが、私自身も参議院に出るとき、二〇〇九年の七月八日でした、もう今もまだ記事が残っていますけど、参議院議員で共同親権を言っている嘉田由紀子は、共同親権、ここにまだ記事が残っています、共同親権は貧困対策になるというけど、貧困対策にはなりませんと、この人を、言わば嘉田を落選させろということがツイッターで広がりました。
それから、去年ですけど、二〇二一年の五月十四日、実はシェルター問題というのがありまして、滋賀県内にある、ある婦人相談所、これは厚労省にも場所が書いてあるんですけど、そこの情報を出したということで参議院議員を辞めろと、かなり盛り上がったというか、バズりました。
こういう、私自身、どちらかというと、この対象にされる、そういう立場から見て、今回の改正で法定刑を引き上げる刑法二百三十一条では、事実を摘示しなくても公然と人を侮辱した者が罪に問われることとなっておりますが、SNSなどのネット上の書き込みがどの程度であれば「公然と」と判断されるのでしょうか。捜査当局によって判断が分かれる可能性は生じないのでしょうか。刑事局長さんにお願いいたします。
○政府参考人(川原隆司君) お答えを申し上げます。

委員は、侮辱罪の構成要件のうち「公然と」という場合は、具体的にどの程度ならばというお尋ねでございますが、犯罪の成否は収集された証拠に基づき事案ごとに判断されるべき事柄でございますので、どのような場合に侮辱罪の公然性要件を満たすかについて、この場で私ども法務省として確定的なお答えをすることは困難でございます。この点はまず御理解賜りたいと存じます。
その上で、一般論として申し上げますれば、侮辱罪の要件である「公然と」とは、名誉毀損罪の要件である「公然と」と同じ意味でありまして、不特定又は多数人が認識できる状態をいい、相手方が特定少数人であったとしても伝播して間接に不特定多数人が認識できるようになる場合も含まれると解されておりますことから、公然性の要件を満たすか否かにつきましては、そのような状態にあると認められるか否かによることとなるところでございます。
〔委員長退席、理事高橋克法君着席〕
そして、公然性、「公然と」の要件の意義につきましては、最高裁判例を始めとして裁判例の積み重ねがあるところでございまして、捜査機関におきましては、こういった判例等も踏まえて事案の内容等に応じて適切に対処しているものと承知しております。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。 いろいろ判例があるということでございますけれども、もう具体的にはお答え要りませんが、例えば、今のような私自身がネット上で大変誹謗中傷を受けている、侮辱と言えるかどうか。これまた、ただ、六か月以上たっていますので、またこちらが訴えるつもりもございませんけれども、ただし、一方で、私は表現の自由は必要だと思っております。自分が侮辱の対象にされたとしても、政治家というのはそこは耐えなきゃいけないということを思っておりますので。
また、二点目ですけど、侮辱罪の法定刑の引上げによって当罰性の高い行為に対してはこれまでより重い刑が科されることになりますが、当罰性の高低をどのように判断することが想定されているのでしょうか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えをいたします。
当罰性の程度につきましては、個別の事案ごとに具体的な事実関係を踏まえてどの程度の重さの処罰が適当であるかが判断されるべきものでありますため一概にお答えすることは困難でございますが、一般論として申し上げれば、行為の結果、態様、動機等の様々な事情が考慮されるものと考えられるところでございます。
侮辱罪と保護法益が同じ名誉毀損罪について、有罪判決において量刑の理由として示されているところを調査した結果を御紹介いたしますと、おおむね、被害者の社会的評価を害した程度、犯行の手段、方法や公然性の程度、犯行の期間、回数、犯行の動機や公益目的の有無、被害者の精神的苦痛、処罰感情の程度、示談の有無、原状回復措置の有無などの事情が量刑上考慮されているようでございまして、侮辱罪におきましてもこれらが参考になると考えられるところでございます。
○嘉田由紀子君 この表現の自由の問題、大変難しいとかねがね思っております。
批判する側もされる側も、健全な民主制を維持するためには、社会生活の中で公私にわたり活発な批判、批評が行われることは重要です。しかし、批判、批評を行う側も、批判、批評の対象となる側も、どのような表現に侮辱を感じるのか、その受け止め方は様々でございます。
また、ある表現が誹謗中傷であると非難する社会全体の意識も流動的です。個人のレベルでも社会のレベルでも、どの程度の表現活動なら刑罰が科されても仕方がないと判断されるべきか、客観的な基準を示すことは困難でございます。
そういう中で、従来より重い刑罰を科することが表現の自由の保障を従来よりも損なわないと言えるのでしょうか。これまでも皆さんの質問にお答えしていただいていますけれども、刑事局長の法務省の御見解、お聞かせください。
○政府参考人(川原隆司君) お答えいたします。
今回の法定刑は侮辱罪の法定刑を引き上げるのみでございまして、構成要件を変更するものではなく、処罰の対象となる行為の範囲、すなわち侮辱罪が成立する行為の範囲は全く変わらないところでございます。また、法定刑に拘留、科料を存置することとしておりまして、当罰性の低い行為を含めて侮辱行為を一律に重くする趣旨でもございません。さらに、公正な論評といった正当な表現行為については、仮に相手の社会的評価を低下させる内容であっても、刑法第三十五条の正当行為として違法性が阻却され、処罰されないと考えられるところでございます。
その上で、法定刑が引き上げられた場合の運用につきましては、一般に、侮辱罪を含め、刑事事件における捜査機関や裁判所の判断は、刑事訴訟法等の規定に従い、証拠に基づいて個別の事案ごとになされるものでありまして、御懸念の点につきましては、法制審議会の部会においても、捜査、訴追を行う警察、検察の委員から、これまでも表現の自由に配慮しつつ対応してきたところであり、この点については今般の法定刑の引上げにより変わるところはないとの考え方が示されたところでございます。
したがいまして、今回の法改正は表現の自由の保障を不当に損なうものではないと考えております。
○嘉田由紀子君 御丁寧にありがとうございます。
公然と人を侮辱する行為に向けた社会の批判に応えるために、民事上の不法行為責任を追及しやすくするのではなく、つまり民民としての私的自治の観点ではなく、例えば、先ほど私がツイッターでいろいろ批判を受けております、参議院議員として不適切だ、議員辞職しろとか、あるいは言わば落選運動をされるとか、そういうところを民事上の不法行為責任を追及しやすくするのではなく、刑法上の刑罰強化を行うこと、これは社会の在り方として望ましい方向であるのか、少し抽象度の高い質問ですけれども、法務大臣の御見解、お聞かせいただけますか。
〔理事高橋克法君退席、委員長着席〕
○国務大臣(古川禎久君) インターネット上で行われます悪質な侮辱行為は、時に人を死に追いやる、あってはならない行為でありまして、その根絶を図る必要がございます。
こうした侮辱行為を含め、近時、社会問題となっております誹謗中傷に適切に対処するためには、行政的な諸施策を含めた様々な取組を進めることが必要でございます。
法務省においては、これまでも、被害に遭われた方からの人権相談への対応や、プロバイダー等に対する投稿の削除要請などを行ってきたところでございます。また、令和三年四月、発信者情報の開示に関する新たな裁判手続の創設、開示請求を行うことができる範囲の見直しなどを内容とするプロバイダー責任制限法の改正法が成立、公布されていると承知をいたしております。
その一方で、近時の侮辱の罪の実情等に鑑みれば、公然と人を侮辱する侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、侮辱行為を抑止するとともに、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対してこれまでよりも厳正な対処を可能とすることが必要であり、そのような観点から侮辱罪の法定刑を引き上げる必要があるというふうに考えております。

○嘉田由紀子君 社会的価値観の違いだなと、改めて今法務大臣の答弁を聞いて思いました。
プロバイダー責任なり、あるいはネット上の様々な規制というのは既にやっていただいている。それで十分ということではなく、逆に重罰化するというのは、社会の在り方としてまさに言語空間あるいは発言を大変萎縮させてしまう、そこを私は元々社会学者としても大変気にしております。ですから、自分が様々な落選運動の対象になり、また特にこの共同親権問題というのはネットですぐ、ある意味で燃え上がるんですね。その対象に自らがなりながらも、ここは重罰化ではないということを私自身は政治家として選んだ方がいいと思っております。ですから、今回のこの刑法改正については大変慎重な姿勢を取りたいと思っております。
次の質問は、再犯防止推進計画、これについては、今回の刑法改正、社会として望ましい方向に行っていると思っております。
知事時代からとても気にしていたんですけれども、本当に検挙される方の約半数が再犯者であると。しかも、その中には障害を持っていらしたり、あるいは高齢者で常習的に万引きをしてしまうとか、そういう方がとても多いんですね。この方たちをどうやって社会の中で、その方たちも幸せに、そして言わば社会として平和的な社会にできるかということで、それで今日資料としてお出ししました、滋賀県再犯防止推進計画というのを出させていただきましたけれども、これ全国の都道府県で作っていられると思います。二〇一九年に滋賀県では五年計画を策定しております。
大切にする視点としては三つございます。一つは、気付きからつながる仕組みづくり。まさに、あっ、この人、万引きしてしまったのは寂しいからかなとか、孤立していたからかなとかいうことを周囲の方が気付くことによって社会関係を豊かにしていこうと。それから、多職種、多分野によるネットワークづくり。これもいろいろ現場で警察情報をいただいた市役所の職員さんがそのサポートする仕組みをつくる、そういうようなこともやっていただいています。それから三点目は、一人一人の人格と個性を尊重して支援し続けるための基盤づくり。
この三点で、成果指標としては、刑事司法手続段階における支援事業等を開始した対象者に二年後も何らかの形で地域の支援者が関与している割合、これ定着率と定義していますけれども、目標値はKPI九〇%以上なんですけれども、滋賀県の場合に、平成三十年九四・九%、令和元年九五・一%、令和二年はまだ途中経過なんですが九〇・五%という形になっております。
それで、ここは、このような滋賀県の取組をどのように評価なさいますでしょうか。法務大臣に対して、感想で結構です、御意見いただけたらと思います。

○国務大臣(古川禎久君) 滋賀県では、県の再犯防止推進計画を策定いただくとともに、モデル事業を受託していただいて、これまでも先進的な取組を実施していただいているところでございます。また、このモデル事業終了後も県独自の事業としてこれらの取組を継続して実施していただくなど、再犯防止の分野における地方公共団体の先駆的な存在であるというふうに認識をいたしております。
実は、私も昨年、滋賀県更生保護ネットワークセンターを訪問をいたしまして、罪を犯した人の立ち直りを地域で支えておられる方々のお話をまさにこれ膝詰めでお伺いする機会を得ました。いろんな具体例を含めて、やっぱり様々悩みつつ取り組んでおられる皆様の本当にこの思いといいますか、この事業に懸ける本当に高い志というようなものを私自身も肌で感じさせていただきまして大変感銘を受けた、そういう経験も私、持っております。
非常に、罪を犯した人の立ち直りという、大変地味なのですけれども、なかなか光が当たりづらい分野ではあるけれども、本当に尊いんだということを感じておりまして、先駆的にこの実践をし、かつ実績、成果を上げておられるこの滋賀県の取組については心から敬意を表したいと思っております。
また、さらに、令和元年には当時の山下貴司法務大臣が滋賀県を訪問されたそうでございます。その当時の、今の三日月知事との間で、三方よし宣言ですか、三方よし宣言という共同宣言を交わして、何といいますか、より高い理想を目指して取り組んでおられると、こういうお姿にも大変敬意を表したいというふうに思っております。

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○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
何も身びいきでということではなくて、こういうモデル、もちろん他府県もいろいろやっておられると思いますけれども、身近なところで見てきたのでより具体的に、また、まさにこれは横串を刺す政策が必要なんですね。というところで御紹介させていただきました。
私、知事になって、ある意味で権力行使というよりは工夫を入れ込むのに、例えば建設工事の入札資格にいろいろ点数入れますけど、そこに男女共同参画度であるとか、それから保護観察対象者の就労というようなことで点数化する、そうすると、そこのところをポジティブに受け止めていただくというので、地域社会もだんだん認識が変わってくるかなということを学ばせていただきましたので、紹介をさせていただきました。
もう時間もありませんので、法務省の矯正局長さんに、受刑者の社会復帰支援の効果を高めるために、刑の執行段階のうちに、刑事収容施設内等で就業あるいは修学支援などの社会復帰支援の機会、種類を増やすことは検討されているでしょうか。お願いいたします。
○政府参考人(佐伯紀男君) 刑事施設におきまして、出所後の自立した生活を営む上で困難を有する受刑者に対しまして就労支援や福祉的支援等の社会復帰支援を行ってきたところでございますが、今回の法改正では、処遇の一層の充実を図るため、受刑者に対する社会復帰支援が刑事施設の長の責務とされてございます。
今後におきましては、受刑者の資質や環境、本人のニーズを見極めた上で、これまで以上に支援が必要な受刑者に対し適切に動機付けを行い、支援を希望する受刑者に対しましては、出所後の就労や福祉サービスなどを提供できるように調整する支援を想定してございます。さらに、就労内定先の見学であったり、利用が想定される福祉サービスの事前体験を実施するなどの取組、こういった社会復帰支援の一層の充実に努めてまいりたいと考えてございます。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
予防的な措置を、また再犯に至らないように、これはもう、それこそ本人にもよし、また家族、周囲にもよし、社会にもよしという、私たちは三方よしといつも言っておりますけど、それが今回のこの刑法等の一部改正する法律案の中で前向きに対処していただけたらと思います。
私の方はこれで終わります。ありがとうございました。

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