2022年5月12日法務委員会【確定稿】

 

○嘉田由紀子君 ありがとうございます。碧水会の嘉田由紀子でございます。

今回の民事訴訟法の一部改正案では、第百五十四条が新設されまして、通訳人の立会い等に関する規定が置かれております。国際化が進み、そして外国語を話す方が裁判に関わるこの時代、大変時宜を得た追加だと思っております。
ただ、いろんな問題がありますので、今日はその点について集中して質問をさせていただきます。この裁判所における法廷通訳は、民事事件だけではなく刑事事件も視野に入れているということで、質問させていただきます。
まず初めに、法務大臣に確認をさせていただきます。
法廷通訳人に期待される役割には、民事、家事、刑事、質的な違いがあると考えます。つまり、日本語を十分に理解できない外国人であっても日本語で公正な裁判を受ける権利が保障される環境を整えること、例えば裁判所あるいは当事者が適正な資質、能力を有する法廷通訳人を依頼できる環境を整えることは全ての事件に共通して期待されている役割だと考えられますが、刑事事件においては、さらに、外国人である被告人の権利保障という観点から、より慎重な配慮が必要だと考えられます。政府の政策判断に基づく裁量的な施策の一つとして、ゆっくりと対応するだけでは足りないのではないでしょうか。
確かに、刑事訴訟法百七十五条は「国語に通じない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせなければならない。」と規定しておりますが、証拠資料の確保という観点からの通訳だけではなく、適正な資質、能力を有する法廷通訳人によって被告人の権利を実質的に保護し得るだけの通訳が行われることまで保障することが求められていると考えております。
法務大臣の御見解、いかがでしょうか。
○国務大臣(古川禎久君) お答えいたします。

日本語を十分に理解することができない外国人が民事事件、家事事件、刑事事件に関与する場合に関して、民事訴訟法、家事事件手続法及び刑事訴訟法はそれぞれ通訳に関する規定を設けております。これらの規定に基づきまして資質、能力を有する通訳人が選任され、当該通訳人によって正確、公正な通訳が行われることは、外国人の権利保護の観点からも重要であるというふうに考えております。
これらの規定に基づく実際の通訳人の選任につきましては、裁判所が個別具体的な事案に応じて適切に行っているものと承知しておりますが、法務省としては、引き続きその運用を注視してまいりたいと存じます。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。方向として示していただきました。
ただ、実際の現場を見てみますと、今日、資料を出させていただいておりますけれども、刑事事件における外国人事件の終局人員と通訳人登録者名簿登録人数の関係というところで、より通訳者が確保しやすい言語と確保しにくい言語、ここに明らかに差があります。
資料一を出させていただいておりますけれども、例えばベトナム語ですと、裁判の事例は多いのに通訳者は供給が足らない。逆に、中国語や英語、韓国語では比較的通訳者の数が多いと。

20220512【配付資料①】法務委員会

それから、この具体的な現場での問題、資料二として静岡県立大学の法廷通訳研究会が出された大変丁寧な資料がございます。法廷通訳の仕事に関する調査報告書ですが、分かりやすい話し方のためにとか、日本語の運用、労働環境、報酬、それから様々な事前資料、接見、その他、大変緻密なアンケート結果がありますが、特に通訳人の養成や認定制度などが今ないというところで、現場では随分御苦労いただいていると思います。
そういう中で、今回、二点目ですけれども、民事訴訟法の改正百五十四条では、裁判所が相当と認めるときは、最高裁判所規則に従って、裁判所及び当事者双方とも映像と音声の送受信により通訳人に通訳させることができると規定されております。しかし、裁判所、当事者が通訳人等を必要とした際に、法廷通訳を行える資質、経験を持った方が見付からなければ本条は空文化し、当事者はその主張を十分に裁判に訴えることができず、裁判の迅速化を妨げる結果ともなってしまうことが懸念されます。
それで、この本改正案第百五十四条の立法趣旨を御説明いただけますでしょうか。法務省さん、お願いします。

20220512【配付資料②】法務委員会  2017 法廷通訳の仕事に関する調査報告書

○政府参考人(金子修君) 現行法におきましては、映像と音声の送受信を利用したウエブ会議の方法による通訳は認められて現行でもおるんですけれども、音声のみを利用した電話会議による通訳は認められておりません。
しかし、例えば当事者の話す言語が少数言語であった場合には、通訳人の候補者が限られることが予想されるところ、その候補者がウエブ会議に対応することができない場合もあり得ること等を考慮すれば、適切な通訳人を確保し手続を円滑に進行させるためには、通訳人が関与する方法はできる限り広く認める必要があると認識しているところでございます。
他方で、現在は民間のサービス等でも電話による通訳も広く行われているものと承知しており、電話会議による通訳を認めても通訳の正確性等の観点から特段の問題はないものと考えられます。もっとも、可能であれば映像と音声の送受信を利用した方法が望ましいとは考えられます。
そこで、改正法案では、通訳人の確保をよりしやすく観点から、ウエブ会議によることに困難な事情がある場合には電話会議による通訳をさせることができるというような規定にしているところでございます。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
それでは、具体的に今後、最高裁判所さんにお聞きしますけれども、法廷通訳人が求められる事件数、民事、刑事、家事、今後の動向をどのように予測されているでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君) お答え申し上げます。
法廷通訳を要する事件数につきましては、増加、減少のいずれの要因につきましても、例えば外国人に関する政府の施策や、刑事事件について言えば犯罪抑止対策、その他様々な社会情勢の変化の影響を受けるものであるため、御指摘のそれぞれの事件類型を問わず、裁判所の立場から法廷通訳を要する事件数の今後の予測を申し上げることは困難と考えております。
もとより、裁判所としましては、法廷通訳に対する社会の関心の高さも踏まえまして、今後も、事件数の動向を注視しながら、適正な通訳を確保するための取組の継続に努めてまいりたいと考えてございます。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
予測がなかなか付きにくいということでございますけれども、それでは法務省さんにお伺いしますが、民事事件において法廷通訳人の確保が困難になるような事態、避けられるでしょうか。御認識いかがでしょうか。
○政府参考人(金子修君) 現行法ではできなかった電話会議による通訳を認めるという改正になっておりますので、今まで認められていたウエブ会議では対応することができない通訳人について、電話会議による通訳を可能とすることによってより柔軟な方法で通訳を認めるということになりますので、通訳人の確保がよりしやすくなるということは言えるものと考えております。もちろん、これが万能薬になるというものでもないということは、そのとおりだろうと思います。
○嘉田由紀子君 オンライン会議、また様々な機器を使いながら、より実効性のある通訳の機能が発揮できたら有り難いと思います。
では、具体的に、先ほども資料をお示ししましたけれども、ベトナム語やタイ語など、日本の学校教育では学習する機会の少ない言語を始めとして通訳が必要となる言語が多様化する一方、法廷通訳人の登録言語は中国語、英語、韓国語など日本人が従来学習してきた言語に集中し、刑事事件では通訳が必要となる言語との間で偏りが見られます。
このようなミスマッチが生じていることについてどのように御認識なさっておられるでしょうか。また、その解消に向けた取組、最高裁判所さんにお願いします。
○最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君) 委員御指摘のとおり、例えばベトナム語について申し上げれば、令和三年における被告人にベトナム語の法廷通訳が付いた地裁、簡裁の刑事事件の終局人員は一千六百二十七人でございまして、裁判所の通訳人候補者名簿に登録されたベトナム語の通訳人候補者の数を大きく上回っているということはそのとおりでございます。
裁判所としましても、このベトナム語あるいはタイ語の通訳需要が高まっていることは認識してございまして、このような通訳需要の高い言語に焦点を当てた積極的な働きかけを行うことにより、通訳人候補者の数の確保に努めております。取組の結果、平成二十九年四月一日時点で六十人であったベトナム語の通訳人候補者は、本年四月一日時点で百三十三人となり、この五年間で七十三人の増加を見てございます。
いずれにしましても、これまで個別の事件において通訳人の選任ができずに支障が生じた例には接しておりませんで、各地の裁判所では、通訳人候補者名簿を利用するなどして通訳人を適切に確保できるものと承知しておりますが、今後も事件動向を注意してまいりたいと考えております。
また、ミスマッチの解消に向けた取組を説明するということでございますが、先ほど申し上げました通訳需要の高い言語に焦点を当てた積極的な働きを行うことのほか、裁判官が通訳人候補者の供給源となることが期待される大学に出張をして法廷通訳に関する説明会を実施するなどの取組によりまして、通訳人候補者の確保に努めてございます。
さらに、先ほど来話題に上っておりますけれども、近隣の通訳人が確保できない場合等にも円滑に適切な通訳人を確保することを可能とするため、手続を行う裁判所とは異なる裁判所に出頭した通訳人による遠隔通訳を可能とするための機器を整備したり、既存の設備を用いた運用を工夫するなどの取組も行っているところでございます。
○嘉田由紀子君 様々な機器の活用などで、また、ミスマッチの起きないような対応を取っていただいていること、期待をしております。
では、法務省さんに、この法廷通訳人が不足しているときに、国外に住んでいたり滞在している方を法廷通訳人として選任することは可能でしょうか。お願いいたします。
○政府参考人(金子修君) お答えいたします。
現行法令上、通訳人がウエブ会議を利用して通訳をする場合には、通訳人は、必要な装置の設置された場所であって、裁判所が相当と認める場所に出頭することとされていますが、通訳人の所在場所が日本国内か否かについての規定はございません。
もっとも、通訳人であっても、外国に所在する者との間でウエブ会議を利用して手続を行うことにつきましては、外国の領域に我が国の裁判権を及ぼすこととなり、外国の主権との関係で、相手方、相手国との合意なく実施することは問題であるとの考え方もあることから、外国に所在する者との間でウエブ会議を利用して手続を行うということは想定しておらず、外国に所在する者がその外国に所在したままで通訳人として通訳を行うということは想定していないところでございます。
○委員長(矢倉克夫君) お時間になりましたので、質疑をおまとめください。
○嘉田由紀子君 はい。

では最後に、法務大臣に国際人権規約についてのコメントいただけますでしょうか。
○委員長(矢倉克夫君) 端的に御意見のみでお願いいたします。
○嘉田由紀子君 じゃ、もう私の方から。

国際人権規約でも、やはり外国人の裁判を受ける権利というのは大変重要です。今後、資格制度をつくるとかいうところでこの人材供給について確保していただけたらと要望だけさせていただきます。
ありがとうございました。

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