Facebook 2018年4月28日

「あの赤潮発生以来、こうした専門書が世に出ることを心から願っていました」(武村正義元滋賀県知事)、「今こそ人類は世界の英知を集め、「持続可能社会のモデルづくり」を急がねばなるまい」(國松善次元滋賀県知事)。最近、内藤正明さんとふたりで琵琶湖政策の歴史と持続可能社会モデルに関しての本を編集しました。山中直さん、佐藤祐一さんも執筆してくれています。アマゾンで購入可能です。4月27日。(また長いです:微笑)

全体は3部からなっています。第一部は「科学と政策と文化の融合」として、第1章では琵琶湖の自然に則して総合的に共存関係をつくりだしてきた琵琶湖の社会文化的個性を記述。特に村落共同体が水・土地・農業を総合的に管理してきた時代の共生状態を解説。

第2章では、明治時代以降の琵琶湖政策で、それまでの総合的な環境管理の仕組みが近代官僚機構の中で、「河川」は内務省、「農業用水」は農林省、「漁業」は水産庁、と縦割りの法律にのっとって縦割りの政策として浸透し、琵琶湖と集水域全体の環境管理が分断化されたプロセスを記述しました。政策部門が分断化したことから、その基礎研究も農業試験場、水産試験場、森林研究所など、産業別に分断化されて設立されました。

第3章では、大正時代以降の琵琶湖研究史を整理。近代的な湖沼科学がはじまるのは大正以降の京大による淡水生物研究ですが、ただそれ以外の分野はかなり限られ、滋賀大学や京都大学の個別領域研究に限られていました。

そこに昭和57年の琵琶湖研究所の設立から「文理連携」の総合的な琵琶湖研究がはじまります。いわゆる「学際研究」により滋賀県としての琵琶湖政策研究を目指しました。県独自の総合的な研究機関は当時全国的にも注目されました。そこから基礎研究と展示・交流を目的とする琵琶湖博物館が1990年代以降建設・運営されます。

2005年には、琵琶湖研究所の研究成果と衛生環境センター水質部門によるモニタリング部門が合流をして、「琵琶湖環境科学研究センター」がつくられます。センターでは、文理連携の学際研究にプラスして、明治時代以降分断化されてきた試験研究機関の糾合が一部実現しました。これは全国的にみても画期的なことで、地域に根差した地方自治体だからこそ実現したものと言えます。

第二部は真の持続可能社会をめざす「滋賀モデル」として、東近江市を事例として、2009年につくられた「環境基本計画」の推進とその社会的実装のためのビジョンを住民参加でつくりあげてきたプロセスが丁寧に解説されています。

ここでの環境計画は、「人と自然のつながり」にプラスして「人と人のつながり」の面からも、計画づくりがなされています。それゆえ、温室効果ガスを削減するための技術的条件を前提に、人口構造や経済的活動、日常の暮らしの中でのエネルギー利用などに加えて、子育てや高齢者介護など、社会的活動における「豊かさ」を埋め込んだ計画になっています。

たとえば分かりやすい例では、人とのつながりが高い日常生活の中では温室効果ガスが20%以上削減できる、という数値化も埋め込まれています。細部までここではふみこみませんが、今、国連が2030年までに実現したいというSDGsの17項目はすでに東近江モデルではほぼカバーされているところが見事です。

第3部では「原発事故による放射性物質拡散予測への挑戦」として、2011年の福島原発事故直後に、滋賀県が独自にすすめてきた「若狭湾岸で福島並の事故がおきたとしたら、滋賀県への大気、水質、生態系にいかなり影響があるのか」というシミュレーション研究の経過を解説しています。

自治体が独自に前例のないシミュレーションを進めてきたのは当時、滋賀県だけでしたが、その後も滋賀県に続く府県はありません。なぜこのような画期的な研究が地方自治体でできたのか、そのスタートから経過から結果の解釈などを、当時の知事である嘉田と環境科学研究センターの内藤センター長、担当者の山中直さん、佐藤祐一さんとで座談会をしました。この部分は本書の中で、多分最も読み応えのあるところで、ホンネトークを楽しんでいただけます。

本書は3000円、ちょっと高いですが、琵琶湖政策の歴史に興味をもつ方には必読の本と思います。また琵琶湖以外の地域での環境政策にも通用するヒントがあると思います。特に若い人たちに、琵琶湖政策がどう展開してきて、今後どのような方向にもっていくべきか、ビジョンを描くためにも歴史を学んでいただけたらと思います。

 

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