Facebook 2018年4月29日

九州熊本県には「クマモン」はいても、本物のクマはいません!。熊本県だけでなく九州全域でクマは絶滅してしまい、生息していません。四国や北海道、本州でもクマの生息は危機状況です。新しく会長になった室谷悠子さん達に誘われて「第21回くまもり全国大会」に参加し、改めて日本の森林は、人工林化や銘木業者による伐採などで里山だけでなく奥山にも見えない大きな危機が迫っていることを訴えたいと思います。(また長いです:ゴメンナサイ)「みどりの日」が近い4月28日。

琵琶湖の源流部には2個体群のクマが生息しています。旧西浅井町・余呉町を境に東が「白山・奥美濃個体群」、西が「近畿東部個体群」で両者をあわせて228頭から364頭という推計生息数(2011年調査)となっています。クマについては人的被害もあり、捕獲圧力はありますが、個体群維持の困難さもあり、県としてはできるだけ殺戮は避ける方向で個体群の維持につとめております。そのためにもクマが人里に出てくる必要がないような広葉樹を中心としたエサ資源の保全が重要です。

さて琵琶湖源流部では、今、トチノキを代表とする巨樹・巨木の伐採危機が迫り、伐採業者は元所有者から安価で買い入れ、所有権を主張して伐採に入ろうとしています。長浜市杉野川源流部でのトチノキ25本について、業者側の所有権は大津地裁で認められず(2017年1月26日)、しかしその後、伐採業者は控訴をし、今大阪高裁での裁判が進められています。この裁判の弁護士を室谷裕子さんたちが引き受けてくれています。そのご縁もあり、今回のくまもり大会に参加をさせていただき、顧問を引き受ける事になりました。少し長いですが、琵琶湖源流部の巨樹・巨木保全の経過と最新情報をお知らせします。

滋賀県知事時代の2010年夏、朽木の山中で樹齢数百年ともいえるトチノキ巨木が何十本も銘木業者により伐採され、太いところだけヘリコプターで持ち出され、後は放置されているという報告を現場の林業職職員、今城克啓さんから受けました。銘木は木目などの美しさから香港など海外で大きな需要があります。伐採後は見るも無残な状態。水源林保全は琵琶湖にとっての死活問題。それにトチノキといえば山村部ではトチモチなどの食文化、食糧不足の時の「救荒作物」としても重要。新緑も花も紅葉も美しい。滋賀県としても重大な危機と感じました。

ただ、トチノキそのものは民有地にあり地元民の所有物です。その人たちが伐採業者に販売をする以上、行政としての歯止めはなかなかかけられません。行政としても条例など制度化が必要です。そこで、トチノキの所有者、また森林生態系におけるトチノキの価値評価ができる研究者などの意見を聞き、それを県への要望としてまとめるよう方向を示しました。

そして2010年10月には、生態学者に加えて、地元のトチノキ所有者がいっしょになって、保全を訴える要望が県にだされました。そこで県としては、「巨樹・巨木の森保全事業」を2011年度予算に計上し、トチノキ所有者に「保全協力金」を支払い、同時に「巨樹・巨木を守る会」を地元で立ち上げてもらい、高島市、滋賀県も加わり、134本の巨木保全を進めてきました。この原資は「びわ湖森林づくり条例」により県民の皆さんからいただいる税金です。

しかしすでにトチノキの元所有者が伐採業者に販売をした48本については、伐採業者は伐採の準備に入りました。2011年7月1日、伐採業者が、前巨木所有者に対し、巨木の所有権の確認を求めて提起した裁判の中で、巨木48本の所有権を買い取れば伐採を中止するという合意が成立しました。しかしその買い取り価格は960万円という巨額なものです。

その時に、手を差し伸べてくれたのが、日本熊森協会さんです。買取り資金を集めるため、「びわこ水源の森・巨木トラスト基金」を立ち上げ、寄付を募り、その結果、全国から800名を越える方たちから約1月半の間に目標額の960万円を超える1016万7920円の寄付が集まり、巨木の買取りができることになりました。こうして「高島のトチノキ」は残りました。

しかしその後、2014年に今度は、同じ伐採業者が長浜市木之本町杉野川上流部のトチノキ巨木群に目をつけ、樹齢500年超の古木など26本の売買契約を済ませ2014年4月に長浜市から伐採許可を受け、9月に伐採を始める予定でした。2014年5月末には、嘉田は知事として杉野川上流部のトチノキ巨木群を訪問。トチノキ巨木の足元から流れ出す一滴の水をみて、その水源としての価値に改めて感動。新緑も巨大な花も美しかったです。何よりもトチノキだけでなく、ブナなど多様で貴重な植生が安定した源流をつくっています。クマの子どもの姿も近くで見たという報告。源流部全体の保全が必要です。

巨樹・巨木保全の政策は、2014年7月に就任した三日月知事にも受け継がれ、長浜市に対して、巨木伐採について話合いをはじめ、また生態学会や市民団体からも保全の申し入れを受け、業者との間でも粘り強い伐採回避の交渉が進められ、26本の伐採は一旦休止されました。2015年の「びわ湖森林づくり条例」の改正では、第11条に「巨樹・巨木のある森林の保全」が追加され、2015年5月には三日月知事、藤井長浜市長による伐採予定地視察が行われ、知事と市長は「トチノキは守るべき価値がある」と保全について前向きなコメントを行いました。

その後、県は長浜市と協力をして、杉野川源流の巨木などの森林資源を持続的に活用するために道路整備や地域振興を含んだ「山を活かす、山を守る、山に暮らす奥琵琶湖源流の会」を2016年3月末に設立し、行政側の公的資金に基づく面的動きが始まりました。2017年から2018年にかけて、源流部を守る林業整備や地域振興がはじまり、観光政策が「ながはま森林マッチングセンター」の活動として進みつつあります。今年3月4日に辰野勇、モンベル会長が長浜市に講演にお越しいただいたのもこの事業の一環です。

一方、これまで安曇川流域や高時川流域で市民・住民として、巨木群保全に心を砕き伐採回避の経験を蓄積してきた人たちが結集をし、さらに琵琶湖・淀川水系や日本各地の研究者やマスコミ関係者に呼び掛け、「びわ湖源流の森林文化を守る会」が2016年年2月24日に設立されました。「蛇口のむこうにトチノキ巨木群を見てください!」を呼びかけ理念として、トチノキの伐採回避を短期的目標として、また中長期的には、トチノキ巨木群や水源地域の生態系や生活文化の価値を世論に広く訴えるための活動を行っています。嘉田はここで共同代表をつとめています。

さて、今回「日本熊森協会」の会長となった室谷悠子さん、筋金入りの森の守り手です。そもそも日本熊森協会発足のきっかけをつくったのが、室谷さんたちが武庫東中学生だった1992年。クマが捕獲される場面をみて、「自然破壊や野生動物の絶滅はどこか遠いところで起こっている出来事と思っていて、身近なところに苦しんでいる動物がいることに衝撃を受けました。胸が痛み、その原因をつくった人間として、クマを殺して問題を解決していいのかという気持ちがこみあげてきたことを覚えています」とある雑誌のインタビューでこたえています。

調べていくうちにわかったのは、クマの問題だけではなく、人工林の山は表土が流れてしまって、川の水量がどんどん低下し、森がなくなってしまったら、自分たちが50~60代になった時に水道の蛇口から水が出るのかと考え、目の前が真っ暗になったという。武庫東中学校はごく普通の公立中学校だが、「学年の先生をはじめ、校長先生も応援をしてくれ、兵庫県の知事さんに会いに行く時は、公欠扱いにしてもらいもらった」という。

その後室谷さんは京大文学部にはいり社会学の中でも環境社会学を学んだ。この時の指導教員が私たちが1980年代にいっしょに琵琶湖周辺の環境社会学研究をはじめた松田素二さんでした。そして大学生になった時に、森山さんから「日本熊森協会」を立ち上げると声がかかった。すぐに参加した室谷さんは、会員十数人の発足当時から、環境教育や機関紙の発行など、さまざまな活動に取り組んだが、法律の問題にぶつかることが多くなり、法律家になることを決意して大阪大学大学院に入りなおし、弁護士への道を目指した。

初代会長の森山まり子さんの活躍は全国によく知られています。全国に支部をひろげ、2万人近くの会員にまでひろげました。その森山さんから花束をうけての二代目会長の室谷悠子さん。今日は、会合の最後には、「くまもりキッズ」のダンスもあり、そこには3歳の室谷さんのお譲さんも可愛らしいしぐさで参加していました。トチノキの会合は大津で打ち合わせをすることが多いのですが、子どもさんを連れてでも参加してくださる室谷さん。ありがたいことです。

欧米には数十万人規模の自然保護団体がざらにあります。室谷さんは100年の歴史をもつ米国最大の自然保護団体「シエラクラブ」を訪ね、「日本にもこれだけの規模の自然保護団体があったら、熊の絶滅も止められているだろうに」と寂しい気持ちにもなったということです。今後必ず「日本熊森協会を大きな団体にする」と決意。その原動力になってくれることを期待します。ただ、子育て、弁護士業と数多くの役割、中学校時代のお友達が、「いくら優秀な室谷さんでも体はひとつ。皆さん支えてあげてください!」と心からのエールを送っておられました。新体制の若い人中心の事務局の人たち、大変頼もしいです。女性が多く、子育て中の女性も多い。

熊森協会発祥の地であり尼崎市の稲村和美市長にも久しぶりにお会いしました。京都市からは今本博健京大名誉教授などのお姿が見えました。滋賀県からは室谷応援団の、村上さん、小松さん、河村さん、山口さんと女性群がかけつけました。中学校2年生の若い仲間も甲賀市からかけつけてくれました。上下流連携の中で、琵琶湖源流部から尼崎、神戸など、下流部までの活動の広がりをうれしく思う一日でした。最後までおよみいただき、恐縮です。

昨年6月11日にモンベル会長の辰野さん、三日月知事、藤井長浜市長などと訪問した、杉野川のトチノキ写真も添付します。

 

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