Facebook 2021年9月14日 よみがえった幻の蕪ー新兵主蕪(ひょうずかぶら)への挑戦

野洲市の辻村耕司さんから『よみがえった幻の蕪―新兵主蕪(ひょうずかぶら)への挑戦』(発行:兵主大社)を送っていただきました。「兵主大社御鎮座1300年記念」として、明治時代中期頃までこの地の名産品だった「兵主蕪」をよみがえらせようと、井口昌宏宮司さんが氏子の皆さんや野洲市歴史民俗博物館の斎藤慶一学芸員、地元在住の料理研究家小島朝子さん、育種学の佐藤茂竜谷大学元教授、野菜ソムリエの藤岡いづみさん、そして写真家の辻村耕司さんたちと協力して、見事な人的連携でできあがってきた地域プロジェクトです。ご関係の皆さまご苦労さまでした。そして出版の完成、おめでとうございます。またながくなりますが、紹介させてください。9月13日。(2000文字で長いです、スミマセン)
兵主大社は旧中主町地域の18村落の総鎮守として崇められてきました。起源は養老年(718年)ですから比叡山延暦寺より古いです。もともと大和から大津の穴太(あのう)に遷宮されていたのを、琵琶湖を亀に乗って対岸に渡り、野洲川河口部の八ケ崎に上陸されそこから鹿に乗り換え今の五条の地に鎮座されたということ。今でも11月に八ケ崎の神事がなされ、私も研究者時代に「琵琶湖・水の信仰」にかかわり取材させてもらったことがあります。5月5日の兵主祭は周辺集落から神輿が集まり大変賑やかです。滋賀県では珍しく、女性の神輿も10年くらい前からはじめたということで、2019年5月5日の「あやめ神輿」の皆さんとの記念写真もあります。
2015年には「琵琶湖とその水辺景観- 祈りと暮らしの水遺産 」の構成文化財として日本遺産に認定されています。広大な境内の入口には、足利尊氏の寄進と伝えられる朱塗りの楼門(ろうもん)があります。祭りの時、楼門をはいる神輿の姿も勇壮です。社殿南の庭園は、平安時代後期の作といわれ、巨木と池を中心とした美しい名園で国指定の名勝です。よくぞ平安時代以来の庭園を維持してくださった、と見学させていただいた時感動しました。特に水の流れを維持する庭園は大変です。
さて、その伝統的な兵主大社がなぜ兵主蕪の蘇りを!?。もともと農学を専攻してきた食べ物大好き人間にはうれしい企画です。何よりも今、千枚漬などで珍重されているあの大きな聖護院蕪の元は兵主蕪という説があるということ。江戸中期の平瀬徹斎の『日本山海名物図会』の挿絵をみると、まさに抜いたあとが井戸のような大きさだ、といわれるほど大きく、人ひとりがかえきれないほどです(絵あり)。また画家の若冲が1750年頃に描いた「双鶏図」は兵主蕪といえるかもしれません。
大きいだけでなく味もよかったらしく、煮てよし、蒸してよし、漬けてよし、乾燥して保存もできる、ということ。彦根藩の井伊直弼が茶懐石に兵津蕪(ママ)をいれており、井伊直憲の文久3年の10月~11月の食事記録ではほぼ毎日のように兵津蕪の汁物や蒸し物、漬物がだされています。また天保年間の兵主大社神主の井口家から京都宮中の鷹司家への献上品で、正月には「大麻」「兵主蕪」「ハスすし」の3種類であり、お正月の大事な食材だったことが想像されます。
では、なんでそんなに巨大な蕪が育ったのか?兵主大社の氏子18村は、近江太郎といわれる滋賀県最大の流域面積をほこる野洲川の最下流部に位置しており、南流と北流にはさまれしばしば洪水に悩まされました。砂地が多く、また洪水による上流からの栄養分の供給も多く、大蕪の生育には適していたと想像されます。
この兵主蕪が、近江蕪と混同されている記述もあるようだと言われ、今、兵主蕪は明治中頃以降絶滅してしまいその種が残っていない。そこで佐藤茂らは、各地に残る近江蕪系統といわれる蕪の遺伝子を活用したSSRマーカー系統分類を行い、その結果、聖護院蕪の祖先種に近い蕪は絶滅してしまった兵主蕪ではないか、と推測をしている。兵主蕪が江戸時代中期以降、兵主郷から京都の伏見、淀、鳥羽地域に伝わり、その後北上しながら聖護院や松ヶ崎に伝わったのではないか、と想定している。
では、すでに絶滅してしまった兵主蕪をどう再生するのか?日本各地の種子保存施設をまわったが、兵主蕪の種子は発見できませんでした。そこで、兵主蕪から変化していった近江蕪、聖護院蕪の種子を借りて、隣合わせに植えて、交配を促し、兵主郷の土壌の中で新しい兵主蕪を育苗、育種することにしました。そこで2010年9月から兵主大社内に畑をつくり、10年以上かけて育種にはげみ、「新兵主蕪」を生み出す事ができました。まさに「新」です。
その「新兵主蕪」を実際に昔風に料理をして、彦根藩が大事にしてきた湖東焼の器(これも兵主大社に大量に残っているようです!)にもりつけた辻村耕司さんの写真が見事です。また藤岡いづみさんのアイディアで、ピザやカルパッチョやドライカレーなどの新作料理も披露されています。新しい需要を開拓して、是非とも市場に出回るような「新兵主蕪仲間」を増やしていきたいですね。
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