20210506参議院法務委員会【確定稿】

令和三年五月六日(木曜日)


○委員長(山本香苗君) 少年法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案の審査のため、三名の参考人から御意見を伺います。
 御出席いただいております参考人は、東京大学大学院法学政治学研究科教授橋爪隆君、弁護士川村百合さん及び自営業大山一誠君でございます。
 この際、参考人の皆様に一言御挨拶を申し上げます。
 本日は、御多忙のところ御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
 皆様から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。

【略】
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。三名の方それぞれに本当に大事なポイントを指摘していただきまして。
 碧水会の嘉田由紀子と申します。それぞれに質問させていただきます。
 まず、橋爪参考人ですが、刑法というのは社会の秩序を維持するためだろうと思うんですが、これも先ほど出ていたんですけれども、今回の改正に、世論調査をすると、賛成だと、少年の犯罪、凶悪犯が増えているから賛成だというのが多いんですが、犯罪白書など数字で見ていきますと、少年による刑法犯の検挙件数は平成十五年以降急激に減少しておりますよね、社会的事実として。それで、犯罪の件数が減っている。それはもちろんもう少年の人数が減っていることもあるんでしょうけど、それ以上に、比率としても、年少人口に対する比率としても減っているわけです。
 そういう意味では、イメージだけ危ないというのが広まり、社会的事実としては少年犯罪は減っているということを考えると、今回の十八歳、十九歳を特定少年として、言わば、先ほど来川村さんが言っていらっしゃる厳罰化ではなくて刑罰化だというのは、より厳しくするわけですけれども、これはそもそも立法事実がないんじゃないのかと私自身は疑問に思っております。この辺り、刑法学の立場から、橋爪参考人の御意見、お伺いしたいと思います。


○参考人(橋爪隆君) お答え申し上げます。
 ただいま御指摘のとおりでございまして、確かに少年犯罪は減少しておりますし、少年法の処遇が有効に機能しているという事実についても今異存ございません。
 ただ、今回の立法事実はやっぱり民法改正でございまして、民法の改正によって、十八歳、十九歳の存在に関する評価が変わってくると思うんですね。そういったものについて、やはり少年法としても一定の手当ては必要であるというふうに考えられまして、その観点から、今回の改正法案というのは、少年法の適用年齢自体は変更しないと、だけども、十八歳、十九歳、すなわち責任を持って振る舞うべき主体についてはそれ相応の対応といったものをしようという形式の法改正というふうに考えております。
○嘉田由紀子君 民法の改正がということですが、ただ、例の飲酒とかあるいは喫煙はまだ二十歳ですよね。ですから、必ずしもこれ社会生活の中で全て民法改正に合わせるというものではないので、ここはどう思われるでしょうか。
○参考人(橋爪隆君) そのとおりでございまして、もちろん、個別の法ごとに、法律ごとにそこは検討する必要があると考えております。
 今御指摘の飲酒、喫煙につきましては、未成年者の健康保護という観点が大きいと思うんですね。そういう観点からは、生物学的な変更がない以上、飲酒、喫煙について法改正はする必要はないと考えております。
 ただ、今回、少年法につきましては、やはり、現在の保護処分というのは親権者が要ると、親権者の保護が十分でないところに国が後見的に介入する仕組みをつくっておりますので、そういった意味からは、親権者の保護といったものが観念できない年齢については、やはりそこは見直しの必要があるだろうと。そういう観点から、個別の法律ごとにその必要性というのを考えていくということかと考えております。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
 今回は政策的判断ということですから、法案の提出者とこのような議論はするべきだと思います。御意見、ありがとうございました。
 川村参考人にお伺いしたいんですけれども、少年院の入所者の言わば生育歴ですね、ずっと子どもの権利条約とかやっていらっしゃるということですけれども、これ統計で示されておりますが、実の父母に育てられた少年院入所者の割合は、男児で三三パー、女子で二六・三パーと。それから、身体的な虐待を受けた少年院入所者は、男児で二七・九%、女子で三九・八%と。もちろん、家族の在り方によってどうこうという差別を助長してはいけないんですけれども、やはり生育歴、家族関係、背景というのは、生育環境が、少年事件の加害者、ですから、加害者であるけど実は社会の被害者なんだと、十分生育環境整っていなかったという、そういうことを川村さん御自身も先ほど来言っていただいていますし、書物でも主張しておられます。
 そういうときに、加害者の特徴が、ある犯罪行為とある程度相関があるんでしょうか。例えば、傷害や暴行、窃盗など、犯罪の種類がいろいろありますね、そういうところと生育歴との何らかの関係性などがあるのかどうか。もしそういうデータなり御経験ございましたら教えていただけますか。


○参考人(川村百合君) ありがとうございます。
 まず、前提としまして、今、少年院入所者の被虐待歴が、身体的虐待が男子二七・九%、女子三九・八%という数字を御紹介くださったんですが、これは犯罪白書の数字だと思いますが、この犯罪白書には注釈がありますとおり、この数というのはあくまでも少年が少年院に入所するときに自分が申告した数でして、このネグレクトや心理的虐待、性的虐待を合計すると、男子の場合三三%、女子の場合五四%ぐらいになりますけれども、これもあくまでも本人の申告した数字ですね。
 身体的虐待を受けている子も、客観的には身体的な虐待を受けていても、それが当たり前になってしまっていて、自分が虐待を受けているとは思っていない、自分が悪いことをしたから、あるいは親の期待に沿えなかったから親から殴られた、それは当たり前だというような価値観を身に付けてしまっていて、だからこそ虐待を受けたかというふうに聞かれても、いや、虐待なんて受けていないというふうに答えるような子がいて、なので、実際には少年院に入っている少年のほとんどが、身体的虐待だけではなくネグレクト、心理的虐待、性的虐待や、さっき申し上げた、その親の側に悪い意思があるわけではないんだけれども客観的に見ればネグレクトとか、あるいは親同士の暴力を見せさせられて、いわゆる面前DVにさらされていた、これも心理的虐待に当たりますが、少年自身はそう認識していないものも含めると、やっぱり生育環境が悪かった子がほとんどということが言えるというふうに、少年院の先生たちも実際に面接して話を聞いてみると、やっぱり家庭環境が恵まれていなかった子がほとんどであるというふうに聞いています。そういう子はやはり暴力でコミュニケーションを取るということが当たり前になっているので、自分も衝動的に暴力を振るってしまうというようなことになりがち。
 あるいは、暴力、身体的な暴力だけじゃなくて、いろいろな虐待によっていわゆる愛着関係がうまく形成できていなくて他人との信頼関係もうまく形成できていないので、社会的に不適応を起こしてしまって社会生活がうまく営めない。それが自傷行為という形で自分自身にやいばが向くか、他害行為ということで犯罪行為になってしまうかというのは表裏の関係でどちらにでもなり得るというようなことで、その生育歴が犯罪と相関関係あるかというと、あるということだと思います。
 ただ、それが暴力的なものが暴力的になるだけではなくて、暴力的な被害を受けた子が窃盗だとか振り込め詐欺などの加害ということもあるので、ちょっと私は、そこの数字を専門的にデータとしてあるのかどうかというところまで、完全なその相関関係についてのデータまでは承知はしておりませんけれども、やっぱり暴力を受けていたら暴力的な傾向になるというところは自分の接している少年の体験からいうと、あるように思います。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
 そういう意味では、家族の在り方なり、あるいは本当に貧困の問題も子供たちの今大きな社会問題になっていますけれども、そこから言わば根本的にサポートしていかないと、犯罪の後からだと後追いになってしまいますよね。
 その辺りで、今の日本の社会を考えるときに私はいつもこの話をするんですけど、離婚がどんどん増えていて、そして離婚の後が片親親権という、これ明治以降ずっと。ヨーロッパ、アメリカはもうかなり基本的には両親親権、夫と妻が離婚しても父子、母子の関係を維持するという両親親権なんですが、この辺り、この日本の言わば民法に関わる家族制度の改善の可能性というのは何か御意見ございますでしょうか。


○参考人(川村百合君) 共同親権にすべきかどうかというところについては、いろいろな意見があるところだというふうに考えております。
 そして、その非行との関係ということでいうときには、その親権が、法的に親権があるかどうかというよりも、やはり現実に適切な監護養育を受けられていたのかどうかということが問題になり、それは血のつながった実の親による監護養育ということの必要はなくて、主たる養育者と言っていますけれども、主たる養育者との間で愛着関係が形成されて、人間に対する信頼関係が育まれていくということが精神的な成長発達に重要というふうに発達心理学などでは言われているようですから、必ずしも共同親権かどうかとか、親権者かどうかとかというところではない、社会学的な実態の部分が影響しているかなというふうに思います。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。法曹界でもいろんな御意見があるということは伺っております。
 大山参考人にお伺いをしたいんですが、本当にもう涙が出るような大変な人生でおられたなと。私、ちょうど息子が二人、ほぼ同じ年なので、母親の気持ちについついなってしまうんですけど、お母さんが本当に大変だったと思うんですね、子供さんを、乳飲み子を二人抱えて、それで収入の問題など。
 これ、お伺いしていいのかどうか分からないんですが、もし立ち入りたくないということでしたらよろしいんですけど、今は親御さんは、大山さんが立ち直っていられるところをお母さんはどう思っていらっしゃるでしょうか。もし何かヒントがありましたら、お願いします。
○参考人(大山一誠君) ちょっとどう思っているのかは、それはあれなんですけど、でも、今二歳になる子供がいて、で、やっぱり連れていくと孫の顔見れてよかったって言いますよ、やっぱり。ああ、喜んでくれているなって。だから、何か、何の用事もないのに電話掛けてきたりとかしたりとかして。まあ昔とちょっと違うかなと思っています。
○嘉田由紀子君 もしよろしかったら、お父様とのつながりは特には今ないんですか。
○参考人(大山一誠君) 父親とは関係、あります。
 十六歳ぐらいまでほとんど会ったときなかったですよ。一回だけ、小学校一年のときに上京してきて、ファミコン買ってくれたんですけど、買えなかったから。何か好きなもの買ってやるって言われて、ファミコンの本体が欲しいって言って、当時はやっていたので、それで買ってもらったんですけど、それから、その一回こっきりで、次会うのが十六歳のときですよね。だから、もう写真でしかほとんど見たことなくて。で、その十六歳で行ったときは殺してやろうと思っていましたね、正直。まだ自分、少年院とか入る前でしたけど、恨んでいましたから。ただ、会って顔を合わせてみたら、やっぱりちょっとできなくて、涙がやっぱりそのときもぼろぼろ出ましたけど。
 なので、今でも沖縄には二年に一遍ぐらいは帰ります。
○嘉田由紀子君 ありがとうございます。
 立ち入ったことを聞いてしまって、ごめんなさい。やはり、継続的に愛着を寄せてくれる、あるいはつないでくれる家族がいるということも本当に大事だったのかなと思います。この後また法案審議に入らせていただきますけれども、本当に言いにくいところをお伝えいただきまして、ありがとうございました。
 以上で終わります。

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